Sep. 26 〜 Oct. 2 2016

”Hillary's Secret Weapon?”
ヒラリー・クリントン大統領選勝利の鍵を握るコメディアン、ケイト・マキノンとは?


今週のアメリカは、木曜にニュージャージー州ホーボーケンのターミナルで起こった、1人の死者と114人の負傷者を出す列車が大きく報じられていたけれど、 それ以外の報道が集中していたのが、月曜に行われたヒラリー・クリントンとドナルド・トランプの大統領選挙ディベート関連のニュース。
この日、自宅のエレベーターで乗り合わせた人に、「ディベート観る?」と訊かれたけれど、 知り合いでもない人にそんなことを尋ねられるほどに 全米の関心が集中していたのが月曜のディベート。 その視聴者数はストリーミングで視聴した人々も含めて、全米で約83万人。 常に100万人以上の視聴者数を獲得するスーパーボウルには及ばなかったものの、アメリカ史上最高視聴率の政治プログラムとなっていたのだった。

同ディベートは、アメリカ史上最も番組中にツイート&リツイートが行われたプログラムにもなったけれど、 ディベート中に最もツイッターがビジーになったのは、「地球温暖化はウソだなんて言った覚えはない」とドナルド・トランプが語った直後に リツイートされた「地球温暖化は中国流したデマだ」というトランプの過去のツイート。
でも今週、ツイートで忙しかったのは ディベートの視聴者だけでなく、トランプ自身もしかり。 ディベートの最中に話題に上った1996年のミス・ユニヴァース、アリシア・マチャドが。 当時体重が増えたことでトランプから受けたセクハラ、パワハラをメディアに語った事に対する腹いせのツイートを 午前3時にしていた様子は、どのメディアよりも露骨にトランプ支持を打ち出すニューヨーク・ポスト紙でさえ、土曜日の同紙のトップで問題視していたのだった。




このディベートの大方のリアクションは、ヒラリー・クリントンがオーバー・プリペアード(準備のし過ぎ)であったのに対して、 ドナルド・トランプがアンダー・プリペアード(準備不足)であったというもの。 実際、トランプは司会者の質問に答える替わりに、ヒラリー・クリントンのコメントへの反論でごまかすシーンが何度も見られた一方で、 ヒラリー・クリントンは事前に準備したトランプに対する攻撃内容を思い出しながら喋っていると思われるような まどろっこしさを度々感じさせていたのだった。
事前の予測通り、このディベートは既にどちらを支持するか決めている人々の気持ちを変えるようなものではなく、ヒラリー・クリントンも ドナルド・トランプも それぞれに自分らしく振舞っただけという内容であったけれど、メディアが注目したと同時に ディベートの翌日に大きな話題になったのが、 ドナルド・トランプが90分間に50回以上もヒラリー・クリントンの発言を遮ったという事実。 これはクリントン支持者にとってはトランプの短気さやマナーの悪さを象徴するものであり、トランプ支持者にとっては彼の高圧的なリーダーシップを象徴するもの。 でもこれが歴代の大統領候補同士、すなわち男性同士のディベートである場合、確実に発言を遮った方が批判の対象となり、 票が離れていった歴史を考えると、 男女平等が謳われて久しいアメリカでも、まだまだダブル・スタンダード(男女別に異なる社会的スタンダードが定められていること)が根強いことは、 メディアのコメンテーター、特に女性コメンテーターが指摘していたことなのだった。




さて今週末、ディベート同様にアメリカの関心を集めていたのが、42シーズン目を迎えた「サタデー・ナイト・ライブ(以下SNL)」のシーズンプレミア。
当然のことながら、そのオープニング・スケッチで描かれていたのが月曜のディベート。 実際のところ多くのアメリカ人が、SNLのスケッチのジョークを理解するために オリジナルのディベートにチャンネルを合わせていたとも言われるほど。 それほどまでに大統領選挙の年のSNLは、選挙戦パロディのネタが多く、しかもそれが実際の選挙戦より話題を集めたり、 選挙の行方にまで大きな影響を与えてきた歴史があるもの。

そのSNLプレミアで ヒラリー・クリントンを演じたのは、9月に行なわれたTV界のオスカー、エミー賞で SNLのコメディアンとして初めて演技部門を受賞したケイト・マキノン(写真上右)。 ドナルド トランプに扮したのは、俳優のアレック・ボールドウィン(写真上左)。
SNLの放映局であるNBCは、この2人のコメディス・ケッチ対決を今週ヘビーにプロモートしていたけれど、 SNLが近年で最も大統領選挙に影響を与えたと言われるのは、2008年のオバマ大統領が選出された際の選挙。 当時の副大統領候補、サラー ペイランを同番組の元キャスト、ティナ・フェイ(写真下左、左側)が演じたSNLのスケッチは、アメリカ人が涙を流して大爆笑する秀作で、 このスケッチがサラー・ペイランの存在を完全なポリティカル・ジョークにしてしまったのは周知の事実なのだった。




今回の選挙では、ケイト・マキノンの演じるヒラリー・クリントンが どれだけ笑いが取れるか、 すなわち彼女がヒラリーのアルター・エゴとして どれだけアメリカ国民にアピールするかが、 ユーモアのセンスと好感度に乏しいと言われるヒラリー・クリントンの票集めの鍵を握っていると言われ、 メディアがこぞって「SNLが大統領選の”ゲーム・チェンジャー” になるか?」と注目しているのもその点。
それというのも現時点でクリントン、もしくはトランプのどちらを支持するかを決めている人々は、投票者というよりも支持者。 したがって今から選挙までの5週間に何が起こっても気持ちを変えることは無いと思われるけれど、 まだどちらに投票するかを決めかねている人々にとっては、ほんの些細な事が投票の行方を左右するファクターになり得る訳で、 その意味では人々が好感を抱くのがヒラリー・クリントン本人ではなく、ヒラリーを面白可笑しく演じるケイト・マキノン(写真上右)であっても同じこと。

前回ヒラリー・クリントンが出馬した2008年にヒラリーを演じていたのは、現在コメディ女優となっているエイミー・ポーラー(写真上左、右側)であったけれど、 今回のヒラリー・クリントンの選挙キャンペーンで、前回よりも改善されていると言われるポイントが SNLのアルター・エゴ。 すなわち、今回のケイト・マキノンの方がエイミー・ポーラーよりも遥かに笑いが取れる存在になっているのだった。
アメリカの選挙にはポップ・カルチャーが大きな影響力を持つだけに、ヒラリー・クリントンが大統領選挙の勝利するには、リアリティTV「アプレンティス」が築き上げた 「トランプ=敏腕ビジネスマン」という偶像を崩すと同時に、ヒラリー・クリントンがケイト・マキノンが演じるヒラリー同様に ユーモアのセンスがある ライカブルな存在であるというイメージをアメリカ国民に植え付ける必要があるのだった。

私がこのコラムを書いている日曜には、ニューヨーク・タイムズ紙が 同紙に匿名で送付されてきたドナルド・トランプの1995年の税金申告書を掲載。 この年、トランプが企業としてではなく、個人で約10億ドル(約1000億円)の負債を計上し、 その殆どが税控除の対象となるため、その後18年は税金を支払っていなかったというニュースが大きく報じられたけれど、 こんなニュースを聞いたところで、一向に揺らぐことが無いのが 既に盲目的にさえなっているトランプ支持者の忠誠心。
アメリカの大統領選挙が ここまで善悪に盲目的になったのは過去に例を見ないけれど、そんな状態であるからこそ 正当な理論や政策よりも ポップカルチャーを通じたアプローチの影響力が大きく物を言うことが見込まれているのだった。

ちなみに、今週末のSNLのジョークで私が最も笑えたのは、クリントンをアイフォン7、トランプをギャラクシー・ノート7に例えて、どちらを選ぶかについて語ったジョークで、 「アイフォン7は(モデルが変わったから)買えとばかりに押し付けられている気がする上に、大した改善が見られないけれど、 ギャラクシー・ノート7はいつ爆発するか分からない」というもの。
これから選挙までの間、SNLだけでなく、夜のトークショー等でも こうしたポリティカル・ジョークやメタファーの数々を聞くことになるけれど、 笑ってばかりも居られないのが今回の選挙なのだった。



執筆者プロフィール
秋山曜子。 東京生まれ。 成蹊大学法学部卒業。 丸の内のOL、バイヤー、マーケティング会社勤務を経て、渡米。以来、マンハッタン在住。 FIT在学後、マガジン・エディター、フリーランス・ライター&リサーチャーを務めた後、1996年にパートナーと共に ヴァーチャル・ショッピング・ネットワーク / CUBE New Yorkをスタート。 その後、2000年に独立し、CUBE New York Inc.を設立。以来、同社代表を務める。

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