Oct. 3 〜 Oct. 9 2011

” Stay Hungry, Stay Foolish ”


今週のアメリカは、大きなニュースが多く、週明けの大報道が、週末になってみると先週のことのように思えるほどだったけれど、 まず週明けのメディアを賑わせたのが、2007年にイタリアのぺルジアに留学中、イギリス人ルームメイトを殺害した罪で有罪となっていたアメリカ人学生、 アマンダ・ノックスが4年の月日を掛けた控訴審で逆転の無罪判決を獲得したというニュース。
この事件は非常に不可解な点が多く、アマンダ・ノックスの他に、彼女の当時のボーイフフレンドであるラファエル・ソレシト、 そしてアフリカのアイヴォリー・コースト出身のルディ・グエドが有罪となって服役していたけれど、今回の判決でアマンダとラファエルは 自由の身となり、ルディ・グエドが当初30年を16年に減刑された懲役を続けている状態。 控訴審の最中には、ルディ・グエドが他の服役囚に「アマンダ・ノックスは殺人現場には居なかった」と語ったという噂が流れたけれど、 最終的に彼女を無罪判決に導いたのは、一審の有罪判決の決め手であったDNA証拠の採取がいい加減な手法で行なわれていたことが立証されたため。
また、アメリカのメディアがこの裁判に注目し、イタリアの法廷システムの問題点や、証拠採取のやり方などを 大きく批判したことが、ぺルジアの法廷にプレッシャーを与える結果となったことも指摘されていたのだった。

でも、DNA証拠の信頼性が否定された今でも、現地の人々や被害者家族が「アマンダ・ノックスが殺人に関わっている」と信じているのは、 第一審での 彼女の不可解な行動がメディアで大きくクローズ・アップされ、魔女裁判的な有罪と決めて掛る状況がクリエイトされてしまったため。
これは蓋を開けてみれば、当時 未だ21歳で裁判にどんな服装で、どんな態度で臨むべきかも知らなかった彼女が、 周囲に誰もアドバイスしてくれる人間が居ないままに、薄いTシャツ&ジーンズ姿で法廷に現れたり、殺人罪に問われているにも関わらず、 法廷で微笑む様子などが、メディアで大きく報じられ、さらにルームメートとボーイフレンドとの三角関係、 レイプまがいのセックスの挙句にルームメイトを殺害したというような、いかにもイタリアのマスコミが飛び付くような 筋書きを検察側が事件のプロセスとして でっち上げため。
なので、アマンダ・ノックスはDNA証拠の信憑性が覆されるまでは、セックスとドラッグにまみれた留学生活を送っていた ふしだらなイメージでイタリアのメディアに報じられていたのだった。

アマンダの両親は、離婚しているものの 協力して娘の無罪を勝ち取るために、過去4年の間に 年に6回はイタリア入りし、お互いに借金をしてまで、その旅費と裁判費用を支払っており、 破産どころか億円単位の借金を抱えている状態。
アメリカ国内では、アマンダ・ノックスに対する同情が集まっているだけに、今後彼女が服役中に書いていた日記の出版や、 メディアとの独占インタビュー、さらには彼女の体験をTV番組化、もしくは映画化することにより、借金を支払った後でもミリオネアになれるくらいの 収入を得るのは ”当然の権利” と見られているのだった。


そして、もう1つの今週の大きなニュースと言えるのは、世界中で大きく報じられている通り、 アップルの創設者、スティーブ・ジョブスが10月5日に死去したというニュース。
既にすい臓がんと診断されて7年が経過し、過去2年は特に、その体調不振がニュースになっていた同氏は、 約6週間前にアップル社のCEOを辞任したばかり。 多くの人々にとって突然のイメージがあったスティーブ・ジョブス死去のニュースであるけれど、 本人は、死期を悟っていたようで、彼は最後の約1週間を 家族とごく親しい友人達に別れを告げるために過ごしたことが伝えられているのだった。

11月半ばには、生前の彼の名言を集めた「I, Steve: Steve Jobs In His Own Words / アイ、スティーブ:スティーブ・ジョブス・イン・ヒズ・オウン・ワーズ」が出版される ことになっているけれど、これは死去以前から出版が予定されていた書籍。
でも、スティーブ・ジョブスの追悼報道の中で最も頻繁に取り上げられていたのは、2005年に彼がスタンフォード大学の卒業スピーチの中で語った言葉の数々。
このスピーチの全文はスタンフォード大学のウェブサイトに掲載されているので、私もこのコラムを書くにあたって それを読んだけれど、既にその1年前にすい臓がんと診断された彼は、スピーチの最後で ”死” について語っているのだった。

スティーブ・ジョブスは17歳の時、「もし毎日を人生最後の日と思って生きることが出来れば、いつの日かほぼ確実に正しい人生を送れるだろう」という言葉を読んで、 それに強烈な印象を受けたという。以来彼は毎朝鏡を見て、「もし今日が人生最後の日だったら、自分は今日これからしようとすることをやるだろうか?」と自問自答してきたそうで、 「No」という答えが何日も続いた場合は、何かを変えなければならないのだと悟ってきたという。
彼曰く、”死”というものは、誰もが避けて通りたいものであるけれど、誰一人として逃れられない宿命であり、同時に人生における最高の”発明”であるという。
「死によって、老いた者は若い者に道を譲らなければならない、すなわち変化がもたらされることになる。 近い将来、君達にも若い世代に道を譲らなければならない日がやって来る」と、これから社会に出る学生達に語りかけ、 「君達に与えられた時間は限られている。だから他人のための人生を送って 無駄にしてはいけない。 他人がどう思うか というドグマに囚われてはいけない。周囲の意見という雑音で、自分の内なる声をかき消してはいけない。 最も大切なことは、自分の心と直感に従って生きる勇気を持つこと。心と直感こそが自分が本当に何になりたいのかを察知している。 それ以外のものは、二の次に過ぎない」として、死を迎えるまでの限られた時間を周囲の目や意見に惑わされることなく、自分の信念に従って生きるべきであると 力説しているのだった。

そして、最後のはなむけの言葉としてスティーブ・ジョブスが学生達に贈ったのが、60年代後半から70年代にかけて彼が好んでいた出版物、「ザ・ホール・アース・カタログ」 の最終号の裏表紙(写真右)に書かれていたという言葉、「Stay Hungry, Stay Foolish / ステイ・ハングリー、ステイ・フーリッシュ」。
「ザ・ホール・アース・カタログ」からの請け売りの台詞ではあるけれど、それが彼のビジョンや生き方を如実に反映していただけに、 同スピーチ以来、この言葉はスティーブ・ジョブの最も有名な名言となっており、彼の追悼特集にも欠かせない言葉になっていたのだった。
スティーブ・ジョブスのスタンフォード大学でのスピーチを、その場で卒業生として聞いた学生の中には、当時好況で スタンフォードのような 一流大学の卒業生なら いくらでも高額収入の仕事が探せるにも関わらず、自らの信じる道を選んで成功している人々も居り、 今週の彼の追悼報道の中では、このスピーチが如何に彼らの人生を変えたかも報じられていたのだった。

こうしてプロダクトや言葉を通じて、人々の人生にポジティブなインパクトをもたらすのは本当に凄いことだけれど、 スティーブ・ジョブスほど明確で、夢のあるビジョンを持ったCEOは、きっとこの先もそう簡単には現れないように思えるのだった。
今や、アップル社はアイパッドの大ヒットも手伝って、アメリカ国家よりキャッシュが多いほどのメガ企業に成長しているけれど、 今後益々激化が見込まれているのが、グーグル率いるオープン・ハンドセット・アライアンスが開発したアンドロイドをオペレーション・システムとする スマートフォンやタブレットとの競争。 スマートフォンの世界では、インターネットをブラウズする抜群の早さで、 アンドロイドがアメリカの市場の3分の1を獲得してトップとなっており、 タブレットの世界でもアンドロイドを使ったキンドル・ファイヤーがアイパッドの半額の値段で市場を拡大すると見込まれているのが現状。
スティーブ・ジョブスの死去前日に発売されたアイフォン5の評判がさほど芳しくないことも手伝って、 今後アップルがスティーブ・ジョブスのビジョン無しで、激化する競争をどう戦っていくのかが注目されているのだった。




さて、今週で4週目に突入したオキュパイ・ウォール・ストリートのデモも、引き続き大きく報じられていたけれど、 規模が益々大きくなる一方で、参加人数が増えるだけでなく、その組織化が益々進んでいることが指摘されているのだった。
オキュパイ・ウォール・ストリートは今週、ノン・プロフィット・オーガニゼーションとして、寄せられる寄付などに対する税金免除のステータスを獲得。 本拠地となっているズッコッティ・パークには、気温低下に対応するためにソーラー・パワーのヒーティング・システムや、 暖かいフードを提供するための仮設キッチンが設置されているのだった。 水曜には、ニューヨークの労働組合が加わって、過去最高人数のデモンストレーションが行なわれたけれど、 同様の運動は、今週全米45州に広がりを見せ、フェイスブック上では45万人以上がオキュパイ・ウォール・ストリートやその関連グループに 加わっているという。

週末には、ズッコッティ・パークが手狭になったことを受けて、ワシントン・スクエア・パークにも参加者が陣取り始めているけれど、 先週のこのコラムにも書いた通り、ズッコッティ・パークにはトイレが無いため、デモの参加者が カフェなどのトイレで行列を作っており、 これを受けて周辺の住民が文句を言い始めていることも報じられているのだった。
また、オキュパイ・ウォール・ストリートが大きく報じられるにしたがって、加わってきたのがそもそも運動には関係ない人々。 すなわち、単なる出会いやエキサイトメントを求めてやってくる若者や、寝る場所やフードを求めてやってくるホームレス。
当然のことながら、人数が増えてくると 飲酒、ドラッグ、セックス等が絡んで 規律が乱れることも指摘されており、 これを受けて、運営側はそうした本来の目的とは関係ない人々や行為を取り締まるための警備チームを設けて、 規律を守り、デモという活動のみにフォーカスする動きに出たことも報じられているのだった。

ここまでムーブメントが大きくなってくると、さすがに政界もこれを無視する訳には行かなくなってきており、 ブルームバーグ市長や、ウォール・ストリートと結束の固い共和党議員は、こぞってオキュパイ・ウォール・ストリートのデモを、 「ベトナム反戦運動と対して変わらないデモ」、「アメリカを分裂させる活動」などとコメント。
またニューヨーク・ポスト、フォックスといったニューズ・コーポレーション傘下の 共和党支持右寄りのメディアも、 今週から かなり厳しい論調で 同ムーブメントを叩きにかかっているのだった。 その一方で、オバマ大統領は「人々が怒りのメッセージを伝えようとするのは理解できる」とコメント。 これに対して共和党側は、「大統領はデモを煽って、国民の怒りを自分の手腕不足からウォール・ストリートに向けさせようとしている」と反発しているのだった。
一方、アンドリュー・クォモNY州知事(民主党)は、「人々の怒りは理解できるけれど、税収という面ではニューヨークはウォール・ストリートを重視せざるを得ない」と どっちつかずのコメントをしているけれど、デモに参加している人々の意見は、「一般の人々がファイナンシャル・クライシスで、 どんどん生活が悪化している中、一部の投資家やバンカーだけが儲け続けて、貧富の差がここまで開いてしまうのはおかしい」というもの。 「ウォール・ストリートからの税収が減っても、フェアな経済システムで一般の人々の収入がアップすれば、その分の税収で賄える」というのがその意見なのだった。

一般的に 「大規模なデモンストレーションが起こっている」というと、街が危険なのでは?というイメージを持つ人々は多いようであるけれど、 オキュパイ・ウォール・ストリートは至って平和的な運動で、道行く人達はデモの参加者に声援を送っているような状態。
またオキュパイ・ウォール・ストリート側も自分達が暴力的な行為や、犯罪行為をすれば、現在広く一般の人々から寄せられている寄付や支持を失うこと くらいは理解した上で、理性的に行なわれているデモであることは紛れも無い事実なのであった。

口の悪いウォールストリートのバンカーの中には、今週、オキュパイ・ウォール・ストリートの参加者のことを 「ステイ・ハングリー、ステイ・フーリッシュ」と からかう声があったというけれど、 私は、ウォール・ストリートに対しては厳しい意見を持っていて、金融の友人とは意見が全く合わないこともしばしば。
でも、オキュパイ・ウォール・ストリートの参加者が スティーブ・ジョブスのスピーチの中にあったように 「もし今日が人生最後の日だったら、自分は今日これからしようとすることをやるだろうか?」という問いかけを毎朝した場合、 どれだけの人々が「Yes」と答えるだろうか?ということには興味があるのだった。
もし答えが「Yes」で、自分の内なる声がムーブメントへの参加を促しているのならば 大いにやるべきだと思うし、 「No」という答えが何日も続いたならば、スティーブ・ジョブスが語っていた通り、自分がしていることの何かを変えなければならない時だと思うのだった。





執筆者プロフィール
秋山曜子。 東京生まれ。 成蹊大学法学部卒業。 丸の内のOL、バイヤー、マーケティング会社勤務を経て、渡米。以来、マンハッタン在住。 FIT在学後、マガジン・エディター、フリーランス・ライター&リサーチャーを務めた後、1996年にパートナーと共に ヴァーチャル・ショッピング・ネットワーク / CUBE New Yorkをスタート。 その後、2000年に独立し、CUBE New York Inc.を設立。以来、同社代表を務める。


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