Sep. 16 〜 Sep. 23 , 2012

” What is Likeability? ”

今週 アメリカで最も大きな報道になっていたのが、共和党の大統領候補、ミット・ロムニーが、今年5月に行なわれた 寄付金集めのプライベート・ディナーの席で行なったスピーチの内容。
このプライベート・ディナーは、ロムニーの大富豪の支持者の私邸で行なわれたもので、参加費は1人5万ドル(約400万円)。 すなわち、ここに集まった人々はミット・ロムニー同様の大金持ちであることは間違いないけれど、 この様子を撮影したビデオが、今週「マザー・ジョーンズ」で公開され(写真上)、大きな物議を醸していたのだった。
ロムニーがこの大金持ちの支持者を前に語ったのが、「アメリカ人の47%は税金を払っておらず、 この47%は自分達が政府の被害者だと思い込んで、政府から食事、住宅、医療を支給されるのが当たり前だと思っている人々。 そして彼らは、何が起ころうとオバマ大統領に投票する」という内容。
でも、実際には税金を支払っていないアメリカ人の内訳は、その44%が定年退職者、 10%以上が子供や学生。残りは長年の兵役や、兵役による身体障害で保護を受ける人々、 チャイルド・タックス・クレジット(児童税額控除)を受ける低所得者。そして2〜3%が 税金対策によって税を逃れられる高額所得者。 本当に働く意欲が無く、政府保護の恩恵を受けているのは、もっぱら白人の低学歴層で、 こうした人々は圧倒的に共和党支持者。オバマ大統領ではなく、ロムニーに投票する人々なのだった。

ロムニーは、スピーチの中で、そんな税金を支払っていない オバマ支持者の47%のことなど、構っていられないかのようなコメントをしていたけれど、 彼のスピーチを聞いていたディナーの参加者とて、税金を支払っていない富豪である可能性が極めて高いのだった。
そのミット・ロムニーは、週末に公開した2011年の税額申告で、アメリカ国民の平均より遥かに低い14%の税金しか 支払っていないことを明らかにしているけれど、ロムニーのこのスピーチは、民主党及び、民主党寄りのメディアから批判を浴びただけでなく、 ただでさえ彼の大統領候補に乗り気でなかった共和党支持メディアや、 共和党寄りの政治コメンテーターからも大バッシングを浴びることになったのだった。
中には、「ロムニーの選挙戦はもうお終いだ!」とはっきり言い切るコメンテーターも居たほどであるけれど、 このスピーチでミット・ロムニーが露呈したのは、彼が如何にアメリカの現状を正確に理解せず、思い込みで物事を判断しているか。 そして、彼が如何に政府の保護を受けている人々を見下しているかということ。
ワシントン・ポスト紙のライターは「ミット・ロムニーは自分自身が (投資収入だけで稼いでいる)非就労者であるにも関わらず、 1日中スーパーマーケットで低賃金で働いて、2人の子供を養いながら、児童税額控除を受けているシングル・マザーを 政府保護の寄生虫のように扱っている」と、厳しく批判。 またニューヨーク・タイムズ紙の右寄りで知られるライター、デヴィッド・ブルックでさえ、「ロムニーのスピーチは、高級カントリー・クラブでミリオネアが語るような ファンタジーに過ぎない」とタイムズ紙の社説の中で指摘しているのだった。



そのデヴィッド・ブルックは、週末の政治番組に登場し、ミット・ロムニーをアメリカ史上、「最も好感度の低い大統領候補」と語っているけれど、 これは彼自身の意見ではなく、アンケート調査のデータから語っていること。 ミット・ロムニーは歴代の大統領候補の中で、最も アンフェーバリット・ナンバー、すなわち不人気度が高く、 国民の半分が彼の人間性に好感が持てないと回答。 中には、70%が ロムニーに 「好感が持てない」と回答する アンケート結果もあるのだった。
これに対してオバマ大統領は、政治手腕はさておき、好感度については常にミット・ロムニーをリードしてきた存在。

そこで、誰もが考えるのが「何故ミット・ロムニーがこれほどまでにアメリカ国民に好かれないのか?」ということ。
実際のところ、彼は 白人、グッド・ルッキング、高学歴、高収入、ビジネスの成功者、愛妻家、5人の息子と16人の孫という大家族で、 アメリカ人が好む資質を備えた存在。 にも関わらず、彼がアメリカ史上最も好感度が低い大統領候補になっている理由は、ズバリ人間性に問題があるからに他ならないのだった。

私自身、今回の大統領選挙キャンペーンまで、ミット・ロムニーという人物について殆ど知らなかったけれど、それは多くのアメリカ人も同様。 そして選挙キャンペーンが進むにつれて、どんどん彼のことが嫌いになってきたけれど、それはアンケート調査に表れるアメリカ国民の リアクションも同様で、彼の好感度は毎月のように下がり続けているのだった。
要するに、「知れば 知るほど嫌いになる」 のがミット・ロムニーという訳であるけれど、 何故嫌いになるかといえば、最大の理由は、彼が余計なことを口走るため。 彼は支持者の心情を逆撫でするようなコメントから、低所得者やミドル・クラスの経済状態を全く理解していない 無神経と言えるコメントまで、数多くの失言を繰り返しているけれど、 時にそれは、本当に何かを勘違いして生きてきたのでは?と思わせるレベル。
またユーモアのセンスが欠落しているのも彼の問題点で、オバマ大統領であれば、 少なくとも誰もが微笑む程度のジョークをスピーチに何回も盛り込むことが出来るけれど、 ミット・ロムニーのジョークは 痛々しいほどに面白くないケースもあれば、 笑わせる意図が無いセンテンスで失笑を買うなど、世間一般とのズレを強く感じさせるのだった。
でも、芸能番組のインタビューに登場したミット・ロムニーの5人の息子達も、 彼同様、笑わせようという意図で 全く笑えないジョークを語り、インタビュアーがリアクションに困っていたので、 ユーモアのセンスの欠落については、どうやらロムニー家のDNAのようなのだった。

前述のNYタイムズ紙のデヴィッド・ブルックは、ミット・ロムニーの好感度が低いのは、彼が 大統領候補という 彼自身ではない畑違いのキャラクターを演じているためだと指摘しているけれど、 ロムニーの経歴を見れば、買収と人員削減を繰り返して、個人の資産を増やしてきたプライベート・セクターのビジネスマンであることは明確。 その彼が、ミドルクラスを救済する政策を打ち出すかのように振舞っていることについては、確かに白々しいと感じる人々も多いのだった。
でも、政治家が2枚舌というのは歴史的に決して珍しくないこと。どれだけ上手く国民を気遣っているように見せかけるかが 選挙に勝利するポイントであるけれど、その演技力にも乏しいと言えるのがミット・ロムニーなのだった。



では、英語で「Likeability / ライカビリティ」という、 好感度があるキャラクターというのは、どんなものであるかといえば、 以下が一般的に言われる好感度の資質を纏めたもの。




中でも、第一印象で好感度に大きく影響を及ぼすのがルックス。 特に顔については、好感度が高い人相は シンメトリー、すなわち左右対象 であることがデータ分析の結果明らかになっているのだった。
昨年には、人相からその人物の好感度を割り出すコンピューター・ソフトウェアが開発されて 話題になったけれど、一般的に人間は 特定の人相から特定のイメージを抱く傾向があり、 そのデータを集めたソフトウェアを使って人相を分析することにより、その人物が どんな社会生活を営んでいるかが 90%程度 正確に把握出来るという。
例えば、第一印象で好感を持たれ易いのが美男・美女。でも、やがては周囲がその人間性に嫌気が差して、 離れて行ってしまうケースがあるけれど、このソフトでは美しさと、好感度は別カテゴリー。 世の中には、美男・美女でも好感が持てないタイプは多い訳で、 それまでもを識別してしまうのがこのソフトウェアなのだった。

現在、世界的にフェイス・レコグ二ション(人相認識)・ソフトの導入が 様々な分野で進んでいるのは周知の事実であるけれど、 それと同時に 進んでいるのが、顔のイメージの分析。 例えば、逮捕された犯罪者の顔写真を分析した結果、逆に人相から 犯人が犯した犯罪の 凶悪度を正しく推測することが出来るようになったという。
好感度の高い顔については、そのデータを使ってヴァーチャル・キャラクターをクリエイトすることによって、 グッズ販売やオンライン・レクチャー等に役立てるビジネス用途が大きく注目されているのだった。

その一方で、好感度の高いルックスが 必ずしも美しさと一致しないのと同様に、 好感が持てるキャラクターというのも、必ずしも優秀なリーダー的存在だったり、 常に人を笑わせる派手な性格とは限らないもの。
こつこつと自分の好きなことに情熱を注いでいる素朴な人間性や、 ちょっと抜けているけれど悪気が無く、素直な性格など、不完全で 貧乏くじばかり引いていても、 好感を持たれるキャラクターは非常に多いのだった。


さらに、好感が持てるキャラクターに生まれても、その行動やスキャンダルなどで、 好感度を失う例もあるもの。
愛人スキャンダルで、そのクリーンなイメージが台無しになったタイガー・ウッズなどは その典型例。また、アメリカの朝の人気番組として長年視聴率No.1を誇ってきたNBCの「トゥデイ」のホスト、 マット・ラウワー(写真上右)は、昨今視聴率が下がってきた理由をパートナーの女性アンカーに押し付けて、 彼女を解雇させたことから、その好感度が急降下しているのだった。


基本的に好感が持てるかというのは、「その人物やキャラクターに共鳴できるか?」ということ。
利害関係などを一切考えず、好感度だけで人物を判断しようとする場合、 人間というのは 「自分に正直に、一生懸命に生きている姿」 というものに、 驚くほど動かされるものなのだった。



ところで、映画専門のウェブサイト、「トータル・フィルム」では、過去に封切られた映画に登場する、 最も好感度が高いキャラクターのトップ50を発表しているけれど、 そのうちのトップ3をここで御紹介すると、 3位が「When Harry Met Sally (邦題:恋人達の予感、1989年公開 )」でメグ・ライアンが演じたサリー(写真上左) 。 2位が 「ビッグ(1988年公開)」でトム・ハンクスが演じたジョッシュ(写真上中央)。 そして1位が「バック・トゥ・ザ・フューチャー(1985年公開)」でマイケル・J・フォックスが演じたマーティー(写真上右)。
これらは、奇しくも 全て好感度が高いと言われてきた俳優によって演じられたキャラクター。

すなわち、好感度が高いキャラクターに信憑性を持たせるには、好感度が高い俳優が演じなければならないということ。
それを考えれば、ミット・ロムニーがどんなに有権者に好感度をアピールしようと演じても、決して効果を奏さないのは、 当然と言えば 当然と言えるのだった。





執筆者プロフィール
秋山曜子。 東京生まれ。 成蹊大学法学部卒業。 丸の内のOL、バイヤー、マーケティング会社勤務を経て、渡米。以来、マンハッタン在住。 FIT在学後、マガジン・エディター、フリーランス・ライター&リサーチャーを務めた後、1996年にパートナーと共に ヴァーチャル・ショッピング・ネットワーク / CUBE New Yorkをスタート。 その後、2000年に独立し、CUBE New York Inc.を設立。以来、同社代表を務める。


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