Oct. 1 〜 Oct. 7, 2012

” Who’s Trustworthy? ”


今週のアメリカで、最も大きく報じられていたのが、水曜日の東部時間午後9時から行なわれた大統領選挙ディベート(討論会)関連のニュース。
このディベートは、全米の6700万人がTV、もしくはインターネットを通じて視聴しており、ツイッター上では 90分間のディベートの最中に1千万以上のツイートが寄せられ、政治イベントにおける最多記録を更新していたのだった。
それほどまでに国民の関心が集まっていたディベートで、軍配が上がったのは 当初の予想に反して、共和党候補のミット・ロムニー。
ロムニーは、「Well Prepared, Well Rehearsed」、すなわち 準備周到で、きちんとリハーサルを積んでディベートに臨んだとメディアに指摘されていたけれど、 加えて彼は、今回の共和党の予備選で 19回のディベートをこなしてきただけあって、場慣れしている印象を与えていたのだった。
対するオバマ大統領は ディベートの日、10月3日が結婚20周年のアニヴァーサリー。でも冒頭で結婚記念日のメッセージを ミッシェル夫人に伝える時点から言葉がつまずき、ディベートは終始ロムニー・ペースで展開。 メディアはこの日の大統領を「Unprepared, Disengaged」、すなわち準備不足で、真剣に取り組んでいない と厳しく批判していたのだった。
事実、この日のオバマ大統領は、ボディ・ランゲージからして防戦態勢で、ミット・ロムニーの発言中は終始伏し目がち。 発言の内容も纏まらず、肝心な決め台詞を言い損ねるなど、多くのメディアが「心ここにあらず」と指摘する パフォーマンス を展開していたのだった。
でも90分間のディベートで、時間的に長く喋っていたのはオバマ大統領。しかしながら、言葉の数にするとミット・ロムニーの方が 多く語っており、オバマ氏は 話し始めや、センテンスの間に 「エー」、「ウー」、「アー」 という 口ごもりが何度も挟まれている分、 時間が掛っている割には 内容が希薄で、説得力に乏しい語り口。加えて それは優柔不断で、 指導力に欠ける印象を与えていたのだった。

でも、ミット・ロムニーの圧勝かと言えば 決してそうではなく、 彼がディベートで語った政策が、それまでの選挙戦で掲げられてきた内容とは全く異なり、 国民にとって「上手すぎる話」になっていたのは、政治評論家でなくとも感じたこと。
なので、ディベートの最中からソーシャル・メディア上では、ミット・ロムニーをウソツキ呼ばわりするメッセージが 飛び出していたけれど、そんな食い違いを攻撃することも無く、黙って聞き流すしかないほどに策が無かったのが、この日のオバマ大統領なのだった。



さて、しっかりリハーサルを積んだ政策論ではスムースに、自信に満ちた討論を展開したミット・ロムニーであるけれど、 余計な事を口走らずには居られないのが彼のキャラクター。
今回のディベートでは、司会を務めたジム・レアラー(写真上左)が、PBS(パブリック・ブロードキャスティング・システム)のニュース部門の ディレクターであることを知りながら、 「PBSは好きだし、ビッグ・バードのことも、君(ジム・レアラー)のことも好きだけれど、 自分が大統領になったら、(国債減らしのために) PBSに対する政府援助を打ち切る」と語り、まるで「自分が大統領になったら、お前(ジム・レアラー)はクビだ」と 言わんばかりのコメントをしたのだった。 ちなみに、ビッグ・バード(写真上中央)は アメリカの子供達が大好きな「セサミ・ストリート」のキャラクターの1つで、「セサミ・ストリート」は PBSの看板番組の1つ。
ロムニーがこの発言をした直後の1時間に、ツイッター上には 「ビッグ・バード」に関する1万7000のツイートと、「PBS」に関する1万のツイートが 寄せられ、ディベートの翌日には 突如、国の赤字減らしの矛先にされた ビッグ・バードに対して 夜のトークショー、モーニング・ショーから出演依頼が殺到。 「セサミ・ストリート」側は、政治論議に巻き込まれるのを避けるために、全ての出演依頼を断っていたけれど、 ビッグ・バードは遂に土曜の夜、「サタデー・ナイト・ライブ」に登場(写真上右)。 翌日、日曜の大ニュースになっていただけでなく、月曜のニューヨーク・タイムズには写真入り第一面で報じられていたのだった。

では、政府がPBSに対して どの程度の援助をしているかといえば、その額は年間4億4500万ドル(約341億円)。 これによってPBSはその運営費の80%以上を賄っており、もし政府がこれを打ち切れば、当然のことながら 運営不可能で、倒産に追い込まれることを意味しているのだった。
とは言っても、PBSに対する政府の年間補助は国家予算の0.012%。これは国防総省が たった6時間で使い果たす金額で、 ミット・ロムニーの言葉どおりに 援助を打ち切ったところで、負債減らしの助けになるとは思えない金額。
このため、ロムニーに対しては「セサミ・ストリートよりも ウォール・ストリートに対して策を講じるべき」、「PBSの政府援助を打ち切って国債減らしをするというのは、 500ギガ・バイトのハード・ドライブに空きスペースを作るために、テキスト・ファイルを1つ削除するようなもの」といった批判が飛び交っていたのだった。



ところで、ミット・ロムニーがこれまでの選挙戦で語っていた内容を翻して、「既存欠陥も健康保険案でカバーする」等と ディベートで語っていたことについては、民主党寄りの政治評論家を中心に 「ミット・ロムニーは当選のためなら、この先 (事実と異なることを)何でも言うだろう」という危惧も飛び出していたのだった。
でも、ディベートにおけるミット・ロムニーは、これまでの彼のベスト・パフォーマンスと言われただけあって、 事実無根の討論内容が、しっかり重ねたリハーサルのお陰で、これまでに無い説得力を帯びていたのは 誰もが認めるところ。 そもそも人間は練習さえ積めば、ウソ発見器さえも欺くことが出来るようになるけれど、 未だどちらに投票するかを決めかねている有権者は、 ウソ発見器より遥かに攻略が簡単。なので、ディベート後は ロムニーが世論調査で支持を伸ばしているのだった。

政治家のようにプロのアドバイザーがついて、真摯で 説得力のあるスピーチのトレーニングをしているケースでは、 その政治家の人間的信頼性を 外観や語り口からジャッジするのは、そう簡単でないけれど、 人間というのは、頻繁に日常生活の中で 特に理由も無く人を信頼したり、 相手の言っていることがウソだと疑ったりしているもの。
そして当然のことながら、相手の信頼性をジャッジする場合、オンラインのような顔の見えないコミュニケーションよりも、 フェイス・トゥ・フェイスのコミュニケーションの方が、短時間でも 正確に相手の人間性を察知出来ることが指摘されているのだった。

通常、相手がウソをついているバロメーターとして 挙げられるのが、「視線を合わせない」、「言葉を言いよどむ」、 もしくは「冷や汗をかく」といった ポイント。 でも、ノースウエスタン大学、マサチューセッツ工科大学、コーネル大学が共同で行なったリサーチによれば、 人間の仕草で、その人物の信頼性を疑わせるきっかけになるのは、以下の4つという結果が出ているのだった。


これらの仕草は、どれか1つでは相手がウソをついている、もしくは相手が信用できないというシグナルにはならないものの、 2つ以上の仕草を相手に見ることによって、人間は無意識のうちに疑いを抱き始めるとのこと。 そして仕草の頻度がアップすれば アップするほど、疑う気持も強くなっていくという。
これを立証するために、同リサーチでは 被験者を2つのグループに分けて、1つのグループに この4つの仕草をするロボットと 対面させ、もう1つのグループには 仕草無しの同じロボットと対面させたところ、4つの仕草をするロボットと対面したグループの方が、 「ロボットが信頼できる」と答えた被験者の数が明らかに少なかったという。
したがって、人間本人が持つルックスや好感度とは無関係に、上記4つの仕草を複数行なうことが、 信頼性を損ねる結果になっていると言えるのだった。

ところで、この3つの大学のリサーチでは、84人の学生被験者を対象にゲームを行い、 その信頼性=正直度をチェックしているけれど、このゲームでは最高ポイントを獲得して勝利を収めるためには、 参加者を何度も騙さなければならないというルールになっているのだった。
その結果、全くウソをつかず、正直かつ、クリーンにプレーしたのは全体の22%、すなわち約5人に1人。 ウソをつき続けて、全く信頼に値しないというプレーをしたのは13%。残りの65%は 自分を最低限有利にする程度に ウソをつくという、ウソツキとは言わないまでも、完璧に正直でもないタイプ。 この結果は、奇しくも 世の中全体における正直とウソつきの割合に通じる印象を与えているのだった。



英語には「Nice Guys Finish Last (善人は人生で立ち遅れる)」という言葉があるだけに、 クリーンにプレーした22%の人々は、「正直過ぎて、貧乏くじばかりを引いて 損をしているのでは?」と思われがちであるけれど、 実際には、「この人間は信頼できる」と周囲から思われることは、 キャリア面でも経済面でも 決してマイナスにはならないという。

では、アグレッシブにポイント獲得のためにウソをつく、全く信頼に値しない13%がどういう人々かと言えば、 科学的根拠は無いものの、多くの人々が抱くのが 「人を欺いたり、蹴落としたりして のし上がった政治家や大企業のCEO」という印象。
それを立証するかのように出版されたのが、ニューヨーク郊外の高級リゾート地、イースト・ハンプトンのプライベート・カントリー・クラブの キャディの暴露本、「キャディ・テールズ」。同書の中で、11年前に金融の仕事を辞めてキャディになったという著書が語っているのが、 クラブのメンバーである 一流企業のCEOや 世界の金融市場を牛耳っているような人物が、ゴルフの最中に如何に馬鹿げたことを喋っているか。そして 彼らが、 人が見ていないと思うと スコアをごまかすということ。

それとは別に、共和党の副大統領候補である、ポール・ライアンにしても 「20代の時に、2時間50分台でマラソンを完走した」と語ったけれど、 実際にはそのタイムは4時間1分。 ポール・ライアンは、これをウソだとは言わず 「タイムを誇張した」と弁明。 でも ニューヨーク・マラソンに参加するような シリアスなランナーに言わせれば、 これは「ゴルフで10ストローク打っておきながら、ホールインワンだとごまかすような ふてぶてしさ」。
実際のところ、ポール・ライアンについては選挙戦でのスピーチも、事実無根のウソが多いことで知られているのだった。

しかしながら、ディベートについて言えば、候補者が何をどう語ったところで、既に投票する候補者が決まっている人々が それによって考えを改めることは 殆ど無いという。
したがって、ディベートで語られるウソが影響するのは、支持する候補者が決まっていない有権者のみであるけれど、 ジョージ・W・ブッシュ大統領が2004年に再選された時も、アメリカの中西部の州では、有権者がイラクから大量破壊兵器が見つかったと 信じてブッシュ大統領に投票していたというから、言ってみれば選挙戦にウソは付き物なのだった。

ところで、私個人が 相手がウソをついていると感じるのは、眼球がほんの一瞬、ソワソワするように左右にぶれるのを目撃した時と、 相手の反応が 0.5〜1秒くらい、それまでの会話のペースに比べて遅れた時。 語り慣れているウソであれば、こうしたことは起こらないけれど、そんな語り慣れているウソについて思わぬことを尋ねられて、 ウソの返答をしなければならない時、どんなに機転が利く、頭脳明晰な人でも 瞬時にウソをでっち上げる際に見せるのが 一瞬の眼球の動き。そしてそれを口に出して語るまでには、ナチュラルな会話よりも 若干のタイムラグが生じるというのが 私が今まで頻繁にウソをつく人を観察してきた結果、学んだこと。
もちろん、ウソの常習犯は 一度新しいウソのセオリーを見つけると、それを流れるように話し始め、 時に既存の事実と結びつけて 信憑性を持たせたりもするもの。 でも、そのセオリーをでっち上げるまでのほんの一瞬については、どんなに訓練をしても ごまかせないというのが、私の観察結果なのだった。





執筆者プロフィール
秋山曜子。 東京生まれ。 成蹊大学法学部卒業。 丸の内のOL、バイヤー、マーケティング会社勤務を経て、渡米。以来、マンハッタン在住。 FIT在学後、マガジン・エディター、フリーランス・ライター&リサーチャーを務めた後、1996年にパートナーと共に ヴァーチャル・ショッピング・ネットワーク / CUBE New Yorkをスタート。 その後、2000年に独立し、CUBE New York Inc.を設立。以来、同社代表を務める。


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