Sep. 24 〜 Sep. 30 2007
” Sex Trafficking ”

今週のニューヨークは、イランのアハマディネジャド大統領が国連安保理事会で演説をするために訪れていた上に、
同じく国連でスピーチをするためにブッシュ大統領までやって来たため、国連やブッシュ大統領が宿泊するウォルドーフ・アストリア・ホテル近辺で
厳しい交通規制が行われていたのだった。
このため、週明けは多くの人々が自家用車の乗り入れを控えたり、交通規制が行われているイースト・サイドを避けて運転していたため、
友人と食事に出かけるためにアッパー・イーストサイドからタクシーに乗った私は、35ブロックもの間 信号で一度も止まらないという、
マンハッタン内ではかつて経験したことが無いような道路事情の恩恵を受けることになってしまった。
でもブッシュ大統領がNY入りしていた火曜日にウォルドーフ・アストリア・ホテルの近辺を歩いていたところ、交通規制のせいで
迂回させられた歩行者達が 口々に「ブッシュは早くワシントンに帰れ!」などと文句を言っていて、ただでさえアンチ・ブッシュ派が多い
ニューヨーカーの怒りを買っていたようだった。
さて その一方で、最新版の世界の長者番付がフォーブス誌から発表されているけれど、これによれば
今や長者番付に載っているのは 全員ビリオネア (10億ドル長者、日本円にして約1150億円長者)。
もはやマルチ・ミリオネアはメガ・リッチ、ウルトラ・リッチとは呼べない時代になってしまったとのことである。
考えてみれば、プライベート・ジェットで1回、アメリカからヨーロッパへ旅行をすればその費用は約1千100万円。
3億円キャッシュで銀行口座に持っていたとしても、この旅行を30回行ったら、飛行機代だけでこれがマイナスになる訳である。
通常のビリオネアのライフ・スタイルと言えば、世界4〜5箇所に数億円の邸宅を所有し、その間をプライベート・ジェットで行き来する生活であるから、
彼らにしてみれば、マンハッタンの$3ミリオン(約3億5千万円)のコンドミニアムのローンを払いながら、ベントレーやアストン・マーティンのような
高級車を2台ほど所有し、夏になるとハンプトンの別荘を月々8000ドル(100万円弱)のレントで借りる ミリオネアは かなり庶民的な存在のようである。
そうした 「Rich Gets Richer (金持ちがさらに金持ちになる)」ご時世を反映してか、アメリカの秋のTVの新番組のラインナップも、
ニューヨークの大富豪一家をメイン・キャラクターにした「ダーティー・セクシー・マネー」(写真上、左)、ニューヨークのアッパーイーストサイドの
私立ハイスクールに通うリッチなティーンエジャーを描いた「ゴシップ・ガール」(写真上、中央)など、リッチ・ピープルにフォーカスを当てた
設定が目立っている。
その一方で、「デスパレート・ハウスワイブス」(デス妻)では 「Too Suburb、Too Mall Fashion (郊外過ぎる!、ショッピング・モールのファッションみたい!)」、
というバックラッシュを受けて、この秋からは「カシミア・マフィア」(写真上、右)、「リップスティック・ジャングル」の
2番組が、「セックス・アンド・ザ・シティ」の焼き直しのような形で登場して来ることになっている。
「カシミア・マフィア」は「セックス・アンド・ザ・シティ」と同じプロデューサーで、同じスタイリスト(パトリシア・フィールド)を起用し、
一方の「リップスティック・ジャングル」は「セックス・アンド・ザ・シティ」の原作者、キャンディス・ブシュネルの同名小説のTV化である。
このようにTVのようなエンターテイメント・カルチャーまでもが リッチ、ゴージャス&ファッショナブル志向になっているアメリカであるけれど、
世界的にも 各国で どんどん貧富の差が開いていることが指摘されて久しい現在。
したがって、どんなに豊かな国家においても 貧困層の増加は既に深刻な社会問題になっているけれど、
驚くべきは 貧困よりもずっと酷い 「奴隷 / Slave :スレーブ」 というものが この現代社会に存在し、
さらにその数が歴史上最多になっているという事実である。
奴隷問題については これまでは闇の世界の犯罪として、メディアでもごくたまに報道番組が特集を組む程度であったけれど、
この秋には 同問題に関する映画がアメリカで3本封切られることになっており、それが9月半ばに封切られた「イースタン・プロミシス」、
今週末封切られた「トレード」(写真右)、そしてこれから封切られるタイを舞台にした「ホリー」である。
私は未だこの3本のどの映画も観ていないけれど、2週間ほど前にニューヨーク・ポスト誌に掲載されていた 「トレード」の ドイツ人映画監督、
マルコ・クレウツパイントナー氏のインタビューを読んでいて、その恐ろしい実情に驚いてしまうことになった。
インタビューによれば、この問題の ”奴隷” とは ”セックス・スレーブ ” のことで、こうした奴隷売買は 「セックス・トラフィッキング」と
呼ばれているもの。
組織は、北欧や 映画 「トレード」に登場する少女のように メキシコ などから 主に少女を誘拐し、
彼女らは商品としてインターネットのウェブサイト上で 落札されて行くことになるという。
その売り方は あくまで 「商品」として、顔写真、身長、体重、目や髪の色、出身国などが リストされるというもので、
ネット・ショッピングで販売される シューズやバッグの方がマシなプレゼンテーションがされている と言っても過言ではないという。
少女1人当たりの値段は500万円以上。したがって、これを買えるのは当然リッチな人々である。
もちろん購入者の中には売春ビジネスや風俗ビジネスを営む組織も多いけれど、
個人で購入する人々も少なくないと言われ、それらは性犯罪者や変質者と認識される人物などではなく、
外観はごく普通に暮らす一般の金持ちであるという。
セックス・トラフィッキングの組織は、少女を誘拐しては 500万円以上で売り、法人税も支払わない訳であるから大金を儲けているのは
言うまでも無いけれど、意外にも 組織は誘拐対象の少女を注意深く選んでいるという。
すなわち、たまたま人通りの無い道を夜中に待ち伏せていて、少女がそこを通りかかったから誘拐するというのではなく、
家族やファミリー、宗教的バックグラウンドなどをきちんと調べあげてから誘拐に及ぶという。
こうすることによって、少女に「逃げ出したら、家族や友達に危害を加える」と脅しをかけられるそうで、
少女は見知らぬ誘拐犯が自分の家族や友人について良く知っていること、「自分のせいで彼らに迷惑が掛かるかも知れない」 という思いで
震え上がってしまうという。
さらに組織が狙い易いのが敬虔なカソリックの少女で、婚前交渉が認められない敬虔なカソリックの家庭に生まれ育った少女は、
例え自分の意思に反してでも セックス産業で働かされると、自分が汚れたという罪悪感が強く、
家族のもとに戻っても そんな罪深い自分を受け入れてもらえないのでは?という恐れを抱くという。
一度売られた少女達は、闇の売春組織で働くことになり、この世界から抜け出すことはまず不可能と言われている。
加えて少女達は 辛い現実からの逃避のために、与えられたドラッグにドップリ漬かってしまうそうで、
これによって売春組織は少女達を 益々思いのままにコントロール出来るようになるという。
また 恐ろしいことには、殺害の欲望を満たすために セックス・スレーブを 購入する 狂気じみた個人バイヤーも存在しているという。
こうしたセックス・トラフィッキングのターゲットとしては、アメリカで初夏に公開されたB級映画「ホステル2」の設定にあるように、
留学生なども無縁では無いそうで、犠牲者は国籍を問わず存在するという。
こうしたビジネスがブラック・マーケットで大儲けをするご時世なだけに、現在
セックス・スレーブの数は 世界で1200万人とも言われ、既にアメリカでは FBIが捜査に乗り出していることが伝えられている。
ちなみに1200万人という数は、アメリカの南北戦争前の奴隷制時代よりも多いのだそうで、
民主化が進んでいるように見える現代社会でありながら、奴隷の数が史上最高に達するという 逆行した側面
が見え隠れするのが実情である。
映画「トレード」では、「性的興味で映画が鑑賞される事が無いよう 気を配った」 とクレウツパイントナー監督は語っていたけれど、
残念ながら 重い問題提議をした この作品自体の評価は 今ひとつといったところである。
でも暗黒のビジネスには国境が無いだけに、もし 「家出して、お金に困ったら売春をすれば良い」などと 軽く考えている少女達が
日本に居るとしたら、世の中には こういった恐ろしい世界があって ”その入り口は 何処にあるか分からない” ということを
認識しておくべきである。

執筆者プロフィール
秋山曜子。 東京生まれ。 成蹊大学法学部卒業。
丸の内のOL、バイヤー、マーケティング会社勤務を経て、1989年渡米。以来、マンハッタン在住。
FIT在学後、マガジン・エディター、フリーランス・ライター&リサーチャーを務めた後、1996年にパートナーと共に
ヴァーチャル・ショッピング・ネットワーク / CUBE New Yorkをスタート。
その後、2000年に独立し、CUBE New York Inc.設立。以来、同社代表を務める。
|