Sep. 27 〜 Oct. 3 2010




” サイバーブーリングの悲劇 ”


今週、ニューヨークで最も報道時間が割かれていたのはお天気、すなわち気象情報のニュース。 季節の変わり目の悪天候ウィークとあって、体調を崩すニューヨーカーが非常に多かったと言われたのが今週で、 私自身も久々に寝込むほどに体調を崩してしまったのだった。

さて、アメリカでは今年の春に国勢調査が行われたけれど、そのニューヨークにおけるデータの一部が今日、10月3日付けのニューヨーク・ポスト紙に 掲載されていたのだった。 それによれば、ニューヨーク市の平均的な年収は5万3ドル。これは日本円にして約415万8,950円。ドル安のせいでどんどん日本円に換算した額が 下がってきているけれど、アメリカ国内に暮らしている分には為替換算とは無関係なので、大体年収500万円というのが正しい感覚。
これが高校卒業資格しかない男女の平均的年収となると2万7600ドル(約229万5,600円)で、大卒者の平均的年収 5万500ドル(約420万290円)よりも 45%も少ない計算。
その学歴に着眼すれば、25歳以上で高校卒業資格があるのは全体の81.7%。でも25歳以上で大学を卒業している割合はぐっと下がって32.6%。 目下、増えていると言われるのが高卒の若いマイノリティ(白人以外)男性で、彼らはリセッションの煽りを受けて 低賃金の仕事にしか就けない、もしくは仕事が得られない存在になっているという。
一方、ニューヨークの”メルティング・ポット”、すなわち人種の坩堝 の通称は健在で、 ニューヨーク市の住人のうち 48.5%が 非アメリカ市民。
気になるのは貧困層が全体の22%にまで増加していること、年収1万ドル以下(約83万1,740円)の世帯が7.4%、健康保険を持たない人々が14.1%にも 上っていること。加えて 年収20万ドル(約1,663万4,800円)以上の富裕層と見なされる人々が7.7%に減っているのも 市の税収が減っている事実を裏付けるもの。
意外なのは、平均的なレントが$1174ドル(約9万7,646円)で全米のトップ5にも入っていないこと。 でもこれがマンハッタンのみのレントに絞られた場合は、また別の話になってくるのは容易に想像がつくところである。
私が個人的に最も意外に思えたのは、ニューヨーク市で一度も結婚したことが無い男性が45.5%で、一度も結婚したことが無い女性の40.2%を 上回っていること。もちろんこれにはゲイ男性が含まれているので、シングル女性が喜ぶのは尚早と言えるけれど、 女性側の数字にもレズビアンが含まれていることを思えば、少しは希望が持てる数字。
数年前までは、ニューヨークにおける シングル&ストレートの男性に対するシングル&ストレート女性の割合は1:4とか1:5と言われていたけれど、 これは感覚的には未だ変わっていないというのは、ニューヨークのシングル女性であれば誰もが感じるところ。 その理由の1つとしてはシングル族が出会いを求めて出掛けるクラブやラウンジは、客層を男性4:女性6に保つようにするなど、 スポーツ観戦にでも出かけない限りは、何処へ行っても女性の方が多い経験をしているため。 でもルックスや収入などでふるいを掛けた場合、ニューヨークでは収入、学歴があってルックスも良い女性が 同等条件の男性の数を遥かに上回っているという傾向は引き続き。すなわち、男性にとっての買い手市場であることには変わりが無いのである。

このセンサスの結果から、ニューヨークの未来は暫らく明るいとは言えず、経済の回復にかなりの時間を要することが指摘されていたけれど、 ニューヨークなど比較にならないほどに深刻に経済が悪化しているのがラスヴェガス。
ラスヴェガスと言えばかつてのギャンブル・シティから、ファミリー・エンターテイメントを提供する全米No.1のヴァケーション・スポットに転身し、 コンベンション・シティとして、セレブのパーティー・スポットとして もてはやされてきた存在。 でも2000年には3.7%だった失業率も 今や14.7%。 ラスヴェガスを擁するネヴァダ州の失業率は、今やデトロイトを擁するミシガン州の失業率を上回って、 14.4%と全米最悪の数字。
先日もダウンタウンのプラザ・ホテル&カジノが従業員400人の解雇とホテルの閉鎖をアナウンスしたばかりで、この ヴェガスの急速な経済悪化の要因の1つと言われるのは相次ぐ建設プロジェクトが破綻したこと。 でも最大の要因と言えるのは、 ラスヴェガスの収入を支えていた中流以下のアメリカ人旅行者の激減。 これらの層はリセッションで仕事や家を失っている人々で、ヴァケーションどころではないのは容易に想像がつくところ。
こうした中流以下のアメリカ人旅行者がギャンブルやシアター等のエンターテイメント、レストラン・ダイニングで落として行ってくれるお金は ヴェガスの収入の70%以上を占めているもの。 接待費が掛かるハイローラーや、VIPラウンジに陣取って一銭も支払わないセレブリティでは ラスヴェガスの経済は支えられないのである。


さて 今週のアメリカで 政治、経済以外のニュースで最も大きく報じられたのは、ニュージャージー州ラトガー大学のゲイ学生が、そのキスシーンをルームメイトに盗撮された上、 インターネット上で公開され、それを苦にジョージ・ワシントン・ブリッジから投身自殺をしたというニュース。
自殺をしたのはラトガー大学の1年生で18歳のテイラー・クレメンティ(写真右、NYポスト紙に大きくフィーチャーされたメガネの男性)。 有能なヴァイオリニストでもあった彼と 他の男性のキス・シーンを盗撮したのは 彼のルームメイトであったダーラン・ラヴィと クラスメイトのモリー・ウェイ。 ダーラン・ラヴィは彼のコンピューターのウェブカムを利用して、モリー・ウェイの部屋からテイラーのラブ・シーンを撮影。それを彼のアイ・チャットのネットワークで 公開し、ツイッターでも フォロワーに盗撮ぶりを自慢げにレポートし、次回盗撮予告までツイートしていたという。
しかしながら、ウェブカムの存在に気付いたテイラーは、それを学校側にクレームしたことが伝えられているけれど、その翌日9月22日、 フェイス・ブックの自らのページに「ジョージ・ワシントン・ブリッジから飛び降ります、ごめんなさい」というメッセージをポストした8分後に 投身自殺を図ったことが報じられているのだった。

この事件は、相次ぐサイバーブリーング(Cyberbullying / ネット上のいじめ)による自殺者が社会問題となりつつある中、ゲイ差別という もう1つの重い社会問題を 含んでいたこともあり、全米に波紋を広げることになったけれど、 特に事件に敏感に反応したのがハリウッドのセレブリティ。 エレン・デジェネラスなど自らゲイであることをオープンにしているセレブリティを中心に、こうしたゲイ差別のサイバーブーリングに 何らかのアクションを起こそうという動きが 既にハリウッドに見られていることが伝えられているのだった。

現時点で、ダーラン・ラヴィとモリー・ウェイの2人はプライバシーの侵害の罪でのみ起訴されているけれど、世論は「人を死に追いやったのだから、 これでは生ぬるい」 との 厳しいリアクションを示しており、過失致死罪に問うべきとの声まで聞かれているという。
でも実際のところ、この状況で過失致死罪というのは極めて立件が難しいこともあり、検事はダーラン・ラヴィのツイッターのコメントを証拠として、 この事件をゲイに対するヘイト・クライムとして起訴し直すことが見込まれており、 そうなればプライバシー侵害の罪で科せられる 最高5年の禁固刑が10年になるのがニュージャージー州の法律である。

ここ数週間の間だけでも、アメリカではカリフォルニア州の13歳の学生を始めとする数人が、サイバーブリーングを苦にした自殺を遂げているけれど、 アメリカで最初にサイバーブリーングが大きく報じられたと言えるのは、2008年のこと。18歳になるジェシカ・ローガンが 元ボーイフレンドに送った自分のヌード写真が 彼によって友人達に携帯メールでばら撒かれたことを苦にして 首吊り自殺をしたという事件。
また、今年初めにはマサチューセッツ州のハイスクールで、6人の女学生が15歳のフィービー・プリンスをいじめの挙句、自殺に追いやった後、 彼女のフェイスブックのページに 「目標達成」など、信じられないほど悪質なメッセージの数々を書き込んでいたという事件が起こっている。 しかしながら同事件の加害者側は一切の処罰を受けることはなく、女学生達は警察の取調べをも 見下した態度を取っていたという事実が伝えられ、 同件に関しても世論が 何らかの厳しい処罰を求めていたのは未だ記憶に新しいところである。

とは言っても、実際には 罪を問うのが極めて難しいと言われるのがサイバーブーリング。
というのも、今回の事件のダーラン・ラヴィ、モリー・ウェイの2人は テイラー・クレメンティを自殺に追い込もうと思って 盗撮をした訳ではなく、 彼らにしてみればこれはサイバー世代のいたずらや、からかいの行為。 レベルや状況に違いはあっても似たような行為は全米の大学のキャンパスでは頻繁に起こっていること。
これが事件として大きく報じられるのは、被害者がその行為を苦にして自殺に追い込まれた場合な訳で、 検察側は加害者の行為ではなく、被害者のそれに対する反応に応じて罪を問わなければならないという不思議な状況に追い込まれてしまうのである。
要するに、今回テイラー・クレメンティが受けたサイバーブーリングより遥かに酷い行為を受けた学生が居たとしても、 彼がそれを我慢していた場合は加害者は無罪放免、でも彼が自殺をすれば罪に問われるという状況であるけれど、 これが一般化した場合、被害者は加害者を罰するために自殺を選ぶという最悪のシナリオにもなりかねないのである。

さらに今回のサーバーブーリングに絡んでいると言われるのが「プライバシー」という若い世代で極めて曖昧になりつつあるコンセプト。
現在の学生世代はフェイスブック、ツイッターなどで自分の行動を逐一オープンにする一方で、他人のプライバシーにも気遣わない世代。 今週のニューヨーク・タイムズのスタイル・セクションでは、 友人が「何処へ行った」、「何を食べた」と逐一 ツイートしてくるのに飽き飽きした読者が どうやって本人に「貴方が何をしようと誰も気にかけていない」と伝えるべきか?という質問をコラムニストに寄せていたけれど、 フェイスブックやツイッターでセレブ気取りで ページをアップデイトしているような人々にとって プライバシーというのは、自分のものでも 他人のものでも さほど意味や価値を成さないもの。 それどころか他人のプライバシーを暴くのは、ジャーナリストがスクープを報じるようなスリルとして捉えられる傾向さえある訳で、 そうした物事を深く考えない衝動的な行為、精神的未熟さが、インターネットというパブリッシング・パワーと抱き合わせになるのは、 極めて危険な状態とも考えられるのである。

その一方で、サイバーブーリングを行う側が軽視しているのが 被害者がいかにデリケートな精神状態であるかということ。
アイオワ州立大学教授、ワーレン・J・ブルメンフェルド教授が 11〜22歳のゲイ学生350人を対象に調査を行ったところ、過去30日以内にサイバーブーリングを受けたと答えたのは約半分、 そして4分の1が自殺を考えたと回答しているとのこと。またゲイ学生であるなしに関わらず、インターネット上、実生活上でのいじめ行為は 学生を精神的に深く落ち込ませるだけでなく、自殺願望を極めて強くさせることを同教授は指摘しているのだった。

そもそもいじめという行為が行える人間というのは、繊細さが欠落し、精神的に鈍化した人間、もしくは自分自身も弱く、攻撃の対象を持つことによって 自分の立場や優位を守りたいというケース、自己中心的な考えや価値観に縛られる一方で、英雄願望が強い人間が多いけれど、 そういった常識や人間の感情といった部分に考えが及ばない人種が、 ただでさえ精神的に弱い被害者を 強く追い込むのがサイバーブーリング。
その危険性が今後益々危惧されるだけに、スケープゴートというのは感心しないアイデアではあるものの、 早い時点で 厳しい処罰の判例が示されるべきだと思えるのもまた事実なのである。


Catch of the Week No. 4 Sep. : 9月 第 4 週


Catch of the Week No. 3 Sep. : 9月 第 3 週


Catch of the Week No. 2 Sep. : 9月 第 2 週


Catch of the Week No. 1 Sep. : 9月 第 1 週





執筆者プロフィール

秋山曜子。 東京生まれ。 成蹊大学法学部卒業。
丸の内のOL、バイヤー、マーケティング会社勤務を経て、1989年渡米。以来、マンハッタン在住。
FIT在学後、マガジン・エディター、フリーランス・ライター&リサーチャーを務めた後、1996年にパートナーと共に ヴァーチャル・ショッピング・ネットワーク / CUBE New Yorkをスタート。
その後、2000年に独立し、CUBE New York Inc.を設立。以来、同社代表を務める。





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