Sep. 28 〜 Oct. 4 2009




” シカゴ落選による オバマ・ダメージ ”


今週のアメリカでは、まず週明けに大きなニュースになっていたのが、1977年に当時13歳の少女をレイプし、 その淫行の罪を認めたまま 国外逃亡を続けていたロマン・ポランスキー監督がスイスで逮捕されたというニュース。
ポランスキー監督と言えば、1968年に「ローズマリーの赤ちゃん」という 未だに ”妊娠している女性は鑑賞に適さない” 警告がつけられている 当時としては極めてショッキングなホラー映画をこの世に送り出し、一躍 女優 ミア・ファローとアッパー・ウエストサイドのダコタ・ハウスを 有名にしているけれど、それ以外にもジャック・ニコルソン&フェイ・ダナウェイ主演の 「チャイナタウン」 という代表作を持つ監督で今年76歳。(事件当時は44歳)
国外逃亡以降は、ナスターシャ・キンスキー主演の「テス」、ハリソン・フォード主演の「フランティック」、ジョ二ー・デップ主演の「ナインス・ゲート」などの 作品が公開されているけれど、近年で最も大きな評価を得たのは2002年に公開された ホロコーストを生き抜いたピアニストを描いた作品、 「Pianist / ピアニスト (邦題は ”戦場のピアニスト”)」。 彼は同作品でオスカーの監督賞を受賞しているけれど、アメリカに入国できないため 授賞式には不在だったのは比較的記憶に新しいところ。
そのポランンスキー監督はスイスで行われた映画祭で、ライフタイム・アチーブメント・アワードを受賞するために同国に入国したところをアメリカの 依頼を受けたスイス警察に逮捕されているけれど、ポランスキー監督は過去30年以上をフランス市民として暮らしており、 これまでヨーロッパのどの国へでも自由に旅行していただけに、何故今になって彼を逮捕することにしたのかは疑問とされるところ。
逮捕の是非については、既に成人して、3児の母親となった犠牲者が 「ポランスキー監督の罪を許す」とコメントし、再三に渡って起訴取り下げの要求をしていること、 当時の司法取引では本人が有罪を認めたものの 後に冤罪を主張していること、同監督の淫行を裁くにはあまりに時間が経ちすぎていることを理由に ポランスキー監督釈放を主張する人々も居れば、 「たとえ著名な映画監督でも法の裁きを逃れるべきではない」、「罪は罪として償うべき」として ポランスキー逮捕を支持する人々が対立しており、 こうした論争が繰り広げられているのは もっぱらアメリカとフランス。
フランスでの世論調査によれば70%が彼が法の裁きを受けるべきと答えているというけれど、 同国の多くの文化人が ポランスキー釈放の嘆願書に署名しており、同様のムーブメントはハリウッドにも見られているという。
逆にニューヨーク・タイムズ、ワシントン・ポストというアメリカで最も権威と影響力を持つ2大メディアはポランスキー逮捕の正当性を支持しているのだった。

でも、今週アメリカで一番のスキャンダルになっていたのは、夜のトークショー・ホストとして現在No.1の視聴率を誇っている デヴィッド・レターマンが かつて彼のインターンとして働いていた女性を始めとする数人のスタッフと関係していたことをネタに、 彼の番組の放映局であるCBSの別番組のディレクターに恐喝されていたというニュース。
このディレクターはレターマンから$2ミリオン、日本円にして約1億8000万円を脅し取ろうとしていたけれど、 レターマンが木曜朝にこれを警察に通報すると同時に、同じ日の夜に放映された彼の番組の中でその恐喝事件の経緯を語り、 その日のうちにディレクターは逮捕される運びとなっている。
ディレクターがそこまでレターマンのプライバシーを知り得たのは、彼自身がレターマンと関係していたCBSのインターンと交際し、 4年にも渡って彼女と暮らしていたため。しかも恐喝していたディレクター自身も、CBS内の女性職員に手を出すことで有名であったという。
いずれにしてもデヴィッド・レターマンが自らの番組内で いつもと変わらない口調で恐喝事件について語る様子は、 あまりにも淡々とし過ぎていて 観客からは笑いさえも聞かれた奇妙な光景で、レターマン自身も「何故観客が笑うのか分からない」と 言っていたもの。
この様子は、「トークショーのホストが自らの爆弾スキャンダルを 最も奇妙な方法で 巧妙に明かしたTV史上に残る例」 とまで評されたけれど、翌日、金曜にはありとあらゆる芸能、報道番組が繰り返しこのビデオを放映した他、 インターネット上でもこの週末、爆発的にダウンロード数の多いビデオになっていたのだった。(その後CBSの要請によってこのビデオは YouTubeから削除されています。)


アメリカに暮らしていると、このレターマンの番組内での告白はかなり衝撃的であったので、翌日金曜にコペンハーゲンで行われた 2016年のオリンピック開催地決定で、わざわざオバマ大統領が出向いてまで誘致を試みたアメリカの候補地、シカゴが 投票の第1ラウンドであっさり敗れたニュースがニューヨーク・ポストやNYデイリー・ニュースの表紙を飾ることがなかったのは容易に納得できるところ。
でも歴代大統領として 初めてオリンピック誘致に乗り出したオバマ大統領の人気を利用して、誘致を獲得したつもりになっていたシカゴでは、 このニュースはショッキングなものとして受け取られていたようである。
そもそも、オバマ大統領夫妻がわざわざ出て行ったことにより、第1ラウンドで落とされると見込まれていたのが東京、次いでマドリッド。 決選投票はリオ・デ・ジャネイロとシカゴの対決になるだろうというのは、ヨーロッパの一部とアメリカのIOCのメンバーが予測していたこと。 オバマ大統領はシカゴ落選のニュースを、エアフォース・ワンでアメリカに戻る最中にCNNの報道で知ったと言われるけれど、 オバマ氏、及びミッシェル夫人がこれほどまでにオリンピック誘致に入れ込んだ理由は彼らがシカゴ出身であるため。
とは言っても、世論調査ではオリンピック誘致に賛成だったシカゴ市民は47%、反対と答えた市民は45%で、実際の市民のオリンピック誘致に対する意見は フィフティ・フィフティ。同様の世論は2012年のオリンピック誘致に失敗したニューヨークでも見られていたので、 何となくこの様子は想像がつくけれど、この結果がアメリカ全体をガッカリさせたかと言えば、そういうことは全く無いのが実際のところである。

オバマ人気がIOC、及び世界の舞台で通用しなかったことに大喜びしたのは共和党、および反オバマの中心的勢力であるキリスト教右派。
そもそもオバマ大統領自身が、健康保険問題や失業問題をそっちのけにして、 世界一高額なプライベート・ジェット、エアフォース・ワンで 国民の税金を使ってコペンハーゲンに飛ぶ事自体が、一部のオバマ支持層からも顰蹙を買っており、 そこまでして 誘致に失敗したのは、「アメリカの国力低下を露呈しただけ」 というのがその批判の声。
ちなみに、共和党議員はオバマ大統領がIOCのファイナル・プレゼンテーションでスピーチを行っている際に、“Wrong Priorities (誤った優先事項)” というタイトルで、 Eメールを送り、過去26年間で最悪の9.8%という失業率が発表された日に、大統領が自分の地元都市のためのオリンピック誘致に時間を使っていることを 非難していたという。
その一方で、アメリカ国内では オリンピックというものが必ずしもドル箱ビジネスではないこと、莫大な経済効果をホスト・シティにもたらす反面、 莫大な借金を抱えるケースが実際には多いことが、経済専門家から指摘され 今のアメリカがオリンピック誘致をするだけの経済的余裕があるのかを疑問視する声が聞かれていたのもまた事実である。
1976年に行われたモントリオール・オリンピックは、その多額の開催費用で大赤字となり、モントリオール市が税金でその借金返済を終えたのは、 開催の29年後である2005年のこと。 経済効果抜群であったと言われる1996年のアトランタ・オリンピックでさえ黒字かと思いきやイーブン、すなわち終始の採算が合っただけ。
アテネがオリンピック開催で必要のない施設を多数建築して借金を抱えたのは比較的最近のニュースなので 良く知られているけれど、 これは北京オリンピックとて同じこと。
では、オリンピックが必ずしも利益を生み出す訳ではないにも関わらず、誘致したがる都市が後を絶えないのは何故かと言えば、 オリンピックの開催自体は赤字になったとしても、誘致すれば一部のビジネスが多大な恩恵を受けることが出来るためで、 必要の無い施設の建設、インフラ整備を請け負うこと、関連マーケティングを担当することによって そのビジネスが 如何に税金やオリンピック運営費から 膨大な利益を得ることが出来るかは容易に想像がつくところ。
これは、街中でビジネスを営む人々が得る 観光収入や小売、飲食の売上などとは比べ物にならない 「オリンピックの経済効果」な訳で、 オリンピックはスポーツ・イベントであると同時に、ビジネスのメガ・イベントなのである。
なので、一部のメディアではオバマ大統領がシカゴのためではなく、” シカゴの友人達 ” のためにオリンピック誘致に動いたと指摘する声も聞かれたけれど、 アメリカに限らず政治家が動く時というのは、お金が動く時なのである。

ところでリオ・ディ・ジャネイロが開催地に選ばれたことについては、オリンピックが未だかつて南米大陸で行われたことがなかったという理由も指摘されているけれど、 最大の要因と言われるのはリオが打ち出していた$11ビリオン(約9兆8,820億円)というオリンピックのための都市インフラ整備プロジェクトの規模が、 他の候補地の3倍であったため。 都市内で道路整備、ホテル建設が行われるのはもちろん、リオとサンパウロを結ぶハイスピード・トレインの建設も予定されているという。
でもリオはこれだけのバジェットをオリンピックだけのために割くのではなく、これらは2014年にホストが決定しているワールド・カップの 準備を兼ねてのこと。 従って、これだけ多額の投資をしても、オリンピックと それより遥かに開催期間が長いワールド・カップという2つのイベントがあれば、出費を賄うだけの経済効果は 望めなくもないのが実情であるという。
でもブラジル国内でも リオがオリンピックのホスト・シティに選ばれたことを危惧する声は聞かれているとのことで、 貧しい層の住宅問題や、ドラッグ絡みの犯罪など、街が抱える問題は山積しており、 これらをないがしろにしたまま、予算をオリンピック関連のインフラ整備に集中させることに対して、 世論は必ずしも歓迎ムード一色ではないようである。


ところで、現在のアメリカでは政府や連邦準備制度理事会が演出してきた ”リセッションの終焉、景気回復の兆し” の化けの皮が剥がれつつあって、今週金曜には、毎月第1週目の金曜に発表される前月の雇用統計だけでなく、 労働省による過去の失業者数の訂正が発表されているのだった。
それによれば、去年4月から今年3月までの12ヶ月で失われた職の数は560万、これは事前に発表されていた480万を17%も上回るもの。
さらに今年の上半期にアメリカで失われた仕事の月平均にしても、当初4万9000と見積もられていたものの、 実際にはその約3倍に当たる14万6000であることも明らかになっているのだった。
その一方で、一向に消費がアップしない現状を受けて 夏の終わりには強気の売上見込みを出したサザビーズ、クリスティーズといったオークション・ハウスが、 アートの売上見込みを軒並み下方修正していることもレポートされていたりする。
加えて今週水曜、9月30日にフォーブス誌が発表した 毎年恒例の 「アメリカで最も裕福なトップ400」のリストにしても、No.1 のマイクロソフト社ビル・ゲイツ会長は、 過去12ヶ月で$7ビリオン(約6,288億円)、No.2 のウォーレン・バフェット氏は$10ビリオン(約8,984億円)の資産を減らしていることが レポートされているのだった。 また、トップ400人全員を合わせた資産も 昨年から$300ビリオン(約26兆9,510億円)も減って、 $1.27トリリオン(約114兆920億円 )になってしまったという。

でもこんな大金持ちの資産よりもずっと気になるのは、9月の失業率として発表された9.8%という数字が 実際のアメリカの雇用状況を反映していないという指摘。 仕事を探すのを辞めてしまった人、仕事を失って 少しでも収入を得るためにアルバイト程度のパートタイムの仕事に甘んじている人々を 含めると その失業率は何と 17%に達すると言われるのだった。
アメリカでは、先月から雇用統計のニュースのインパクトを和らげるために、月第一週目の金曜を迎える以前に 予測と称してその大体の数字を報道することによって、大々的な発表は避けるようになってきているけれど、 報道のやり方を変えたところで、実際の数字は変わらないし、景気というのは数字で知るという方法もあるけれど、多くの一般消費者にとっては 世の中の動向から体感するもの。 なので、どんな報道をしようとも 雇用がアップするまでは 消費者のムードもアップすることは無いのである。





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執筆者プロフィール

秋山曜子。 東京生まれ。 成蹊大学法学部卒業。
丸の内のOL、バイヤー、マーケティング会社勤務を経て、1989年渡米。以来、マンハッタン在住。
FIT在学後、マガジン・エディター、フリーランス・ライター&リサーチャーを務めた後、1996年にパートナーと共に ヴァーチャル・ショッピング・ネットワーク / CUBE New Yorkをスタート。
その後、2000年に独立し、CUBE New York Inc.を設立。以来、同社代表を務める。





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