Sep. 13 〜 Sep. 19 2010




” サイキック、詐欺&リアル ”


今週木曜のアメリカで発表されたショッキングな数字と言えるのが、リセッションによってアメリカの貧困層がさらに拡大し、 2009年の時点で全人口の14.3%、アメリカ人の7人に1人が貧困に陥っているというレポート。そしてこの数字は2010年中にさらに 増えることが指摘されているのだった。
現在、アメリカで貧困と見なされるのは、課税前で 1人世帯なら 年収1万830ドル(約92万9,271円)以下、 4人家族の年収の場合 2万2,050ドル(約189万2,010円)以下の世帯。 アメリカ国内における その貧困層の数は2009年時点で4400万人。 この数字は過去1年間で700万人も増えたとも言われるのだった。
加えて、今週は家の差し押さえ件数がさらに増えたことも報じられていたけれど、実際サブプライム・ローンで 家を購入した人々が、その不動産価値が激減し、家の価値より 抱えている借金の方が遥かに高額になったことを悟ると、 借金を残して家を出てしまうのは当然のシナリオ。 こうした家を失った人々は、身内の家に転がり込んだり、トレーラー住宅やシェルターに身を寄せているというけれど、 現在 最も増えているのは大学を出ていなくて、仕事もなく、レントが払えない若い層のホームレス と言われているのだった。

私はこうしたニュースを聞くたびに、今回のリセッションを招いた金融業界が優先的に救済されて、この業界だけが勝手に 「リセッションが明けた」 などと宣言していたことを不満に感じるけれど、それ以上に感じるのは アメリカという国が誤った方向に進んでいて、 それが泥沼化の様相を呈し始めているということ。
とは言っても、現時点で正しい方向に順調に進んでいる国がある訳ではないのも事実だけれど、 私がアメリカについて危惧するのは、貧困が進む一方で、肥満、喫煙といった健康問題が 悪化の一途を辿っていること。 先週のこのコラムで、 USオープンの観客が脂を吸い込みまくったワッフル・フライを ケチャップにディップして食べながら観戦している様子に触れたけれど、 多くのアメリカ人にとって そうした高脂肪、高カロリー、高塩分の栄養価の低い食べ物は常食。 今週ニューヨークで行われたファッション・ウィークでは、プラス・サイズのランウェイ・ショーが初めて行われ、 アメリカの成人女性の半分が肥満であるというデータを ビジネス・チャンスと捉えて、 「今やプラス・サイズはアメリカ女性の平均サイズ」などと、まるで肥満がスタンダードであるかのような コメントがメディアで聞かれていたのだった。

もちろん、これらの肥満人口が 半永久的に医療費が全額カバーされるような健康保険に加入しているのであれば、 勝手に不摂生をして、心筋梗塞で倒れても、 それは本人の責任ということで 私は口出しはしないけれど、 現在 アメリカ人の16.7%が健康保険に加入しておらず、加入していたとしても 「家族の誰か1人が病気になれば 破産」 というのは アメリカの平均家庭のシナリオ。
そしてそれらの人々を最終的に救済するのは”政府=国民の税金” であるけれど、その税金が最も苦しく圧し掛かるのがミドル・クラスと中小企業。 ことに昨今、銀行からどんどん引かれている税金の額を考えながら、肥満体で歩きタバコなどをしている人を見ると 「こんな人たちのために働いているんじゃない!」 と 真剣に労働意欲が殺がれそうな思いを抱いてしまうのだった。
このように健康を害した際の経済力が無いことも自覚しながら、身体に悪い食事やタバコの不摂生を続けるというのは、 理性が欠落していると考えられる状態。それだけに、 カリフォルニアなどが、州経済立て直しの目的で検討しているマリファナの合法化は、アメリカ転落の最後のダメ押しにもなりかねない 非常に大きなリスクと 考えられるのだった。

先週のニューヨーク・ポスト紙には、11月に金融のレイオフが再び始まるという予測が掲載されていたけれど、 今や どんな業界に勤めていても仕事が安定しているというのは極めて稀な状態。
そんな先が見えない状況というのは、たとえ養う家族など居なくても 学費ローンやクレジット・カード・ローンを抱える20代のシングルにとって フラストレーションを感じる状況であるという。
そして そんな先が見えない時代に、人の心の弱さにつけ込むかのような誘い文句で、巧みにお金を巻き上げていくのが 詐欺まがいのサイキックや占いビジネス。

私は今週、友人に誘われてファッション・ウィークのパーティーに出かけたけれど、その場で友人が相談してきたのが 彼女が出かけたサイキックのセッションについて。
彼女は女友達に誘われて 胡散臭いサイキックに出かけたというけれど、その女友達がどうやって サイキックを知ったかと言えば 道を歩いていたら 女性に声を掛けられて、「貴方は恋愛とキャリアのターニング・ポイントに来ていて、今、手を打てば大きく飛躍が出来る」、 「チャンスがそこまで来ているけれど、今のままだと以前と同じように それを逃がしてしまうことになる」と言われたそうで、 この言葉に動かされて名刺を受け取った彼女は、1人では行きたくなかったので、私の友人を誘って出掛けることにしたのだった。

私の友人はそのサイキックのセッションで、「貴方は今のままだと流産する」、「悪いエネルギーに囲まれている」と言われ、 それを防ぐためにオファーされたのが、クリスタルをサイキックから購入して、そのクリスタルに誕生日と名前を書き込んで、 サイキックがそれを使って悪運を排除する というサービス。 そして その悪運排除を希望する場合は、セッションから5日以内に連絡しなければならないという。
そんな締め切りを設定されていただけに、彼女はサイキックに連絡すべきかをずっと考えていたそうで、 私ならどうするか?を尋ねてきたのだった。

このケースは、私に言わせれば完全な詐欺。 というのも、道で声を掛けて 恋愛とキャリアという どんなニューヨーク女性でも 興味を示すようなサブジェクトで勧誘してくるというのは、詐欺サイキックの常套手段。 私も同じ台詞で何度もアプローチされたことがあるので、これは絶対に確かと言えるのだった。
そもそもニューヨークでは、誰もが ベターなキャリア、ベターな恋愛相手、ベターなアパートを探しているというのは、TV版の「セックス・アンド・ザ・シティ 」 の台詞にもなっていたほどの常識中の常識。 「貴方は恋愛とキャリアのターニング・ポイントに来ていて、今、手を打つと大きく飛躍が出来る」、 「チャンスがそこまで来ているけれど、今のままだと以前と同じようにそれを逃がしてしまうことになる」というのも、 誰にでも当てはまるような台詞で、誰が通りかかっても そうやって声を掛けているのは目に見えているのである。

さらに流産について言うならば、今や20代後半〜30代で妊娠する女性が まず一度は流産するのは非常に良くある例。 これは体内に溜まっているケミカルのせいとも言われていて、流産によって体内からケミカルが排除された翌月が 非常に妊娠し易いというのも定説。 科学的な根拠は無いといわれるものの、比較的痩せ型、冷え性、乾燥肌の女性が特に 妊娠前に一度流産するケースが多いと言われているのだった。
なので、私の友人が「このままだと流産する」と詐欺まがいのサイキックに脅されたのは、「冬になったらインフルエンザに感染する」というようなもの。
”流産”が詐欺の手段によく用いられるのは、やはり女性にとって非常にショッキングで、何としても防ぎたいものであるためで、 もし私の友人がクリスタルを購入して悪運排除をしてもらい、「自分は大丈夫」と思った場合、 彼女が次に何をするか言えば 往々にして 流産したことがある友人、流産を心配する友人に 親切心でそのサイキックを勧めるということ。 これが人間心理の不思議なところで、自分が未だ妊娠さえしていなくても 「自分は救われた」という 何の根拠も無い安心感を得た場合、 それを 相手を思う一心で 人に薦めてしまうのは 従順で騙されやすい人間 の行動パターンなのである。
そして 女性なら”流産”をしたくないのは当然の心理であるから、彼女の言葉を信頼して その友人がサイキックを尋ねることになる訳で、 詐欺サイキックは 流産を武器に芋づる式にクライアントを獲得することが出来るのである。

よく話を聞けば、彼女はそのサイキックをひと目見て、「胡散臭いなぁ」と感じたそうで、決して好きになれるタイプではなかったという。
でも「悪いエネルギーに囲まれている」などと言われて、「悪いのは自分の方なのかもしれない」と感じ始め、 流産で脅されてからは、だんだんと彼女を信じるようになっていったという。
とは言っても私が「そのサイキックは絶対に詐欺!」と 言ったのを聞いた後は 「自分は騙されていたと思う」と悟っていたので、 彼女には「頼れるのは自分だけなんだから、人に何を言われてもグラグラしない自分を確立しないと余計なエネルギーやお金を使うことになってしまう」と 未だ20代の彼女にアドバイスすることになってしまったのだった。

でも世の中には本当に当たるサイキックというのも存在するのは確か。
私は、もう10年以上前に訪ねたサイキックが、恐ろしいほど的を付いたこと、それも先述の詐欺のような誰にでも当てはまるようなことではない具体的なことを 言い当てたのでビックリしたことがあるけれど、それとほぼ同じような体験をしたのが今週末。
私はゲイの男友達の付き添いでそのサイキックを訪ねたけれど、今回のサイキックの女性はニューヨークに居るのは3ヶ月間に2日ほど。 それ以外の時はアメリカ国内だけでなく、世界各国を旅行してはセッションを行っているとのことで、道端で勧誘などしていないのは当たり前。 それどころか、彼女のセッションを受けるのはかなり競争率が高いとのことなのだった。
私のゲイの友人は深刻な問題を抱えていて、彼には一緒に暮らしているパートナーが居るけれど、パートナーはレイオフされて 2年近く仕事が無い状態。 私の友人はそれまで勤めていた仕事を辞めて、今はもっと給与の高い リッチな男性のパーソナル・アシスタントの仕事をして、パートナーを養っているのだった。
しかしながらこのカップルの場合、私の友達の方が女性役、パートナーが男性役という力関係だったので、 パートナーにとっては養われるのはプライドに関わる問題だったようで、彼はアルコール依存症になっていくと同時に、私の友達と 彼の雇い主のリッチな男性の関係を疑うようになっていったという。
私の友人にしてみれば、彼を養うために今の仕事をしていて、早朝や深夜に呼び出されることも少なくない パーソナル・アシスタントの仕事は決して好きではないだけに、 そんな風に疑われるのは侮辱であり、大迷惑。 なので2人は頻繁に口論をするようになっていて、久々に会った彼は とても疲れた印象なのだった。

私は彼がそんなことになっているのを サイキックのセッションで初めて知っただけに、すごくショックだったけれど、 ビックリしたのは、そのサイキックの女性が 彼が既に彼と別れる決意をして荷造りを始めていることまで分かっていて、 「XXXXは彼のために置いていってあげなさい」などと言っているのでビックリしてしまったのだった。 さらに彼女は「お母さんの手料理を食べて、しばらく休養しなさい。11月のサンクス・ギヴィング前には次の仕事が見つかるから・・・」と、 彼が何も言わないのに、仕事を辞めて実家に戻ろうとしていることも分かっていたのだった。

このサイキックの女性は、私が付き添いだったにも関わらず 私についても2つほどアドバイスしてくれたことがあったけれど、 その1つは将来、私が人を助ける仕事をすることになる ということだった。 実は母の占いでも 以前からお金儲けより 人のためになるようなビジネスをするのが運勢と言われて、 物欲に溢れている私としては ちょっと不満に思ったこともあったのだった。
私は人間は欲望というものが無くなった時に死ぬと思っていて、欲望には 物欲、食欲、性欲、名誉欲、学習欲、幸福追求欲 など 様々なものがあるけれど、 昨今自分で感じるのは物欲の種類が変わってきたこと。 以前は 人に自分を良く見せるための服やシューズが欲しいと思ってきたけれど、今は自分が幸せだと感じられるアウトフィットを着用したいと思うようになってきていて、 つい最近私が手持ちの服を大量に処分したのも、その変化に基づいて要らないものを排除した結果なのだった。
そうやって自分の幸福追求を物欲に反映させると、”物”が欲望の対象ではなくて 幸福になるための手段に変わって行くだけに、 物欲を満たすことがゴールではなくなってくるのは紛れも無い事実。 私は子供の頃からファッションが大好きで、欲しいアウトフィットを買ったり、着たり、それを人に褒めてもらうために 頑張って仕事をしていた時期が長かったけれど、昨今は そんなアウトフィットを着た自分に 一体何が出来るのか?を 考えるようになってきたのだった。
なので、サイキックの女性に「将来、人を助ける仕事をする」と言われたのは個人的には非常に嬉しかったこと。 しかも それが詐欺サイキックではなく、本当に当たるサイキックだったのも モチベーションを高めてくれる要因になっているのだった。





Catch of the Week No. 2 Sep. : 9月 第 2 週


Catch of the Week No. 1 Sep. : 9月 第 1 週


Catch of the Week No. 5 Aug. : 8月 第 5 週


Catch of the Week No. 4 Aug. : 8月 第 4 週





執筆者プロフィール

秋山曜子。 東京生まれ。 成蹊大学法学部卒業。
丸の内のOL、バイヤー、マーケティング会社勤務を経て、1989年渡米。以来、マンハッタン在住。
FIT在学後、マガジン・エディター、フリーランス・ライター&リサーチャーを務めた後、1996年にパートナーと共に ヴァーチャル・ショッピング・ネットワーク / CUBE New Yorkをスタート。
その後、2000年に独立し、CUBE New York Inc.を設立。以来、同社代表を務める。





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