Sep. 19 〜 Sep. 25 2005




コカイン・ケイト



今週に入って、アメリカ及び、先進諸国で大きく報道されることになったのが、ケイト・モスのコカイン常用のニュースである。
これを最初に大きく報道したのは、9月15日付けのロンドンのデイリー・ミラー誌で、そのタイトルもズバリ「コカイン・ケイト」というもの。 同誌発売当初は、一部に波紋を投げかけた程度のインパクトに止まっていた この報道であるけれど、 その翌週である今週火曜日、9月20日になって、ファッション・チェーン、H&Mが、この記事を理由に ケイトの広告起用を見合わせる発表をしてからというもの、記事のインパクトが雪だるま式に広がって行き、 今週は、本当にありとあらゆるメディアに ケイトのコカイン常用が報道されることになってしまったのだった。

H&Mがケイトを起用しようとしていたのは、今年11月に発売予定のステラ・マッカートニーをゲスト・デザイナーに迎えての新ラインの広告で、 当初、H&M側は このミラー誌の報道を受けて、ケイトの起用を危惧する声が社内にはあったものの、 ケイト本人からの「今はドラッグはやっていないし、(ケイトがH&Mのモデルを務める)キャンペーン中も”健康”に留意する」という 確認が取れたため、「そのままケイトを起用する」と 先週末の時点では発表していたのだった。
ところが、ミラー誌の報道があまりにリアルで、ケイトのコカイン常用が否定できない事実であることを受けて、 H&Mは今週に入ってその決断を撤回。これによってケイトは、契約金と広告出演料の約2億2000万円を失うことになってしまった。

ケイトにとって更なるダメージとなったのは、H&Mが彼女の起用を取り止めたことが、「コカイン・ケイト」報道に更なるニュース性を もたらしてしまったことで、各メディアが 「ケイト・モスを起用することは、当社のアンチ・ドラッグの姿勢に反するもの」としたH&Mの 見解を受けて、現在ケイトを広告に起用しているブランド対して、広告方針を問いただす猛攻撃をした結果、 ケイトを2001年以来、フレグランス、ココ・マドモアゼルのイメージモデルに起用してきたシャネル、 そしてバーバリーが、それぞれ「ケイト・モスとの新たな契約更新はしない」というコメントを発表。 またケイトをフレグランス、「オピウム」のイメージ・モデルに起用しているグッチ・グループ傘下のサン・ローランも、 「オピウム(=アヘン)」というネーミングと、ケイトのドラッグ常用のイメージがもたらす社会的インパクトを危惧して、 彼女をフィーチャーしたオピウムの広告を今後、雑誌などの媒体にフィーチャーしないことを発表した。
ケイトはこの他にもジュエリーのH・スターン、デビッド・ユーマン、グロリア・ヴァンダービルドのジーンズ、コティ社傘下の化粧品ライン、リンメル、 クリスチャン・ディオールの広告にもフィーチャーされているけれど、 このうち、ケイトの継続起用を明言したのは、ケイトとの契約をあと2年残しているリンメルのみ。 そのリンメルにしても、「ケイトをサポートしているのではなく、彼女をフィーチャーした広告を取り替えるのに お金が掛かるだけ」という業界の陰口がメディアで報じられていたりする。

では、ケイトのキャリアにこれだけのインパクトをもたらしたミラー誌の記事には一体どんな事が書いてあったかと言えば、 抜粋すると、現場は、ケイトが昨年から交際を続けている コカイン中毒ロッカー、ピート・ドーティーと彼のバンドが レコーディングをしているスタジオ内。ケイトがバッグの中に隠し持っていたコカインを取り出し、その山をクレジット・カードを使って 器用にサクサクと切り分けて、粉のラインを作り、 それを5ポンド札を丸めて、吸い込んでいる様子を始め、コカインが効いて来て、ヒステリカルに笑い転げるケイト、 ケイトと共に鼻からコカインを吸い込むボーフレンドのピートと、そのバンドメイト、レコード・プロデューサーなど。
ケイトは、40分の間に20ラインのコカインを吸い込んだとのことで、言うまでも無く、これは常用者でない限り 吸い込めない量であると同時に、かなりのヘビー・ユーザーであることを紛れも無く裏付ける量なのである。

このケイトのボーイフレンドのピート・ドーティーという人物は、ドラッグ所持で逮捕されたり、 リハビリの出入りを10回繰り返している、いわゆる「コーク・ヘッド(コカイン中毒の俗語)」。 彼は1日に16万円相当のコカインを消費すると言われており、ケイトの友人は皆、2人の交際に大反対であったと言われる。
一時はケイトのために、リハビリ入りしてコカインをやめようとしていると言われたドーティーであったけれど、 昨今では年収7億、総資産50億円と言われるケイトが、彼のドラッグ消費を支えているとの噂もあり、その一方で ケイト自身も、自らは否定していても、 コカインを常用しているのは、長くファッション業界では公然の秘密として伝えられていたことである。
昨今の ケイトのコカイン常用説を裏付けるエピソードとしては、今年初夏のCFDA(アメリカ・ファッション・デザイナー評議会)で、 彼女がファッション・インフルーエンス・アワードを受賞した際の奇行ぶりが挙げられるけれど、 これは受賞のため壇上に上がったケイトが、まるでマリファナでハイになったような状態で、 CFDAに対して感謝するだけの10秒ほどの かすれ声のスピーチでステージを後にしたものの、 その後のバンガロー・エイト (「セックス・アンド・ザ・シティ」にも登場したセレブリティ御用達クラブ)で行われた アフター・パーティーでは、何度も化粧室に(コカインを吸い込むために) 出入りをし、 戻ってきては 狂ったように踊っていたというもので、この時の彼女の「コークヘッド」ぶりは、ファッション業界インサイダーのブログにも 書かれるほど、おおっぴらなものであった。

そもそも、90年代半ばにケイトを有名にしたトレンドに、「ヘロイン・シック」というものがあったけれど、 その後、ケイトが自殺未遂をしてリハビリ入りしても、ファッション業界にはそれほど驚く人はいなかったし、 ファッション業界自体も、カルバン・クライン、ドナテラ・ヴェルサーチ、マーク・ジェイコブスなど、著名なデザイナーや モデル達が次々とリハビリ入りしていることからも分かる通り、かなり以前からドラッグとは縁の深い世界である。
ファッション業界と共に、ドラッグと縁が深いのが音楽業界であるけれど、 どちらも、「雑誌や商品さえ売ってくれれば、モデルがコカインをやっていても関係ない」、「CDさえ売れて、ツアーで客が呼べれば、 コーク・ヘッドでも構わない」というのが 暗黙の了解事項という世界で、 今回のケイトの1件でも、近々ケイトをゲスト・エディターに迎えるフレンチ・ヴォーグ誌のエディター、カリーヌ・ロワットフェルドは、 「コカインをやっていようと、ケイトは朝9時半から夜の8時まで、プロフェッショナルに仕事をこなしてくれた」、 「スキャンダラスな存在をカバーにすれば、それだけ雑誌が売れる」などと、 ファッション業界にありがちな「モラルずれ」したコメントをしていたりする。
一部には、ファッション業界やファッション・メディアがケイトに同情的なのは、こうした人々自身が レクリエーションの一環としてのコカインと無縁ではないからとの指摘があるけれど、 それは、ケイトをサポートするファッション・エディターや、ケイトの友人でデザイナーのセイディ・フロストなどが 口々に、「ケイトはファッション業界のコカイン使用のスケープゴートにされただけ」と語っていることからも証明されるところである。

でも、今となっては、誰が何を言おうと、塗り替えられない事実として存在しているのが 「ケイトがコカインを常用している」ことで、 ファッション業界という小さな世界では独自のモラルでお目こぼしになることでも、「シャネル」、「バーバリー」というような、 年商千億円単位の大企業のエグゼクティブが社会の常識的なモラルで判断した場合、やはりケイトを広告に起用するのが 不適切であると同時に、彼女を起用することによって、社会に誤ったメッセージを送ることになるのを危惧するのはやはり当然のことである。
今回のミラー誌の報道がきっかけになって、ケイトは警察の麻薬捜査の対象にもなってしまったことが報じられているけれど、 イギリスでは、コカインはクラスAドラッグと呼ばれ、その罰則が最も厳しい薬物で、所持で逮捕された場合、最高7年と無制限の罰金、 売買や生産に加担すれば、最高で終身刑、無制限の罰金という処罰が下されることになっている。
さらにケイトの3歳になる娘、リラ・グレースの父親である編集者、ジェファーソン・ハックは、 現在、ケイトの親権を剥奪する訴えを起こしていることも伝えられており、 コカイン常用の大きなツケがここに来て一気に巡って来た感があるのが、現在のケイトである。

私は、もう10年以上も前の 雑誌のエディターをしていた時代に、実物のケイトと遭遇したことがあって、 この時は、取材と撮影をしていたグリニッジ・ヴィレッジの小さな店に、 当時カルバン・クライン・ジーンズのモデルとして売り出し中だったケイトがふらりとやって来たのだった。 当然、店のオーナーや店員は、ケイトに気付いて、ニヤニヤ、ソワソワしており、 こちらはこちらで、店内撮影に追われていたけれど、ケイトはそんな周囲を全く気にせず、マイペースに店内を一回り見て帰っていったのを、今でもはっきり覚えている。
中でも私の脳裏にはっきりと焼きついているのは、私と同行したフォトグラファーがセットしたライトの下に立った時の彼女の発光体のような顔で、 店内に入ってきた時の彼女の第一印象は、「細くて、ちょっとキレイな女の子だけれど、モデルにしては背が低いかな」程度のものだったのに、 ライトの下で商品を眺めている時の彼女は、光線が出ているというか、浴びたライトの光を倍にして跳ね返しているかのような 物凄いパワーが感じられたのである。 この時 私は、撮影用のライトが商品を見るには強すぎることを彼女に謝ったけれど、私の言葉にニッコリ微笑んでから、暫くライトの下で、 光をビンビンに発しながら、商品を見ていたケイトの姿を思い出すにつけて、英語の「フォトジェニック」、すなわち「写真写りが良い」という言葉は、 同時に「発光性」という意味があることに妙に納得してしまうし、多くのフォトグラファーが、最もフォトジェニックなモデルとして、 必ず彼女の名前を必ず挙げるのも非常に理解出来るところなのである。

だから、そんな彼女のモデルとしての成功と長寿ぶりは、決してメディアとファッション業界が クリエイトしたものではなく、ケイトが神様から授かったフォトジェニックぶりを発揮した結果だと思うし、同時に彼女の卓越したセンスの良さは、 デザイナーやスタイリストも見習うべきものであるとも思っているけれど、 それでも私は、今回のケイトのコカイン報道に、驚きはしなくても、失望してしまったし、 「これだけの成功を収めているモデルとは言え、決して幸せではないんだろうなぁ」と思えてしまうのである。
ところでケイトのコーク・ヘッドのボーイフレンド、ピート・ドーティーは、今週、取材陣に囲まれて、 「人の人生を台無しにして!」と怒鳴り、詰め掛けた記者に対して唾を吐きかけたことが報じられているけれど、 私に言わせれば、彼はこの感情をメディアに対してでなく、コカインに対して抱くべきである。



Catch of the Week No.3 Sep. : 9月 第3週


Catch of the Week No.2 Sep. : 9月 第2週


Catch of the Week No.1 Sep. : 9月 第1週


Catch of the Week No.4 Aug. : 8月 第4週





執筆者プロフィール

秋山曜子。 東京生まれ。 成蹊大学法学部卒業。
丸の内のOL、バイヤー、マーケティング会社勤務を経て、1989年渡米。以来、マンハッタン在住。
FIT在学後、マガジン・エディター、フリーランス・ライター&リサーチャーを務めた後、1996年にパートナーと共に ヴァーチャル・ショッピング・ネットワーク / CUBE New Yorkをスタート。
その後、2000年に独立し、CUBE New York Inc.設立。以来、同社代表を務める。