Sep. 9 〜 Sep. 15, 2013

” What's Real Problem? ”


今週もシリア関連のニュースに最も報道時間が割かれていたアメリカ。 でも今週に入ってからそのフォーカスが、「シリア問題」から「シリア関連の問題」へと、大きく変わってきているのだった。
先週までのアメリカ世論とメディアがフォーカスしていたのは、自国民に対して化学兵器を使用したと思われるアサド政権に対して、 アメリカ軍が制裁の意味での武力行使を行なうべきか? について。 そして 9月10日 火曜日、 午後9時からメジャー・ネットワークで放映されたスピーチ(写真上左側)で、 オバマ大統領が 国民に対して 理解を求めると見込まれていたのが その武力行使の正当性。
ところが、蓋を開けてみれば 大統領のスピーチは、 ロシアのプーチン大統領が シリアとの仲介に入るという外交的解決案が浮上したことを明らかにし、 大統領が武力行使の前に判断を仰ぐとした米国議会に対して 決議の見送りを依頼するという 何とも歯切れの悪いものに止まったのだった。

この中で、大統領はアメリカの軍事力行使の圧力が シリアのアサド大統領を ロシアとの歩み寄りに動かしたと強調。 「アメリカは世界の警察ではない」としながらも、 アメリカが過去70年に渡り 世界秩序を守り続ける役割を果たしてきたこと、 だからこそ アメリカという国は ” Exceptional / エクセプショナル(並外れた、卓越した) な存在である” と 明言したのだった。

ところが そのスピーチが面白くなかったのか、ロシアのプーチン大統領による記名記事として 木曜の ニューヨーク・タイムズ紙に掲載されたのが、 「It is extremely dangerous to encourage people to see themselves as exceptional, whatever the motivation. (何が理由であれ、国民に対して自分達を「並外れた存在」と見なすように促すのは極めて危険なこと) という、オバマ大統領のスピーチにあてつける内容を含んだエッセイ。 プーチン大統領の記名記事がフィーチャーされたのは、英語でOp-ed(オプエド)と呼ばれる、社説欄の反対側に設けられたページで、 同じセクションでは、5月にアンジェリーナ・ジョリーが両乳腺切除手術を行なっていたことを告白しているのだった。

同記事は、瞬く間に一般メディアとソーシャル・メディア上で 大センセーションを巻き起こしていたけれど、 その理由は、この記事がアメリカに対して プーチン大統領が 民主主義のレクチャーをするような内容であったため。 さらに 同記事は 「我々は皆それぞれに異なるけれど、神は我々を平等に創造した」という センテンスで締めくくられており、これが ゲイ差別の法律を制定し、世界各地でソチ・オリンピックのボイコットが起こっている ロシアの大統領の発言とは思えない というのも、 アメリカ・メディアの皮肉まみれのリアクションになっていたのだった。
その一方で、プーチン氏の「アメリカが自国を特別だと見なすのは危険だ」という指摘、 「自分達に同調するのが民主主義で、同調しないのならば敵とみなす」という アメリカ政府の主張を批判する部分については、 「こうした考えは諸外国の人々がアメリカに対して抱いている本音だ」と認める意見も 同時に聞かれていたのだった。

結局、アメリカとロシアは土曜日に、シリアに対して 2014年半ばまでに全ての化学兵器を放棄、破棄させることで 合意に達しているけれど、週末にアサド大統領が語っていたのが 「シリアは アメリカの軍事力行使の圧力に屈したのではなく、ロシアとの関係を重視するために 化学兵器の放棄に応じることにした」というコメント。
これについては、数週間前までは 化学兵器の保有を否定していたアサド大統領が、 打って変わって 持っていないはずだった化学兵器を放棄することにした矛盾点が指摘されていたけれど、 いずれにしても これら一連の動きで、 大きく揺らいだイメージを植えつけたのが オバマ大統領のリーダーシップ。

そもそも、大統領の一存で武力が行使できる状況であることを強調しながらも、 世論の反発を恐れて、議会の承認を仰ぐことを明らかにした時点で 与えていたのが優柔不断なイメージ。 そのイメージがさらに悪化したのが、プーチン大統領の介入を理由に、審議の見送りを議会に依頼したこと。
野党である共和党議員の間からは、「シリア問題でロシアにイニシアティブを与えたことで、 中東におけるロシアの影響力の大きさを アメリカが認めたことになった」という批判が続出。
また武力行使については、本来大統領をサポートすべき与党、民主党議員の間でも 反対意見が続出しており、これで民主党の足並みが崩れた印象を露呈したことから、 大統領がこの秋再び直面する 債務上限引き上げ問題を こんな状態で乗り切れるのか?といった声も聞かれているのだった。
加えてプーチン大統領の記名記事によって、以前から不仲説が囁かれていたオバマVS.プーチン関係が、 大統領が自ら語るほどは プロダクティブな仲ではないことを印象つけたのも大きなマイナス。


アメリカ国民にしてみれば、化学兵器の使用に反対の立場を取るのは当然だとしても、 何故 また新たに中東で戦争を始めなければならないのかは、全く理解に苦しむところ。
選挙の最中には、中東での戦争を終わらせることを公約に掲げていたオバマ大統領が、またしても中東で しかも無意味な戦争を始めようとしていることで、大統領の支持者までもが 「オバマもブッシュも大して変わらない」という印象を抱いたことが伝えられているのだった。

そもそも、アメリカ国民の間では 国内問題が山積する中、シリアの問題に多額の戦費を支払って 取り組んでいる場合ではないという意見が圧倒的。
例えば、アサド政権が化学兵器を使用したといわれる8月21日以来、シリアでは約1,400人の死者がレポートされているけれど、 同じ日以降、アメリカ国内で銃で射殺された人々の数は それを軽く上回る約1,890人。 昨年12月にコネチカット州のサンディ・フック・エレメンタリー・スクールで起こった銃乱射事件以来、 銃規制を求める声が高まっていたアメリカであるけれど、 今週火曜日には、コロラド州で銃規制を進めた民主党の政治家2人が リコール選挙で敗れるという事態が起こっているのだった。
この背景として伝えられるのは、ありとあらゆるレベルの銃規制を拒むNRA(アメリカン・ライフル・アソシエーション)に加えて、 共和党右派で知られるテキサスの大富豪、 コッチ兄弟の資金が リコール選挙に投入されていたということ。 さらには、生活と銃が切り離せないアメリカ国民の気質もリコール選挙に影響を及ぼしており、国民の90%が 「銃の購入に際してバックグラウンド・チェックが必要」という意見を持っているにも関わらず、 銃規制が全く進まないアメリカの実情を まざまざと見せ付けているのだった。


その一方で、9月13日金曜に放映された HBOのポリティカル・トークショー「リアルタイム・ウィズ・ビル・マー」では、 ホストのビル・マーが、「世界に毒を振り巻いている存在は、化学兵器を使ったシリアではなく、 1日300トンの放射線に汚染された海水を放出している日本だ」として、 日本の福島原発のニュースこそが 新聞の一面で報じられるべきだと主張していたけれど、 アメリカ国内では この意見はかなりのマイノリティ。
ビル・マーが指摘する通り、福島原発のニュースは ニューヨーク・タイムズ紙の インターナショナル・セクションを何ページも めくったところにやっと掲載されている状態になっているのだった。

この理由について、同番組にコメンテーターとして出演したUCS(Union Of Concerned Scientists)の シニア・サイエンティストで、「フクシマ、ザ・ストーリー・オブ・ア・ニュークリアー・ディズアスター」の著者でもある エドウィン・ライマンは、福島原発が1日300トンの放射線汚染水を放出しても ハワイでの海水浴が危険な状態になるまでには あと2年程度が掛ること、 福島原発の問題以前に マグロ等の巨大魚は既に水銀で汚染されていた事などを挙げて、 福島原発が 直ぐに世界環境に大問題をもたらすレベルではないことを強調していたのだった。

それよりも エドウィン・ライマンが危惧していたのは、世界各国の原発関係者が 福島問題を 「地震、津波、腐敗した 管理体制が重なって起こった日本特有の状況」として片付けてしまう傾向。 各国の原発関係者が福島問題がきっかけで「同じ事は自国では起こらない」と、逆に原発に対する 空虚な自信を深めている点で、 中国を始めとする幾つもの国々が、十分な災害対策をしないままに、今後ますます原発に傾く様子が説明されていたのだった。

さらに言えば アメリカでは 「核」 というものに対して、 即座に大きなリアクションを示すのは、メディア報道にしても、政府の対応にしても、「兵器」という攻撃手段の場合のみ。 核による環境汚染や それによる人体への危険については、環境活動団体や、科学者の仕事と見なして、 片付ける傾向が非常に強いのだった。
例えば、今週半ばには北朝鮮がプルトニウム・リアクターの運転を再開した疑いが 報じられたけれど、北朝鮮にとっての「核」と言えば 兵器を意味するので、 そのニューヨーク・タイムズ紙の扱いは 第3面、インターナショナル・セクションの目玉ページでの報道。
シリア問題にしても、これだけ大きく取り沙汰されるのは アメリカが武力行使をした場合、 核兵器を所有していると思しきイランが 既にその報復を 明言しているためと言われるのだった。


前述の 銃規制を進めた政治家をリコールしたコロラド州に話を戻せば、 今週のコロラドは 歴史的な洪水に見舞われて、現時点で確認されているだけで6人が死亡、 700人が行方不明。1500世帯が崩壊し、1万7000世帯がダメージを受けたことが報じられているのだった。
この災害に限らず、ここ数年のアメリカは気候変動の煽りを受けて、 歴史的規模の山火事、竜巻、ハリケーン、洪水といった自然災害に信じられないほど頻繁に見舞われ続けているけれど、 これが環境問題である限りは、全く策を講じようとしないのがアメリカという国。
その一方で、3人の死者、282人の怪我人を出した今年4月の ボストン・マラソン爆発事件は、テロであったので、当然のことながら その後のスポーツ・イベントの警備が直ぐに強化されるなど、様々な対応と ありとあらゆるメディア・フォーカスが 行なわれていたのだった。

「気象変動がアラブ諸国がテロの一環だった」とでも 報じられれば、 アメリカが気象変動や環境問題に対して積極的に取り組むかもしれないけれど、 8月半ばから燃え続け、ヨセミテ国立公園にも被害をもたらした カリフォルニア州史上 第3位の規模の山火事 消火に費やされた費用は100億円。 2013年に アメリカ西部で起こった 約40件の山火事の消火費用の総額は 1,000億円を超えているのだった。
昨年ニューヨーク、ニュージャージー・エリアを襲ったハリケーン・サンディは147人死者を出し、その被害総額は 日本円にして約6兆8,000億円。その前の2011年に ミズーリ州ジョプリンを襲った竜巻は、160人の死者を出して、 被害総額は約2,800億円。これら以外にも、大雪、洪水、干ばつ等、深刻な自然災害や それによる停電は、 アメリカ各地で毎週のように起こっているのだった。

これだけの犠牲者と被害状況を考えるにつけて、テロ対策よりも、他国の化学兵器使用の制裁よりも、 現在のアメリカが真剣に取り組むべきなのは 環境問題や 気象変動対策 であるのは明らかと言えるのだった。





執筆者プロフィール
秋山曜子。 東京生まれ。 成蹊大学法学部卒業。 丸の内のOL、バイヤー、マーケティング会社勤務を経て、渡米。以来、マンハッタン在住。 FIT在学後、マガジン・エディター、フリーランス・ライター&リサーチャーを務めた後、1996年にパートナーと共に ヴァーチャル・ショッピング・ネットワーク / CUBE New Yorkをスタート。 その後、2000年に独立し、CUBE New York Inc.を設立。以来、同社代表を務める。



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