Sep. 16 〜 Sep. 22, 2013

” Micro Appartment ”


今週のアメリカで最も報道時間が割かれていたのは、9月16日月曜に起こったワシントンDC海軍施設内での銃撃事件(写真上左)。
12人の死者と8人の怪我人を出したこの事件の容疑者は、元海軍予備役兵のアーロン・アレクシス(34歳)で、彼も現場で射殺されているけれど、 事件後に明らかになったのが、彼が IT下請け業者として海軍施設へ 合法的に出入りをしていたということ。 また彼は過去に2回、発砲事件を起しているのに加えて、今年8月にはロード・アイランド州のマリオット・ホテルで、 「頭の中で声が聞こえる」、「自分の知らない何らかのグループが、自分の身体にバイブレーションを送って、自分を寝させないように企てている」等と 訳の分からないことを言い出して、警察沙汰になっており、こうした事前の精神錯乱が見落とされたまま、 彼が海軍施設にアクセスし、銃を入手できるポジションに居たことが大きく問題視されていたのだった。
ちなみに、彼の海軍下請けのバックグラウンド・チェックを行なった民間情報機関は、6月に米国家安全保障局の機密をメディアに公表した エドワード・スノーデン(29歳)のチェックを行なったのと同じ機関であることが報じられているのだった。
この他、木曜にはシカゴの公園で大人10人と子供3人が撃たれる銃撃事件が起こっているけれど、 奇跡的に 死者が出なかったと言われたのが同事件。
さらに週末には ケニアのナイロビのショッピング・モールで 日曜の時点で分かっているだけでも68人が射殺され、 175人の負傷者を出す銃撃テロのニュースが大きく報じられて(写真上右)、世界中でガン・ヴァイオレンスが起こっている様子を印象付けていたのだった。


それ以外で 今週ちょっとした話題になっていたのが、大衆百貨店ブルーミングデールズが 購入者が一度着用したアパレルを返品できないようにするため、 Bタグと呼ばれる特別なタグを 150ドル以上の衣類に装着して、それが付いていない状態での返品を一切受け付けないポリシーを 打ち出したこと。
アメリカでは多くの小売店が、購入日から30日〜60日以内であれば 未使用の商品の返品を受け付けるポリシーを掲げているけれど、 これを利用して多くの人々が行っているのが、ドレスを1〜2回着用してから返品するという行為。 消費者が罪悪感ゼロで行なっている この行為は、実際には軽犯罪に相当するもので、 特にこの被害が甚大なアパレル業界では、これを”Wardrobing / ワードロビング (ワードローブと、rob/ロブ=盗む をくっつけた造語)”とネーミングしているほど。
その被害総額は年間88億ドル(約8800億円)に達していると言われているのだった。

フォーマル・ウェアの世界では、Bタグに相当する試みが既に行なわれていて、「販売時に装着されていたタグが外されていた場合、 返品を受け付けない」というケースは多かったけれど、これはフォーマル・ウェアがもっぱらウェディングやパーティーで1回着用したら、 御役御免になるケースが多いためで、事実、フォーマル・ウェアはパフュームやメークアップが付着した状態で返品される例が最も多かったカテゴリー。
でも昨今では ソーシャル・メディアの影響で、ちょっとしたディナーや クラビングの際でも写真を撮って、フェイスブックやインスタグラムにアップするのが 通常。特に女性は一度ソーシャル・メディアに写真をアップした服を 何度も着用したがらないもので、 ソーシャル・メディア・ブーム以来、 ワードロビングの被害はさらに大きくなっていることが伝えられているのだった。

こうしたソーシャル・メディアの影響を受けて、今では「レント・ザ・ランウェイ」のように、ちょっとしたオケージョンの服でも レンタルできるビジネスが登場し、人気を集めているけれど、「レント・ザ・ランウェイ」の場合、ドレスだけでなくバッグ、アクセサリー、シューズまで レンタルできる便利さがある一方で、これら全てをレンタルすれば、最低でも1回100ドル以上の出費。 それを支払わずにファッショナブルに装いたいという人にとっては、一度ストアでアウトフィットを購入し、 着用後に返品すれば そのコストはゼロ。
こうしたワードロビングの恩恵を受けているのは、生活に困っているというよりも、むしろ暇があってケチな人。 なので、ブルーミングデールズで販売されている300ドル程度のドレスで、ワードロビングをする人も居れば、 バーグドルフ・グッドマンで販売されている 2000ドルの一流ブランドのドレスで ワードロビングをするケースも見られているのだった。

ギャップ、バナナ・リパブリック、ヴィクトリアズ・シークレット等、大衆的なアパレル・チェーンでは、頻繁に返品を繰り返す顧客の ブラックリストを製作していることが報じられて久しいけれど、これらのチェーンはワードロビングもさることながら、盗品を返品と偽って、 払い戻しを受けようとする被害を防ぐために、要注意顧客をチェックしていることが伝えられているのだった。
「レシートが無くても、自社製品であれば返品を受け付ける」というポリシーを掲げるアパレル・チェーンでは、盗品の返品払い戻し被害も かなりのダメージになっていることが伝えられているのだった。



さて今週のアメリカは、9月15日をもって あのリーマン・ショックから5周年ということで、メディアがその経済の快復ぶりにフォーカスを当てていたけれど、 現時点で2008年のファイナンシャル・クライシス前と同等、もしくはそれ以上の生活をしているのは、 金融危機を招いた張本人である金融業界上層部を含む、トップ1%以上の人々。
トップ1%になるためには、一般にアメリカで言われているように年収が2500万円以上あれば良いのではなく、 総資産で9億円以上が無ければ 1%ではないことは以前のこのコーナーでご説明したけれど、 今やリセッション前よりも、さらに資産を増やしたメガリッチ層が アート・オークションで 30億円、40億円のアートを落札し、そんな超富裕層をターゲットに マンハッタンには70億円のコンドミニアムが登場するようなあり様。
その一方で、リーマン・ショック以来 どんどん減っているのがミドル・クラスで、後進国並みに貧富の差が開きつつあるのが現在のアメリカ。 リーマン・ショック直前のアメリカは1世帯当たりの1日の平均出費が113ドルであったけれど、 経済が快復したといわれる現在のアメリカの同じ数字は86ドル。

9月17日水曜には、そんなアメリカ経済が「快復している」としながらも、「見込んだほどのペースではない」と判断した 連邦準備理事会(FRB)が、予想されていた債券買い入れ縮小を見合わせる発表をしたことから、 NY株式市場はそれを好感。株価は再び史上最高値を更新していたのだった。

でも、その水曜のニューヨーク・タイムズ紙の第一面を飾っていたのが、「In New York, Having a Job, or 2, Doesn’t Mean Having a Home (ニューヨークでは仕事が1つ2つあったところで、家が持てる訳ではない)」というタイトルの記事(写真上中央)。
今やニューヨークのホームレス人口は史上最高の5万人。 かつて ホームレスと言えば、家が無いくらいなので、当然仕事が無い人々を指していたけれど、 昨今では ホームレス・ファミリーの28%、独身ホームレスの16%が 仕事に従事している人々。 特に女性ホームレスの多くは、何らかの仕事を持っているケースが非常に多く、 その職種は セキュリティ・ガード、販売職、コンピューターのインストラクター、 ヘルスケア関連の仕事、オフィスのアシスタント、銀行の窓口等。
では、どうして仕事があるのにホームレスになっているかと言えば、 給与が安くてニューヨークの高額レントが支払えないためで、 今年11月に控えている次期ニューヨーク市長選挙では、低所得者住宅の供給が 争点の1つになっているのだった。

リーマン・ショック以来、貧富の差が開いて ”エンプロイド・ホームレス(職のあるホームレス)”が増えている要因は、 金融クライシスが企業に絶好のレイオフの機会を与え、安い労働力に雇い替えることを可能にしたため。
例えばNBCニュースが取材をしたカップルは、夫婦共働きで、リセッション前は1100万円の年収があったというけれど、 夫婦共にレイオフされ、現在は2人とも以前よりも遥かに給与が安い パートタイムの仕事に甘んじる状態。年収は300万円強に減り、パートタイムの仕事には 健康保険や定年退職金制度も無いと言う。

実際のところ、数字的にはリーマン・ショック前のレベルに戻りつつあるアメリカの失業率であるけれど、 以前より格下げした仕事、安価な給与や健康保険&退職金制度の無い待遇に甘んじる人々が 多い一方で、仕事を探すのを諦めた人々も非常に多いことが伝えられているのだった。



そんな人々にとって 命綱になってきたのがフード・スタンプと呼ばれる 政府から支給される食料購入のための補助制度。 ところが 今週下院が可決したのが、そのフード・スタンプの予算を向こう10年間で400億ドル(約4兆円)をカットするという法案なのだった。
フード・スタンプは 以前は3年ごとに3ヶ月しか受給が認められなかった補助制度。でも2009年に 当時の深刻なリセッションを受けて、 この規定を排除する法案にサインしたのがオバマ大統領。 以来、フード・スタンプ受給者は増加の一途を辿り、今やその数は約4,700万人、 アメリカ人の7人に1人が 毎月平均で133ドルのフード・スタンプを受取っており、 しかも受給限度が無いため、同プログラムが国家予算の大きな負担になって久しい状態なのだった。

もちろん受給者の中には、フード・スタンプが無ければ野菜や果物など、健康的な食材を家族のために買うことが出来ないという人々が多いけれど、 決して少なくないのが 「働きたくない」と理由で あえて失業し、フードスタンプを食費の足しにしている 若いシングル層。
例えば フォックス・ニュースが取材したジェイソン・グリーンスレート(29歳、写真上右)は、 彼自身、1ドルたりとて税金を払ったことが無いにも関わらず、毎月200ドルのフード・スタンプを受け取り、 スシやロブスターを購入するという 贅沢な食生活をしているサーファー兼ミュージシャン。 「納税者に食費を支払ってもらうのは、当たり前。タダの食事は最高!」と ぬけぬけと語る彼のインタビューを、 フォックス・ニュースは 今週投票を行なう前の下院議員、全員が見るようにと 呼びかけたとのことで、 その甲斐あってか、下院はフードスタンプの受給者を380万人減らし、前述のように予算額にして400億ドルを減らす法案を 可決するに至っているのだった。
この法案では、フード・スタンプの受給者がドラッグ・テストを受けて、ドラッグを常用していないことを立証しなければならない と同時に、1週間に20時間は就労もしくは、就労のためのトレーニングをしていることを立証しなければならないという ハードルを設けることによって 受給者を減らすことにしているけれど、本当に貧しくて食材が買えない人々にとっては これが厄介なシステムになりそうな気配なのだった。
とは言っても向こう10年で減らされる400億ドル(約4兆円)のフード・スタンプ予算は、全体の僅か5%。 以前は 「フード・スタンプで食費を賄っている」と言えば、周囲に悟られたくない恥ずべき経済状態を意味したけれど、 今ではあまりに多くの人々がフードスタンプを受取っているために、「何の羞恥心も無しに使える」と言われるほどで、 オバマ大統領が受給規定を緩めてからの4年間で、フード・スタンプが、いかに巨額なプログラムになってしまったかは驚くべきこと。
「オバマ大統領就任以来、国家予算がたれ流し状態になっている」という野党共和党の言い分は、 まんざら事実とは食い違って いないのだった。




ところで、レントが上がり続けて 低所得者の給与では払いきれない状態になりつつあるニューヨークであるけれど、 そんな中、ニューヨークで試験的にクリエイトされたのが、写真上のマイクロ・ユニット・アパートメントと呼ばれる 超ミニサイズのアパートメント・ビルディング。
最小のユニットが23平方メートル、最大で34平方メートルという プレハブ・モジュラー・ユニットを 55個 積み上げて 構成されたこのビルディング内には、レクリエーション・ルームやカフェテリア、ジムといった公共スペースも設けられているとのこと。
ベッドを壁の棚の中に収納することにより、スペースを有効に使った 3×9メートル程度の空間は 独身者だけでなく、ファミリーが生活することも想定して クリエイトされているのだった。

1980年代には、日本の住宅を「ウサギ小屋」と呼んでいたアメリカが、こんなマイクロ・アパートメントをクリエイトする時代になったというのは  ショッキングでもあるけれど、これは現時点ではニューヨークにおけるユニークな状況。 アメリカは、中部、南部に行けば行くほど、どんなに貧しい家庭でもニューヨークのワンベッドルーム・アパートメントの3倍4倍の面積の 家に暮らしていたりするものなのだった。

さてそのマイクロ・アパートメントの気になるレントであるけれど、55ユニットのうちの22軒が、 市が定める低所得者用家賃レートで貸し出されることになっており、 通常そのレートは 居住区域の平均年収によって定められるもの。
ニューヨーク初のマイクロ・ユニット・アパートメントが位置するのはイーストサイドの27丁目で、このエリアでは 年収5万5000ドルのカップルの場合、毎月のレントが939ドル。年収10万6640ドル(約1066万円)のカップルの場合、レントは1,873ドル(約18万7300円)になるとのこと。

今やマンハッタンの平均レントは 3000ドルを超えてしまったことが報じられているけれど、それでもこの狭さを考えると、 果たしてマイクロ・アパートメントが 本当に 割安な低所得者住宅であるかは 定かではないのが実情。
所得が低めな層を狙うと称して登場し、実際には さほど安くは無い物と言えば、今週発売になったアイフォン5Cを 思い浮かべてしまうけれど、アメリカでは携帯電話会社と2年契約を結べばアイフォン5Cの価格は99ドル。 同じ条件で 指紋認証システムを含む最新テクノロジーを搭載した アイフォン5Sを購入した場合は199ドル。 100ドルしか価格が変わらない割りには、 プラスティック製で、今や世界最大の携帯電話市場となった中国、ロシア、インドといった 国々における普及ヴァージョンとして登場した5Cは、決して安い携帯電話ではないものの、 イメージ的に「Poorman's iPhone/プアーマンズ・アイフォン」と見なす人が多いと言われているのだった。

その一方で、売り出し日に真先に完売したアイフォン5Sのゴールドは、 縁起をかついでゴールドというカラーを好む中国のリッチ層を狙って開発されたと言うけれど、 ニューヨークやロサンジェルスのアップル・ストアに行列していた中には、 中国で再販するためのアイフォンを買い占める業者のために、1人2個までの数量制限分を 購入していた人々がかなり多かったとのこと。
逆に携帯電話市場が飽和化しつつあるアメリカ国内で増えているのが 「一定の機能さえ備えていれば、最新の携帯電話を使う必要は無い」と考える消費者。 そんな失業中の並び屋が再販目的で列を作っていた アイフォン売り出しの実態を察知して、 ウォールストリートでは アップル社の株価が アイフォン5C、5S売り出し当日に値を下げていたのだった。





執筆者プロフィール
秋山曜子。 東京生まれ。 成蹊大学法学部卒業。 丸の内のOL、バイヤー、マーケティング会社勤務を経て、渡米。以来、マンハッタン在住。 FIT在学後、マガジン・エディター、フリーランス・ライター&リサーチャーを務めた後、1996年にパートナーと共に ヴァーチャル・ショッピング・ネットワーク / CUBE New Yorkをスタート。 その後、2000年に独立し、CUBE New York Inc.を設立。以来、同社代表を務める。


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