Sep. 20 〜 Sep. 26 2010




” Who Do You Trust? ”


今週、ニューヨークでは国連総会が行われており、毎年のこの時期にありがちな交通規制とそれに伴う渋滞で、 ニューヨーカーはウンザリ状態なのだった。
もちろん、オバマ大統領も国連総会のためにニューヨーク入りしたけれど、その直前の今週月曜にオバマ大統領が出席したのが、 ワシントンで行われたケーブル・ネットワーク、CNBC主催のタウンホール・ミーティング。(一般の人々が大統領に対して質問や意見を直接述べるイベント)
通常ならこうした小規模な政治イベントが大きなニュースになることは無いけれど、 このイベントが主要メディアで報じられ、翌日のニューヨーク・ポスト紙の表紙をも飾ることになったのは、 質問のためにマイクを向けられた黒人女性、ヴェルマ・ハート女史(写真右)が、オバマ大統領に対し 大統領選挙で彼に投票したミドル・クラスを代弁するかのような厳しい意見を述べたため。
「ミドル・クラスの母であり、妻である」と自らを称したハート女史は 「私はもう疲れました。大統領とその政府の弁護をするのに疲れました。 選挙で投票した変化(が起こらない事)を弁護するのに疲れました。そして現状に深く失望しています。」と語り、 リセッションが家族にもたらしたダメージについても言及したのだった。
これまでオバマ大統領と言えば、たとえ支持率が下がってきていても、全米各地で行うスピーチでは常に支持者に囲まれ、 声援と喝采を受ける様子が報じられてきたもの。しかしながら、今回のハート女史は そうした表面を取り繕った政治イベントの参加者とは打って変わって、 オバマ大統領に投票した国民の多くが感じている ジレンマとフラストレーションを パワフルなメッセージとして 大統領本人に直接突きつけた訳で、 この様子は政治メディアの興味をかき立て、特に中間選挙を11月に控えたタイミングであっただけに、 共和党、及び共和党寄りのメディアを大喜びさせたのだった。

私は今日、9月26日、日曜 朝の政治番組を見ていたけれど、ここに登場した政治のアナリスト達が オバマ支持者のジレンマやフラストレーションの要因として挙げていたは、 大統領が選挙キャンペーン時のような 人々にインスピレーションを与える存在で無くなったこと。 大統領選を戦っている頃に比べて、そのメッセージや政治的ポジションが曖昧になっていること。 さらに山積する問題の中の何にフォーカスしているのかが国民に分かりにくい姿勢を取っていること。 ”Hope”を約束しておきながら、これといった実績はもちろん、その展望さえももたらしていないこと等。
でもその一方で、2つの戦争、歴史的なリセッション、不安定な国際情勢、テロ問題など、オバマ大統領が 歴史上の米国大統領で最も難しい舵取りを強いられていることに対して、理解と同情を示す声が聞かれていたのも事実なのだった。


さらに 今週報じられて、国民とメディアを驚かせたと同時に 呆れさせたのが、NBER (ナショナル・ビューロー・オブ・エコノミック・リサーチ/全米経済研究所 )が発表した 「リセッションは2009年6月に終了している」という声明。
これに対しては、このところ あまり的を得ない発言と見解ですっかり評判を落としていた投資家、ウォーレン・バフェット氏でさえ、 「どんな常識のレベルでも、我々はまだリセッションの真っ只中だ」と反論していたのだった。
NBERと言えば、複数のノーベル経済学賞受賞者を含む 経済のエリートで構成された研究組織。 そのNBERが、失業問題が悪化し、家の差し押さえが増える中、「リセッションは昨年終わっていた」などと現状とは全く異なる 見解を発表したことは、夜のトークショーのジョークのネタとして取り上げられ、観客や視聴者の嘲笑を買っていたのだった。
こうしたNBERの 現状を全く反映しない見解が歴史として記録されるようなことがあるとしたら、 過去の大恐慌のデータなどの信憑性も疑わしく感じられてしまうけれど、 歴史やリセッションの解釈だけでなく、世の中には本来だったら信頼すべきものを疑ってかからなければならない例は非常に多いもの。

その好例と言えるのは、昨今の銀行。銀行というのはかつては信頼してお金を預ける機関というイメージであったけれど、 現在のアメリカにおける銀行とは 知らない間に余分なフィーを支払わされていないか、すなわち騙されていないかをチェックしなければならない存在になっているのである。
例えばアメリカでは近年、デヴィットカードで残高以上の金額の買い物をしてしまった場合に、 ペナルティと 不足残高に対する金利が付くものの、とりあえずは銀行に借金をして買い物が出来るというプログラムを 「プロテクション・プラン」と名付けて導入。口座を新たに開いた人々は自動的にそれに加入するシステムになっており、 プランに加入するということは、たとえ残高をオーバーしなくても 毎月プログラム・フィーがチャージされることを意味するのだった。
アメリカ人の中にはこのプランに知らず知らずのうちに加入させられている、もしくは その実情をしっかり把握せずに加入させられているケースが 非常に多く、その結果、ガソリン代を支払うのに残高が3ドル足りなかった場合、4ドルのハンバーガーを買うのに1ドル残高が足りなかったために チャージされるのが35ドルのペナルティ。さらに残高オーバー分には利息がついて、その手数料もチャージされるけれど、 デヴィット・カードを使っている側は その買い物のせいで そんな多額のペナルティが付いていることは、月に1度の明細を受け取るまで分からないのが通常。
中には銀行明細など逐一チェックしていないアメリカ人も多い訳で、そうした人々は 3ドル、4ドルを支払っているつもりが、知らない間にその10倍以上の金額を支払う羽目になっているのだった。 そして このシステムの犠牲になっていたのは もっぱら貧しい人々。

その一方で、このプロテクション・プランのフィーやペナルティは、近年の金融機関に年間数十億ドルという利益をもたらしてきたのだった。
もちろん、プロテクション・プランに加入していなければ、デヴィットカードが使えないだけなので、 人々はガソリンを満タンにするところを半分にしたり、ハンバーガーを買わないようにするだけで、馬鹿げた出費を 防ぐことが出来るのは言うまでも無いこと。
こうした状況を受けてアメリカでは、法律が改正され 今年8月15日からは、プロテクション・プランには本人の意思表示 無しに加入させてはならないことになったのだった。
でも、プロテクション・プランの加入が減れば銀行が多額の利益を失うことになる訳で、 銀行側は法律施行を前後して 顧客に対し 「プロテクション・プランに加入していないと、ガソリン代や医療費など、いざという時の出費が 支払えない場合がある」という脅しめいたレターで その加入を促していたのだった。
当然のことながら 金融の専門家は 「プロテクション」とは名ばかりで、どんどんフィーやペナルティを巻き上げていく同プランには 加入しないように と人々にアドバイスしており、要するにこのプランが 銀行の利益目的のものでしかないこと、銀行が人々の預金を守るのではなく、そこからフィーを吸い上げて行く存在になっていることを示唆しているのだった。

また昨今、信頼するより疑って掛らなければならないものの1つに挙げられるのはチャリティ。
今週、ニューヨーク・ポスト紙を始めとする、多数のメディアが報じたのが U2のヴォーカリスト、ボーノが運営するアフリカのエイズと貧困を救済するチャリテイ団体、”One/ワン” が オバマ政権からの10億ドルを超えるエイズ救済金を獲得するためのキャンペーンとして、メディアや関係者に対して 不必要とも言えるギフト(写真右)を送っていたというニュース。 アフリカの子供達は1日1ドル25セント以下で生活しているというにも関わらず、ワンが製作してお金に困っている訳でもない プレス関係者にごっそり送付したのは20ドル、30ドルのギフト。
ワンは 2008年には約1500万ドル(約12億6200万円)の寄付を一般の人々や企業から集めているけれど 国税局によれば、そのうち実際に救済団体に寄付されたのはわずか 約18万500ドル(約1557万円)。 集められた寄付のうちの半分以上である800万ドル(約6億7340万円)が エグゼクティブとスタッフの給与として支払われていることが明らかになっているのだった。
このような個人が運営するチャリティのエグゼクティブというのはもっぱら、その家族や友人、親戚などで構成されている場合が多く、 チャリティとは名ばかりで、税金のがれをする利益財団になっている例は決して少なくないのが実情。 もちろん、スタッフやエグゼクティブに給与を支払うことは正当な行為であるけれど、 時にその金額は耳を疑いたくなるような高額ぶり。
さらにチャリティ財団のエグゼクティブの多くは ビジネス・エクスペンスと称して、一流ホテルに泊まったり、ファーストクラスで旅行をする ケースが多く、寄付をした人々が決して味わえないような生活を、寄付金を使って行っていたりするのである。 もちろんセレブリティが運営するチャリティ団体でも、きちんとした活動が行われているものは存在しているけれど、 チャリティで働く人間が、寄付をする側のアメリカ人の平均所得を遥かに上回る給与を支払われて、 贅沢な生活をするというのは 人々を騙しているようにも取れる行為。
数年前にもレッド・クロスのエグゼクティブが高額の給与とファースト・クラスのフライトで バッシングを受けたことがあった通り、チャリティというものは しっかり運営状況をチェックした上で寄付をしないと 運営側の人々を食べさせているだけという、 善意が反映されない結果になってしまう可能性が多大にあるのだった。

このように かつては信頼出来た存在が 今は信頼出来なくなるというのは 人間にも言えること。
仲の良い友達の誘いで出かけてみたら、物を売りつけるイベントだったとか、 善意の親切を装ったサービスで多額のフィーをチャージされたなど、 やはりお金が絡んだトラブルは、人に対する信頼を一気に失墜させるもの。
また約束を破ったり、約束したことを実践しないというも 信頼感を喪失させるものであるけれど、 かつてオバマ大統領に投票したアメリカ国民、ことに税金をむしりとられているミドル・クラスや中小企業のオーナーが 大統領に抱いているのもこうした感情。
以前、アンジェリーナ・ジョリーがインタビューで「自分以外の誰も信用してはいけない」とコメントしていたのを読んだ事があるけれど、 結局のところ、本当に信用できて、常に頼れるのは自分自身。 自分を救えるのも自分だけなのかと思うと、政治という極めて曖昧なものに大きな期待を抱くこと自体に 無理があるように思えるのもまた事実なのである。


Catch of the Week No. 3 Sep. : 9月 第 3 週


Catch of the Week No. 2 Sep. : 9月 第 2 週


Catch of the Week No. 1 Sep. : 9月 第 1 週


Catch of the Week No. 5 Aug. : 8月 第 5 週





執筆者プロフィール

秋山曜子。 東京生まれ。 成蹊大学法学部卒業。
丸の内のOL、バイヤー、マーケティング会社勤務を経て、1989年渡米。以来、マンハッタン在住。
FIT在学後、マガジン・エディター、フリーランス・ライター&リサーチャーを務めた後、1996年にパートナーと共に ヴァーチャル・ショッピング・ネットワーク / CUBE New Yorkをスタート。
その後、2000年に独立し、CUBE New York Inc.を設立。以来、同社代表を務める。





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