Oct. 12 〜 Oct. 18 2009




” Air Balloon and Air Brush ”


今週のアメリカで最も大きく報道されていたニュースの1つが、コロラド州で木曜に起こった事件で、巨大なエア・バルーンが 「中に子供が入り込んだまま飛び立った」 という通報を受けての 警察による バルーン追跡&捜索劇。
父親が自宅で製作し、飛行テストを控えていたというエア・バルーンが 空を飛ぶシーンとそれを追いかけて、中にいると思しき6歳の少年、 ファルコン君を救出しようとする コロラド警察の様子は、CNN等などのメディアを通じて全米のみならず、世界各国で生放映されていたというけれど、 蓋を開けてみれば バルーンの中には子供は居らず、少年は自宅のガレージに隠れているところを発見されたという。
事件後、一躍スターになってしまったのが ファルコン君を含む3人兄弟と両親 の ヒー二ー・ファミリー。 彼らに対しては メディアの取材が集中し、木曜夜から金曜に掛けて、精力的に取材スケジュールをこなす様子が見られていたのだった。
でもメディア&パブリシティ 大好きなヒーリー夫妻とは異なり、質問が集中したファルコン君には 取材攻勢がトゥー・マッチだったようで、 彼はTVの生放送のインタビュー中に、2回も気分が悪くなって吐いてしまう有り様。 そのファルコン君がCNNのインタビューで語ったのが、「今回の事件の全ては、TVのショーのためにやったんだ」というコメント。
この一言がきっかけで、一見ハッピー・エンドに思われた事件は メディア好きな両親が、人々の関心を煽って、 リアリティTVの契約を取り付けようとした ”ヤラセ” であったという 疑いが急浮上してきたのだった。
というのも このヒー二ー家は、ABCのリアリティTV 「ワイフ・スワップ」に2度も登場しているほどの、TV出演好き。 今回のバルーンを始め、アマチュア発明家として様々なプロダクトをクリエイトしている父親のリチャード・ヒーリーは、 自分がメイン・キャラクターになったアマチュア発明家ファミリーを描く リアリティTVの売り込みに掛かっていたという。 加えて、 彼は発明仲間に 今回のバルーンを使ったパブリシティ獲得のための ”ヤラセ” の計画を 以前から話していたことも明らかになっているのだった。
さらに警察の取調べで明らかになったのが、ヒーリー夫妻が今回の事件を警察に通報する前にメディアにコンタクトしていたという事実。 これを受けてヒー二ー夫妻は、週末にコロラド警察からの事情聴取を受け、自宅には家宅捜索も入り、 日曜夕方になって 事件が ”ヤラセ” であったことがメディアで報じられるようになったのだった。
現時点では、夫妻は 事件を偽装した罪に問われるという見方が有力であるけれど、 警察がバルーンの追跡・捜索に費やした費用は、この財政難のご時世に 日本円にして約2億円。
警察も、事件を報じるメディアも、「あんなサイズのバルーンに6歳児が入って飛べるはずはない」という疑いを最初から抱いていたというけれど、 「それでも通報があった以上は追跡、捜索をするのは警察の使命」とコロラド警察署長は記者会見で説明しており、 ヒーリー夫妻には、追跡・捜索費用の賠償が請求されるという見方も有力になっているのだった。

このカップルが、こんな馬鹿げた ”ヤラセ” 行為をしてまで 実現しようとしていたのが 自分達のファミリーを主役にした リアリティTV であるけれど、 アメリカでは、今年最もタブロイド誌が紙面を割いているのが、人気 リアリティTV 「ジョン&ケイト・プラス・エイト」(写真右) のメイン・キャラクターであるジョン&ケイト・ゴスリン。
ジョン&ケイトの間には6つ子を含む8人の子供が居り、2人は目下 離婚訴訟の真っ最中。 彼らの 茶番劇 は、多くのまともなアメリカ人が ウンザリするほどメディアで頻繁に報じられており、 今では、ジョン・ゴスリンがハリウッドのレストランでランチをすると、ブラッド・ピットやジョージ・クルーニよりも多くのパパラッツィが 押し寄せることで知られているのだった。 そんなゴスリン家は、リアリティTVによって、大きな家を建ててもらい、昨年の年収だけでも億円単位。
彼ら以外にも、全米各都市で 「リアル・ハウスワイフ」 と呼ばれる、5人のリッチなハズバンドを持つ妻達の リアリティTVシリーズが製作されて 人気を博す等、セレブリティだけでなく 一般人が登場する リアリティTVが数多く登場しているのが現在のアメリカのTV業界。
もちろんその理由は制作費が激安であるためだけれど、このトレンドによって 今回の事件のリチャード・ヒーリーのような、 ごくごく普通のアメリカ人が 「TVに出て有名になって、その名声を利用して一儲けしたい」 といった 理想を描くようになって来ているという。

ニューヨークでも 有名なプレップ・スクールに通うリッチ・キッズを描いたリアリティTVが 製作され、PTAからかなりのバッシングを受けていたけれど、現在製作が伝えられるのが離婚訴訟中のソーシャライトで、日本ではサマンサ・タバサのバッグ・デザイナーとして知られる ティンズレー・モータイマーのリアリティTV。
でも彼女の場合、あまりに そのキャラクターが普通で退屈であるため、 何とか面白味のあるクレージーなキャラクターを登場させようと 彼女のソーシャライトの友人を片っ端から当たったものの、誰も出演に応じてくれなかったとのこと。 このため 「リアリティTV」でありながら、架空のソーシャライトをでっち上げて登場させることになっているという。
でも、こうした”ヤラセ”は リアリティTVには付き物。リアリティTVでありながら、台詞があったり ストーリーが決められているというのは今では当たり前なのである。 そうでもしなければ、製作側の 撮影と編集の手間が省けない訳で、それがリアリティTVとドキュメンタリーの異なるところ。
要するに、今回のバルーン騒動同様、アメリカのリアリティTV も ”ヤラセ” な訳で、ヒーリー・ファミリーは そのリアリティTVのキャラクターを ニュース番組で演じてしまい、本当に警察まで出動させてしまったために 犯罪に問われてしまうことになったのは、何とも皮肉な結末なのである。


さらに もう1つ、今週 アメリカで物議を醸していたのが、フォトショップで修正されたラフル・ローレンの広告写真と、 その広告にフィーチャーされていたモデルが、太り過ぎを理由にクビにされていたというニュース。
このモデルは フィリッパ・ハミルトン、23歳で 179cm、54キロ という体型。 フィリッパは過去数年、ラルフ・ローレンのためにエクスクルーシブにモデルを務めていたけれど、 突如、理由も無くクビにされてしまったとのこと。 でも彼女は、今回物議を醸している写真を見て、自分がラルフ・ローレンのモデルとしては太りすぎであることを悟ったとコメントしているのだった。
実はこの広告写真が実際に使われたのは日本だけ。それもラルフ・ローレン側の言い分では 「日本でのみ、誤って掲載されてしまった」のだという。 そんな日本でしか掲載されなかった広告が何故アメリカで物議を醸しているかと言えば、”ボーイング・ボーイング”、”フォトショップ・ディズアスター” という 2つのブログが この不自然に修正された広告写真をサイト上で掲載し、”モデルのウエストが頭より小さい” といった批判を展開。 これを受けてラルフ・ローレン側が 2つのサイトをコピーライト違反で訴えようとしたのが事の始まりである。
”フォトショップ・ディズアスター” はその後 直ぐに写真とそのブログの掲載を取り止めたけれど、”ボーイング・ボーイング” は こんなモデルの不健康フォトを広告に使っておきながら、法的手段で批判をねじ伏せようとしたラルフ・ローレン側に対して 猛反発するステートメントを 発表。
でも程なく、この広告写真自体が フォトショップの修正により 「体型は細ければ細いほど良い」といったイメージを女性、 特に育ち盛りのティーンエイジャーに植えつける事を 危惧する世論や女性団体・活動グループによる大バッシングの対象となったために、 ラルフ・ローレン側では態度を一転。 「ブランドの意にそぐわない広告写真が誤ったイメージを与えてしまった」 ことに対する謝罪を発表しているのだった。

この写真が世論を怒らせたのは、あまりにも不自然どころかバランスが悪いほどにウエストやヒップを極端に小さくした、行き過ぎたフォトショップの修正に 原因があったと言えるけれど、アメリカではつい最近にも本来なら健康志向のライフ・スタイルにフォーカスを当てなければならない 「セルフ」マガジンが、シンガーのケリー・クラークソンのカバー・ショットをフォトショップで細身に修正したことが 問題になっていたばかり。(写真左)
専門家はこの写真が実際のケリーの体重よりも、7キロ程度軽い体型に修正されていると指摘していたけれど、 ケリー・クラークソン側は、「自分はカーブのある自分の体型に満足している」とコメントし、「セルフ」マガジンの修正を 好ましく思わない意志を示しているのだった。
同様の問題は、3年ほど前にGQマガジンがケイト・ウィンスレットを表紙にフィーチャーした際にも、彼女のボディがスリムダウンされ、 さらに足がとても長く修正されていた際に 物議を醸していたけれど、 実際、ファッション誌では ただでさえ長いモデルの脚をさらに長く、小さいウエストをさらに小さく、といった修正は、 顔のシワやニキビ跡、シミをエアブラシで消すのと同様に、日常茶飯事で行われているのだった。

また、ロレアルでは広告に起用しているシンガーのビヨンセが多くの人種の女性にアピールするようにと、肌の色を実際より明るくして TVCMや雑誌広告を製作していることが指摘さて非難を浴びていたけれど、 レブロンにしてもCMに登場する女優、ジェシカ・アルバのウエストを小さく見せる修正を施したことを認めているのだった。
イギリスでも、今年60歳を迎えた往年のモデル、ツイギーが シワ1つ無い肌にエアブラシで修正された顔で、 化粧品広告に登場していたのが問題になったばかり。 一方のフランスでは、シャネルの広告写真に登場した女優のキアラ・ナイトリーのバスト・サイズが大きめに修正されていたことが この夏 物議を醸していたのだった。
キアラ・ナイトリーと言えば、バストが小さいどころか、胸が平らと表現される女優で、以前にも 映画のポスターで彼女の胸のサイズが大きめに修正されていたことがあったりする。 写真右を見て分かるとおり、シャネルの広告では シースルーのブラウスの下の彼女のバストに影が出来て、大きく見えるように修正されており、もちろん 顔もエア・ブラシできれいに仕上げられているけれど、胸に関しては少々不自然なリタッチであるのは誰の目からも明らかなもの。

フランスでは、こうしたフォトショップなどによる修正が行われた完璧に美しい肌、もしくは不自然なほどに細いボディが、 人々に誤ったイメージを植えつけるとして、修正写真には ”修正が行われている” ということを明記することを義務付ける 法律が検討されているという。
同様の法律、もしくはメディアや広告における自主的な明記を促す運動はアメリカ、イギリスでも 起こりつつあるけれど、今やフォトショップによる修正は、一般の人々の結婚式の写真でも行われるようになっているもの。
さらにハリウッドでは、映画の中のキャラクターをきれいに修正するのは、女優の年齢層アップと、ビジュアル・テクノロジーの進化に連れて、 頻繁に行われるようになって来ている。 例えば、 「セックス・アンド・ザ・シティ : ザ・ムービー」 では、ロケ中のスナップで とても目立っていたサラー・ジェシカ・パーカーの腕や足の浮き出た血管は 全てキレイに消されているし、同様のことは 映画「ウォンテッド」に登場したアンジェリーナ・ジョリーの腕の血管にも言えること。
もちろん映画を観るファンとしては、劇場の大画面でサラー・ジェシカやアンジェリーナの血管を特大サイズで眺めたいとは思わない訳で、 エンターテイメントの視点から 何処まで修正するべきかをジャッジするのは、ある意味では広告写真より難しかったりする。

大統領選挙戦の際にも、オバマ大統領の写真が共和党寄りのメディアによっては 肌の色が濃く、唇の色が黒ずんだ印象で 修正され、民主党寄りのメディアは彼の肌を明るく見せていたことが指摘されていたけれど、修正はこのように 政治的意図でも行われるもの。 でも殆どの場合は、被写体を美しく見せて、雑誌やプロダクトを売ろうという商業的な意図で行われており、 同様の修正は、人間だけでなく、ファスト・フードの写真メニューのハンバーガーやフライにも行われているのも また事実である。
でも、ファスト・フード店で実際にバーガーをオーダーすれば、写真のようにバンズがふっくらしたバーガーが出てくることはまずないし、 ロレアルやメイベリンのマスカラを使って、スポークス・モデルとして広告に登場するドリュー・バリモアやクリスティ・トゥーリントンのような、 1本1本がくっきり分かれた長いアイラッシュにならないことも殆どの女性は理解しているもの。
だからと言って、潰れたバーガーの写真や、くっついたアイ・ラッシュの広告写真では、バーガーやマスカラが売れないのは当然のことで、 その意味では 写真の修正というのは、実物より良いイメージを植えつけられないと購入に及ばない人間心理が生み出した産物とも言えるものなのである。

このバルーンの ”やらせ”と言い、エアブラシやフォトショップの修正と言い、でっち上げた事件やビジュアルを 一般大衆に売り込むのは、失敗すればバッシングの対象になってしまうもの。 人を欺いたり、商業目的に走りすぎるほどに事実を捻じ曲げたり、ビジュアルをいじったりすることは、 たとえ罪に問われなくても 悪意がある行為と見なされるのは仕方ない事なのである。





Catch of the Week No. 2 Oct. : 10月 第 2 週


Catch of the Week No. 1 Oct. : 10月 第 1 週


Catch of the Week No. 4 Sep. : 9 月 第 4 週


Catch of the Week No. 3 Sep. : 9 月 第 3 週


Catch of the Week No. 2 Sep. : 9 月 第 2 週





執筆者プロフィール

秋山曜子。 東京生まれ。 成蹊大学法学部卒業。
丸の内のOL、バイヤー、マーケティング会社勤務を経て、1989年渡米。以来、マンハッタン在住。
FIT在学後、マガジン・エディター、フリーランス・ライター&リサーチャーを務めた後、1996年にパートナーと共に ヴァーチャル・ショッピング・ネットワーク / CUBE New Yorkをスタート。
その後、2000年に独立し、CUBE New York Inc.を設立。以来、同社代表を務める。





© Cube New York Inc. 2009