Sep. 15 〜 Sep. 21,  2014

” Cycling Can Be Reckless Homicid !? ”
セントラル・パークで起こるべくして起こった
自転車による 歩行者脳死事故の波紋


今週のアメリカでも メディアが最も報道時間を割いていたのが、ISIS / アイシスに対するアメリカ軍武力行使のニュースと、 選手によるドメスティック・ヴァイオレンスの問題、およびその処分を巡って、大きな批判を浴びているNFLのニュース。

アイシスに対する軍事力行使については、地上戦を避けると公言したオバマ大統領と 地上戦を示唆するコメントをした 米国軍トップの マーティン・デンプシー統合参謀本部議長の 歩調が噛み合わず、明確なビジョンや目的が無いままに再びイラク、そしてシリアでの 戦闘を始めようとしているオバマ大統領の支持率は下がり続ける一方。

その一方で先週のこのコラムでお伝えしたように、選手による妻やガールフレンド、子供に対するドメスティック・ヴァイオレンスのスキャンダルが どんどん浮上しているNFL(ナショナル・フットボール・リーグ)については、 今週、アナハイザーブッシュ(バドワイザー)を含むスポンサー企業が、NFLの同問題に対する 姿勢を不服として抗議、およびスポンサーシップの一時停止を表明。
ファンに加えて、政治家からの圧力も加わって、 現在 ドメスティック・ヴァイオレンスの罪に問われている選手については、チームが その出場停止処分を明確に打ち出しているのだった。 しかしながら、辞任を求められているコミッショナーのロジャー・ゴッデルに関しては、 今週行われた記者会見でも リーグとしての ドメスティック・ヴァイオレンスに対する 取り組みや方針について全くコメントせず、メディアとファンの大顰蹙を買っていたのが実情。
また、今やNFLファンの48%を占める女性の間では、 この問題がきっかけで、NFLの試合を見る目や気分が変わって来ていることも伝えられているのだった。




ニューヨークで 週末から大きな報道になっていたのは、木曜午後のセントラル・パークで、猛スピードのサイクリストが 歩行者レーンを歩いていた女性を轢いて、脳死の状態に陥れたというニュース。
事故が起こったのは、パーク内のウエスト・ドライブ、63丁目付近。 マニアックなスピードで自転車を飛ばしながら、車専用レーン、自転車用レーンを横切って、歩行者用レーンに入った サイクリストが、信号を渡ろうとしていた歩行者女性に気づきながらも、 スピードを落とさず、 「そこをどけ!」と叫びながら、猛突進して 女性に激突したというのが、その一部始終を目撃したイギリス人旅行者の証言。
現場には多量の出血の跡が見られ、女性は前述のように運ばれた病院で脳死の状態になったことが伝えられたのだった。

セントラル・パーク内では、自転車も自動車も 時速25マイル(約時速40キロ)というスピード制限があるものの、 目撃者の証言ではサイクリストのスピードは、軽くそれを超えていたとのこと。 被害者を病院に運び込んだ救急隊員は、「まるで車に轢かれたような酷い状況だった」 と被害者女性のコンディションについてコメントしていたのだった。



この被害者女性は、コネチカット州に住むジル・ターロフ(58歳、写真上 下段左の女性)。 彼女は元ラジオ局のエグゼクティブで、3大ネットワークの1つ、CBSの上級副社長の夫人でもあり、 大学生の息子と娘が居る身。
容疑者であるジェイソン・マーシャルは、イースト・ハーレムに住むサックス奏者(31歳、写真上 被害者女性の隣の男性)。 今回の事故の”凶器” となった彼の自転車は、日本円にして40万円以上の ジェイミス・エクリプスのレーシング・バイク。 そのジェイソン・マーシャルが愛用すると同時に、事故の原因の一端を担っていると言われるのが、 スピード狂が愛用する アプリ/ウェブサイト ”Strava / ストラヴァ”。 このアプリ/サイトは、ランニングとサイクリングの時速スピードをGPSシステムを使って ユーザーが記録し、その速さを競い合うためのもの。
ジェイソン・マーシャルは、2014年だけでも 既に9000マイル(1万4400キロ)を走行しており、 毎日1〜2回セントラル・パークを猛スピードで走っては、ストラヴァのトップ10に入るスピードを記録。 そのサイトによれば、 彼のパーク内走行の最高記録は、時速35.6マイル(約57キロ)。 事故を起こした日の朝も、時速32.2マイル(約52キロ)でパーク内を走行していたことがサイトに記されていたという。
したがって、彼が歩行者を見てもスピードを落とそうともせずに猛突進してきたのは、 「ストラヴァの記録にこだわったため」 というあまりに下らない理由。

この事故の直後からは、実際にストラヴァを利用しているサイクリストからも ジェイソン・マーシャルの愚行を批判する書き込みや、ツイートが相次いでいるけれど、 現時点では彼は 警察に起訴されておらず、 罪も無い人を 自分の身勝手で脳死状態にしておきながら、少なくとも現時点では自由の身。
これについても、怒りのリアクションがメディア&ソーシャル・メディアに溢れており、 ニューヨーク・ポスト紙には、「ジェイソン・マーシャルを刑務所送りにするべき」 という厳しい批判が展開されていたのだった。

でも この事件が大きな波紋を呼んだため、ニューヨーク市警察(NYPD)では、 翌日金曜日に スピードガンを使った自転車の走行スピードのチェック、 本来一方通行である自転車レーンを逆走する自転車の取り締まり、 そして何より、歩行者レーンに入る自転車の取り締まりが行われていたのだった。
このため、私が土曜日に事故現場を含むセントラル・パークを走った時は、 逆走する自転車を一台も見かけないという、極めて珍しい状況。 歩行者&ランナー用レーンを走っている自転車は2台見かけたけれど、それでもランナーや歩行者に 謝りながらの走行だったので、 この事件が セントラル・パークのサイクリストに少なからずインパクトを与えていることが窺えたのだった。




私はセントラル・パークを走るようになって 今年で5年目であるけれど、やはり自転車にぶつかりそうになったことが 数回あって、マナーの悪いサイクリストには常々嫌気が差しているけれど、 これは私だけでなく パーク内を走るランナーならば 誰もが感じていること。
旅行者のサイクリストについては、地図を見ながら走ったり、写真を撮影しながら走ったりする上に、 自転車が一方通行であることを知らないケースが多いので、歩行者&ランナー用のレーンを 逆方向レーンだと思い込んで、 我が物顔で 走行するケースが多いのだった。 スピードはさほど出ていないので、たとえ ぶつかっても今回の事故のように 脳死状態になることは無いとは思われるけれど、それでも注意力散漫で自転車に乗っていることが多いので、 ランナーは自分が怪我をしないためにも、大声で怒鳴って注意をうながしたり、自転車レーンを走るように 指示するのは日常茶飯事。

その一方で、レンタルではない 高額自転車に乗って、高そうなヘルメットとスパンダックス・ウェアで走行するシリアスなサイクリストは、 とにかく猛スピードで飛ばしているケースが多く、 逆走はしないけれど、自転車レーン以外を 好き勝手に走るマナーの悪さが目に付く存在。 歩行者やランナーにかすりそうなほどの至近距離を 猛スピードで通り過ぎることも多く、本人達は自転車のコントロールに自信を持っているので、何とも思っていないと思うけれど、 至近距離で後ろから猛スピードで抜かれる側のランナーや歩行者は、車に轢かれそうになったような恐怖感を味わうことが少なくないのだった。

実はセントラル・パークでは、先月にも自転車によって歩行者が轢き殺される事件が起こっているけれど、 私がパーク内を走っている時に目撃する事故と言えば、もっぱらサイクリスト同士の激突や、 サイクリストが坂道でコントロールを失って転倒するケース。 私自身も、高校時代に自転車で大怪我をした経験があるけれど、そういう状況を目撃したことが無い人にとっては、 事故が起こって 担架で運ばれていく血だらけの怪我人を見て、 「自転車ごときでこんな 大事故になるなんて・・・」 と初めて その危険を悟るケースが少なくないようなのだった。

ところで、旅行者もシリアスなサイクリストも どちらも無視しているのがパーク内の信号であるけれど、 赤信号で止まらなければなければならないのは、自動車も自転車も同じ。 ニューヨーク市は 交通違反でチケットを切られた場合、 罰金は75ドル。その時点でIDを所持していなかったり、執拗な抗議をすると逮捕拒否という罪が科せられて、 派出所に連行されるのがアメリカ。
事実、俳優のアレック・ボールドウィンは5番街を自転車で逆走して 警官に止められ、 激怒したために、交通違反と逮捕拒否で 逮捕されているのだった。


ニューヨークでは、前ブルームバーグ市長政権下で 公道にバイク・レーンを設置し、 バイク通勤を増やす政策が進められた結果、 特にバイク・レーンが多い ブルックリンを中心に自転車利用者が増えたことが伝えられているけれど、 それと同時に年々増えているのが自転車事故。
2012年に244件だったニューヨークの自転車事故は、2013年には 316件に増えているのだった。

ニューヨークで2013年に自転車事故が突如増えた要因になっているのは、この年から自転車シェア・プログラム、シティ・バイクがスタートしているため。
とは言っても、シティ・バイクで起こる事故の殆どは通報されずに終わるので、その数は実際のレポートよりも遥かに多いことが見こまれているのだった。 シティ・バイクの事故がレポートされない傾向にあるのは、利用者が事故による自転車の故障費用を負担したがらないため。 なので事故を起こしても、そのまま自転車をデッキに戻してしまうのがありがちな傾向。 その結果、ニューヨーク・ポスト紙のレポートによれば6000台のシティ・バイクのうち、今年8月半ばの時点で修理が必要な台数は何と1900。 またバイクシェアNYCのブログ・サイトが24のシティ・バイク・ステーションで調査を行った結果、 そこに駐輪されていた自転車のうちの68%のシートが壊れていたこともレポートされているのだった。

この修理費が スタートから僅か1年で陥ったシティ・バイクの財政難を さらに悪化させているけれど、 その一方で、シティバイクの収入源になっているのが、レイト・フィー。
シティバイクは 1回の利用時間が30分。その後30分を越えると4ドル、 1時間を越えると13ドル、その後1時間ごとに12ドルのレイト・フィーが チャージされる仕組み。
昨年7月からスタートしたシティ・バイクのレイト・フィーの総額は、 今年の8月までの間に 日本円にして4億円以上になっているのだった。
このレイト・フィーは、実際に自転車の利用の延長によるものと、 利用者が自転車をきちんとデッキに戻さなかったために、継続して利用していると 見なされてチャージされるものに分かれるとのこと。

でも そのレイト・フィーをもってしても、シティ・バイクが僅か1年で抱えた負債は数億円。 ブルームバーグ前市長とは異なり、現ビル・デブラジオ市長は、 市の財源で シティバイクをサポートする意思が無いことを明らかにしており、 6年契約でスタートしたシティ・バイクの未来は 定かではないのだった。



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執筆者プロフィール
秋山曜子。 東京生まれ。 成蹊大学法学部卒業。 丸の内のOL、バイヤー、マーケティング会社勤務を経て、渡米。以来、マンハッタン在住。 FIT在学後、マガジン・エディター、フリーランス・ライター&リサーチャーを務めた後、1996年にパートナーと共に ヴァーチャル・ショッピング・ネットワーク / CUBE New Yorkをスタート。 その後、2000年に独立し、CUBE New York Inc.を設立。以来、同社代表を務める。




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