Set.. 18 〜 Sep. 24
”ストーカー・ストーリー”
私はこの1週間、携帯電話が鳴る度に気分が悪くなっていたけれど、その理由は ふとしたきっかけで電話番号を交換した男性が、
しつこく電話やテキスト・メッセージを送ってきていたためである。
私は平均して、年に1人〜2人くらいのペースで「電話番号を渡して失敗した」という思いをしているけれど、
こういうストーカー的な人々は、こちらが一度も電話に出たり、テキスト・メッセージに返事を送らなくても、
一方的にストーリーを展開させていくもの。
最初はフレンドリーで、途中から勝手に盛り上がったり、舞い上がったりするけれど、こちらが返事をしないでいると、
次第に心配になったり、イライラするようで、後に怒りや、抗議のメッセージが届くのが
ありがちなシナリオである。
でも、、そこまで感情が入らない場合は、「そんなに頻繁に電話をもらうような仲ではないから、もう掛けてこないで欲しい」とはっきり
言うことで、解決する場合も少なくなかったりする。
ストーカー というのは、以前付き合っていた等、お互いを良く知る仲である場合と、
「一度食事をしただけ」、「5分喋っただけ」のように、殆ど知らない間柄の場合があり、
前者はお互いの行動半径を含めた 事情を知り尽くしているだけに、様々な方法でストークされるのに対して、
後者の場合、ストーカー側の持つ情報が限られているだけに、その部分さえシャットダウンしてしまえば、
ストーカーに関わらずに済むのは事実である。
電話に関して言えば、今ではコーラーIDで、誰が電話してきたかが直ぐに分かることもあって、
人々が以前よりも簡単に携帯電話の番号を交換する傾向にあり、
携帯番号を聞かれて、「教えたくない」とは答え難い時代になって来ているけれど、
逆に理由を付けて 教えないようにするのが、自宅の電話番号である。
でもふと考えると、6〜7年前までは、親しい友達や仕事絡みの人にしか教えていなかったのが携帯電話の番号で、
電話の使い方が、ここ数年で変わって来たのは 改めて感じるところである。
また、数年前だったら 話したくない人、嫌いな人の電話番号などは、真っ先に電話の登録から消していたものだけれど、
こうした人間の電話番号ほど残しておかないと、突然電話が掛かってきた時に
相手が識別できなくなってしまうのである。
そうは言ってもストーカーというのは、自分の電話に出てもらえないとなると、友人の電話や、
自分の持つ別の電話、さらに性質が悪くなると 「Restricted Number / レストリクテッド・ナンバー」 といって、他人の電話によって識別されないように保護
された番号から電話してくるもの。
先日、女友達とストーカーについて語り合っていた際、「ストーカーからしつこく電話が掛かって来ている時は、
”レストリクテッド・ナンバー” からそれと同じくらい何度も電話が掛かってくる」 というのを 皆が認識していて、
意気投合してしまったけれど、この時、誰もが言っていたのが、「ストーカーが居ても居なくても、”レストリクテッド・ナンバー”から掛かってきた
電話は絶対に取らない」ということ。
「自分の身元が分からないように設定された番号からの電話なんて、嫌がらせに決まっている」というのがその理由だけれど、
ストーカーの場合、”レストリクテッド・ナンバー” から 何度も電話をかけたら、たとえ証拠は残らなくても、
その電話が自分だと思われるとはどうして考えないんだろう? というのは 私の素朴な疑問である。
経験者の話では、”レストリクテッド・ナンバー”から しつこく電話が掛かってきた場合、
その電話を取ると、直ぐに切れてしまうのが通常だそうで、ストーカーは、「相手が電話に出られる状況にあること」、
すなわち入院しているとか 旅行に行っている訳ではないということをチェックすることで 目的達成とみなすようである。
こうした電話によるマイルド・ストーカーの場合、別のターゲットを見つけたり、時間が経過すれば
電話して来なくなるのが常で、電話番号を替えるほどの大騒ぎになった例というのは、あまり聞かないものである。
でも、ビジネス・カードを持ち歩く女性の場合、気をつけなければならないのは 「会社の電話しか書いていないから大丈夫」と、
うかつに名刺を渡してしまうと、そこにはフル・ネームが書いてあるので、その情報だけで 今ではインターネットのピープル・サーチを使えば、
簡単に自宅のアドレスが探せてしまうし、お金を払うと、その金額に応じて、家の電話番号やバック・グラウンドの調査までするサービスが
存在しているのである。
さて、ストーカーというのは他人を追いかける時間と、裕福とは言えなくても多少の経済的ゆとりがある場合が多いだけに、一目見て 「どこかおかしい」
というタイプの人間ではないものである。
また、最初は至って普通で、感じが良い場合が多いけれど、その後の電話や行動で徐々に「普通でない部分」を垣間見せてくるもの。
そして、自分が相手に避けられているのを自覚したり、否定したりする一方で、頭の中であらぬ想像をめぐらせては、何度も、何度も電話を掛け続けたり、
待ち伏せをしたりするもの。
ストーカー経験を持つのは、女性が圧倒的に多く、そのことはストーカー犯罪のほぼ全てが、男性が加害者、女性が被害者であることからも分かる通り。
男性のストーカー経験の中には、既婚者が浮気相手にストークされるというものがあるようだけれど、これは自業自得というものである。
私は、ニューヨークに住み始めてからというもの、ずっと1人暮らしをして来たけれど、ドアマン付きのアパートにしか住んだことが無くて、
その家賃を払うことは、空き巣、強盗、レイプ、ストーカーから自宅に居る時の自分を守るための必要経費とも考えてきた訳である。
でも その頼みのドアマンが居ても 全く役に立たなかったストーカー・ケースが1度だけあって、
これは、もう10年以上も前のことだけれど、ストーカーが私のアパートのビル内に引っ越してきたというもの。
ある時、仕事から戻ってくると ドアマンのデスクの横で、ニヤニヤしながら私のことを見ている男性が居て、
それが数日続いた後、ポストから郵便物を取り出していたら、誰かにお尻を触られたので、頭に来て振り向いたら その男性だった。
私はしばし唖然としてしまったけれど、彼はエレベーターの前で私のことを待っている素振り。
そこでドアマンのところにクレームに行ったところ、「ああ、その男なら最近引っ越してきたばかりで、君のことをいろいろ訊いて来たよ」と言われて、
かえって恐ろしくなってしまったのだった。
それから2〜3日後の夜中の2時頃、私が原稿の締め切りを抱えて仕事をしていたところ、いきなりドアのベルが鳴って 扉の穴から覗いて見ると、
何と立っていたのはその男性。
この時ばかりは、私も本当に震え上がってしまって、もちろん扉なんて開けるはずはないけれど、男性もずっと扉の前から動かず、
暫くして2回目のベルを鳴らしても私が出なかったので、やがて去っていったのだった。
私は震える手で、まずドアマンに電話をしたけれど、「ビルの住人に対しては、他の住人を訪ねるな とは言えない」、
「間違って君のアパートを訪ねたのかもしれない」などと言われてしまい、
「そういう事は警察に連絡するべき」で片付けられてしまった。
そこで、最寄の警察に電話をしたところ、「1回アパートを訪ねたくらいでは、レポートは出せないけれど、
何度も嫌がらせで訪ねてくるようだったら、裁判所に訴えて、リストリクション・オーダー(傍に近寄ってはいけないという命令)をもらうことが出来る」
と説明されたのみだった。でも、リストリクション・オーダーをもらえるほど、何度も訪ねてこられたら、寝不足どころかこちらの生活も精神状態も
メチャメチャになってしまう訳で、結局、私は ドアマンが何と言おうと、ビルのマネージメントは 住人に対して、他の住人への嫌がらせを止めるように
警告する義務があると判断して、翌朝、苦情を書面にして提出することにしたのだった。
それでもこの男性は、その後2回ほど 私のアパートを訪ねてきたし、私と同じエレベーターに乗ろうと待ち伏せしている事もあったけれど、
私も、その都度マネージメントに苦情を出していたので、日頃は住人の個人情報を一切話さないマネージメントも、
この男性が住んでいるのが、私のアパートの窓が見える部屋であることを教えてくれたのだった。
でも、ある時からその男性の姿を見かけなくなり、ホッとしていたある日、ドアマンから知らされたのが、
この男性が、荷物1つ無く引っ越してきたこと、そしてレントを1度も払わなかったので、追い出されたということだった。
(ちなみに、アメリカでは、賃貸契約の際に最初の月の家賃ともう1カ月分の家賃を内金として支払うことになっていて、
この内金でレントがカバーされるうちは、マネージメントは家賃滞納者を追い出すことが出来ないのである。)
すなわち、この男性は私をストークするために2ヶ月分の家賃を支払って、そのビルに仮住まいをしていたのだそうで、
その後マネージメントからも、「彼はきっと別の場所から君のことを見ていたはずだから、
ちゃんとブラインドを閉めるように」と言われてしまったのだった。
私は彼が追い出されたと聞いて安心したのも束の間、また恐ろしくなってしまって、それ以来は 神経質にブラインドを閉めるようになったし、
暫くは窓の傍に近寄るのも嫌になってしまったのだった。
この他にも、ジムの顔見知りのメンバーが、電話番号を教えた途端にストーカーになったこともあったけれど、この時は、
自宅から10ブロック離れたジムに通っていたので、丁度メンバーシップが切れたのをきっかけにこのジムを辞めてしまって、
ストーカーも自然にフェイドアウトしてくれたのだった。
でも、今は自宅のビルの中のジムに通っているだけに、心に決めているのが、メンバーに挨拶はしても余計な会話をしないこと、
そして電話番号を渡さないということ。
最初はナイスな人間が、電話番号を渡した途端どう変わるかは全く推測がつかない訳で、
”自宅ビル内のストーカー” だけはもうまっぴらなのである。

執筆者プロフィール
秋山曜子。 東京生まれ。 成蹊大学法学部卒業。
丸の内のOL、バイヤー、マーケティング会社勤務を経て、1989年渡米。以来、マンハッタン在住。
FIT在学後、マガジン・エディター、フリーランス・ライター&リサーチャーを務めた後、1996年にパートナーと共に
ヴァーチャル・ショッピング・ネットワーク / CUBE New Yorkをスタート。
その後、2000年に独立し、CUBE New York Inc.設立。以来、同社代表を務める。
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