Oct.. 13 〜 Oct. 19 2008




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このところ、アメリカの経済が悲惨な状態なので このコラムでも ファイナンシャル・クライシスについてばかり書いてしまっているけれど、 実際のところ 昨今は友達と会っても話題は 大統領選挙と経済 ばかりになってしまっているのだった。
なので、たまには ボーイフレンドの愚痴みたいな 女々しい会話もしてみたい と思う今日この頃だけれど、 今週食事をしたヘッジ・ファンドに務めている女友達にしても、 「ボーイフレンドが楽観的過ぎて・・・・」 という 彼に対する愚痴の中に、 「大体 IBM の株を ”今が買いだ!”なんて言っているんだから・・・」 というような文句が出て来たりする。
そうかと思えば、同じ食事の席で別の女友達が珍しくホワイト・ワインをオーダー したので、皆が 「どうしたの、今日は?」と尋ねたところ、返って来た答えというのが 「赤は私のポートフォリオだけでもう十分!」 というもの。 それを聞いて すかさず 別の29歳嬢 が 「私だって、今年に入ってから401Kの価値が30%も減っちゃったわ!」 と嘆いたりしているから、このファイナンシャル・クライシスのせいで 頭の中が ドルサイン($)で 一杯になっている人は多いようである。

昨今メディアでは、こうしたファイナンスの問題で悩む一般の人々から質問を受け付けて、 専門家が答えるセグメントを設けているケースが多いけれど、 今週 最も頻繁に話題に上っていたのが、金策に困った人が「401Kを解約して金銭化するべきか?」という質問。
私の友人のようにまだ29歳であれば、ストック・マーケットが十分にリカバーする時間があるので、 そうした心配は要らないけれど、あと2〜3年でリタイアを控えていて、しかも銀行がお金を貸し出さないために 金策に追われている人は401Kを解約してしまうケースが増えているという。 なので、専門家は「ケース・バイ・ケース」としながらも、解約すれば ペナルティと税金でその半分を持っていかれてしまうことを警告していたのだった。

こうしたセグメントと共に今週メディアが報じていたのが、 ファイナンシャル・クライシスによって、家を失ってしまった人、失うことを危惧している人々のレポート。 中でも、私が見ていた中で最も悲惨に映ったのが、ローンの支払いが遅れて、何時 家を差し押さえられるか?に 怯えている老夫婦で、夫人は 2つのパートタイム業で働きながら何とか ローンの返済をしようと 四苦八苦しているとのことだった。
でも私同様に この老夫婦を気の毒に感じた視聴者は多かったようで、 老夫婦をサポートするメッセージが多数 局に寄せられただけでなく、 彼らのために小切手を送付してきた人々も居たとのことで、 翌日には 老夫婦が小切手を送ってくれた人々に涙ながらに感謝の電話を掛けるという美談のレポートに代わっていたのだった。
経済がこんな状態で、誰もが将来を危惧している時に 困っている人に手を差し伸べてあげる親切な人が居るというのは、 まだまだアメリカが本来のスピリッツを失っていないことを 感じさせるけれど、 その一方で徐々に始まっているのは 「こんなアメリカに誰がした?」という責任追及。
今日、10月19日付けのニューヨーク・タイムズではクリントン政権下の住宅・都市開発部門の長官であり、 後にサブプライム・ローンで恩恵を受けたヘンリー・シスネロに関する記事が カラー写真入りで一面トップで報じられており、「低所得ファミリーに 家を買わせ、その失態を見物してきた人物」 という小見出しが付けられていたのだった。

その同じ一面の隣で報じられていたのは、FBIが過去数年、テロの捜査に力を入れ過ぎた結果、 ウォール・ストリートの金融不正のようなホワイト・カラー・クライムを担当するエージェントが少なく、 捜査が難航しているというニュース。
「政府が今回のファイナンシャル・クライシスを招いた刑事責任を追及するべきだ」 と考えているアメリカ人は非常に多いけれど、実際、犯罪行為さえ立証できれば、 アン・ハサウェイの詐欺師のボーイフレンド同様、違法に着服した財産は返却しなければならない訳で、 ウォールストリートのエグゼクティブ達とて有罪になれば 彼らが過去数年間に渡って着服してきた 何百億円ものボーナスも 例え一部でも 返却しなければならないのである。
サブプライム・ローンに端を発した今回のクライシス関連では、 リーマン・ブラザースが破綻し、 メリル・リンチが買収され、A.I.Gが政府によってベイルアウトされた9月半ばから、 14の容疑でFBI が捜査に動き出したことが報じられているけれど、ウォール・ストリートの責任追及は 次期政権の最も重要な課題の1つとも指摘されているのだった。

このように経済の危機感が高まっている時に、人々が先ずカットするのが 外食の回数と言われており、 昨今ではマンハッタンのレストランの多くが 売り上げを落としていることが伝えられているのだった。
でも、いざ出かけてみると テーブルが埋まっているレストランばかりなので、 やはりニューヨーカーは外食が多いことを実感させるけれど、 確かに以前よりは人気レストランの予約が取り易くなっているようである。
私も今週木曜に ソーホーのイタリアン・レストラン、ショーティーズ 32 (写真左)に 午後8時のピーク・アワーに出かけたけれど、予約を取らない同店で そのまま待たずにテーブルに着くことが出来てしまって 少々ビックリしてしまったのだった。
ショーティーズは、元ジャン・ジョルジュのシェフがクリエイトするカジュアルなイタリアンが好評で、 この夏までは 平日の午後6時に出かけても1時間待ちが珍しくなかった人気レストラン。 とは言っても決して閑古鳥が鳴いていたのではなく、テーブルは殆ど埋まっていたし、 特にバー・エリアは溢れんばかりの来店客で とても賑やかなのだった。
でもシェフとマネージャーがそれぞれテーブルに挨拶にやって来たので、「こんなご時世だから気を使っているのかな?」と 思ってしまったけれど、後から思えばこの日、私はブロンド美女の友人と一緒だったので、 ひょっとしたら 彼らは 彼女がお目当てで挨拶にやって来たのかも知れなかったのだった。

いずれにしても、そのショーティーズ 32は 今では売り上げを増やすために夜中2時まで営業していることがニューヨーク・タイムズの 記事になっており、この記事によれば 売り上げダウンを営業時間を拡大することによって カバーしようとするレストランは多いという。 遅くまで営業をする以外にも、 新たにブレックファストをサーブし始めたり、 ランチ・タイムが終わってからも店を閉めずに ディナー・タイムまで コーヒーとデザートをサーブしたり、または日曜の定休日を返上して 営業するレストランも少なくないという。
昨年末には 高級レストランが次々と50ドル以上のメイン・コースをメニューに加えるなど、 高額トレンドがピークに達していたニューヨークであるけれど、さすがにこのファイナンシャル・クライシスを受けて そのトレンドは完全に終焉を迎えたようで、今では多くのレストランが価格を抑えたプリフィックス・メニューを 用意している他、バー・メニューを充実させて、ドリンクに立ち寄った人々にスモール・ディッシュを オーダーしてもらうことによって 売り上げを増やす試みが主流になっているという。
同じような努力はデパートやブティックでも行われており、各店は売れ行きの悪い秋物をどんどんディスカウントする一方で、 ニーマン・マーカスはブランド物のバッグが売れないことを受けて、 バッグを購入する場合にのみ有効な ディスカウント商品券を顧客に送付しているし、 サックス・フィフス・アベニューは本来従業員とその家族、上顧客のみを対象に行う 「フレンズ&ファミリー・セール」を一般の買い物客にまで対象を 広げて行ったばかり。
こうしたデパートでは、購入金額に応じて商品券を発行する ギフト・カード・イベントも 今年は 頻繁に行われているのだった。

こうやって様々なビジネスが生き残りや売り上げ維持に四苦八苦する中、 笑いが止らないほどに潤っていることが伝えられるのがストリート・レンダー、すなわち街角の高利貸である。 今週火曜日には滞っているローン・マーケットを活性化する試みとして、$700ビリオン(約70兆円)の ベイル・アウト(救済案)マネーのうちの、$250ビリオン(約25兆円) が、 主要9銀行を中心に投入されているけれど、それでも変わらないのが人々がお金を借りられないという状況。
なので、緊急にキャッシュを必要とするスモール・ビジネス・オーナーなどが ストリート・レンダーから 300ドル、500ドルといった小額のキャッシュを僅か1週間程度の短期間 借り入れては、50%の利息と共に払い戻しており、これによってストリート・レンダーが大儲けをしていることが 伝えられているのだった。
こうしたストリート・レンダーの常連客の中には、レイオフされたウォール・ストリートの元金融関係者も 居るとのことだけれど、彼らがストリート・レンダーに頼らなければならないのは もっぱらウォールストリート時代から常習しているコカインを手に入れるキャッシュが必要であるため。 公共料金の支払いまでクレジット・カードで済ませられるほどに クレジット社会なアメリカであるけれど、 ドラッグ・ディーラーに関してはそれが通用しない キャッシュ・オンリー・ビジネスなのである。

ところで、「こんなアメリカに誰がした?」という責任追及をした場合に、恐らく多くのアメリカ人が真っ先に名前を挙げると思われるのが ジョージ・W・ブッシュ大統領。
昨今ではメディアも はばかる事無く 「歴史上最も人気の無い大統領」などとはっきり指摘しているけれど、 そのブッシュ大統領の半生とイラク侵攻までのプロセスを描き、今週末アメリカで公開されたのが オリバー・ストーン監督作品、「W」 である。
オリバー・ストーンはブッシュ大統領とイエール大学の同級生で、大統領がオール C ステューデントだった 学生時代から彼を知る存在。 しかも ストーン監督は 「ジョージ・ブッシュは馬鹿なだけでなく、危険な馬鹿だ」 と批判してきた だけに、 映画内容も アンチ・ブッシュ色の強いものを期待していたけれど、映画の封切初日にこの映画を見た私の感想としては、 同作品はジョージ・ブッシュの愚かさに対して同情的であると同時に、その愚かさについての説明的な作品で、 時々笑えるシーンが含まれているものの、展開が退屈で ガッカリしてしまったし、、 オリバー・ストーンの作品の中で 決して秀でた映画ではないというのが正直なところである。

この作品は当初 「ブッシュ」とネーミングされていたそうだけれど、途中で ブッシュ大統領のミドル・ネーム、”ウォーカー” の略であり、 NYポスト紙などのリパブリカン・メディアが好んで使う 彼の 相性 「W」 に変更されたという。
ジョージ・W・ブッシュ役には、当初 バットマンでお馴染みのクリスチャン・ベールがキャストされていたものの、 メークアップ・テストでオリバー・ストーンが彼を気に入らず、最後の最後に決まったのが、 主演の ジョッシュ・ブローリンだったという。
ジョシュ・ブローリンに止まらず、映画のキャストは皆、演技をしているというよりは ブッシュ政権のお馴染みのキャラクターを 真似ているという印象で、私個人としてはジョシュ・ブローリンのブッシュもさることながら、 リチャード・ドレイファスが演じたチェイ二ー副大統領、タンディ・ニュートンが演じたコンドリーザ・ライスがあまりにそっくりなので、 いくつものシーンで 思わず笑ってしまったのだった。
「W」は今週のボックスオフィスで第4位となっており、その興行売り上げは$10.6ミリオン(約10.6億円)と、 決して 特筆すべきものではなかったけれど、私が出かけたアッパーウエスト・サイドの映画館は、夜10時の上映が満席状態。 それでも見終わって映画館を後にする人たちが、口々に 「長くて、不完全燃焼な映画」と語っていたし、 私と一緒に映画を見ていたアメリカ人の友人は たとえ映画とは言え、ブッシュ大統領の馬鹿ぶりを見ているのに ウンザリしてしまい、「あんな馬鹿が一国のプレジデントを務めているなんて・・・」という 怒りと失望で、映画の評価を語るどころでは無い状態になっていたのだった。

さて、オリバー・ストーンと言えばその代表作と見なされているのが1987年に封切られた 「ウォール・ストリート」。
実生活で ストック・ブローカーを父親に持つオリバー・ストーンは、「ウォール・ストリート」の製作以前に、 ブライアン・デ・パルマ監督作品で、マイアミのドラッグ・マフィアを描いた「スカーフェイス」の脚本を手掛けており、 リサーチに出かけていたマイアミからニューヨークに戻った際に、 ウォールストリートのバンカー達が マイアミのドラッグ・マフィア達と全く同じ 「マネー=パワー」 という 振る舞いをしているのを 目の当たりにして、 「ウォール・ストリート」の製作を思いついたという。
この作品の中でマイケル・ダグラスが扮したキャラクター、ゴードン・ゲッコーは 現在もウォール・ストリートの パワー・アイコンであり、 彼が映画の中のスピーチで語った「Greed Is Good (強欲であることは良い事)」 という台詞は、 マネー・ハングリーな姿勢を肯定するコンセプトとして、 長年ウォールストリートで語られてきたもの。
今回のフィナンシャル・クライシスでは、バンカー達の Greed / グリード(強欲さ) が ここまで大きな経済破綻を招いたと 指摘されているだけに、ポップ・カルチャーというのは 世の中に多大な影響を与える要素として 決して侮れないものなのである。

最後に 私はつい最近、今年のオスカーのドキュメンタリー部門を受賞した「Taxi To The Dark Side / タクシー・トゥ・ザ・ダーク・サイド」 をケーブル局で観たけれど、この作品はアフガニスタンの無実のタクシー・ドライバーがアメリカ軍による拷問の末、 殺害されたストーリーを中心に、アブグレイブ刑務所や、グゥアンタナモ・ベイで行われていた ジュネーブ協定に違反したアメリカ軍の拷問の実態を描いた作品で、 時々辛くて見ていられなくなるシーンが登場する映画。
この作品を見てしまうと、ブッシュ、チェイ二ー、ラムズフェルドがとても同じ人間とは思えなくなってしまうほどの強烈な インパクトがあっただけに、私にとっては 「W」 が映画として物足りなかっただけでなく、 オリバー・ストーンの描く ブッシュ像が ツメが甘いフィクションにしか映らなかったのが実際のところなのである。





Catch of the Week No. 2 Oct. : 10 月 第 2 週


Catch of the Week No. 1 Oct. : 10 月 第 1 週


Catch of the Week No. 4 Sep. : 9 月 第 4 週


Catch of the Week No. 3 Sep. : 9 月 第 3 週






執筆者プロフィール

秋山曜子。 東京生まれ。 成蹊大学法学部卒業。
丸の内のOL、バイヤー、マーケティング会社勤務を経て、1989年渡米。以来、マンハッタン在住。
FIT在学後、マガジン・エディター、フリーランス・ライター&リサーチャーを務めた後、1996年にパートナーと共に ヴァーチャル・ショッピング・ネットワーク / CUBE New Yorkをスタート。
その後、2000年に独立し、CUBE New York Inc.を設立。以来、同社代表を務める。