Sep. 30 〜 Oct. 6, 2013

” #DearCongress ”


今週のアメリカは、議会で予算案が纏まらなかったことを受けて火曜日、10月1日午前零時からガヴァメント・シャットダウン=政府機関閉鎖に追い込まれていたのは 周知の事実。
アメリカ国民の怒りはもっぱら 一向に歩み寄りを見せず、妥協点を模索しようともしない議会に向けられていたけれど、 特に怒りの矛先になっていたのは オバマ・ケアこと 健康保険改正法案の実施を 1年延期しない限りは政府機関閉鎖も止むを得ないという姿勢を打ち出していた共和党側。 共和党は 既に40回以上 オバマ・ケアの阻止を試みては失敗しているだけに、 この後に及んで再びオバマ・ケアの阻止を 人質にして政治駆け引きをしようというのは、国民の目には 学習能力ゼロの馬鹿げた行為に映っていたのは言うまでもないこと。
でも共和党は共和党で、政府機関閉鎖の責任は 交渉に応じないオバマ大統領にあると主張して譲らないのだった。

10月1日からのガヴァメント・シャットダウンによって、国立公園や国立博物館等がクローズ。約70万人の政府職員が 給与の支払い無しに、 職務停止になってしまったけれど、アメリカ軍兵士に対しては給与が支払われるのに加えて、政府機関を閉鎖に追い込んだ議員達にも 引き続き給与が支払われるという不公平ぶり。
ガヴァメント・シャットダウン以前に行なわれた世論調査の段階で、既に支持率が米国史上最低の14%にまで下落していた米国議会は、 「未だ議会を支持する国民が14%も居るのか?」と、その支持率の低さではなく、高さに驚かれるほど 国民の怒りを買っている存在であったけれど、シャットダウンに突入してからからは ツイッター上では #DearCongress(ハッシュタグ・ディア・コングレス/#米国下院議会へ )がトレンディングのトップに浮上。
「アメリカ人であることを恥に思う」、「いい加減に子供みたいな振る舞いを止めろ!」、「次の選挙では全員落選させてやる!」、 「政府機関閉鎖中の給与をチャリティに寄付しろ!」、「お前らは全員 大馬鹿だ!」 といった怒りやフラストレーションのツイートが集中。 ”#DearCongress” は、2013年最大のトレンディング・ハッシュタグになることが見込まれているのだった。


もちろん、アメリカという国は政治とユーモアが切っても切り離せない国。
なので 今週はメジャー・ネットワークの夜のトークショーで、毎晩のようにガヴァメント・シャットダウンのジョークが聞かれていた他、 昨日、土曜日の「サタデーナイト・ライブ」では、番組のホストを務めたマイリー・サイラスのヒット曲 「We can't stop/ウィ・キャント・ストップ」を 「We did stop/ウィ・ディド・ストップ」という替え歌にして、政府期間を閉鎖に追い込んだ責任者の1人、共和党のジョン・ベイナー下院議員に扮した 番組キャストと、同じく共和党保守派のミッシェル・バックマンに扮したマイリー・サイラスが、そのプロモーション・ビデオのパロディを展開。 視聴者を大爆笑させると同時に、インターネット上でもそのビデオがセンセーションを巻き起こしているのだった。

でも笑っては居られないのが、政府援助の医療トライアルによる治療を待ちわびる人々。 ガヴァメント・シャットダウンによって、保健局の75%のスタッフが自宅待機となり、インフルエンザの季節を前に予防接種を行なえなくなったと同時に、 延期になってしまったのが 新薬投与を含む医療トライアル。アメリカでは毎週200ケースの政府援助の医療トライアルが新規に行なわれており、 その対象者の3分の1が子供達。 その医療トライアルに命が掛っているケースも少なくないと言われているのだった。
そんな中、日曜にはチャック・ヘーゲル国防長官の指示を受けて、国防省の30万人の政府スタッフが仕事に復帰することが明らかになった一方で、 もし週明けに 政府機能を取り戻す法案が投票に掛けられることがあれば、 民主党議員200人と、共和党議員22人の賛成票によって それが可決される目処も立っており、その場合はシャットダウンは終焉に向かうと見られているのだった。

とは言っても、10月17日に控えているのが さらに深刻な ”デットシーリング=債務発行限度額”の引き上げ問題。
デットシーリングを引き上げなければ、当然のことながらアメリカはデフォルトとなるけれど、 前回 デットシーリングの引き上げで、議会と政府が揉めに揉めたのは、2011年8月2日のデッドライン直前のこと。
当時はギリギリまでの攻防が続いた結果、債務限度が引き上げられてデフォルトは免れたものの、政治の駆け引きにデフォルトが使われたことが問題視され、 S&Pが史上初めてアメリカの国債をトリプルAからダブルAに引き下げるという事態が起こっているのだった。
また、デフォルトにならなくてもデットシーリングの問題が 当時のアメリカ経済にもたらしたダメージは13億ドル(約1270億円)と言われており、 もし今回、本当にデフォルトになった場合は 2008年の金融クライシス以上のリセッションに逆戻りすることが指摘されているのだった。
しかしながら危機意識が高ければ高いほど、債務限度引き上げ可決を条件に 再びオバマ・ケアの阻止を持ち出してこようとしているのが、 共和党の中でも極めて保守的な「ティー・パーティー」と呼ばれる勢力。 そしてその 「ティー・パーティー」の意図するままに、政策を譲らず、解決策を模索しないのが下院で過半数を占める 共和党なのだった。


そのオバマ・ケアは、政府機関が閉鎖状態になっても 予定通りに10月1日からスタートしており、 その初日には、オバマ大統領が新しい健康保険案によって恩恵を受ける国民をホワイトハウスに招いて、スピーチを行なっていたのだった。
オバマ・ケアは、雇用主が支給する健康保険、もしくはメディケア、メディケイドと呼ばれる 高齢者と低所得者のための保健制度に加入していない 人々全員に健康保険の購入を義務付ける一方で、これまで既往症が原因で 保険の購入を断られてきた人々や、 高い保険料の支払いを強いられてきた人々に対して、保険会社が差別することなく 通常価格による保険の提供を義務付けるもの。 メディケイドの対象にならないながらも、政府の定める貧困レベルの個人やファミリーに対しては、 保険購入と引き換えに 政府からの税金免除などのサポートが与えられることになっており、 健康保険でカバーされる最低のスタンダード・ガイドラインも法律によって定められることになっているのだった。
さらにオバマ・ケアでは、子供は26歳まで親の会社の健康保険でカバーされることになっているけれど、 企業は50人以上の社員を擁する場合、2015年までに社員全員に健康保険を提供しなければならないという規定。 これによって、多くのアメリカ国民が ヘルス・ケアの恩恵を受けると言われているものの、逆に危惧されるのは これまでカバーされなかった人々が保険の対象になるための 保険料の値上がり。
オバマ大統領は、「国民全員が加入することによって そのコストを相殺できる」と昨年の大統領選挙の最中から主張してきており、 保険に加入しない個人、及び社員に健康保険を支給しない雇用主には 税金という形でペナルティが課せられることになっているのだった。

前述のように 共和党側はこのオバマ・ケアを これまで40回以上に渡って阻止しようと試みており、 最高裁で違憲判決を取り付けようとして失敗し、オバマ・ケアが大きな争点になった昨年の大統領選挙でも敗北しているけれど、 それでも決して諦めようとしないのは、現時点でオバマ・ケア阻止という旗印が共和党が掲げる政策の中で 最も強く有権者にアピールしているため。
では、オバマ・ケアの何がそんなに共和党支持者に嫌われているかと言えば、 「 オバマ・ケアが実施された場合に、雇用主が 保険料負担を苦にして雇用を控えるため、失業問題が悪化し、経済成長がストップする」、 「オバマ・ケアが実施されると、保険料が値上がり、これまで通りのヘルスケアを受けられない」という反オバマ勢力の説を 信じる人々が多いため。
事実、昨年の大統領選挙の際には、大手ピザ・チェーンのパパ・ジョン、 世界最大の小売チェーン、ウォルマート等、オーナーが共和党を支持する大企業が オバマ・ケアで健康保険負担が増えることを理由に、スタッフの解雇、及びスタッフが保険支給の対象にならないように雇用時間をカットすることを 明らかにしていたのだった。

民主党寄りの政治コメンテーターの中には、「オバマ・ケアのバッシングは、共和党側がでっち上げたウソで 固められている」と指摘する声も多いけれど、 その一方で、オバマ・ケアを支持する人々でさえもが批判するのが、大統領や政府が オバマ・ケアに関する 国民の立場に立った 分かり易い説明を怠っているということ。
今週オバマ・ケアがスタートしているにも関わらず、現時点でそれがどんなものであるかを 理解していない国民は非常に多いのが実情で、 それは オバマ・ケアに反対する人の間でも、オバマ・ケアをサポートすると語っている人の間でも 共通の状況なのだった。


オバマ・ケアがスタートした10月1日に、メディアを通じて 保険に加入していない人々に対して大々的に働きかけられていたのが、 「Healthcare.gov/ヘルスケア・ドット・ゴヴ にアクセスするように」ということ。
ところがそのウェブサイトは、初日からアクセスが集中したためにダウン。 何度トライしても、エラー・メッセージが出て先に進めないという苦情が殺到し、 同サイトを通じて行なう登録のプロセスが行えない人々が非常に多いことがレポートされているのだった。
政府の発表によれば、同サイトには週末までに860万のアクセスがあったとのことで、 コール・センターでは 40万6000本の問い合わせに対応したというけれど、 現時点で何人の国民が保健を購入したか という数字は発表されていないのだった。
とは言っても、保険に加入していない個人は 向こう6ヶ月間に 自分の予算に合った 保険を購入すれば良いので、慌てる必要が無いのも事実。
しかしながら、国民がオバマ・ケアの知識が無いのを良い事に、政府を装って健康保険購入を促す携帯メール、Eメールを送りつけ、 ソーシャル・セキュリティ番号、クレジット・カード番号といった個人情報を盗もうとする詐欺行為の横行も今週は多数 レポートされていたのだった。



でもスタート時点で躓いているオバマ・ケアにアメリカ国民は理解を示しても、 国民の生活を全く省みず、聞き訳がない子供のように解決案も妥協策も模索しようとしない議会については、 ”呆れる”を通り越して、”見放す”というレベルにまで来ているのが現在のアメリカ。
それを象徴するかのように、政府機関がシャットダウンするという非常事態にも関わらず、 今週のメディア報道のトップになっていたと同時に、人々の関心が最も集中していたのが、 9月29日、日曜にニューヨークで起こった、暴走族の嫌がらせから逃れようとしたSUVのドライバーが、バイカーの1人を轢いてしまい、 その報復としてバイカーがドライバーに対して集団暴力行為に及んだという事件。
暴走族達が昼間だというのに、我が物顔で交通違反をする様子や、ドライバーの男性を車から引きずり出して 殴り掛る様子を収めた ビデオは、今週ネット上で最も閲覧されたもの。 この暴力行為に加担したバイカーは、そんな動かぬ証拠がインターネット上に溢れていることもあり、 事件直後に2人が逮捕され、その後 2人が自首してきているのだった。
さらに週末になって明らかになったのは、その暴走ライダーの中に ニューヨーク市警察の警官が6人も含まれており、 彼らがドライバーの男性を助けようともしなかったという事実。

こうした違法の暴走行為は、全米各州で苦情が寄せられている問題であるのに加えて、 そのビデオ映像がショッキングであったことから、同事件はあっと言う間に ローカル・ニュースから全米規模の報道に発展したのだった。
バイカーを轢いた車の中には、ドライバーの妻と2歳の娘が同乗していたというけれど、 暴走族のメンバーが 妻にも襲い掛かろうとした際に割って入って、騒動を止めたのは この日 教会に行こうして 現場を通りかかった51歳の男性。(写真上右のNYポスト紙の表紙で、中央に立っているスーツを着た男性)
彼は 数人のバイカーたちを落ち着かせて、ドライバーの妻と子供を守った勇敢な行為を示したことから、 今日 10月6日、日曜にニューヨーク市から感謝状が送られているだった。





執筆者プロフィール
秋山曜子。 東京生まれ。 成蹊大学法学部卒業。 丸の内のOL、バイヤー、マーケティング会社勤務を経て、渡米。以来、マンハッタン在住。 FIT在学後、マガジン・エディター、フリーランス・ライター&リサーチャーを務めた後、1996年にパートナーと共に ヴァーチャル・ショッピング・ネットワーク / CUBE New Yorkをスタート。 その後、2000年に独立し、CUBE New York Inc.を設立。以来、同社代表を務める。


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