Oct. 3 〜 Oct. 9 2016

”I am a Victim of Identity Theft!”
”200万円以上のカード悪用とID盗難の犠牲者となった私”


今週のアメリカは、ハイチで400人以上の死者を出した大型ハリケーン、マシューのアメリカ南東部上陸のニュースが大きく報じられていたけれど、 最大の報道となったのは、ドナルド・トランプが2005年に芸能番組「アクセス・ハリウッド」のインタビューを受けた際、 インタビュアーにオフレコで語った女性蔑視と浮気、性的虐待についてのコメント。
同インタビューは、ソープ・オペラ(昼メロ)に出演するためにスタジオに向かったトランプに対して行われたもので NBCはこのビデオを週が明けてから公開する予定であったと言われるけれど、木曜に一足先にワシントン・ポスト紙が報じ、 以来大スキャンダルになっただけでなく、フェイスブック上でも今回の大統領選挙絡みのニュースの中で最も話題にされるニュースになっているのだった。
その発言はあまりに下品な上に、放送禁止用語が含まれていることから、メディアで報じられる際には音声が消されていたけれど、 これに激しく反発したのはヒラリー・クリントン、および民主党側ではなく、トランプを擁立した共和党側。 何人もの議員が次々とトランプへの支持を取り下げ、出馬取り消し要請を行っており、 その中には共和党トップのポール・ライアン、ジョン・マケインが含まれていた他、 副大統領候補のマイク・ペンスさえも、金曜に一度はトランプへのサポートを表明したものの、 土曜になって「この発言は容認できない」とポジションを一転させているのだった。

これを受けて、トランプ側は金曜深夜にフェイスブックのビデオを通じて、同発言についての謝罪をしたけれど、 一部のメディアや一般の人々の間で不思議がられていたのが、「これまでにも大統領候補としてはあり得ない人種差別発言や侮辱発言を繰り返してきたトランプが、 何故11年前にオフレコで撮影された発言についてのみ謝罪をしたのか?」ということ。 その理由は、このビデオの中でトランプが語っていたのが女性に対する性的虐待行為であり、それを彼がセレブリティであることの特権とであるかのように語っていたことが 今までになく問題視されていたため。
事実、この問題のビデオを見て 自らが受けた性的虐待の心の傷を新たにした女性たちが、 ソーシャル・メディア上でその体験について告白&シェアし始めたことから、週末には”#NOTOK(ハッシュタグ・ノットOK)” がトレンディングとなっていたのだった。

このスキャンダルが絶好のタイミングと言えたのはクリントン陣営で、 それというのも、同スキャンダルと時を同じくして、ウィキリークのジュリアン・アサンジュが ヒラリー・クリントンがゴールドマン・サックスに 5000万円のフィーを支払われて行ったスピーチの内容、及びプライベートEメール・サーバーから削除された 未公開のEメールの一部を公開したため。 これについては、メディアはそこそこに注目したものの、トランプのスキャンダルに比べると遥かに小さな注目度で、 それが公開されたことさえ知らない人が少なくないほどに、そのインパクトが軽減されていたのだった。




でも、週明けの時点で アメリカで最大の報道になっていたのは、パリで強盗に10億円相当のジュエリーを盗まれたキム・カダーシアンのニュース。
パリのプライベート・ホテルに滞在中、押し入った強盗に手足をダクト・テープで縛られてバスルームに閉じ込められ、ジュエリーに加えて、クレジット・カード、2つの携帯電話、 キャッシュを盗まれたキム・カダーシアンであるけれど、彼女がリアリティTVで常にヤラセを演じる存在であるだけに、 これが報じられた途端から現在までも、同事件がカダーシアン・ファミリーのリアリティTV視聴率低下のカンフル剤として演じられた狂言であると言う説が聞かれているのが実情。
それと同時に聞かれているのが、これまでセキュリティというものに全く関心を払わずにきたカダーシアン側に対する批判で、 同事件が起こるべくして起こったという声や、キムが無防備に高額なジュエリーをつけて、どこに出掛けるかを逐一、しかもリアルタイムで ソーシャル・メディアにポストすることを”愚行” と非難する声がメディア&ソーシャル・メディア上で盛んに聞かれていたのが今週。

この事件以来、キム・カダーシアンはソーシャル・メディアから遠ざかっており、彼女がニューヨークに戻ってからは、 トライベッカにレンタルしていたアパートのセキュリティ・チームに1日100万円を投じていることが報じられていたけれど、 キム・カダーシアンは、言うまでもなくソーシャル・メディアをマーケティング手段として最も有効に使ってきたセレブリティ。 そのソーシャル・メディアのフォロワーの数はインスタグラムだけで8,430万人、ツイッターが4,830万人。 芸能メディアは、もしキム・カダーシアンがこのままツイッター、インスタグラム、スナップチャットといった全てのソーシャル・メディアへのポストを一切ストップした場合、 彼女が毎月失う収入は1億円以上と見積もっており、キムがソーシャル・メディアに1回ポストをするだけで、それが彼女のブランドに約200万円の商業効果をもたらすと 計算しているのだった。




とは言っても一般の人々は、キム・カダーシアンよりも遥かに少ないポスト&フォロワーでも、ソーシャル・メディアによって犯罪のターゲットになっているのが実情。
例えば、旅行先からフェイスブックやインスタグラムでビーチやホテルの写真をポストすることによって、空き巣に入られるケースが非常に多いのは 数年前から警告されていたこと。 またNYやLAの私立校が、親たちに対して子供や学校の写真をソーシャル・メディアにポストすることを禁じているのは誘拐事件を防ぐため。 さらに、フェイスブックのタイムラインでバースデーや出身校などの個人情報が公開されている場合、 それがパスワードのヒントとなって、ハッキングの被害に遭うケースが高まることも指摘されて久しい状況なのだった。

かく言う私も、2カ月ほど前にクレジット・カード番号を盗まれて、わずか10日ほどの間に、日本円にして約250万円近くを使われたけれど、 もちろん私はカードを紛失した訳ではなく、カードの不正使用の疑いの電話がストアから掛かって来て 初めて状況を把握したのだった。
アメリカのクレジット・カード会社は多額のチャージの場合、本人にチェックの連絡をするのが通常であるけれど、 犯人はそれを熟知しているようで、私のカード悪用の被害額は全て2500ドル(日本円にして約25万円)以下。 その多くが商品の購入と、フード・デリバリー、カーシェアリングのUBERのチャージで、どうやら犯人はカリフォルニア在住のようなのだった。
もちろん私は被害をレポートしたので、被害額の支払いの責任は生じないけれど、 その60件を超えるチャージを全てレポートするだけで、カード会社と2時間を超える電話を2回もしなければならなかったのだった。

その後、やっとお金が戻ったと思ったのも束の間、今度はカード会社から 「新しいクレジット・カードを作るに当たって、不足している個人情報を送付するように」との催促の手紙や、 「個人情報不足により新しいクレジット・カードの申請を却下します」という書面が複数届くようになり、 犯人が 私のIDを使って新しいクレジット・カードのアカウントを開こうとしている様子を知らされることになり、 中には本当に新しいカードが作られて、郵送されてくる例まであったのだった。
その結果、私が過去数週間の間にキャンセルしたカード、及び情報不足で申請が却下されたカードの数は合計8件。 不正申請されたカードの中には、Yoko N. Akiyamaとミドル・イニシャル入りの名前で申請されたものもあって、 犯人はIDを悪用するだけでなく、勝手に名前まで変える厚かましさなのだった。




不正申請されたクレジット・カードが作られた場合、届けられるのは私の住所。 そうなると申請した犯人は カード番号を知ることが出来ないはずだけれど、 にもかかわらず犯人が新たなカード申請を繰り返す理由は、カード申請の際にセキュリティ・クエスチョンとその答えを設定することにより、 犯人が私の偽造IDを確立することが出来るため。 そのセキュリティ・クエスチョンに答えれば、その後「引っ越しの際にカードを紛失した」などと言い訳して、私が支払うクレジット・カードを犯人指定の 住所に送付させることが出来るようなのだった。

幸いアメリカには、クレジット・スコアというものが存在していて、これは人々の経済的な信頼指数と言われるものだけれど、 もし誰かが私のIDを使ってクレジット・カードを作ると、そのクレジット・スコアが変わるため、クレジット・カーマのようなウェブサイトに登録しておくと そのスコアが変わったというアラートが私に届くシステム。したがってクレジット・スコアの変化によって、誰かが私のIDを悪用しているとことを察知することが出来るのだった。
さらにアメリカには3大クレジット・ビューローなるものがあって、そのうちの1つに IDが盗まれたことをレポートすれば、それ以降は本人にコンタクトすること無しにクレジット・カードが作れないことになっているけれど、 これについては私が90年代にレポートした際は、私本人でさえ新しいクレジット・カードを作ることが出来なくなったという経験があるのだった。

ちなみに私は、クレジット・カードを複数所有していても、オンラインで使用するクレジット・カードは1枚だけで、 過去に悪用されたのは 全てそのオンライン・ショッピングに使っていたカード。 アメリカではメーシーズ、ターゲット、ウォルマート等、大手ストアのサーバーがハッキングされて、 そのカストマー・データベースが盗まれたニュースが過去1年間に複数回報じられているだけでなく、 今週にはYahooのメール・アカウントから500万人分の個人情報が流出したニュースも報じられているけれど、 カード会社の担当者によれば、本人がどんなに気を付けても カード番号を登録した大手企業のサーバーがハッキングされた場合、こうした被害は防げないとのことなのだった。

そんな企業サーバーのハッキングで流出した個人情報が売買されていると言われるのがダークネット。 ダークネットとは、インターネット上で特定のホストが割り当てられていないアドレス空間で、 ここでは児童ポルノ、人身売買、ドラッグの取引などと共に、人々のIDやクレジット・カード番号が売買されて久しい状況。 このブラック・マーケットでは、VISAやマスターカードの番号は1件につき4ドルで取引されていて、これがアメリカン・エクスプレスになると6ドル。 この価格はアメリカで発行されているカードで、アジアやEUで発行されているクレジット・カードになると、カード会社に関わらずその価格は 1件当たり18ドル〜20ドルに跳ね上がるのだった。

今回私は250万円近い被害額を支払わずに済んではいるけれど、私のカード番号を盗んだ犯人が着服した金額は、 クレジット・カード会社の保険で賄われ、そのクレジット・カード会社が保険会社に支払う多額の保険料は、 クレジット・カードの支払いを受け付ける企業やストアに請求する手数料に跳ね返り、その手数料の値上がりは 結果的に物やサービスの値上がりという形で 世界中の末端消費者が負担しているということ。要するに私のカード番号やIDを盗んだ犯人のUBER乗り放題やショッピング三昧に対して 世の中の人々が少額ずつの寄付をしているのが実情。 こうしたハッキングやドラッグの取引は、現代社会の富の再分配の手段になって久しいものなのだった。

週末には、キム・カダーシアンからジュエリーを盗んだ強盗が残したと思しきDNAが押収されたニュースが報じられていたけれど、 今時の窃盗犯罪の大半が行われているのがオンライン上。しかも、 キム・カダーシアンのように億円単位のジュエリーなど所持していなくても、誰もが犠牲者になり得るもの。
私個人のケースにしても、今のところは新たなカードを作られている形跡は無くなっているけれど、 またどんな形で、新たなカード悪用やID盗難に巻き込まれるか分からないのだった。



執筆者プロフィール
秋山曜子。 東京生まれ。 成蹊大学法学部卒業。 丸の内のOL、バイヤー、マーケティング会社勤務を経て、渡米。以来、マンハッタン在住。 FIT在学後、マガジン・エディター、フリーランス・ライター&リサーチャーを務めた後、1996年にパートナーと共に ヴァーチャル・ショッピング・ネットワーク / CUBE New Yorkをスタート。 その後、2000年に独立し、CUBE New York Inc.を設立。以来、同社代表を務める。

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