Sep 12 〜 Sep 18 2011

” Dirty Tricks On The Internet ”

今週のアメリカでは、火曜日に下院の空席を埋めるための特別選挙がニューヨークとネバダで行なわれたけれど、 その双方で勝利を収めたのが野党である共和党候補。
ネバダ州の選挙区は過去に民主党が議席を獲得したことが無かったので、この結果は当然と受け止められていたけれど、 オバマ大統領にとって、来年の選挙への赤信号と言われたのがニューヨークのブルックリンとクイーンズにまたがる第9区で 民主党が議席を失ったこと。 この選挙は、今年春にセクスティング・スキャンダルで議員辞職に追い込まれた、アンソニー・ウェイナーの席を埋めるためのものだったけれど、 そもそもリベラル派が多く、民主党が強いニューヨークの中でも、第9区は1920年以降、共和党議員を選出したことがなかった選挙区。
ここで共和党候補であるボブ・ターナーが当選を果たしたというのは、民主党支持者の間でも 民主党離れが進んでいるという指標と受け取られるもの。 実際、有権者の間では 「大統領への失望から共和党に投票した」という声が多く、この選挙結果はオバマ政権にとって厳しいメッセージとなっていたのだった

そのオバマ大統領が、月曜に議会に提案しようとしているのが、年収$1ミリオン(約千万円)以上の人々に対して、税金支払いの最低限の割合を定めるという法案。 この法案は、アメリカで最も名高い投資家、ウォーレン・バフェットにちなんで 「バフェット・ルール」、「バフェット・タックス」と呼ばれているけれど、 バフェット氏は、常々、アメリカの富裕層がミドルクラスに比べて少ないパーセンテージの税金を支払っていることに対して 不平を述べてきた存在。
富裕層の方がミドルクラスよりも、税率が低いというアンバランスが起こるのは、富裕層の収入源の殆どはキャピタルゲイン、すなわち株式や土地などの 資産売却によるもので、キャピタルゲインの課税率の方が、ミドルクラス以下の収入源である 給与所得=インカムゲインの課税率よりも低く設定されているため。
この法案を始め、オバマ大統領が先週のTV演説で議会と国民に訴えた雇用対策プランは、下院での承認を受けるのが 難しいと言われているけれど、国民の間でオバマ大統領同様に支持率を下げているのが、共和党が過半数を握る下院議会。
なので、オバマ陣営では もし下院が非協力的であった場合、それを逆手にとって 「雇用を増やそうとしても、共和党が問題の解決よりも、政治的駆け引きを優先させるばかりで、全く国民のことを考えていない!」 と訴えることによって、来年の大統領選挙で優位に立とうとしていると言われているのだった。 実際、オバマ氏は 各地の遊説で、共和党が非協力的であるために、せっかくの法案がどんどん潰されていると 国民に訴えており、民主党関係者や政治評論家も、国民がそのセオリーを信じた場合、オバマ大統領が再選されるだろうと見ているという。
その一方で、共和党側では 「大統領が自らのリーダーシップの無さを議会のせいにしている」と反論しており、 大統領の国民への演説は 「自分はこうしたいのに、議会がそうさせてくれない」と親や学校の先生に泣きつく子供のようだ と 非難しているのだった。



さて、週末になって大きく報道され始めたのが、ジョージア州アトランタの死刑囚、トロイ・デイビスの死刑執行差し止め要求が、デジタル・エイジを反映して、 世界中に広がっているというニュース。
1989年に警官を射殺した罪で、死刑を宣告されたトロイ・デイビスの刑の執行は、既に3回見送られており、 最終の聴聞会が行なわれるのが、9月19日月曜日。 アメリカの多くの州では、州知事が死刑執行取り止めの判断を下すことになっているけれど、ジョージア州では仮保釈委員会に その決定権があり、もしこの場で死刑執行が確定すれば、2日後の9月21日、水曜に薬殺刑が施行されることになっているのだった。

この事件は、人種問題が根強いジョージア州で、容疑者が黒人、被害者が白人警官であったことから、地元では物議を醸してきたといわれるけれど、 実際には死刑どころか、立件さえ難しいような証拠不十分な状況。
被害者の警官は顔面と胸部に銃弾を受けているものの、凶器は見つかっておらず、動機や殺意もあいまい。もちろんDNA証拠もなし。 彼を第一審で有罪に導いたのは7人の目撃者であったけれど、目撃者達はその後、次々と証言を取り消すあり様。 そのうちの1人は「トロイ・デイビスが警官を射殺したと自分に語った」と証言しておきながら、後から「彼はそんな事は言わなかった」と 訂正するようないい加減さで、最も新しい証言によれば、 検察側が有罪の決め手として証言台に立たせた証人こそが 犯人であった可能性が高いことが 指摘されているのだった。
にも関わらず、トロイ・デイビスの再審要求は取り下げられ続けてきたけれど、何とか彼を救おうとソーシャル・メディアを使って ムーブメントを起こしたのが 彼の妹、マルティナ・コーレイア。兵役を経験し、メディアに強い彼女は、兄の無罪を長年に渡って主張し続けてきた存在。
そんな彼女は、2007年までは地元の人間しか知らなかったこの事件と 兄の死刑判決を、ツイッターなどのソーシャル・メディアを通じて訴え、 63万3000人分の死刑差し止め要求の署名を集めているけれど、そのうちの20万人分は、オンラインを通じたエレクトロニック・シグニチャーで、 僅か1週間で集められたものなのだった。
彼を救おうというムーブメントは、ジミー・カーター元大統領から、ベネディクト・ローマ法皇、51人の下院議員、インディゴ・ガールズ、シー・ロ・グリーンらのミュージシャン も賛同する規模に発展。地元ではもちろん、パリでさえ抗議デモが行なわれており、明日9月19日にアトランタの保釈委員会が下す決定には、 世界の注目が注がれているけれど、 残念ながら、射殺された警官の遺族は、これだけ証拠不十分な状態でもトロイ・デイビスを犯人と信じており、彼の死刑が今度こそ執行されることを 強く望んでいることが伝えられているのだった。

トロイ・デイビスの1件は、保釈委員会がどんな決定を下したとしても、インターネット、及びソーシャル・メディアが 如何に現代社会でパワフルな存在であるかを 改めて立証していると言えるけれど、これらはビジネスにも大きく影響を与えるもの。
それを立証するかのように、9月5日にニューヨーク・タイムズ紙の第一面で報じられたのが、店がオープンしているにも関わらず、 グーグル・マップに 「パーマネントリー・クローズド」、「プレース・クローズド」という閉店表示がされてしまい、来店客を失っているビジネスが後を絶たないというニュース。
グーグル・マップには、万一ストアのオーナーがグーグル・マップに閉店情報をよせなかった場合、利用者に その情報のアップデイトをゆだねるシステムが設けられており、地図を鵜呑みにして出掛けた人々が無駄足にならないよう、 善意でレポートするために利用されるべきなのが この機能。 でも、昨今ではこれが競争相手のビジネス妨害や嫌がらせの手段として使われるようになり、 グーグルがその対応を怠っていると指摘したのがこのニューヨーク・タイムズの記事なのだった。

グーグル・マップで数週間もの間、閉店表示がされていたハワイのBB(ベッド&ブレックファスト)、 マカデミア・ミドウズ・ファームのオーナーは、「もし滞在客が、うちに腹を立てたのなら、 ”トリップアドバイザー・ドット・コム” のような 旅行サイトに悪いレビューを書く筈。 こんなことをするのは競合相手に違いない」とコメント。
実際に、グーグル・マップで閉店表示をされたビジネスは、客足が減って、売り上げも 大きく落ち込むのだそうで、こうした不正のポストを取り下げるために設けられた 「Not True / 事実に反する」というボタンを何度クリックしても、 閉店表示の状態に戻ってしまうという。 これは、ボタンが作動していないのではなくて、恐らく フェイクの閉店表示をポストをした人物が、 再度 嫌がらせをした結果と見られているのだった。

さすがに社会的影響力が大きいニューヨーク・タイムズ紙でこの問題が取り上げられたとあって、 グーグル側は 9月8日に同社の公式ブログで謝罪と釈明を行なっているけれど、Bing、Yahooといった他のサーチエンジンとは 利用者数で大きく水を開けているのがグーグル。それだけに、そこに掲載されるローカル情報が、レジスターもせずに 誰にでも簡単に 操作できるというのは、非常に危険と言えるのだった。


でもウェブ上の情報操作というのは、今に始まったことではなく、プロダクトや書籍、ホテルやレストランのレビューなどは、 その多くがフェイクと言われるもの。
犯罪がらみのポストに頻繁に利用される 悪名高き ”クレイグ・リスト” には、フェイク・レビューを1本5ドルで書く仕事の人材募集が 堂々と行なわれているというけれど、今や出版社が 仕事の無いプロのライターを雇って、アマゾン・ドット・コムなどに 新書のレビューを書き込むよう依頼するのは当たり前。 多くの出版社は、書く側の意志に反して 最高の5つ星レビューを書くことは強要せず、本が気に入らない場合は レビューを書く仕事を引き受けなくても良いという システムにしているという。

それも納得できるのは、アマゾン・ドット・コム、シティサーチを始めとする大手のウェブサイトには、 レビューの信憑性をチェックする機能を持たせているところがあるため。
例えば、トリップアドバイザー・ドット・コムには500万件のレビューが掲載されているというけれど、 明らかにフェイクと分かるレビューが多い場合、そのシステムが何の意味も持たなくなってしまう訳で、 大手サイトはフェイク・レビューが溢れることを非常に危惧しているとのこと。
でも、レビューが良いプロダクトは、やはり売れ行きが良く、 レビューが良いレストランやホテルも同様に人気が高いのが実情で、 ビジネス側が、レビューをマーケティング・ツールとして利用するのは、今では当たり前のことなのだった。

とは言っても、それが行き過ぎれは仇となるのも また事実で、 少し前には、イギリスの高級ホテルが 宿泊客に対して、トリップアドバイザー・ドット・コムにポジティブな レビューを書くのと引き換えに、次回宿泊料金の10%オフをオファーしていたとして、 イギリスのメディアから攻撃されていたことがあったのだった。
トリップアドバイザー・ドット・コム側では、あまりに短期間に5つ星ばかりが寄せられるというのは警鐘のシグナル。 また、それを読む利用者側も 「レビューが良すぎて、怪しい」というレスポンスを寄せていたというから、 必ずしも良過ぎるレビューが、ビジネスの助けになるとは言えないのだった。

コーネル大学の研究チームでは、ホテルのフェイク・レビューの見分け方をレポートに纏めているけれど、 実際にホテルに行かずに書いたレビューと、トリップアドバイザー・ドット・コムが検証して実際の宿泊客が 書いたと思われるレビューは、殆どの人々が読んで、その違いが分からないという。
でもコーネルのチームが纏め上げたフェイク・レビューのフォーミュラを理解すると、大体90%のフェイク・レビューが 見分けられるようになるとのことなのだった。
そのフォーミュラとは、フェイクのレビューは、ホテルに行かなければ分からないディテールの記載が無い替わりに、 何時、どういう理由で、誰とそのホテルに滞在したかというような状況の記載が丁寧で、 最上級の形容詞を使った感想と、行かなくても書ける褒め言葉、例えば「優秀なサービス」、「素晴らしい眺め」といったフレーズが多く、 それ以外の説明が少ないとのこと。また信憑性を強調するために「I」、「Me」 という 言葉が頻繁に登場していると説明されているのだった。

もちろん、グーグル・マップの閉店表示と同様に、競合するビジネスが あえて悪いレビューを寄せることも多いそうで、 そうなると、インターネット上では 5つ星と1つ星のレビューというのはあまり当てにならないとも言えるもの。
通常のホテル、レストラン、プロダクトのレビューは、最終的には3.75星前後になるものだそうで、 これは「平均よりは上」を意味する数字。
よほど思い入れがある人や、よほど酷い目にあった人以外は、往々にして「Above Average / 平均より上」というリアクションを示すものであるから、 インターネット上での平均で3.75星という評価は、平均5つ星の評価より信憑性はあると言えるのである。





執筆者プロフィール
秋山曜子。 東京生まれ。 成蹊大学法学部卒業。 丸の内のOL、バイヤー、マーケティング会社勤務を経て、渡米。以来、マンハッタン在住。 FIT在学後、マガジン・エディター、フリーランス・ライター&リサーチャーを務めた後、1996年にパートナーと共に ヴァーチャル・ショッピング・ネットワーク / CUBE New Yorkをスタート。 その後、2000年に独立し、CUBE New York Inc.を設立。以来、同社代表を務める。


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