Sep. 21 〜 Sep. 27 2009




” 今年のニューヨーク・メッツのようにならないための風水 ”


今週のニューヨークでは、国連総会が行われており、ミッドタウンのフォーシーズンス等の一流ホテルの前を歩くと、ブラック・リムジンが 列を成して停まっていたけれど、この期間中、どの国の大統領や総理大臣よりも存在感とインパクトがあったのが 中東リビアのムアマル・カダフィ大佐。
そもそも初の訪米となるカダフィ大佐は、リビア人によるパンナム機爆破事件でアメリカ国民から怒りと反感を買っているだけに、 ニューヨーク市内のホテルは全て彼の宿泊を拒否。このため、ニュージャージー州にある同国大使館の所有地、もしくはセントラル・パーク内に テントを張る予定で米国入りしたものの、どちらも拒否され、 ウェスト・チェスター郡のドナルド・トランプの邸宅の敷地内にテントを張って滞在。 でも、これについても トランプ氏自身が彼の滞在を拒むコメントをする一方で、地元住民からの猛反発もあり、 滞在場所だけでも大変なトラブルを巻き起こしていたのだった。
カダフィ大佐はニューヨークのレストランからも入店を拒まれ続けたそうで、特にタヴァーン・オン・ザ・グリーンは 大佐一行が、偽名や他人名義を使って 何とか予約を取ろうと試みたスポット。 しかし レストラン側もそれを察知して、18回に渡って予約電話を断わり続けたという。
でも究めつけは、やはりカダフィ大佐が 国連のスピーチで 制限時間を遥かに越えて96分も喋り倒したことで、今週の「サタデー・ナイト・ライブ」を始めとする コメディ番組や夜のトークショーでは、これが格好の笑いのネタになっていたのだった。

その一方で、国家元首や政治家がニューヨーク入りすると 必ず忙しくなると言われるのが、「21(トゥエンティワン)」、「フォーシーズンス(ホテルのフォーシーズンスではなく、 それとは全く別経営のレストラン)」という、ランドマーク・レストラン。
どちらも米国大統領が必ず訪れることで知られる存在であるけれど、 特に ”21” はフランクリン・ルーズベルト大統領以来の歴代大統領が訪れていたレストラン。 でもジョージ・W・ブッシュが同店を訪れなかったためこの記録は72年でストップしているのだった。 一方のフォーシーズンスは、1959年のオープンで ジョン・F・ケネディ大統領以降の歴代大統領が全員訪れているレストラン。
ところが、オバマ大統領はまだどちらにも足を運んでおらず、今年春先に大統領が夫人と共にブロードウェイ・ショーを観るために ニューヨーク入りした際はダウンタウンのブルーヒルがそのプレシアターのディナー・レストランに選ばれていたのだった。
このため、21、フォーシーズンスは共にオバマ大統領を来店させるために かなり躍起になっていることが報じられているのだった。

さて、9月に入ってファッション・ウィークが終わり、フットボール・シーズンが開幕し、秋の到来を気候の変化ではなく スポーツやカルチャー・イベントによって感じるニューヨーカーは多いけれど、ニューヨークでその秋の到来行事の1つと言えるのが メトロポリタン・オペラのシーズン開幕。
今年は9月21日月曜がこけら落としであったけれど、今年に限っては華やかなオープニング・ガラの報道ではなく、 「あのメット(Met: メトロポリタン・オペラの略称)でブーイングが聞かれた」というニュースが大きく報じられていたのだった。
とは言っても、上品な観客が多いメットでも お目当てのシンガーが病気で出演できないといったアナウンスがパフォーマンスの直前に行われると、 ブーイングが起こることはあるもの。 でも 今回のメットのオープニング・アクト、プッチーニの「トスカ」で聞かれたブーイングは、 シンガーに対してでも オーケストラに対してでもなく、アート・ディレクターに向けての猛然たる抗議を表していたもの。
それもそのはずで、過去15年続いたフランコ・ゼフィレッリのゴージャスなアート・ディレクションが、今年からは リュック・ボンディの ミニマリズムなアート・ディレクションに替わった結果、ステージは舞台というより舞台裏のような様相を呈してしまい、 最高で1200ドルもの大金を支払って観に来ている観客をガッカリさせるどころか、完全に怒らせてしまったのである。
第三幕の途中になると、どんどん帰りだす人々まで出てきたと言われていたけれど、 そのフランコ・ゼフィレッリのセットと、新しいリュック・ボンディのセットの違いは以下のようなもの。


同じ教会のシーンであるものの、写真上左の”モダン”で ”ミニマリズム”のボンディのセットは 写真上右のゼフィレッリのセットに比べると、 物置か倉庫のよう。
メットは オペラが好きで毎年シーズン・チケットを購入してくれる人々が大切な観客層になっているけれど、 ゼフィレッリのセットに慣れ親しんだオペラ・ファンが こんなセットで行われるパフォーマンスに大金を支払わせられたら、怒ったとしても不思議ではないこと。
このセットは世界中のオペラ・ハウスの中でメットだけが実現できる天井の高さだけは壮大なスケールになっているものの、 セットの奥行きやディテールの美しさが全く見て取れないもの。 お値段もゼフィレッリの3億円掛けたセットより遥かに安く、リセッション・バージョンの約5000万円の製作コストになっているけれど、 どうして既にある3億円の素晴らしいセットを、新プロダクションと称して 地味でアグリーな5000万円のセットに取り替えなければならないのかは オペラ・ファンならずとも全く理解に苦しむところ。
こように、メットの伝統を覆し、新しいオペラ・ファンを獲得しようという経営方針を実践して、今のところは古いファンだけを失う結果となっているのが、 2006年にメットのジェネラル・マネージャーに就任したピーター・ゲルブ。 彼は新プロダクションを次々と手掛ける一方で、オペラのガラにセレブリティを招待して、レッドカーペットを敷き、パパラッツィを呼ぶなど、 ミーハー的な小細工もしているけれど、今シーズンのメットは予算不足で ニュー・プロダクションの一部を ギブアップしなければならないという経営難。
もちろんリセッションのせいで寄付が減っているということもあるけれど、彼のやろうとしているメットの改革の方向性が誤っているという 指摘は、オペラ・ファンの間では非常に強いのが実情である。
私も個人的にはオペラが好きで、かつては知人に招待されてパバロッティやドミンゴのパフォーマンスに何度も足を運んだけれど、 最後に出掛けたのは確か2年前のシーズン。 この時点で 客層に華やかさがなく、ステージにも緊張感が無いように感じられて、 メットの魅力がすっかり色褪せたように思えてしまったのだった。
加えて、今回のリュック・ボンディのセットを見ると、「トスカ」をフランコ・ゼフィレッリのセットで何度も観ておいて本当に良かったと思うけれど、 ニューヨークのオペラ・ファンというのは、カルト的にオペラを総合芸術として評価しているもの。 私が何年も前に出掛けたオペラ・ガラでは、フランコ・ゼフィレッリがガラのディナーの席に現れた途端、 ゲスト全員がスタンディング・オーべーションで彼を迎えたのだった。 なので、そんな光景を覚えている私としては、今回のセットをクリエイトしたリュック・ボンディに観客がブーイングをするのは当然のように思えるのだった。
そもそも、”モダン” ”ミニマリズム” というのは、プッチーニのオペラには全くそぐわないコンセプト。 どうしてそんなコンセプトと、あまりにも有名なオペラをカップリングさせようとするのか?という疑問もさることながら、 メットのジェネラル・マネージャー、ピーター・ガルブは本当にオペラというものが分かっているのだろうか?という疑問さえも 抱かせられたのが今回のアグリーなプロダクションなのである。

話を経済に移すと、今のアメリカは米連邦準備理事会のバーナンキ議長に言わせると、リセッションが明けた後の余波で苦しんでいる状態だそうだけれど、 ニューヨークの失業率も10%を超えたことが伝えられ、現在アメリカ全土の就職の平均競争率は6倍。すなわち1つの仕事を6人が争う状態になっているという。
でも、失業者が増えるにしたがって アメリカで増えてきているのが失業者に対するフリーのサービス。 例えばオフィス・デポでは、失業者に対して25ページまでのレジュメ(履歴書)の片面コピーを無料でサービスしており、そのレジュメを5箇所にまで 無料でファックスするサービスも行っているという。 また航空会社のジェット・ブルーではチケットを購入してからフライトまでの間に失業した場合、 そのチケット代を全額払い戻すというサービスを開始。 ファイザーでは、ヴァイアグラを始めとする同社の70種類の医薬品を 今年1月以降に失業して健康保険を失った人、経済的に苦しくて薬が購入できないという人々に 無料で配布している一方で、バンク・オブ・アメリカでは 失業から3ヶ月間は銀行の手数料を無料にするというサービスを開始。 さらにバージン・モービルでは、2ヶ月以上同社の携帯電話を利用した契約者がレイオフされた場合、その後3ヶ月間は基本料金を無料にするという パッケージをクリエイトしている。
この他、ヨガ・スタジオやジムでも失業者である証明をすれば、無料のメンバーシップが与えられるサービス、 失業者が仕事の面接に行く前に無料のヘア・カットが受けられるサロン、さらにはゴルフのラウンドやセラピストのセッションも 失業者のための無料サービスがあるという。
こうした失業者相手のサービスを行う企業の多くは、これらの人々が仕事を見つけてからロイヤルな顧客になってくれることを狙っての マーケティング手法として行っている場合、リセッションで来店客が減っているだけに、 失業者の来店でビジネスに活気をもたらそうという目的で行っている場合が殆どであるけれど、 中にはチャリティ目的であくまで良心として行っている企業もあるという。
また、民間団体の中には失業者のために 仕事の面接に行く スーツやビジネス・アウトフィットを寄付で集めて 提供するところ、 失業者がウェイターをしたり、掃除をしたりという 労力を提供するのと引き換えに 無料で食事をさせるレストランなども 登場しており、 失業者対策に効果的な政策も持たないオバマ政権より、 民間団体や企業の方が遥かに弱者寄りのアプローチを積極的に行っているのだった。


ところで話は全く変わって、9月に入ってから 私の隣のアパートでずっと行われてきたのがリノベーション、すなわち改装工事である。
隣とは言っても そのアパートの入り口は廊下を隔てた向かい側。でも、私のアパートとそのアパートが廊下の突き当たりで、壁をシェアしているため リノベーションのノイズが壁一枚を隔てて 朝の7時半から聞こえてくるので、私はすっかり寝不足になってしまっていたのだった。
この隣のアパートというのが、不思議なほど不運なアパートで、通常アメリカのリースは最低1年契約であるけれど、 少なくとも過去2年は誰もそのリースを終えてから引っ越していないのである。
その過去2年間は、テナントが出る度に改装が行われており、その度に私のアパートにノイズを始めとする様々な問題が起こることから、 テナントの入れ替わり回数を意識するようになったけれど、 私が現在のアパートに暮らして今年で6年目。 その間に この隣のアパートの住人が 何回変わったかは 数え切れないほどなのである。

同アパートは2ベッドルーム、2バスルーム、リヴィング・ルームとキッチンという作りであるけれど、 リヴィング・ルームに壁を設置して、3ベッドルームに リモデルして、ルームメイト3人が暮らしていた時もあれば、 カップルが暮らしていた時もあって、最後のテナントは ウォール・ストリート・ジャーナルが配達されていて、いつも早朝にオフィスに出かけていたので、 金融関係の人のようだったけれど、いずれのテナントも20代後半〜30代前半。引越しの際に廊下に積まれていた家具からジャッジして、 それほどリッチではないか、さもなくば家の中にはさほどお金を掛けない人々である。
住人はどんどん変わり続けても、パーティーをして人を招待している形跡は殆ど無く、ノイズもごくたまに音量の高い音楽が聞こえる程度。 なので、隣人としてはこれまで全く問題は無かったけれど、引っ越して行く度に リノベーションのノイズで悩まされるのに嫌気が差した私は、 このアパートの見取り図を貰ってきて、風水をチェックすることにしたのだった。

同アパートは、私のアパートと廊下を隔ててほぼ線対称のような作りであるけれど、 私が現在の自分のアパートを決める際、アパートの東から、東南、南、西南までに全て窓がある作りに惚れ込んだのと逆で、 向かいのアパートは東から、東北、北、西北に窓がある作り。地位、名誉を意味する南と財産を意味する東南に水周りが集中しており、恋愛・愛情を暗示する 西南が玄関。ここに住んでいたら、金銭的に貧しくなって、仕事の昇進を逃して、恋愛関係が安定しなくなるのでは?と思い、 妙にテナントが変わり続けることに納得してしまったのだった。
とは言っても、アパートのビルは1階〜34階まで全て同じレイアウト。他のフロアの同じレイアウトのアパートでは 住人が1年以下で何度も出て行ってしまうことはないようなので、 私の向かいのアパートだけが特に住人の入れ替わりが激しい理由は分からないけれど、 私もかつて風水が悪いアパートに それとは知らずにずっと暮らしていたことがあるだけに、風水が悪くてもテナントが居着くことは 身をもって理解しているのだった。

でも2年間に3度も隣で大々的なリノベーションが行われたせいで コンクリートが弱っていたのか、今回は隣のバスルームの大理石のタイルを剥がしている最中に、 私のアパートの壁にヒビが入ってしまうというトラブルに見舞われてしまったのだった。
また、それとは別件で 私のバスルームの天井に 直径3cmほどの小さな突起5つほど見られるようになったので、どうしても気になって ハンディマンに上のフロアのバスルームを調べてもらったところ、ほんの僅かながら水漏れがあることが判明。 私自身が 隣のアパートの風水を心配しているどころの騒ぎではない状態になってしまったのだった。
そこで、小さなヒビも含む壁の3箇所と、バスルームの天井のコンクリートをきれいに補正して、 ペンキを塗り直してもらうという作業があったのが今週。 お陰ですっかり見場が良くなった上に気分も良くなったけれど、私が水漏れとヒビに対してヒステリックなまでに敏感になったのは、 実はニューヨーク・メッツの新球場、シティ・フィールズの記事を読んでからなのである。
ニューヨーク・メッツは、この春から新しい球場がオープンして、開幕前はチャンピオンシップも夢ではないと期待を集めていたけれど、 シーズン開幕直後から怪我人が絶えず、その後もアシスト無しのトリプル・プレーで敗れるなど、 今シーズンはありとあらゆる恥をさらし続けたチーム史上最悪の年。
8月の終わりに 「シティ・フィールズって絶対に風水が悪いと思う」と友達と話していたところ、 9月初旬になって報じられたのが、シティ・フィールズが新しい外観とは裏腹に、水漏れやそれによるカビの大発生、コンクリートのヒビなどで、 舞台裏は惨憺たる球場であるという実態。
「表向きがきれいでも水漏れやヒビなどを放置しておいたら、今年のニューヨーク・メッツのようになってしまう」 などと考えたら 恐ろしくて夜も眠れない訳で、 結局、ビルディング・マネージャーに直接掛け合って、細かいところも徹底的に直してもらうことにしたのだった。

幸い、アメリカでアパートをレンタルするというのは、物件が私の財産ではないため、何かダメージが起こった場合の 改修費用は全てランドロード(家主)持ち。 なので、壁を補正してペンキを塗り替えても、私は一銭も支払わなくて良いのである。
これがコンドミニアムなど自分の持ち家だった場合、隣のアパートを訴えるなどしてダメージを請求しない限りは、 改修費用は自分持ちになってしまう訳で、持ち家の場合、冷蔵庫が壊れてもエアコンが壊れても、当然のことながら 費用は自分持ち。 ところがレントだと、冷蔵庫もエアコンもランドロードの財産なので、壊れたら電話一本で、修理か取替えに来てもらうだけで、 私の負担はゼロなのである。
時々、知人には 私のように長年ニューヨークで高いレントを払い続けるより、「ローンを組んでアパートを購入していた方が 財産になる」とアドバイスされることもあるけれど、こういったことを考慮するとレントというのは決して悪くはないものなのである。
しかもニューヨークの場合、アパートを購入しても 月々15万円〜30万円のメンテナンス・フィーを支払うビルディングばかりで、 今回のリセッションに突入する前までの購入のメリットと言えたのは、その物件を担保にローンが受けられたこと。 でも、これも今から考えれば良し悪しなのである。

話が逸れてしまったけれど、こうしたコンドミニアムなど、持ち家に暮らしている人の中には、 昨今のリセッションのせいで金策が苦しくなって、家のリノベーションが途中でストップしたままになったり、 壊れた天井や床、エアコンなどを修理しないで放置している人が少なくないという。 でも、そういう状態がいかに風水上悪いかは、想像しなくても分かるもの。
家の中という個人にとって最も大切な空間に問題部分を放置しておいたら、 リセッションで悪くなった運やビジネスが益々悪くなる一方なのである。
そういう状況というのは、放置しておくと その問題に対する感覚が鈍化してきて、 問題を問題と思わなくなってしまうのが人間の恐ろしい所。 そして、一度そういう状態になってしまったら、運やビジネスが向上するはずなどないのである。






Catch of the Week No. 3 Sep. : 9 月 第 3 週


Catch of the Week No. 2 Sep. : 9 月 第 2 週


Catch of the Week No. 1 Sep. : 9 月 第 1 週


Catch of the Week No. 5 Aug. : 8 月 第 5 週


Catch of the Week No. 4 Aug. : 8 月 第 4 週





qwertyuiop[]\asdadfghjkl;' assdfghjkl;'zxcvbnm,./ 執筆者プロフィール

秋山曜子。 東京生まれ。 成蹊大学法学部卒業。
丸の内のOL、バイヤー、マーケティング会社勤務を経て、1989年渡米。以来、マンハッタン在住。
FIT在学後、マガジン・エディター、フリーランス・ライター&リサーチャーを務めた後、1996年にパートナーと共に ヴァーチャル・ショッピング・ネットワーク / CUBE New Yorkをスタート。
その後、2000年に独立し、CUBE New York Inc.を設立。以来、同社代表を務める。





© Cube New York Inc. 2009