Sep 26 〜 Oct 2 2011

” Occupy Wall Street, Trending or Real Movement? ”

今週のアメリカでは、特に報道が集中するような大きなニュースが無かったけれど、 引き続き経済不安のニュースには事欠かかない状況。 今週金曜に終了した2011年第3四半期は、S&P500 が14.3%も値を下げて、2008年第4四半期以来の悪い数字となっており、特に ウォール・ストリートのバンクは軒並み第3四半期の減益を発表する見込みであるという。
その株価は業績を如実に反映しており、モルガン・スタンレーは過去3ヶ月で41%株価を下げており、シティ・グループは38%。 バンク・オブ・アメリカは44%の下落。ゴールドマン・サックスは今四半期は28%のダウンであるけれど、2011年に入ってからの数字で見ると 40%以上の下落となっているのだった。

さて、このところよく聞かれる言葉に、「Trending / トレンディング」というものがあるけれど、 これはツイッター用語で、突如多くの人々が語りだした物や出来事のこと。
アメリカでは、にわかセレブリティのことを「15ミニッツ・オブ・フェイム」と言うけれど、 通常「15ミニッツ・オブ・フェイム」というのは、短くても2〜3週間程度は続くもの。 でもトレンディングというのは、24時間の間に200万人が閲覧したYouTubeのビデオ・クリップだったり、 セレブリティのアウトフィットや、政治家の問題発言であったりするので、 2〜3日程度で人々の関心が移行してしまう場合が殆ど。
なので、昨今は報道番組が「今週のトレンディング」というセグメントを設けているけれど、 それが毎週入れ替わるのは当然のこと。 そもそも ” トレンド ”というのは一過性のものであるけれど、1シーズンは持続するというのが ファッション業界の認識。それに引き換え トレンディングは、36時間〜72時間程度の速さで、次から次へとめまぐるしく 人々の関心がシフトしていく状態で、言ってみればソーシャル・メディアが生み出した社会的ADD(注意欠陥障害)現象なのだった。



そんな中、ここ2週間連続で ”トレンディング” になっているのが、先週のこのコラムでも短く触れた「オキュパイ・ウォール・ストリート」。
このムーブメントは、カナダのマガジン、『アドバスターズ』が 今年7月に そのブログでアクションを呼びかけたのがきっかけでスタートしたもの。 ニューヨークのマネージメント・チームは、自らを”ジェネラル・アセンブリー”と名乗り、マドリッドで行なわれたアクティビストの集会に インスピレーションを得て、イースト・ヴィレッジのトンプキン・スクエアで ムーブメントをオーガナイズするためのミーティングを行なってきたとのこと。
そして9月17日にウォール・ストリートでの抗議デモを呼びかけたところ、この日集まったのは100人程度のプロテスター(抗議者)。 しかしながら、肝心のデモは警備によって阻まれて、プロテスター達は ウォール・ストリートにほど近いズッコッティ・パークに 予定外の集結をする羽目になり、以来、ズッコッティ・パークがこのムーブメントのベースとしての役割を果たしてきたのだった。

先週にも説明した通り、このムーブメントは フェイスブックやツイッターなどのソーシャル・メディアを通じて、 集まった若者が中心のイベントで、その多くは学生や失業者。 リーダー不在で、そのスローガンも、ウォールストリートのキャピタリズムやグローバル・エコノミーに抗議するものや、大手銀行のベイルアウトに抗議するもの、 ロビーストを使って、ワシントンを操る大企業に反発する意見もあれば、 戦争を止めて、戦費を経済政策に当てるべきという声もあり、将来に対して抱く不安や怒りを何かにぶつけたいという人々、 中には宗教に反発する人なども居て、目的やゴールは 参加する人々により様々。
労働組合のデモのように、ターゲットや要求がはっきりしている訳ではないだけに、 同ムーブメントがこの先何時まで続くのかは 誰にも分からない状態で、ニューヨーク・タイムズ紙によれば「気温が10度を切るまで」と 語っている参加者が居たというけれど、ニューヨーク・ポスト紙には 「何時まででも居座る」というプロテスターのコメントが掲載されていたのだった。



先週の時点では、メディアが冷やかな目で見守っていたこの オキュパイ・ウォール・ストリートのムーブメントであるけれど、 その様相が変わってきたのは先週末にユニオン・スクエアで行なわれたデモで、約80人が逮捕された際。 デモ自体は極めて平和的なイベントであったにも関わらず、NYPD(ニューヨーク市警察)がペッパー・スプレーを使用するなど、 プロテスターに対して過度にアグレッシブな対応をしており、その様子はYouTubeのビデオで公開され、 大きな物議を呼んだのだった。
NYPDでも、この批判を受けて 警備の際に行き過ぎた行為が無かったかの捜査に乗り出したと発表しているけれど、 これによって、同ムーブメントに多くの人々からの同情とサポートが集まったのは紛れもない事実。 今週には、女優のスーザン・サランドンやドキュメンタリー映画監督兼、アクティビストのマイケル・ムーア、元ニューヨーク州知事のデヴィッド・パターソンなどが ズッコッティ・パークを訪れて、プロテスター達との対話や彼らに対する支援を行なったことが報じられており、 メディアも毎日のようにそのムーブメントを伝えていたのだった。

またその参加者の数も 日に日に膨れ上がっており、それと同時に驚くべきは、人数が増えるに従って、 ムーブメントがどんどんオーガナイズされていくという現象が起こり始めていること。
ズッコッティ・パークの中心にはフード・ステーションが設けられており、参加者に無料で食事が支給されているけれど、 これらのフードは全て運動を支援する人々から寄付されたもの。その多くは、YouTubeのビデオや、TVのニュースで オキュパイ・ウォール・ストリートのムーブメントを知った人々が、時に州外から ズッコッティ・パーク近隣のピザ・ショップやファスト・フード・ストアに クレジット・カードを使ってフードをオーダーして、プロテスターのためにデリバリーさせているものだという。
またパーク内にはラップトップやタブレットを使うためのメディア・センター、メディカル・ステーション、リサイクル・センター、ライブラリーまで 設けられており、セラピストのサービスまであるという。
加えて、オキュパイ・ウォール・ストリートはUPSやポスタル・サービスの私書箱も取得しており、そこには同ムーブメント宛てに、食料や生活用品の寄付が 毎日のように届いていることが伝えられているのだった。




ズッコッティ・パークには、公衆トイレが無いため プロテスターは近隣のマクドナルドのトイレを使っているとのことだけれど、 今のところ、消防、衛生面では、問題の無い活動であることが伝えられているのだった。
今週には同様のムーブメントが ボストン、ロサンジェルス、サンフランシスコ、メイン、ワシントンDCなどでも見られており、 あっという間に、ムーブメントが広がりを見せたのはメディアも驚くスピード。
ニューヨークにおいては、そのプロテスターの層が大きく広がりを見せていることが伝えられており、 当初は大学生を始めとする20代が中心であったけれど、今週に入ってからは、 市の教育予算の削減に反発する学校教師や、元アメリカ兵、差し押さえで家を失った人など、 その年齢層やバック・グラウンドがどんどん広がっており、 失業者や学生だけでなく、仕事の空き時間に 抗議活動に加わる人々も増えてきているのだった。

そんな中、昨日、10月1日土曜日には、ブルックリン・ブリッジでのデモ行進中に、700人ものプロテスターが逮捕されるという事態が発生しているけれど、 NYPD側の言い分は、「車道をブロックしようとしたプロテスターを逮捕した」というもの。
ところが、オキュパイ・ウォール・ストリートのメンバーによれば、彼らは警察に誘導されて車道に出たとのことで、 突然 彼らと車道を仕切っていたオレンジ色のフェンスが取り除かれて、その途端に警察がプロテスターを逮捕し始めたとのこと。
逮捕された人々は、殆どが日曜には釈放されているけれど、こうした出来事も、益々同ムーブメントがエスカレートする要因になりそうな 様相を呈しているのだった。

オキュパイ・ウォール・ストリートのムーブメントがスタートして以来、 メディアで報じられるようになったのが、カレッジに通う学生や20代の若者が いかに将来に対して悲観的な考えを持っているか。
彼らは、学生時代から学費ローンという借金を抱えて、卒業してみれば仕事が無くて、日本円にして1千万円以上の学費ローンの返済に苦しむ若者が非常い多いのが実情。 学費ローンは 住宅ローンなどとは異なり、個人破産をしても返済しなければならないローンなので、そのプレッシャーはかなりのもの。 しかも、この世代は リタイア人口が就業人口を遥かに上回る状況で、年金システムを支えていかなければならないジェネレーション。 そのアメリカの年金システムは、2010年度に史上初めて支給総額が収入を上回り、今後は蓄えを食い潰して行く一方となるのだった。



オキュパイ・ウォール・ストリートは、好き勝手に儲けすぎたウォールストリートのバンクに対する抗議もさることながら、 一向に失業問題や経済問題を改善できないワシントンの政界全体に対する失望も そのメッセージになっているけれど、 このムーブメントが長く続く様相を見せ始めているのは、その参加者の多くが失業者であり、 彼らがこのムーブメントに加わっている限り、コミュニティに囲まれた最低限の生活が保障され、社会的に意義ある活動をしているという 満足感がもたらされていること。
逆に言えば、失業問題が改善されれば こうしたムーブメントも収まると言えるけれど、現時点では 失業問題にあまり明るい展望が望めないのが実情なのだった。

それを象徴するかのように、グリーティング・カードの最大手、ホールマークからは新たに失業した人に送る 慰めや励ましのカードのシリーズが登場。(写真左)
すなわち、失業が冠婚葬祭や、様々な記念日 同様に、 専用のカードを販売するほどの オケージョンになってしまったということであるけれど、9.1%という現在のアメリカの失業率を思えば、 出産祝いのカードより需要が高いと言えるのだった。 カードに書かれている台詞は「仕事を失ったとは考えずに、バカなボスからの休憩時間と考えるべき」、 「失業では人生は決まらない、失業によって何をするかで決まる」などというもの。
ホールマークのスポークスマンによれば、「人々は、人生の難しい時期にこそ 人との繋がりの有り難味を感じるもの」なのだそうで、 仕事を失った人々にとって、友人からのサポートが必要 というのがこの失業カードのコンセプト。

とは言っても、その失業カードを配達する郵便局が深刻な経営難に陥っており、 レイオフによって経営コストの削減が行なわれようとしているのが現在。
また、オキュパイ・ウォール・ストリートがターゲットとするウォール・ストリートのバンクにしても、業績悪化を受けて、今後ボーナスの削減とレイオフが見込まれているのだった。 今週にはゴールドマン・サックスで、社員に無料で提供しているコーヒーのカップが小さくなったことが記事になっていたけれど、 そんなのは焼け石に水のバジェット・カット。
ウォール・ストリートが 以前よりも業績に応じてレイオフを行なわなければならなくなったのは、 ファイナンシャル・クライシスのベイルアウト後に、ベース・サラリーを増やし、ボーナスの金額を減らす給与体型に変わったため。 ベース・サラリーが低く、ボーナスが高い場合は、業績が悪ければボーナスを減らすだけで、人件費はそれほど企業側の負担にならないもの。
ところがベース・サラリーが高めに設定されていると、社員側には業績が悪くても一定額の給与が受け取れるメリットがあるのに対して、 企業側は減益の中、人件費の割合が高くなることを意味する訳で、そうなると経営をタイトにするために レイオフをせざるを得ない状況になるのは いうまでもないことなのだった。
なので、ウォールストリートのバンカーも、レイオフされて長く仕事が見つからなかったら、オキュパイ・ウォール・ストリートのムーブメントに賛同する日が 来るかもしれないけれど、一部には このまま同ムーブメントの規模が膨れ上がった場合、来年の大統領選挙の行方を左右するパワーになるという声さえ 聞かれ始めているのだった。

2008年にバラック・オバマ民主党候補が大統領に選出された際には、通常選挙には興味を示さない若い世代のグラスルーツ・ムーブメントや ソーシャル・メディアが大きな役割を果たしたけれど、当時熱狂的にオバマ氏を支持して、ボランティアに励んでいた若者というのは、 オバマ氏を大統領に当選させるという目的ははっきりしていたけれど、オバマ氏の政治手腕についてどの程度の理解があったのかは 疑わしいと思うところ。
当時は「HOPE」、「Yes, We Can!」といったスローガンと、ジョージ・ブッシュさえ大統領でなくなれば、 全てがまともに動き出すという短絡的な考えがこうした若者達のドライビング・フォースになっていたのだった。
それに比べると、オキュパイ・ウォール・ストリートのムーブメントは、参加者がそれぞれ抱える問題や政治や社会に対する不満がムーブメントを動かしているドライビング・フォース。 プロテスターが掲げているプラカードの中には、アメリカ国歌の最後のフレーズ「The land of the free and the home of the brave (自由の国、そして勇敢なる者の故郷)」を もじって「The land of the fees and the home of the slaves (手数料の国、奴隷の故郷)」という抗議フレーズがあったけれど、 実際、今のアメリカは 仕事があっても低賃金で長時間働き、銀行手数料やクレジット・カードの利息、飛行機の手荷物料金など、 ありとあらゆるフィーと税金を搾取されて、まさに奴隷のような状態。
でも私の考えでは、あらぬ希望を抱いて、それを実現しようというムーブメントよりも 直面する問題を掲げて、不満を露わにするムーブメントの方が歴史的には意義あるものになる可能性が高いように思われるのだった。
歴史というのは1つの方向に動き出したら、止まらないもの。 まだ始まって2週間のオキュパイ・ウォール・ストリートが本当に歴史上、意義あるムーブメントなのか、それとも単なるトレンディングなのかは、 時のみぞ知るといったところなのである。





執筆者プロフィール
秋山曜子。 東京生まれ。 成蹊大学法学部卒業。 丸の内のOL、バイヤー、マーケティング会社勤務を経て、渡米。以来、マンハッタン在住。 FIT在学後、マガジン・エディター、フリーランス・ライター&リサーチャーを務めた後、1996年にパートナーと共に ヴァーチャル・ショッピング・ネットワーク / CUBE New Yorkをスタート。 その後、2000年に独立し、CUBE New York Inc.を設立。以来、同社代表を務める。


PAGE TOP