Sep. 22 〜 Sep. 28 2008




” Goldman Sucks ! ”


今週のアメリカでは、グレート・ディプレッション(大恐慌)以来と言われるクライシスに陥ったウォールストリートのベイルアウト、 すなわち救済案について 下院で 審議と調整が行われており、財務長官のヘンリー・ポルソン(写真右中央)が $700ビリオン(約74兆9000億円)の案を何とか可決させようと躍起になっていたのだった。
この救済案の提示は$700ビリオンという莫大な金額にもかかわらず、僅か3ページというふざけたもので、 しかも1週間で決議しなければならないという期限付きのもの。 アメリカ国民はもちろんのこと、下院議員やメディアでさえ、どうして救済案が $700ビリオンという金額に 辿り着いたのか?、そして どうして そんなに性急に可決しなければならないのかが 全く分らないもの。
ニューヨーク・タイムズ紙の読者投稿欄にも、「自分の住宅ローンでさえ、15ページの申請書を記入して、 審査に6週間も掛かったのに・・・」というような、不満の声が寄せられていたのだった。

でも下院の審議の弱いところは、こうしたローンや保険など、お金の流れが複雑に入り組んでくると、 議員は金融の専門家ではないので、深く突っ込んで様々な疑問を追求できない点。
ウォールストリートがこれだけ好き勝手なことを過去に出来たのは、 ブッシュ政権になってからの財務長官、ポール・オニール、ジョン・スノウの2人が 金融のバックグラウンドが無く、 ウォール・ストリートのトリックが全く分らない人間であったためと言われるけれど、 2006年から財務長官に就任しているヘンリー・ポルソンは、ゴールドマン・サックスのCEOのポジションからの 抜擢で、べテラン・インヴェストメント・バンカー兼、世界中の大企業の金融アドバイサーを務めてきた人物。
国がこんな状況に瀕した時に限って、金融業会出身で 金融業会に甘い人間が財務長官なのは全くの皮肉と言えるものだけれど、 彼に 複雑な金融セオリーを説かれて、 「$700ビリオンを今すぐ投入しないと、世界の金融システムが破綻する」などと 脅されたら、下院に出来るのは「この救済案にどれだけの手かせ足かせを付けられるか?」程度なのである。

さてそのヘンリー・ポルソンからの依頼を受けて、今週ゴールドマン・サックスに$5ビリオン(約5330億円)の投資を行うことにしたのが、 フォーブス誌による長者番付で世界第2位のリッチマンであり、 バークシャー・ハサウェイのCEO、ウォーレン・バフェット氏。
同氏は 昨今の市場動向を受けて、昨年から今年に掛けて$2ビリオンの資産を減らしていると言われるけれど、それでも個人資産総額は $50ビリオン(約5兆3300億円)以上。 このゴールドマンへの投資によってバフェット氏が受け取る年間の配当金は10%である$500ミリオン(約533億円)であるという。
この投資を受けて ゴールドマン・サックスの資金繰りが かなり楽になったのに加えて、 「オラクル・オブ・オマハ」のニックネームを持つ同氏が これだけの資金をゴールドマンに注いだことによって、 投資家の信頼も獲得したことが指摘されているのだった。
ゴールドマン・サックスといえば、現在ウォールストリートの中で 他社が羨む イミュニティ(免除)を持つと指摘される 存在であるけれど、そのゴールマン・サックスの株式を 9月半ば現在で $523.5ミリオン(約558億円)相当 所有 しているのが 財務長官のヘンリー・ポルソン。 アメリカで金融業会のCEOやエグゼクティブが給与や退職手当を 多額のキャッシュとシェア(株式)で受け取るのは 当たり前のことだけれど、給与リサーチの会社、エクイラーの調べによれば、そのポルソンの所有する株式のバリューは、 2007年1月には$809.5ミリオン(約863億円)であったというけれど、昨今の業績を受けてゴールドマンの株式が下がり続けたために $523.5ミリオンにまで 落ち込んでしまったというものだった。
1年8ヶ月の間に 300億円以上も失ってしまえば、彼がウォーレン・バフェット氏に 個人的に投資を依頼しても不思議ではないけれど、 その一方で 今日日曜付けのニューヨーク・タイムズ紙の第一面で報じられたのが、 何故 政府がリーマン・ブラザースを見捨てて、A.I.Gを救済したか?という背景を描く記事。 これによればその理由は リーマン・ブラザースは「ディスペンサブル」 すなわち無くなっても構わないけれど、 「A.I.Gはそうは行かない」というもので、そのA..I.Gの最大のトレーディング・パートナーと報じられていたのが 他ならぬゴールドマン・サックス。
記事によれば もしA.I.Gが破綻すればゴールドマン・サックスに$20ビリオン(約2兆1320億円)の損失をもたらすことが見込まれていたという。 そんなことになれば、ヘンリー・ポルソンの所有するゴールドマンの株式のバリューは益々下がり続けることになるのは言うまでも無いこと。
実際エクイラーの調べによれば、ベア・スターンズの元CEOであるジェームス・ケインが所有する同社株式のバリューは、 2007年1月には$1ビリオン (約1千億円) 以上であったけれど、それが今月半ばには$61.2ミリオン(65億円)に萎んでしまったという。 同様にリーマン・ブラザースのCEO、リチャード・フルドが所有する同社の株式バリューも、2007年には$827.1ミリオン(約881億円) であったけれど、今月半ばには$2.3ミリオン(約2億4500万円)に激減しており、 もちろん彼には他にも財産があるのは確実であるけれど、株式の上ではメガ・リッチから普通の人になってしまったという印象なのである。

このニューヨーク・タイムズの記事を読んだ人ならば、誰でもゴールドマン・サックスが絡んでいる限り、ヘンリー・ポルソンがA.I.Gを救うだろう という印象を 持ったと思うけれど、そんな 今日の同紙のビジネス・セクションに掲載されたのが A.I.GのCEOである エドワード・リディからの 「貴方の保険は安全です」というメッセージをフィーチャーした全面広告。 これだけを読んだのなら 「果たして どうだか・・・?」 という印象を得たと思うけれど、今日の1面記事を読んだ後では、 この広告にかなりの信憑性があるように思えたのだった。
かく言う私は、もう直ぐA.I.G.傘下の保険会社の健康保険の書き換えを控えているけれど、 ヘンリー・ポルソンとゴールドマン・サックスのお陰で、今年分くらいは安心して書き換えられるという不思議な安心感を抱いてしまったのだった。

さて、救済案を巡る 下院の審議の中では 当然のことながらウォールストリートの 給与システムに対する非難が飛び出していたというけれど、 ウォールストリートのエグゼクティブ達が受け取る給与はボーナスを含めて10億円以上は当たり前。
でも元ヘッジファンド・マネージャーで、ファイナンス・ブログを書いているアンドリュー・ケスラーは、 「ウォールストリートのスーパースターは別として、ミッド・レベルで何に対して給与が払われているか分らない連中が 数億円のボーナスを受け取れる時代は終わった」と語っているのだった。
今週のメディアでも、どうしてウォールストリートの給与がそんなに高くなければならないのか?ということが取り沙汰されていたけれど、 そもそも彼らは何も作らない、発明もしないし、人の命を救う訳でもなく、世の中を良くすることもない存在。 簡略化すれば 人のお金を動かすだけの仕事で、彼らの高額給与で恩恵を受けているのは 高額レストランや フェラーリのディーラー、ストリッパー くらいなものである。
アメリカ人が金融リッチを嫌うのは、「他人の資産を動かしているだけで大儲けをしている」という部分であるけれど、 アメリカの上層部ではレーガン政権以降、優秀なウォールストリートの人間に高額の給与を支払って、上手く資金を運用させれば 国が潤う というセオリーが根強いという。 また高額な給与が消費を促し、それがサービス業、製造業を盛り立てるというのも そのシナリオであったけれど、多くの企業のエグゼクティブは 効率良く利益を上げるために 国内工場を閉鎖して 海外に生産を移してしまったり、 カストマー・サポートや、税金のファイリングといった仕事までを 海外にアウトソーシングしてしまう訳である。
その結果アメリカでは貧富の差が開き続けてしまったのは周知の事実で、70年代には企業エグゼクティブの給与はアベレージな労働者の 約35倍であったというけれど、2007年にはその数字が何と275倍になっているという。

今週のウォールストリートは、先週の危機感とは打って変わって 救済案を確実視したバンカー達が 小躍り状態だったとも メディアが伝えているけれど、 実際、その救済案は明日月曜に下院で可決される見通しである。
バンカー達は、従来の ウォールストリートの象徴である ”キャピタリズム” とは対極に位置する、ソーシャリズム、 すなわち国によって救済されるという状況を大歓迎して、「We are all socialists now!」(今や皆 社会主義者だ!)という スローガンを冗談で掲げているというけれど、もちろん彼らは社会主義国家並みの給与で働くことなど考えてもいない訳である。
下院議長であるナンシー・ペロッシは テンタティブ(仮)にとは言え、救済案を可決するに際して、 「これはウォールストリートに対するベイルアウトではなく、Buy-in to help the economy(経済を救うための買い入れ)」 という説明しているけれど、これが国民の怒りを和らげるための言い回しに過ぎないのは言うまでも無いこと。
明日、月曜の朝には 救済案の可決の正当性を説明するために、またしてもブッシュ大統領が 下らない演説をすることになっているけれど、 どこの国でも政治家というのは 言い訳や言い逃ればかりをするもの。 加えて、表現や名称を摩り替えて公約を破ったりするするものである。
そもそも、日本のセールス・タックスが消費税と呼ばれるのも、選挙戦で当時の自民党が 「売上税は導入しない」と公約したので、売上税という言葉を使わないことになったため。

そうやってふと考えると 「タックスペイヤー」という言葉にしたって、実際とは異なる表現。 多くの人々にとってタックスというのは自主的に払うものではなくて、気付いた時には勝手に差し引かれているものである。
私の知人で起業して、経営難で会社を閉めた人達が口を揃えて語るのが、知らない間に引かれている税金で キャッシュ・フローが苦しくなったというもの。 それもそのはずでアメリカのコーポレート・タックスは世界第2位の高額ぶり。
でも 不正など一切せずに、一生懸命働いてきた中小企業のオーナーはベイルアウトの対象にならないけれど、 貧しい人、金融の知識が無い人々を騙すようにして 組ませたローンで大儲けした企業やそれに加担した会社が 国民の税金で救済されるというのは、悲しい世の中の図式なのである。

最後に今週も 私が尊敬するベンジャミン・フランクリンの言葉を引用してしまうと、 「If you would know the value of money, go try to borrow some; for he that goes a-borrowing goes a-sorrowing. (もしお金の価値が知りたかったら、借金をしてみること。 借りる者は 不幸になる者だ。)」というものがある。
この言葉はサブプライム・ローンで苦しんでいるアメリカ人にとっては、「ローンを組む前に誰かに言ってもらいたかった」と思えるような 重い響きを持つもの。また、「次のサブプライム」と恐れられている カード・ローンに追われる人々にとっても、 毎月支払い続けている利息の総額を見せ付けられた時に 痛感することなのである。





Catch of the Week No. 3 Sep. : 9 月 第 3 週


Catch of the Week No. 2 Sep. : 9 月 第 2 週


Catch of the Week No. 1 Sep. : 9 月 第 1 週


Catch of the Week No. 5 Aug. : 8 月 第 5 週






執筆者プロフィール

秋山曜子。 東京生まれ。 成蹊大学法学部卒業。
丸の内のOL、バイヤー、マーケティング会社勤務を経て、1989年渡米。以来、マンハッタン在住。
FIT在学後、マガジン・エディター、フリーランス・ライター&リサーチャーを務めた後、1996年にパートナーと共に ヴァーチャル・ショッピング・ネットワーク / CUBE New Yorkをスタート。
その後、2000年に独立し、CUBE New York Inc.を設立。以来、同社代表を務める。