Sep. 24 〜 Sep. 30 , 2012

” Be Proud At Any Size? ”


今週、アメリカで最大の報道になっていたのが、NFL(ナショナル・フットボール・リーグ)の審判をめぐるゴタゴタ。
NFLでは6月からプロの審判組合とリーグ側が、退職手当やサラリーを含む労働条件を巡る交渉で物別れに終わっており、 9月に入ってリーグが開幕してからも、その交渉に打開の目処が立たないことからNFLが臨時に起用したのが、 大学、高校のロー・レベルの審判。 ところが、この審判が開幕1週目から誤審や曖昧なコールを繰り返していたために、 プレーヤーやファンの間では、臨時審判に対する不信感が高まっていたのだった。 でも、そのフラストレーションにとどめを刺したのが、月曜夜に全米ネットで放映されたグリーンベイ・パッカーズ対シアトル・シーホークス戦。
試合を決めた最後のプレーは、どの角度からのリプレイで見ても 明らかにシアトルのパスがエンド・ゾーンでグリーンベイにインターセプトされていたけれど、 これに対して2人の審判が、タッチダウンとインターセプションという全く異なるコールをし、最終的には誤審であるタッチダウンが認められるという茶番でゲームが終了。 これを受けて、全米のフットボール・ファンの怒りが頂点に達し、スポーツ・メディアやソーシャル・メディアはもちろん、 ありとあらゆるメディアで、臨時審判を起用し続けるNFLへの非難が轟々と巻き上がっていたのだった。


NFLに非難が集中した理由は、プロの審判組合が提示していたのは、合計300万ドル(約2億4000万円)程度の改善要求。 これを拒んでいたNFLは、少なく見積もって年間100億ドル(約8000億円)は稼ぎ出すドル箱リーグ。 加えてNFL側は 臨時の審判を起用しても、試合の視聴率が昨年よりもアップしていることから、 審判組合との交渉を早急に纏めようとする気配さえ見せていなかったのだった。
でも、月曜の試合のインパクトはオバマ大統領、ミット・ロムニー共和党大統領候補までが 言及しただけでなく、 労働組合に反対する共和党議員までもが 審判組合支持をコメント。 その一方で、ソーシャル・メディア上には 「審判が戻るまで、NFLをボイコットするべき」、「オバマでも、ロムニーでも、NFLの審判を早急に戻した方に投票する」といった フットボール・ファンのメッセージが溢れ、当然のことながらツイッター上でも ツイート記録が更新される大炎上ぶり。
スポーツのレベルを遥かに超える大問題に発展し、 ゲーム翌日、火曜日には、ホームチームがプレーしていないニューヨークでさえ、オフィス・ビルのエレベーターの中から、スターバックスまで、 このゲームの話題が登場しない場所は無かったと言えるほどなのだった。

日本を始めとする諸外国では、アメリカのNational Pastime / ナショナル・パスタイム(国民的スポーツ)は未だにベースボールだと思われがちであるけれど、 実際には、アメリカ人が ブラジル人にとってのサッカーと同じくらい熱くなるスポーツは、フットボール。 フットボール・シーズンに入ると、TVの視聴率ランキングの上位はことごとくフットボールの試合になるし、スーパーボウルが 毎年のように視聴者数とCM放映料の記録を更新しているのは周知の事実。
それほどまでにアメリカ人が熱くなる NFLであるだけに、水曜夜には過去数ヶ月間、散々揉めていた交渉がいきなり纏まり、 木曜夜の試合には 今シーズン初めて、プロの審判団がゲームに登場。 スタジアムの観客が審判団をスタンディング・オーベーションで迎えた姿は、全米のニュース番組が報じていたのだった。

これを受けて、ポリティカル・トークショーのホストがジョーク交じりに指摘していたのが、アメリカには国民が声を大にして 政府や地方自治体に訴えなければならない重要な問題が山積しているにも関わらず、それらをそっちのけで フットボールの審判問題で、 国民だけでなく、民主・共和両党の政治家までもが1つになって問題解決を訴えていた熱血ぶり。
確かに こんな凄まじい世論のエネルギーは、予算問題や健康保険問題などには決して見られないもので、 大統領選の争点となる様々な問題が 非常に小さく見えたのが今週なのだった。



もう1つ今週、大きく報じられていたのが 短期間に 25パウンド(11.3キロ)もウェイトを増やし、 ステージ・コスチュームから はみ出さんばかりの姿になっていた レディ・ガガが、 その体重増加報道にウンザリして、「ボディ・レボルーション 2013」というムーブメントをスタートしたというニュース。
オランダのアムステルダムで9月17日に行なわれたコンサートで撮影されたスナップ(写真上右)が世界中のメディアに掲載され、 「30パウンドは増えたに違いない」と指摘されていたレディ・ガガは、 先週、ラジオ番組に出演し、「25パウンド体重が増えたからダイエット中」とコメント。 体重が増えた原因を 「父親が経営するイタリアン・レストランのピザやパスタを食べ過ぎたせい」 と語って、 しっかりマンハッタンのアッパー・ウエストサイドにある 彼女の父親のレストランの宣伝をしていたのだった。
しかしながら、レディ・ガガは ウィスキーを好むヘビー・ドリンカーで、仕事中も飲むのが好きだと自ら語っていることから、 彼女の体重増加はアルコールが原因と指摘する声もあり、また別の関係者は彼女のマリファナ喫煙が体重増加に繋がった とも語っているのだった。

そのレディ・ガガは、先週の「ダイエット中」のコメントから一転して、今週スタートした「ボディ・レボルーション 2013」 のブログの中で、ランジェリー姿の写真を公開し、 彼女が15歳の時から、過食嘔吐と拒食症を繰り返してきたことを告白。 「ルックスを気にせずに食べて、ヘルシーな今が一番幸せ」と語り、ファンに対しても 「どんなサイズでも誇りを持つように」と呼びかけて、 サイトに自分のボディの写真をポストして、ポジティブなコメントを寄せ合うプロジェクトをスタートしたのだった。
同サイトには、レディ・ガガに勇気付けられたというファンが自らのボディ・ショットをポストしていることが伝えられているけれど、 このプロジェクトについては、 レディ・ガガのファンの間でさえ 賛否が分かれているのだった。


その理由の1つは、同プロジェクトがレディ・ガガが 自分の体重が突如増えたのをきっかけに、取ってつけたようにスタートしたように思われること。 実際のところ、同プロジェクトが 同じシンガーでも アデルのように、有名になる前からオーバー・ウェイト気味で、 シャネルのデザイナー、カール・ラガーフェルドに 「アデルはファッション・アイコンになるには太りすぎている」などと言われるような 存在によってスタートされたのならば、もっと一般の人々に理解され易いと思われるのだった。
また、もう1つの理由は アメリカで肥満が深刻な社会問題となり、特に青少年の肥満問題が悪化している このご時世に、 同プロジェクトが まるで肥満を肯定するかのようなメッセージに取れること。
さらには、「ボディ・レボルーション 2013」 のウェブサイトが、ティーン・エイジャーが自分のランジェリー姿を 咎められることなく、セレブ気取りでポストするサイトになっていることを 懸念する声も 一部で聞かれているのだった。

私が個人的に レディ・ガガの体重増加後の写真を見て、まず思い出したのが3年前の夏に、2週間ほどで15パウンド(6.8キロ)を増やした コケージャン(白人)の女友達のこと。
彼女の体重が増えたきっかけは1週間のロンドン旅行で、グルメ・スポットが少ないロンドンで どうして体重が増えたのかと思ったら、 食事が不味いので、スコーンにジャムとバターをつけて1日中食べ続けていたとのこと。 彼女はそれをアメリカに戻ってからも続けて、気付いたら2週間で15パウンド増えていたというのだった。
とは言っても、彼女は身長180センチ、128パウンド(58キロ)で、モデルをしていたこともあるスリムなボディ。 なので、15パウンド増えた直後にビーチに一緒に出かけた友人のリアクションは、「ヘルシーな体型になった!」、 「そのボディで15パウンド増えたとは思えない!」という極めてポジティブなもので、本人も「太ったけれど、あまり気にしていない」と語っていたのだった。

しかしながら その1週間後には、彼女のボディは 「ヘルシー」から「明らかに太った!」という体型に様変わりして、 腹部、ヒップ、太腿にガッシリ脂肪が付いていて、 僅か1週間とは思えないほどの、 誰もが驚く 変貌ぶり。人によっては彼女が20パウンド以上体重を増やしたのでは?と疑っていたのだった。
そもそも体重の変化というのは、体型に反映されるまでに時差が生じるもの。 例えばダイエットが効を奏して、体重が減り始めた人が、それを周囲に気付いてもらえるのは、体重の減少が一段落して小康状態になってから。 すなわち、ダイエットの効果が体重計だけではなく、体型に現れるまでには、身体が新しい体重にアジャストする時間が 掛る訳だけれど、それは逆にウェイトが増えた場合も同様。
それでも、私の友達の変貌ぶりは本当にショッキングで、短期間の急激な体重増加なせいか、 脂肪が集中的についたのは、先述のように腹部、ヒップ、太腿。 膝から下と 腕、首、顔は ほぼ以前のままなのだった。

そうなってくると、さすがの本人も悩み始めて 「太りだしてから食欲が抑えられない」、「未だ30前なのにセルライトが出来るなんて・・・」、 「着られる服が全然無い」とボヤいていたけれど、確かに服のサイズは約3キロで1サイズ変わるので、 彼女の場合、 2サイズ・アップでないとフィットしないのだった。でも、彼女が一番こぼしていたのが 「身体が重たくて、動く気になれない」ということ。
そんな彼女の体重増加の話題は、女友達の間だけでなく、ボーイフレンドの友人の間にまで 山火事のような勢いで広まり、自分の居ないところでも 「太った、太った」と言われ続けていることに 遂に頭に来た彼女は、 レディ・ガガのように「どんな体型でも自分に誇りを持つ」などと宣言するのではなく、野菜と低脂肪のプロテイン中心の食生活に変えて、 ランニングを始めたのだった。
ランニングについては、最初は1マイル(1.6キロ)を走るのに、途中で歩かなければならなかったという彼女であるけれど、数週間後には3マイルを週4回走るようになって、 その頃には既にジーンズのサイズが元に戻っていたとのこと。

そもそも体重というのは、増えた途端が 一番減らし易いこともあるので、おそらく彼女は”生涯太め”という人よりも 簡単に15パウンドを落としたと 思われるけれど、彼女にとってのターニング・ポイントは レディ・ガガの 「こんな自分で何が悪い」とは 全く正反対の、「こんな自分じゃ嫌だ!」という気持。
これを自己嫌悪だと見るか、自己顕示欲や向上心だと見るかは、本人の行動次第。 「こんな自分じゃ嫌だ!」と泣きながら スナックを食べているなら、 それは自己嫌悪。 でも私の友人のように スニーカーを買いに行って、ランニングを始めて、食生活を改善したのであれば、自己顕示欲や向上心と見るべきで、 私はこの時に、頑張ってウェイトを落として、スリムでハッピーになった彼女を見て、 ボディ&マインドの深い関連を改めて実感したのだった。

私は、2010年3月第2週目のコラム や、2010年8月第1週目の コラム に書いているように、一部の不健康なほどに痩せている人を除いては、 男性でも女性でも、健康的に体重を落とすというのは、「最も手っ取り早く 幸せが感じられる方法」と信じていて、 少しでも体重を落とせば スッキリした自分の体型を見て気分が良くなる上に、 自分に自信が持てて、物事に積極的になったり、身体を動かして 行動的になる意欲が湧いてくると思うのだった。
なので、私自身は自分を痩せていると思ったことなど無いけれど、それでも体重が増えたことを肯定して、それを野放しにするプロジェクトには反対の立場。 もし、その体重増加によって 痩せ過ぎの体型が ヘルシーなボディになって、 本人がハッピーである場合、もしくは世間一般ではスタイルが良いと見なされなくても、 健康的な食生活で自分にとっての理想体重を保っているという ケースならば、全く文句は無いけれど、今回のレディ・ガガの体重増加のように、 過食や飲酒が原因の 短期間の急激な体重増加は、 健康に非常に悪いと思うし、たとえ20代でもコレステロール値や肝機能をチェックするべきだとさえ思うのだった。



ネット上では、レディ・ガガの急激な体重増加を受けて、写真上のようなパロディが出回っているけれど、 彼女がスタートした 「ボディ・レボルーション 2013」 のムーブメントは、フォトショップで修正されたヴィクトリアズ・シークレットのモデル体型を見て、 サイズ・ゼロのボディになろうと過食嘔吐を繰り返したり、自分が嫌いなボディ・パーツに悩むティーンエイジャーにとっては、助けにはなるかもしれないと思うのだった。 でもアメリカには、体重が120キロ以上の糖尿病患者で、心臓病の危険も抱えているティーンエイジャーも少なくない訳で、 「どんなサイズでも誇りを持つべき」というのは、 それを受け止める側の肥満度によっては 健康だけでなく、命の危険も省みないメッセージ。
そもそも、レディ・ガガは LGBT(エル・ジー・ビー・ティー: Lesbian/レズビアン、Gay/ゲイ、Bisexual/バイセクシュアル、Transgender/トランスジェンダー=性転換者)の ヒーローとして、学校でいじめを受けたり、社会的疎外感を抱いてきた彼らのインセキュリティーにアピールして、 「自分もかつてはその1人だった」というメッセージを強く打ち出してきた存在。それだけに、メディアの中には 今回の「ボディ・レボルーション 2013」で、レディ・ガガがそれと同じことを 肥満や、過食嘔吐などの食障害に悩む人々に向けて行なおうとしている という見方もあるのだった。
でもレズビアン、ゲイ、バイセクシュアル、トランスジェンダーであることは、他人には全く迷惑は掛らないし、安全なセックスさえしていれば 命に別状も無いけれど、 肥満に関しては、アメリカの医療費や健康保険料が過去数年跳ね上がっている要因になっているだけでなく、前述のように本人の健康、引いては命を脅かすもの。
もしレディ・ガガが、 メディアが指摘するように、ゲイやトランスジェンダーの差別やいじめの問題と同様に、 体型の問題を扱おうとしているのだったら、「ボディ・レボルーション 2013」はあまりにコンセプトが曖昧な上に、彼女のファンへの多大な影響力を 思うと、見方によっては無責任とも言えるプロジェクトなのだった。

セレブリティの体重については、CUBE New York のダイエットのセクションで以前特集したことがあるけれど 、 セレブリティとて、一般の人々同様に体重のアップ&ダウンを繰り返しているのは言うまでもないこと。
でも、私にとって今回のレディ・ガガの体重増加で 興味深かったのは、 今週ディナーをした友人が 「レディ・ガガって、意外に精神的に弱い人だったのね」と語ったこと。 これは 非常にニューヨーク的な考えとも言えるけれど、実際、年齢を重ねてメタボリズムが下がっても、 体重や体型を維持している人というのは、やはり 自分に厳しく、摂生して生きているというのは間違いないこと。
そう考えると、ボディ・イメージというのは 単に太っている、痩せているという外観以上の、 人格のイメージをも 人々に与えていると言えるのだった。





執筆者プロフィール
秋山曜子。 東京生まれ。 成蹊大学法学部卒業。 丸の内のOL、バイヤー、マーケティング会社勤務を経て、渡米。以来、マンハッタン在住。 FIT在学後、マガジン・エディター、フリーランス・ライター&リサーチャーを務めた後、1996年にパートナーと共に ヴァーチャル・ショッピング・ネットワーク / CUBE New Yorkをスタート。 その後、2000年に独立し、CUBE New York Inc.を設立。以来、同社代表を務める。


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