Sep. 28 〜 Oct. 4 2015

” Peeple Can Be Ultinate Cyber Bullying App? ”
究極のサイバーいじめアプリ、
発売差し止め運動が起こる ”ピープル”とは?


今週一週間を通じて、ニューヨークで最大の報道になっていたのは、大雨をもたらしたストームとハリケーン・ホワキンのニュース。
幸い、ハリケーンはそのルートが東海岸から外れたので、ニューヨーク・エリアには被害をもたらさない見込みであるけれど、 ストームについては東海岸の5州で緊急事態宣言が出されるほどの直撃状態で、特にサウス・キャロライナ州コロンバスでは、 過去100年で最大の降雨量を記録。州全体でも一晩に平均で25cmの降雨量を記録し、5人の死亡が伝えられる 大災害になっているのだった。

また今週は、ロシアによるシリア爆撃のニュースも大きく報じられていたけれど、 週末になって報道が集中したのが、オレゴン州のコミュニティ・カレッジで起こった銃殺人事件。 犯人は26歳の学生、クリス・ハーパー・マーサーで、9人の犠牲者を出した同事件が通常の銃乱射事件と異なる点は、 犯人がクラスの学生1人1人にその宗教を尋ね、クリスチャンを射殺していたこと。 犯人は男子学生の1人に 封筒に入ったマニフェストを託し、バックアップを待たずに駆けつけた警官と 撃ち合った後、自殺を図っているのだった。

これを受けて、例によってオバマ大統領が、銃規制を呼びかける記者会見を行っているけれど、 アメリカでは ”マス・シューティング(大量射殺)”とカテゴライズされる4人以上の死者を出す銃殺人の件数は、 2015年以降だけでも294件。1日1回以上のペースで起こっており、銃で殺害された犠牲者数を先進諸国と比べると、 スイスの4倍、カナダの6倍、ドイツの16倍、オーストラリアの21倍、フランスの46倍になっているとのこと。
にも関わらず、銃所持の権利擁護の意見は国民の52%にのぼっており、今年に入ってから 銃規制を支持する意見(46%)を上回っているのだった。
実際、犯人クリス・ハーパー・マーサーの父親がメディアのインタビューで、 「息子が14丁もの拳銃を いとも簡単に手に入れられるシステムを法律で何とかするべき」と語ったのに対して、 打たれて怪我を負った被害者の母親は、「こうした事件に備えて、アメリカ社会では皆が銃を所持するべき」とコメントしており、 ”銃犯罪が増えれば増えるほど、銃規制から遠ざかる” というパラドックスが さらに根付いているのが 現在のアメリカ社会なのだった。




話は変わって、昨今アメリカで 物議を醸していると同時に、猛烈なバッシングを巻き起こしているのが 11月に発売予定のアプリ、”Peeple/ピープル”。
ピープルは、 「人間版の”Yelp/イェルプ”」と評されるアプリで、Yelpとは一般の人々が レストランの レビューを寄せるウェブサイトとして、もっと利用者が多く、信頼が確立された存在。 アメリカでは ミシュランやザガットよりも、人々がレストラン選びの参考にするのがYelpであるけれど、 新たに発売されるアプリ、”ピープル” は レストランの代わりに、自分の周囲の人々に対するレビューを書き込むアプリで、 相手の携帯電話番号さえ持っていれば、誰のプロファイルでも作成することが出来、 そのレビューやレーティングを書き込むことが出来るというもの。

”ピープル” は、1個人に対して、”Professionally / プロフェッショナリー”、”Personally / パーソナリー”、”Dating / デーティング”の 3つのカテゴリーについてレーティングをするシステムで、 アプリの製作者によれば、「商品を購入するにも、レストランに出かけるにも、レビューを参考にするのは今や当たり前。 ビジネスをする際にも、人付き合いやデートをする際にも、その人についてのレビューを読むことで、 人間関係を構築するにあたって 間違いの無い選択が出来るはず」というのが ”ピープル” の開発コンセプトなのだった。
これに対して、ツイッター、フェイスブック等のソーシャル・メディア上では、”ピープル” に対する大反論が展開されていて、その理由は 同アプリが 既にインターネット上で問題になって久しい ”サイバー・ブーリング(ネット上のいじめ)” の格好の 武器になりうるため。




人々が”ピープル”の何を危険視するかと言えば、 同アプリでは、誰もが無記名で 自分の周囲の人間のレーティングが出来るためで、 もし誰かによって自分のプロファイルが作成された場合、本人はそのプロファイルに書き込まれたコメントを消すことも出来なければ、 自分の意思とは無関係に作成された自らのプロファイル自体を削除をすることも出来ないという仕組み。
要するに、誰かが悪意でプロファイルを作り、虚偽に満ちたレビューと最悪のレーティングをした場合でも、 本人には それをどうする事も出来ない訳で、 これが”プロフェッショナリー”、”パーソナリー”、”デーティング” のどのカテゴリーで行われたとしても、 ビジネス、交友関係、恋愛関係にダメージをもたらすのは言うまでもないまでもないこと。

”ピープル”側は、「冒涜(ぼうとく)&いじめ、健康問題や身体の不自由に関するコメント、いかなるケースの虐待や性差別の コメントは排除する」 としてはいるものの、フェイスブック上でさえ、人種差別や青少年虐待のメッセージが野放しになっている状態なので、 2人の女性パートナーがインヴェスターをつけてクリエイトしたスタートアップのアプリ会社に、 不特定多数のレビューをモニターすることなど 不可能であることは目に見えているのだった。
そもそもYelpとて、数年前までは レストラン内部の人間がフェイク・レビューを寄せてレーティングを高くする一方で、 ライバル業者による不当なレーティングや、店が営業しているのに閉店をレポートをする営業妨害が多く、 Yelpが それに的確に対応出来ずにいたことは、ニューヨーク・タイムズ紙を始めとする多くのメディアで指摘されていた問題なのだった。

”ピープル”を危険視する多くの人々が指摘するのは、 「インターネット上の無記名の書き込みが如何に残酷、陰湿 かつ悪質で、人々をうつ病や、自殺に追い込んでいるか」ということで、 主要メディアのクリティックがこぞって 「”ピープル”自殺の第一号が出る前に、こんなアプリを発売するべきではない」と厳しく批判すると同時に、 セレブリティもソーシャル・メディアを通じて、同アプリ発売に反対する意見を打ち出しているのだった。
これに対して、”ピープル”のクリエーターは、同アプリが「ポジティブな人々のための ポジティブなアプリ」という主張を崩さないけれど、 同アプリに対しては発売中止を求める署名運動も起こっており、 発売前のアプリが これほどまでのネガティブ・パブリシティを獲得するのは極めて珍しいことなのだった。




私は個人的に アメリカ社会における銃と ”ピープル”というアプリ に共通点を見出していて、 それというのは、銃の場合は犯罪に対する”護身用” 、”ピープル”の場合は人間関係における ”護身用” というポジティブな用途を謳って、 普及している、もしくは普及させようとしているもの。 しかしながら前者が護身に役立った報道が全く聞かれない一方で、そのメジャーな用途は 1日1回以上のペースで起こる大量殺人や 銃乱射事件。 2001年以降、銃で射殺されたアメリカ人の数は 今週末の時点で15万3114人。 その中には親が所持する銃で、自ら、もしくは家族に銃弾を浴びせてしまう子供の例も含まれているのだった。
それを思うと、”ピープル”というアプリが、そのレーティングを参考にしながら人間関係のトラブルを防ぎ、失敗の無い交友&恋愛関係を築くことに 用いられるよりも、特定の個人への嫌がらせや、いじめ、八つ当たり、ネガティブ感情のはけ口に用いられても 全く不思議ではないもの。特にそれが無記名で行われる場合は 尚のことなのだった。

でも、自分のIDが分からないだろうと思って嫌がらせのポストやレーティングをしている人が油断するべきではないのは、 サイバー・フットプリント(インターネット上の足跡)というものが、そう簡単に消したり、ごまかしたり出来るものでは無いため。
アメリカでは、数年前に 同級生を自殺に追い込んだサイバーいじめの犯人が、世直しハッカー・グループによって突き止められて、 逮捕されたケースがあったけれど、今や同様のことを一律のフィーで引き受けるハッキング・サービスが、私立探偵のように ビジネスをするご時世。
そもそも、誰かの本当の姿を知りたいと思ったら、その人に寄せられたレビューやレーティングを読むよりも、 その人がソーシャル・メディアやウェブサイト上で行う無記名の書き込みや、Eメールを読んだ方がずっと確実に どんな人間性であるかが分かると思うのだった。


それとは別に、世の中には 人間性が賞賛に値しなくても 才能に溢れる人物というのが存在する訳で、その卓越した能力の持ち主が ”ピープル”のようなアプリのせいで、才能を生かすチャンスを逸することがあったら それは世の中のためにならないとも思うのだった。
例えば、私がこの秋封切りの映画で最も楽しみにしているのが「スティーブ・ジョブス」であるけれど、 スティーブ・ジョブスの高校時代からのガールフレンドであり、 彼の第一子の母親であるクリサン・ブレナンが、 スティーブ・ジョブスを 冷たく、薄情で、強迫観念に捉われた人物に描いた同作品を観て語ったのが、 「映画は美化された脚色。実際の彼はずっと酷い。中身まで腐っていた」というリアクション。
彼女以外にも スティーブ・ジョブスの人格を厳しく批判する人は多いけれど、彼の功績とレガシーは 誰にも否定することが出来ないのだった。

したがって”ピープル”というアプリが、発売にこぎつけるか、否かは別として、そのプロファイルに掲載される情報が、 人を判断する際に全く信頼に値しないことは確か。 でも侮れないのは、精神的に弱い人間に対しては、銃同様の殺傷能力があることで、 こんなアプリが出回ったらメディアの指摘同様、自殺やうつ病がますます増えると思うのだった。

Will New York 宿泊施設滞在



執筆者プロフィール
秋山曜子。 東京生まれ。 成蹊大学法学部卒業。 丸の内のOL、バイヤー、マーケティング会社勤務を経て、渡米。以来、マンハッタン在住。 FIT在学後、マガジン・エディター、フリーランス・ライター&リサーチャーを務めた後、1996年にパートナーと共に ヴァーチャル・ショッピング・ネットワーク / CUBE New Yorkをスタート。 その後、2000年に独立し、CUBE New York Inc.を設立。以来、同社代表を務める。

Shopping

PAGE TOP