Oct. 6 〜 Oct. 12 2008




” Don't Trust Your Bank! ”


今週のアメリカは株式市場が連日の暴落を見せた結果、 NYダウがこの1週間だけで失ったマーケット・バリューは18%。 1年前の今頃にダウが史上最高値をつけた時点と比べると、今週は40%も値を下げていることになるのだった。
そんな中、月曜には倒産したリーマン・ブラザースのCEO、リチャード・フルド (写真左) が下院の公聴会で証言を行ったけれど、 質問を行う下院のメンバーは、彼の名前を「フォルド」、「フード」などと間違って発音しており、「金融音痴ぶり」をさらけ出していたのだった。 過去8年間に、$500ミリオン(500億円)のサラリーとボーナスを受け取った リチャード・フルドは、 リーマン・ブラザースの持ち株で大きく財産を減らしたために アート・コレクションを売りに出していることが伝えられるけれど、 それでも 世界に数軒の家を持つ彼の 個人資産は約100億円。
公聴会には彼に抗議する人々が詰め掛けていたために、セキュリティにガードされて会場を去ったリチャード・フルドであるけれど、 彼に対しては「刑務所に行くべきだ!」という厳しい野次が飛び交っていたという。

その翌日 火曜日には、国民の税金$85ビリオン(約8兆5000億円)で、ベイルアウト(救済)されたA.I.Gの元エグゼクティブ2人が やはり下院の公聴会で証言を行ったけれど、 この席で明らかになったのが ベイルアウトの僅か1週間後に、 A.I.Gのエグゼクティブ達がカリフォルニアのセント・リジス・ホテルで、44.2万ドル(4420万円)の経費を使った週末を楽しんでいたという事実。
この内訳はホテルの客室代に約2000万円、食事代に1500万円、フェイシャル、マニキュア&ペディキュア、マッサージなどの スパ・トリートメントに230万円という とんでもないもの。 この他にも過去8年間に$280ミリオン(約280億円)のサラリーとボーナスを支払って 後に解雇したエグゼクティブに 対し、 全く必要の無いコンサルタントの職を与え、毎月1億円のフィーを支払い続けているなど、 ゴールデン・パラシュートの体質も 全く改善されていないことが露呈されたのだった。
結局、月曜に証言を行ったリチャード・フルドもA.I.Gのエグゼクティブも謝罪や自分達の行為に非があったことは 一切認めず 人々の怒りを買っただけに終わった聴聞会であったけれど、 A.I.Gは政府が救済のために投入した$85ビリオン(約8兆5000億円)のうち、$61ビリオン(約6兆1000億円)を10月3日までに使い切っており、 聴聞会の2日後には さらに$35ビリオン(約3兆5000億円)のキャッシュの投入が発表されているような状態。
こういう資金の使われ方と 株の暴落ぶりを見せつけられては、 「$700ビリオン(約70兆円)を投じたベイルアウトが失敗に終わる」と 感じるアメリカ国民が非常に多いのは無理も無いことなのである。

そんな今週月曜に、 私は久々に日本人の女友達5人とのディナーで、イタリアン・レストランに出かけたけれど、 テーブルに座った途端に、まず話題に上ったのが ファイナンシャル・クライシス。 女性が5人も集まって、ファッションやビューティーやゴシップよりも先に 経済について語り合ってしまうというのは、 極めて異例なことだけに、私はこの問題が社会に与えているインパクトの強さを改めて 感じてしてしまったのだった。
でもアメリカの経済がこんな悲惨な状態になっている中、少々意外な展開を見せているのが外国為替市場で、 ドルが益々弱まるかと思いきや、 先週はユーロ、カナディアン・ドルなどの通貨が 軒並み ドルに対して値を下げており、 その中で唯一値を上げたメジャーな通貨が日本円。この状況は 「現在日本の銀行が アメリカやヨーロッパより遥かに安定しているため」と説明されているのだった。


さて話は替わって、私が過去数週間に渡って、毎週土曜日に欠かさず参加していたのが ピンポン・トーナメント である。
どうして こんなトーナメントがスタートしたか?と言えば、その経緯は先ず、 とあるウォールストリートのエグゼクティブ(噂ではリーマン・ブラザース)が 業績悪化で 今年は高いボーナスが望めない ために 春先にハンプトンのサマー・ハウスを売りに出そうとしたところ、 不動産業者にパティオに置いてあった ピンポン・テーブル(卓球台)が 「イメージダウンになるので 撤去するように」と言われたという。 このピンポン・テーブルが回りまわって、7月半ばに辿り着いたのが 私が参加するピンポン・トーナメントの主催者2人のアパート。
2人は もう 1人のルームメイトと共に3人で ダウンタウンのアパートをシェアしており、 ダイニング・テーブル兼 時々ピンポンを楽しむ目的で このテーブルを貰ってきたという。 ところがピンポン・テーブルが思いのほか大きく、3人がシェアするエリアには入りきれない上に、ダイニング・テーブルに使うには 椅子との高さも合わず、ピンポン・テーブルは暫くの間 折りたたんで壁に立てかけたままだったという。
そうするうちに、春先からずっとレイオフされて無職だった 3人目のルームメイトが、 38回目のインタビューにしてやっと シカゴのヘッジファンドに就職が決まって アパートを出て行ってしまい、代わりに新しく入ることになったルームメイトは デポジットの小切手が不渡りになるようなお金の無さ。次に決まったルームメイトも、新しい仕事に就く前に 就職を取り消されてしまい 入居出来なくなってしまったという。
そこで残された2人は、空いているベッドルームにピンポン・テーブルを広げて、 時間がある時に2人でプレーをして、「負けた方がレントを多く払うこと」という賭けを始めたという。 ところが、馬鹿にしていると このピンポンが意外にも 楽しくて はまってしまう ということで、「いっそ友達を誘って トーナメントをしよう!」ということになったのが この週末のピンポン・トーナメント。 参加者は皆、ワインやスナックを持ち寄る他に、主催者のレントのために毎回15ドルをチップイン(献金)することになっているけれど、 土曜、日曜にそれぞれ15人前後の参加者が集まるので、主催者側は空いているベッドルームのレントを それで悠々賄うことが出来る訳である。
このピンポン・トーナメントはリセッションが招いた状況が重なりに重なって 開催されることになったものなので、 当初は ”リセッション・ピンポン・トーナメント ” と呼ばれていたけれど、 経済があれよあれよという間に悪化したのを受けて、3週間前からは ”ファイナンシャル・クライシス・ピンポン”と呼ばれるようになり、 クレジット・クライシスが諸外国に広く及んだ今では ”グローバル・ファイナンシャル・クライシス・ピンポン” というように、 どんどんそのネーミングが深刻化してきたけれど、 私を含む参加者は ピンポンのプレーを楽しむ一方で、その合間に 日頃の人間関係とは異なる人たちと情報交換をしたり、ブッシュやヘンリー・ポルソン(財務長官)の悪口、 ファイナンス・ジョークなどを語り合って、楽しむのが目的で毎週 通っているのだった。

参加者の中には私のような自営業者が2人ほど居るけれど、今週そのうちの1人の男性が語っていたのが 「銀行に勧められて オーバードロウン・プロテクションのプランに加入した」ということ。 このオーバードロウン・プロテクションとは、銀行口座にある残高以上のチェック(小切手)を切ってしまった場合に、 不渡りにならないように、銀行が足りない金額を補充してくれるものだけれど、 これによって銀行に借金をしていることになるのだから、それに利息が付くのは言うまでも無いこと。
どうして彼がこのプロテクション・プランをつけたかといえば、 最近 クレジット・カードの売り上げが口座に振り込まれるスピードや、 支払いとして受け取った小切手が換金されて口座に振り込まれるスピードが確実に遅くなっているため。 これまでならば、彼は月末に纏まった売り上げが入ってきて、それで月末に請求が来る クレジット・カードやモーゲージ(住宅ローン)を支払っていたというけれど、 今では請求書の締め日が早くなって月末前に来てしまうのに、売り上げが振込まれるのには時間が掛かって、入金が翌月になってしまうこともあり、 その時間差のせいで 銀行の残高が限りなくゼロに近付いてしまうという。 このため、不渡りを防ぐために プロテクション・プランに加入することにしたというのが彼の事情なのだった。

実は私も今年3月、忘れもしないベア・スターンズが、JPモーガン・チェイスに買い取られた翌週に、わざわざ銀行に呼び出されて あわやこのプランに加入させられそうになったのだった。
この時は 銀行の担当者から電話が掛かってきて、「ビジネス・アカウントの規約が変わったので、それを説明するから来て欲しい」 と呼び出され、当時、税金のファイリングでボロボロに疲れた身体に鞭を打って出かけたところ、 1時間も掛けてこのプロテクション・プランに入るように説得されたのだった。
私は個人としては、「チェック(小切手)が不渡りになるほどキャッシュが無くなったらビジネスは閉めるべき」というのが持論なので、 「こんなプランは必要ない」 と考えていたけれど、「プロテクション・プランは 使わなければ一切フィーが掛からないし、入っていた方が、 会社のクレジット・スコア(アメリカの金融機関が目安にする支払い能力、信用力の格付け)が良くなる」と言われたのに加えて、 「嫌だったらいつでも解約すれば良い」とのことだったので、とりあえずはプランに入ることにしたのだった。
ところがその後、担当者が何の説明もなく訊いて来たのが、私の個人資産についての広範囲に渡る質問。 加えて彼は私個人のクレジット・スコアをあっという間にプリントアウトして持って来て 「ポイントが高い」と妙に感心していたのだった。 ちなみに私はアメリカに来てからというもの、支払いという支払いは 全て期日内に行ってきているので、 クレジット・ヒストリーが悪いはずはないのである。
でもそんな当たり前のことで おだてられたせいもあって その日はとりあえず、プランに仮加入するサインだけして戻ってきたけれど、 夜になって頭を冷やしてみたら、どうして会社の口座の不渡りのプロテクションに私の個人の財産が関係するのかが 腑に落ちなくなってきたのだった。 加えて 担当者からは ミーティングの本来の目的であったはずの「ビジネス・アカウントの規約が変わった」 という部分の説明は全く無く、 最初からこのミーティングは私をプロテクション・プランに加入させるためだけのものだったことに 遅ればせながら気付いた私は、 むしょうに腹が立ってきてしまったのだった。
なので、翌朝9時には銀行に電話を掛けて、この加入をキャンセルしてもらっただけでなく、 「担当者がこの税金のファイルで忙しい時に、本来の目的とは異なる理由で ミーティングをセットアップして、 詳しい説明もしないで プロテクション・プランに仮のサインをさせた」 とクレームをすることになったのだった。

こんな事が起こると、銀行とて信用が出来ないので 私は翌日再び銀行のビジネス部門に電話をして 自分の会社が プロテクション・プランに入っていないことを再確認してしまったけれど、 私が加入をキャンセルしたことを知って、しつこく電話をしてきたのが銀行の担当者。
私はこの段階で、彼に対して物凄く腹を立ててこともあり、 「ビジネス・アカウントの規約が変わった」と事前に言っておきながら、一切それについての説明が無かったことについて文句を言って、 「一体ビジネス・アカウントの何がどう変わったのか?」の説明を求めたところ、彼はシドロモドロになってしまったのだった。 さらに、「会社のアカウントのプロテクション・プランの加入に際して、どうして個人資産について訪ねたのか?」を問いただしたところ、 「それは、会社が支払えなかった場合に、個人の資産からの支払いを・・・」などとモゴモゴ説明しだしたので、 「そういう説明は加入時に行うべきものだし、これじゃあ銀行とて 詐欺と大して変わらない」と 彼をなじってしまったのだった。
そもそも、私は会社をスタートする段階で弁護士に勧められて、 会社に何かが起こった時でも自分の財産が守られるように 会社を設立しており、会社と個人を分ける代わりに それぞれの税金を2重に払い続けてきた訳である。 なので、こんなプランに入れられてしまったら、これまで2重課税に耐えてきた努力が水の泡になってしまうのである。
私は怒ると余計な事を言ってしまう悪い癖があって、 この時、担当者に 「あなたがどの程度の教育を受けたかは知らないけれど、こんな人を欺くようなビジネスをして恥ずかしくないの? 大体、貴方が何人クライアントを欺いたところで、こんなご時世の銀行っていうのは 業績に関わらず従業員をレイオフするものなんだから 」 と 捨て台詞を言って早々に電話を切ったのを覚えているけれど、実際のところ 夏休み前になって 銀行から担当者が変わったと連絡があり、 「前の担当者は別の支店に移った」と説明を受けたのだった。
銀行というところは、普通の企業がレイオフされた社員について 「He's no longer with us」 などと説明する代わりに、 「別の支店に移った」 というのが常なので、彼が果たして本当に別の支店に移ったのか、レイオフされてしまったのかは 定かではないけれど、そんなことは 私にとってはもう どうでも良い事である。

なので、私が ピンポンで出会った 男性経営者に忠告したのは、 銀行の ”プロテクション・プラン”とは名ばかりで、実際はお金が苦しい人からさらにお金を搾り取るプランであるということ。 そもそも銀行が小さなビジネスに対してこのプランに入って欲しいのは、 たった1日でも入金が間に合わなくて 小切手の不渡りが出れば、不渡りのフィーに加えて、立替金額の利息で儲けられるため。
カード会社にしても、支払いの締め日を 突然2日ほど早めることがあるけれど、 アメリカ人の中には自分のカードの明細をきちんとチェックしないどころか、締め日もちゃんと把握していない人が少なくないそうで、 「毎月7日」などと思い込んで、支払いが僅かに遅れたために 30ドル〜50ドルの レイト・フィーを支払うことになっているという。 こうしたレイト・フィーや様々なファイナンシャル・チャージはカード会社や、銀行の重要な収入源。 ラスヴェガスのカジノにしてもハイローラーよりも、 スロットマシーンやルーレットで200ドル程度負けて大人しく帰っていく 一般庶民からの収益が70%を占めるというから、庶民から吸い取る小額のフィーが ちりも積もれば山となるのは どの世界でも共通した認識なのである。

私はアメリカのクレジット・カードの支払いが銀行からの自動引き落としにならないのは、 現行の 毎月支払い金額を自分で決めるシステムだと、どの程度の利子が付くかを深く考えずに全額返済をしない人が 多い上に、支払い期日を忘たり、間に合わない人が少なくないので、利息とレイト・フィーで儲けられるからだと思って疑わないけれど、 アメリカという国は ローンを奨励する一方で、その借金の恐ろしさには蓋をしてしまう社会。
例えば、新聞の折込広告を見ても フラット・スクリーンTVが「月々29.98ドルの支払いで手に入る」とは書いてあっても それを何回払い続けることになるのか?という明記は一切無いのである。 これが日本だったら、 「お金があるんだったら早く払って欲しい」というカルチャーなので、 一括払いと分割払いの価格差が比較できるようになっているけれど、アメリカのローン社会の悪いところは お金がそれほど無い人達に 小額を限りなく払い続けてもらおうとするところ。 その結果、分割払いでTVを買った人は 知らない間に通常価格の約2倍を支払っていることになる訳だけれど、 住宅ローンにしても自動車ローンにしても、そうやって実際価値を遥かに上回る金額を ミドルクラス以下にチビチビ払わせることによって潤ってきたのがアメリカのクレジット社会なのである。
したがって、同じ価値のものを購入するにしても 貧しい人ほど 利息のせいで多額を支払うことになる訳だから、 アメリカ社会で貧富の格差が開き続けるのは当然のことなのである。

でも今のファイナンシャル・クライシスは、ミドルクラス以下の人々だけでなく、財産運用をヘッジファンドに任せているリッチ・ピープルにとっても、 ウォールストリートのブローカー、アナリストなどにとっても深刻な大打撃になっているもの。
なので特に、毎日のようにダウが下がり続けた今週は、苦しい時の神頼みということで、 それまで昼休みには50人の信者が祈りを捧げに来ていたと言うウォールストリートのトリニティ教会(写真左)には、 110人もの信者が足を運ぶようになっていたという。
でも作家オスカー・ワイルドの言葉に、 「When the gods wish to punish us they answer our prayers (神は人々に罰を与えようとする時、 祈るものを罰するもの)」というものがあるけれど、これは言ってみれば 「祈らなければならない人こそが罰せられる人々」とも受け取れるもの。 ウォールストリートのバンカー達も 散々好き勝手にリスキーな投資で儲けてきて、破綻したら 後は神頼みではあまりに情け無いというものである。

ところで、私は昨今ベンジャミン・フランクリンの言葉を2回ほどコラムで引用しているけれど 本を読むのが嫌いな私が好んで読むのが、ベン・フランクリン、オスカー・ワイルド、マーク・トゥウェインなどの 語録集。彼らの言葉は、たった1行で 本を一章を読む以上の知恵や教訓を与えてくれるもの。
そのマーク・トゥウェインの言葉に 「A banker is a fellow who lends you his umbrella when the sun is shining, but wants it back the minute it begins to rain. (バンカーというのは、晴れている時には傘を貸し出して、雨が降り出した途端にそれを返せという人々)」 というものがあるけれど、 こんなファイナンシャル・クライシスに陥ってしまった今では、 果たしてどれだけの銀行に傘を貸し出す余力があるのかさえ 疑わしい状況になってしまっているのである。





Catch of the Week No. 1 Oct. : 10 月 第 1 週


Catch of the Week No. 4 Sep. : 9 月 第 4 週


Catch of the Week No. 3 Sep. : 9 月 第 3 週


Catch of the Week No. 2 Sep. : 9 月 第 2 週






執筆者プロフィール

秋山曜子。 東京生まれ。 成蹊大学法学部卒業。
丸の内のOL、バイヤー、マーケティング会社勤務を経て、1989年渡米。以来、マンハッタン在住。
FIT在学後、マガジン・エディター、フリーランス・ライター&リサーチャーを務めた後、1996年にパートナーと共に ヴァーチャル・ショッピング・ネットワーク / CUBE New Yorkをスタート。
その後、2000年に独立し、CUBE New York Inc.を設立。以来、同社代表を務める。