Oct. 7 〜 Oct. 13, 2013

” Everyday Sadist


10月1日から始まった政府機関閉鎖が続いて、アメリカ議会に対する国民の怒りとフラストレーションが 更に高まっていた今週のアメリカ。
3大ネットワークの1つ、NBCが行なった世論調査では、アメリカ国民の60%が 「下院議員全員を例外なくクビにするべき」と回答。 また国民の10人中、8人が「アメリカが間違った方向に進んでいる」と答えており、 これはリセッションの真っ只中であった2008年、2009年よりも多い割合となっているのだった。

そんな政府機関が閉鎖している間に起こったのが、カリフォルニアの養鶏場が原因と見られる 鶏肉のサルモネラ菌感染で、 全米で300人以上が感染した鶏肉を食べて体調を崩しているけれど、CDCこと アメリカ疾病予防管理センターが 閉鎖されているために、現在全く行なわれていないのが食品検査。 このため今週は 鶏肉だけでなく、食肉全般を食べないようにするヘルス・コンシャスな人々が多かった一方で、 国民の怒りと同情を買っていたのが、先週日曜にアフガニスタンで死亡した5人のアメリカ兵の遺族に対して支払われるはずの 10万ドル(約1千万円)の補助金が、政府機関閉鎖を理由に支払い延期となったこと。
この補助金は兵士の遺体輸送や葬儀の費用として、通常ならば死去から3日以内に遺族に支払われるものだけれど、 当初 遺族が受けたのが、「政府が機能を取り戻すまで支払いは出来ない」という通達。 でも これについては メディアが大きく報道し、国民が猛反発したのを受けて、 無事に支払いが行なわれて、とりあえずは一件落着となっているのだった。

政府機関閉鎖は、アメリカ経済に1日 1億6000万ドルのダメージをもたらしていると同時に、国民生活の様々な分野に 影響を及ぼしているけれど、そんな中、全米各州で盛り上がってきているのが 地元のコミュニティやソーシャル・メディアを通じた、 民間レベルの助け合い。
政府機関閉鎖のため、国の援助がストップして生活に困っている低所得者層をサポートするページがフェイスブック上に誕生し、 そうした人々に食糧や、新生児用のオムツ、ミルクを提供する寄付が集まったり、 コロラド州では 給与が支払われない政府機関の職員に対して利息ゼロで生活費を貸し出す銀行が登場。 更に アラバマ、ジョージア、コネチカット等、6州で7,200人の 子供達を対象に行なわれている政府援助による学校プログラムに対しては、 テキサス州のビリオネアが 利息無しの1000万ドルのローンを提供して、その運営が継続されることになっているのだった。

そんな美談とは裏腹に、国民生活を全く省みない下院議員は 政府閉鎖期間中も給与が支払われるだけでなく、 議会施設内のジムが何故かオープンしていて、ワークアウトも出来るとのこと。 ところが、これについて議員の1人が「ジムはオープンしていても、タオル・サービスがクローズしている」 と不平のコメントをしたことから、国民の反感と嘲笑を買っていたのも今週。
そうこうするうちに、”デットシーリング=債務発行限度額”の引き上げデッドラインが、10月17日木曜日に迫ってきたけれど、 その回避が噂されただけで、ウォール・ストリートでは 株価が大きくアップするというリアクションが見られていたのだった。 とは言っても、週末の時点で 見込まれる回避案は あくまで短期的で、問題を6週間後、もしくは年明けに先送りするだけのもの。

今回の債務引き上げ問題の恐ろしい部分は、共和党議員の中に 「アメリカ政府には債務を引き上げなくても、 十分な税収がある」として、デフォルト回避の法案可決に応じない姿勢を見せる声が聞かれること。 特にティー・パーティーと呼ばれる共和党超保守派は、「交渉には応じず 政府機関閉鎖を続けるべき」と主張する勘違いぶりを見せているあり様なのだった。
そんなこともあって 現時点の国民世論調査では、オバマ大統領よりも 共和党議会を責める声が圧倒的に多いけれど、 多くの政治評論家は一様に 「この状態が長く続いた場合、やがてオバマ政権も国民からの信頼を失うだろう」と 予測しており、大統領のリーダーシップが問われるのも時間の問題と言えるのだった。



話は全く替わって、土曜日に明らかになったのが 全世界で、6,300万部の売り上げを突破し、 「ダ・ヴィンチ・コード」や「ハリー・ポッター」シリーズ を超える、 史上最速ベスト・セラーになった「フィフティ・シェイズ・オブ・グレー」の映画版で、SM狂の美男ビジネスマン、クリスチャン・グレー にキャスティングされていたチャーリー・ハナム(写真上)が 配役を降りたというニュース。
映画の配給製作元であるユニヴァーサル映画と フォーカス・フィーチャーのジョイント・ステートメントでは、 その理由として 映画撮影のスケジュールが チャーリー・ハナムが出演するTVドラマ「サンズ・オブ・アナーキー」のスケジュールと合わないことを説明しているのだった。
しかしながら、「サンズ・オブ・アナーキー」はメジャーなドラマではないのに加えて、そのスケジュールはキャスティングの時点で 十分考慮されているはず。このため ハリウッドでは、チャーリー・ハナム降板の本当の理由は、キャスト発表以降 ソーシャル・メディア上で巻き起こった 同小説のファンによる 「チャーリー・ハナム降ろし」に映画会社が屈したのでは?との 憶測が飛び交っているのだった。
「フィフティ・シェイズ・オブ・グレー」のファンが気に入らなかったのは 彼だけでなく、 ヒロイン、アナスターシャに選ばれたダコタ・ジョンソンについても然りであったけれど、 特にクリスチャン・グレーのキャラクターは、同小説を読んだ女性達にとってはファンタジーの対象。 それだけに「美しく、洗練された美男であるはずのクリスチャン・グレーが、チャーリー・ハナムではイメージが台無し!」といった声が、 キャスト発表以来 ソーシャル・メディア上に溢れ、インターネット上では 彼のキャスティングに反対する複数の署名運動が起こっていたのだった。

同様の署名運動が起こったのは、8月に新バットマンにキャスティングされたベン・アフレックも然り。 トークショーに出演したベン・アフレックが語っていたところによれば、歴代のバットマンは 誰もが キャスティング発表直後に メディア等でバッシングを受けていることから、彼は 映画会社から 「暫くの間、インターネットをチェックしないように」とアドバイスされていたという。
でも、「ちょっとやそっとの中傷は慣れている」と軽く考えて、インターネットにアクセスしたベン・アフレックは、 あまりのバッシングぶりに驚いたというけれど、そんなインターネット上のバッシングがどんどん エスカレートして、陰湿になってきているのは ターゲットがセレブリティでも、一般の人々でも同様の傾向。

アメリカでこの傾向が強まったのはリセッション後、ミドル・クラスの生活レベルがどんどん下がって、 生活が困窮するフラストレーションや怒りが ネット上に向けられた結果 と分析する声は多く、 同時に インターネットの匿名カルチャーが「自分だと悟られないなら、人を不幸にしてしまいたい」 という願望を満たしていると指摘されているのだった。


こうした状況を受けて、 大手のウェブサイトの中には 匿名の書き込みを受け付けないところも増えているけれど、 一般にネガティブな書き込みの背景にあるのがサディスティックな心理で、 これはどんな人間の中にも ある程度のレベルで存在していると言われるもの。
”サディスト”と言うと、世の中一般では 物凄くエクストリームなサディストを想像する人々が多いと言われるけれど、 基本的には、人間である限り 誰もが持ち合わせていて、時に表に出してくるのがサディスティックなキャラクターなのだった。
ミスをした店員を必要以上に責める来店客、部下にわざと仕事のプレッシャーを掛ける上司、 クラス全員の前で 特定の生徒をつるし上げる教師などは、心理学者に言わせれば全てサディスト。 ”サディスト”というと、ハニバル・レクターのような小説や映画に登場するキャラクター だと思われがちであるけれど、 実際には そんなサディストが 「世の中に溢れている」というのが 社会学者や心理学者が指摘することなのだった。

2週間ほど前の、ニューヨーク・タイムズ紙のサイエンス・セクションに掲載された 「‘Everyday Sadists’ Among Us / エブリデイ・セイディスト(=サディスト)・アマング・アス」という記事でも、 そんな身近に存在するサディストに関するカナダ人心理学者の研究結果が説明されていたのだった。
この記事では、サディスト以外に、"Psychopaths / サイコパス", "Machiavellian / マキャヴェリアン" といった言葉が登場していたけれど、 サイコパスは反社会的な精神病で、善意や道徳などを持たず、犯罪や極悪行為を行なう存在。 無差別銃撃事件の犯人などは 典型的なサイコパスであるけれど、サイコパスとサディストの違いは サイコパスは自分の行なう反社会的な行為に価値を見出しているのに対して、 サディストは人がどれだけ苦しむかに価値を見出していること。サイコパスは人を殺害することは考えても、 その過程で人がどの程度苦しむかなど、全く気にも留めていないのだった。

マキャヴェリアンは、自分の目的達成のためには手段を選ばず、その行為が犯罪でも、非道徳であっても正当化する人物。 残酷な行為に及んだとしても、それは目的達成という動機が存在するのがマキャヴェリアンで、 理由も無く人が苦しむ様子を見て楽しみたいサディストとは区別される存在なのだった。


この記事で指摘されていたのは サディストとカテゴライズされる人々は、 人が苦しむ様子を見て 満足や快楽を得るので、 人をより苦しませるためならば、時間や労力を惜しままず、自分の不便も省みないということ。
例えば、ウェブサイトに毎日 嫌がらせの書き込みをしようと思ったら、それなりの時間と労力が掛るのは当然のこと。 もしその行為が、相手に対する何らかの怒りが原因で行なわれているのなら、怒りが収まったところで、 それ以上、時間と労力を掛けてまで書き込みをしようとは思わないのが普通の人間。
ところが、サディストとカテゴリーされる人々は 自分の書き込みによって相手が不愉快な思いをして1日を過ごしたり、 不安な気持を抱いて どんどん内向的になって行く様子を察知したり、想像するだけで、 快楽や満足感を得ているので、その楽しみが続く限りは 行為を止めようとしないのが通常なのだった。

サディストの中には、自分が人を苦しめる行為を正当化するために、 そのきっかけや理由を 時に無理やり見つけてから、サディスティックな行為や言動に及ぶ例は少なくないもの。 またサディストと言いながらも、被害者を装ったケースも多く、 「迷惑を掛けられた」と言って相手をやりこめたり、相手が謝罪しているのに その謝罪の言葉まで悪く解釈して さらなるバッシングを続けるというは、非常に良く見られるエブリデイ・サディストなのだった。

エブリデイ・サディストは、人を苦しめる事から 自分のパワーを感じたり、自分より不幸な人間を作ることによって 自分の幸福を感じるケースが多いと言われるけれど、 それをするために一般の生活の中で頻繁に行なっているのは、粗探しや 言いがかりをつけるという行為。 そしてサディスティックなレベルが高まれば、高まるほど、粗探しや言いがかり、そして中傷行為が クリエイティブと言えるほどまで エスカレートしていくもの。
世の中には、他人をやり込めたり、困らせたり、傷つけることによって 活き活きしてくる人が居るけれど、 これは人間性が悪いといって片付けるよりも、サディストと判断する方が心理的学的見地からは正しいと言えるのだった。





執筆者プロフィール
秋山曜子。 東京生まれ。 成蹊大学法学部卒業。 丸の内のOL、バイヤー、マーケティング会社勤務を経て、渡米。以来、マンハッタン在住。 FIT在学後、マガジン・エディター、フリーランス・ライター&リサーチャーを務めた後、1996年にパートナーと共に ヴァーチャル・ショッピング・ネットワーク / CUBE New Yorkをスタート。 その後、2000年に独立し、CUBE New York Inc.を設立。以来、同社代表を務める。


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