Sep. 17 〜 Sep. 23 2007
” London is Burning! ”
9月に入ってアメリカのTV業界は次々と新番組や、既に放映されていたシリーズの新シーズンをスタートさせているけれど、
今週その息の長い人気ぶりを立証した番組と言えば、リアリティTVの先駆者であるサバイバー。
今シーズンは中国を舞台に繰り広げられる同番組は、中国で撮影された外国TV局による初のリアリティTVとしても話題を集めているもの。
放映前は昨今の中国産玩具回収のニュースを受けて、「今シーズンのサバイバーは、中国の玩具工場で、
有害な鉛の塗料を使って誰が生き残るかを競うもの」などとジョークのネタにされていた同番組であるけれど、
プレミア・エピソードは1400万人がチャンネルを合わせるヒットになっている。
その一方で、今週水曜からニューヨークでスタートしているのが、ファンが待ちに待った「セックス・アンド・ザ・シティ」の
映画版の撮影。既に映画の内容はかなりネタバレしているだけでなく、毎日のようにロケ現場がメディアで明らかにされて、
その様子が その日のうちに芸能番組やインターネット上で報道されているけれど、
これは映画のパブリシティの一環としてわざとやっているとのこと。
ちなみにCUBE New Yorkはアメリカで1シーズン目が放映されている最中に既に「セックス・アンド・ザ・シティ」の特集をした
日本語の唯一のメディア。パシュミナやフェンディのバゲット、ネーム・プレートペンダント、ホース・シュー・ペンダント、コサベラ等、
「セックス・アンド・ザ・シティ」からは数多くヒット商品のアイデアを沢山貰っている上に、私自身、日曜にこのコラムを書く習慣がついたのも、
同番組が放映されていた日曜の夜は 必ず自宅に居ると分かっていたため。
それくらい夢中で見ていた「セックス・アンド・ザ・シティ」だけに映画版も楽しみであるけれど、既に撮影シーンで
キャッチされているキャリーのスタイルについては、賛否両論。 時に、悪趣味の一歩手前とも、一歩先とも言えるファッションを見せていた
サラー・ジェシカ・パーカー扮するキャリーであるけれど、映画でもそのファッションは健在である。
映画の撮影の詳細については、また別のページで特集予定なのでお楽しみに!
さて、今週からファッション・ウィークはニューヨークから舞台をロンドンに移しているけれど、ファッションと同じことが起こっていると指摘されているのが
現在の金融界。
ダウン・サイジングを図ろうとしているニューヨークのウォールストリートに対して、
今 猛然とブーム・タウンとしての勢いを見せつけているがロンドンのシティ(金融街)で、世界の金融キャピタルの
ポジションをニューヨークから奪いかねない様相を見せているのである。
では今 何故ロンドンの金融市場が熱いか?と言えば、挙げられている要因は2つ。 1つが 9/11のテロを受けて アメリカが2003年を前後して
移民の受け入れ規制を強化した結果、有能な人材がヴィザの苦労をしてまで アメリカに留まって仕事をしようとはせず、
ロンドンを新天地として考えるようになったこと。
もう1つ目はアメリカの金融のルールやレギュレーションが複雑過ぎることから、大規模なIPO(株式公開)がロンドンに流れていく傾向にあり、
通貨取引もロンドンが世界のキャピタルになる勢いで行われるようになったことである。
その結果何が起こるかと言えば、シティで働く高収入のプロフェッショナル、それも消費の核を担うような若い層の増加と
彼らが使うお金が街中の景気を煽るという現象である。
そして、その影響は遂にロンドンのファッション・ウィークでも顕著になっており、
これまで は 「ランウェイより トラッシーなストリート・ファッションの方が見所がある」とファッション関係者の間で悪名高かった
ロンドン・コレクションが 昨今、過去に無いほどの注目を集めているのである。
その理由は、もちろんロンドンに有能なデザイナーが出て来 始めたということもあるけれど、
何といってもバーヴェイ・ニコラス、フェニックなどのバイヤーが、有能な若手デザイナーに対して 「600ポンド
(日本円にして12万円)以上の価格帯でも、良いデザインなら売れる!」と、そのクリエーションの向上にハッパを掛けている部分が
大きいと言われている。
以前だったら「日常はネールもメークも怠る」と言われたロンドンの女性が 600ポンド以上の大金を服に使うとすれば、
シャネルやルイ・ヴィトン、グッチといったヨーロッパのエスタブリッシュされたブランド、もしくは
ニューヨークのデザイナーならばハーヴェイ・ニコラスに入っているドナ・キャラン、マーク・ジェイコブスなど。
でも、富裕層が増えるということは 街の文化にも活気が出てくるというのは歴史が立証する通りで、
リッチで、しかも新しくロンドンに住み着いた若い層はもっとオープン・マインドで、知らない名前のデザイナーの作品でも
気に入れば 値段など気にせずに購入に及ぶのだという。
そうした好調な消費に後押しされて、どんどん面白味を増してきていると言われるのがロンドンのファッション・ウィークで、
今シーズンはこれまでニューヨークでファッション・ショーを行ってきたルエラ、マシュー・ウィリアムソンといった2つのイギリスのブランドも、
ロンドンのファッション・ウィークに返り咲きをしている状態でである。
(これら2ブランドがロンドン・コレクションに戻った理由には、ニューヨークのファッション・ウィークのスケジュールが早すぎて、
製作が間に合わないという理由もあったと言われている。)
中でも、9月19日水曜に行われたジャイルス・ディーコンがデザインするブランド、ジャイルス(写真右)は、
来週のミラノ、そしてそれに次いで行われるパリ・コレクションを待たずして、
「今シーズンのベスト・コレクションの1つ」という評価をプレスやバイヤーから与えられていたりする。
「今、ロンドンが熱い!」というのは、今となっては誰もが知る事実であるけれど、
私にとって忘れられないのは、2年前、ちょうどロンドンが2012年のオリンピック開催地にパリを破って選ばれた直後に、
ヨーロッパを中心に取材活動をしているアメリカ人ジャーナリストと話をしていた時のこと。
パリから戻った直後で、パリのオリンピック誘致キャンペーンを自分の目で見ていただけに、パリに対して気の毒に思っていた私に対して、
彼は「IOC委員は強欲張りだが馬鹿じゃない。 オリンピックがあっても、なくても これから暫く 一番ホットになるのはロンドンだ!」と
きっぱり言い切ったのである。
私もロンドンという街はかなり好きな方で、個人的には私が生まれ育った東京に通じる部分を多いに感じる街でもあり、
彼と話してからは特に アメリカのメディアが取り上げるロンドン関連の記事に かなり積極的に目を通してきたけれど、
確かにデザイン面でも、レストラン・シーンでも 大きな波が来ているというのは痛烈に感じられるのだった。
ではニューヨークが金融のキャピタル、世界一の街のポジションをロンドンに明け渡すことになるのか?
ということについては、ニューヨーカーが認めないのは頷けるけれど、ロンドナーでさえも、
「それは無いだろう」と語っているという。
理由は、ニューヨークという街の持つパワーとニューヨーカーのエネルギー、止まるところを知らない上昇志向だそうで、
ロンドンという街はやはり もっと落ち着いていてエレガントなところだというのが、ロンドナー、ニューヨーカーが共に認めるところ。
ではロンドンとニューヨークで、ビジネス・ピープルに 今後 脅威となってくるブーム・タウンは何処か?と
尋ねると、答えとして返って来るのは 主に シャンハイ、そしてドバイ。
日本人としては”東京”と言って欲しいところであるけれど、シャンハイやドバイのように止められない勢いで伸びているというイメージが無いことや、
ビリオネア・クラスのとんでもない規模の金持ちの数が少ないことから、昨今 ラグジュアリー・マーケットにおいては その存在感が
徐々に薄くなりつつあるのが東京である。
でも、近い将来の先行き という点で最も心配されているのは、世界のファッション・キャピタル、パリ。
フランスが抱える移民問題や失業問題が深刻であるのはもちろん、ロンドンとは反対に若い優秀な人材が
どんどん諸外国、特にイギリス、ドイツに流出していることが指摘されているのがフランスなのである。
したがって、地元経済の伸びが期待出来ない一方で、有能な外国人が働くのが難しい環境が形成されて久しい状態。
今ファッション業界で最もホットなデザイナーであり、誰もがそのクリエーションに注目する存在と言えば、
バーバリーのクリストファー・ベイリーであるけれど、そのバーバリーの高額ライン、バーバリー・プローサムが
ミラノでコレクションを発表している理由にしても、本国のロンドンよりパブリシティが稼げるという理由に加えて、
ミラノの方が パリよりも新規に参入する外国ブランドがコレクションを発表し易いことが指摘されていたのである。
そのミラノでは、今 ヘッジ・ファンド・マネーが ファッションの購買力を煽っていることがレポートされているけれど、
パリはファッションのクリエーションはあっても、地元経済の後押しが無いと言われる存在。
シャンハイでは続々と一流ホテルが最高のセッティングとデザインを競って進出している現在、
パリでは未だに新しく建ったブティック・ホテルに「冷房が付いていない」などということが起こり得てしまうのである。
さてロンドンに話を戻すと、私のアメリカ人の友人はつい最近J.P.モーガン・チェイスからロンドンのインベストメント・バンクに転職して、
出張でロンドンに行って来たばかり。ロンドンが8年ぶりだったという彼も
今のロンドンのアップスケールな勢いにはすっかりショックを受けたという。
「ロンドンのレストランの食事が美味しい、なんて思える日がこんなに早く来るとは思わなかった!」というのが
彼の感想だったけれど、2年前のこのコラム”ロンドン・ウィーク”でも書いた通り、
イギリスの食事といえば オリンピック誘致の際には当時のフランス大統領、シラク氏に
「ヨーロッパの中でフィンランドに次いで不味い」と言われたもの。
でもニューヨークのゴードン・ラムジー(ミシュランのロンドン版で唯一最高の3つ星を獲得しているレストランのNY店)で
食事をしたニューヨーカーなら、誰もが「まだまだロンドンはニューヨークを抜くことは出来ない!」 と
余裕を感じてしまうのも また事実なのである。

執筆者プロフィール
秋山曜子。 東京生まれ。 成蹊大学法学部卒業。
丸の内のOL、バイヤー、マーケティング会社勤務を経て、1989年渡米。以来、マンハッタン在住。
FIT在学後、マガジン・エディター、フリーランス・ライター&リサーチャーを務めた後、1996年にパートナーと共に
ヴァーチャル・ショッピング・ネットワーク / CUBE New Yorkをスタート。
その後、2000年に独立し、CUBE New York Inc.設立。以来、同社代表を務める。
|