Oct. 11 〜 Oct. 17 2010




” Anti-Social Network ”


今週、アメリカのみならず、世界中で大きく報じられていたのが、鉱山落盤事故で69日間 現場に閉じ込められていた作業員33人の 奇跡的な救出劇。
アメリカでも メジャー・ネットワークは、全てこの救出の様子を生中継でレポートしており、 NBCはこの様子を 「チリにとっての ”月面着陸”」 として、 アポロ11号の月面着陸を世界中のメディアが報じた状況と 比較していたのだった。
33人の作業員は 救出後、本の出版、映画の製作等の契約金などで 全員がミリオネアになることが既に伝えられているけれど、 中でも最も注目を集めたのが、写真右のニューヨーク・ポスト紙の表紙にフィーチャーされているヨニ・バリオス。 現場で救出後の彼と再会を喜んでいる女性は 彼の愛人、スサーナ・ヴァレンズエラ。 彼の夫人、マルタは その時、自宅のTVでこの様子を見守ったとのことで、早くもこのストーリーを映画化する話が浮上しているのだった。
ことに今週は週明け早々、コートニー・コックス&デヴィッド・アーケット夫妻やクリスティーナ・アギレラの離婚が ハリウッドで伝えられていた上に、スポーツの世界ではNFLのベテラン・クォーターバック、ブレット・ファーブが ニューヨーク・ジェッツ在籍時代に若い女性に不適切な性的メールを送付していたことが明るみに出ており、 夫婦の愛情を保つ難しさや、若い愛人を作る夫の問題がアメリカでクロースアップされてい時。 それだけに、69日後に救出されたチリの作業員の帰還を 妻ではなく 愛人が現場で迎えた様子は、”ザ・ミラクル・イン・チリ” というヘッドラインで 大きく報じられた明るいニュースに スキャンダラスなツイストを加えていたのだった。

さて、先週、先々週とアメリカのボックスオフィスでNo.1となり、早くもオスカー・ノミネーションの呼び声が高いのが、 フェイスブックの創設者、マーク・ザッカーバーグ(写真左)がハーバード在学時代にフェイスブックを立ち上げる様子を描いた映画、 「ザ・ソーシャル・ネットワーク」。
1984年5月14日生まれ、今年26歳のマーク・ザッカーバーグは、史上最年少のビリオネアになっているけれど、 コンピューター・プログラミングとハッキングの天才であった彼がフェイスブックをスタートしたのは2004年2月のこと。 ハーバードの寮の1室からスタートしたこのソーシャル・ネットワークは、当初 ハーバードの学生のみを対象としていたけれど、 その4ヶ月後には30の大学に広がり、2004年中には 既に100万人のユーザーを突破。 2006年9月からは一般の人々にも利用がオープンとなっている。
今や世界中の5億人が利用すると言われるフェイスブックは、 1000人の従業員を抱え、その企業価値は330億ドル(約2兆5868億円)。
マーク・ザッカーバーグは最年少であるだけでなく、最短でビリオネアになったアントレプレナーと言えるけれど、 この成功の背後では、 当初 「ハーバード・ソーシャル」というネットワークを作ろうとしていた ハーバード大学の双子エリート、ウィンクルヴォス兄弟からアイデアを盗み、親友であり、フェイスブックの共同設立者と言えたエデュアルド・サヴェリンを裏切るという、 英語で言う「Backstabbing / バックスタッビング (直訳で ”後ろから刺す”であるけれど、実際の意味は相手を欺いてアンフェアな行為をすること)」 が行われてきており、ウィンクルヴォス兄弟、エデュアルド・サヴェリンは共にマーク・ザッカーバーグを訴えているのだった。
映画「ザ・ソーシャル・ネットワーク」は、この訴訟の過程とフェイスブック誕生の過程をオーバーラップさせる一方で、 フェイスブックの創設時の拡大に ”ナップスター”の創設者、ショーン・パーカーが大きな役割を果たしていることも 詳しく描いているのだった。
映画の中では シンガーのジャスティン・ティンバーレイクが、コカインでハイになったショーン・パーカーを上手く演じているけれど、 現実のショーン・パーカーは MP3ファイルによるミュージック・ダウンロード・サイト ”ナップスター”をクリエイトし、その後の音楽ビジネスを大きく変貌させた張本人。 彼がフェイスブックのビジネスに深く関わっていることを、この映画で初めて知った人も多いと言われているのだった。

映画「ザ・ソーシャル・ネットワーク」は、フェイスブックの拡大に寄与した ”ジェネレーションY” (1982年〜1995年に生まれた世代)に 大きくアピールしたのはもちろんのこと、現在50歳以上のベビーブーマー世代も 数多く 映画館に足を運んだことが伝えられているけれど、 ニューヨーク・タイムズ紙によれば、この2つのジェネレーションの映画に対する反応は真二つに分かれているという。
ベビーブーマー世代が マーク・ザッカーバーグの 「サクセスのためには 友達を欺く」、「要らなくなった友達を排除する」姿に ネガティブな反応を示していたのに対して、ジェネレーションY世代は 「サクセスのためには、友達を欺くのも仕方ない」、 もしくは「友達を欺いてもかまわない」という見解で、同世代の情の薄さを垣間見せているのだった。
実際にジェネレーションYと呼ばれる世代は、成長期にインターネットが普及していた初めての世代。 なので、Eメールや携帯メール、ビデオ・チャットでの交信を最も頻繁に行う世代である反面、フェイス・トゥ・フェイスのコミュニケーションを苦手とし、 就職しても仕事が長続きしないと言われる世代。 他人を尊重しない身勝手さから 「Generation Me / ジェネレーション・ミー」という あまり感心されないニックネームが付けられている世代なのだった。

その世代が世界最大のソーシャル・ネットワークを生み出すというのは 考えてみれば皮肉なものであるけれど、 映画「ザ・ソーシャル・ネットワーク」の批評や、その関連記事の多くが指摘していたのは マーク・ザッカーバーグ本人が 友好的な人付き合いが出来ない人間で、ハーバード時代も友達が殆ど居ない状態から、 周囲に自分の存在を認めさせるために作ったのがフェイスブックであるということ。

私が尊敬するベンジャミン・フランクリンの言葉に、「Be slow in choosing a friend, slower in changing. (友達を選ぶ時は時間を掛けること、 友達を変える時はさらに時間を掛けること)」 というものがあるけれど、 フェイスブックで行われているのは全くその逆の行為。
フェイスブックというのは、会ったことが無い人間同士や、1度会っただけの人間が、長年の親友と同じように「フレンド」とカテゴライズされてしまう一方で、 たとえ家族であっても 「defriend / ディフレンド」という行為で あっという間に絶交状態にしてしまうもの。
なので、フェイスブックに1600人の”フレンド”をリストしているような14歳の少女にとって ”友達”の意味合いが 従来の、本当の意味での”友達”とは異なってしまっていることが指摘される一方で、 フェイスブックへの書き込みが原因で家族関係がこじれるケースが増えていることが伝えられているのだった。
家族関係がこじれるケースで 最も多いと言われるのが、親の世代が冗談のつもりで 息子や娘のフェイスブックのページに 子供時代の見られたら恥ずかしいような写真やエピソードをアップしてしまうというもの。 これに懲りて、自分の親をディフレンドしたというフェイスブッカーは少なくないというけれど、 先週のニューヨーク・タイムズ紙には、妹のフェイスブックのページにした書き込みが原因で ディフレンドされた姉が 妹と1年半も音信普通状態になって困っているという相談を寄せていたのだった。

加えてフェイスブックは恋愛相手との別れも難しくしていることで知られいるけれど、 それというのも、交際相手を友人に紹介して、それぞれがフェイスブック上でフレンドとなった場合、 たとえ自分がその相手と別れて ディフレンドしても、相手のフェイスブックをチェックした友人から、 「彼のヴァケーション・フォトにブロンドの女の子が写っていた」というようなフィードバックが入ってくること。
こうした情報は、別れた直後で交際相手と距離を置きたいと思っている本人にとっては、 非常に不愉快なものであるという。


私は以前からこのコラムで書いている通り、フェイスブックはやらないと決めていて、 非常に良く出来ているのでビジネスでは使うかもしれないけれど、 個人では関わりたくと思っているものの1つなのだった。
その最大の理由は、個人情報がどんな風に悪用されるか分からないため。今や企業も人材採用の際に、フェイスブック、ツイッター、マイスペースといった ソーシャル・ネットワークやグーグルの検索結果をチェックすると言われているけれど、 アメリカでは フェイスブックにパーティーで酔っ払った写真をアップしてしまったために 教員免許を取り消されたり、 就職を断られたケースが決して少なくないのだった。
こうしたケースの場合、フェイスブックの情報は インターネット上の中傷やデマではなく、自分がアップロードした情報であるだけに、 言い訳や取り返しがつかない上に、一度アップされた情報は抹消できず、何年が経過しても、何時、何処から出てくるか分からないのが恐ろしい部分。
加えて、フェイス・ブックのアプリケーションは アドバタイザー(広告主)にそれを利用した人の個人情報をトランスファーするようにデザインされていることも メディアで報じられているのだった。したがって「フェイスブックはアプリケーションをダウンロードする必要が無いから安全」というのは大間違いなのである。

さらに、もっと恐ろしいと思ったのは、私はフェイスブックには個人情報を一切登録したことが無いにも関わらず、 ある時、友人からのフェイスブックへのインヴィテーションのEメールが来た際、 「あなたは恐らく、これらの人々のこともご存知でしょう・・・」といってリストされていた10人のうち、7人が実際に私が直接、間接的に知る人間であったということ。
フェイスブックが どうやってこういう情報を割り出したのかは分からないけれど、これは私だけではないようで、 映画「ソーシャル・ネットワーク」でマーク・ザッカーバーグを演じた ジェシー・アイゼンバーグも、彼自身はフェイスブックはやっていないものの、 役を演じるに当たって 全く偽のIDをでっち上げて登録したところ、 フェイスブックが フォローをサジェストしてきたフレンドのリストに、 実際の知り合いや家族が含まれていたと語っていたのだった。

それ以外にも、個人的に危惧しているのは本来、友達に会う度に話してきたような日常の出来事や、旅行の思い出などを フェイスブック上にアップしてしまうことによって 話さなくなってしまった場合、それが自分の記憶から簡単に消えてしまうのではないかということ。
会う人が変わる度に同じことを反復して喋っていることは、出来事を記憶にとどめる最善の方法。それをしなくなってしまった場合、 フェイスブック上に思い出が残っても、自分の記憶には残らないというのでは、人間として中味が無くなっていくように思えるのだった。
私は友達と呼ぶ人間に対しては、実際に会って 顔を見て話しながら いろいろな出来事をキャッチアップしたいと思うし、 本当の友達というのは何年会っていなくても、出会った途端に以前と全く同じテンションで会話が出来るもの。
会えない時に、フェイスブックで近況を伝えるのを良しとする人も多いけれど、私は 久々に会った時に話すことが沢山あるという状況の方を個人的に好むのだった。

先述のジェシー・アイゼンバーグだけでなく、「ザ・ソーシャル・ネットワーク」に出演しているジャスティン・ティンバーレイクも フェイスブックをやっていないというけれど、彼がやらない理由は 彼曰く 「プライバシーの尊重」。
私の友人にも 「これだけフェイスブックをやっている人が増えてくると、フェイスブッカーじゃない方がクールだ」という意見があるけれど、 別の友人が指摘していたのが、 かつては電話帳に皆が名前と電話番号をリストしていたけれど、それが悪用やいたずらの対象になってから、 リッチで、有名な人ほど 電話会社にお金を払ってまで リストしないサービスをリクエストするようになったということ。
なので、この友人は 近い将来、インターネット上から自分に有益ではない情報を消すサービスがビッグになるだろうと予測しているのだった。

その一方で テクノロジーの専門家が、フェイスブッカーに警鐘を鳴らしているのは、昨今の詐欺や泥棒が フェイスブックでターゲットを定めているという事実。 なので、家を長期間空けるような出張やヴァケーションの予定、自宅住所が分かるような情報、パス・ワードやIDのヒントとなる 誕生日などは一切フェイスブックにアップしないようにと警告しているのだった。
でも、中には間抜けな泥棒も居て、空き巣に入った家から金目のものを全て盗んで逃げようとしたところ、部屋に置いてあったラップトップ・コンピューターで ついつい自分のフェイスブックのページをチェックしてしまったとのこと。そしてログ・アウトするのを忘れてしまったために、この泥棒は呆気なく逮捕されてしまったという。
このエピソードは話としては面白いけれど、フェイスブックが 決して友達だけのネットワークではないということを象徴しているようにも思えるのだった。




Catch of the Week No. 2 Oct. : 10月 第 2 週


Catch of the Week No. 1 Oct. : 10月 第 1 週


Catch of the Week No. 4 Sep. : 9月 第 4 週


Catch of the Week No. 3 Sep. : 9月 第 3 週





執筆者プロフィール

秋山曜子。 東京生まれ。 成蹊大学法学部卒業。
丸の内のOL、バイヤー、マーケティング会社勤務を経て、1989年渡米。以来、マンハッタン在住。
FIT在学後、マガジン・エディター、フリーランス・ライター&リサーチャーを務めた後、1996年にパートナーと共に ヴァーチャル・ショッピング・ネットワーク / CUBE New Yorkをスタート。
その後、2000年に独立し、CUBE New York Inc.を設立。以来、同社代表を務める。





© Cube New York Inc. 2010