Oct. 10 〜 Oct. 16 2011

” End of Propaganda? ”



今週も、引き続き報道の中心となっていたのが、オキュパイ・ウォール・ストリートのデモンストレーション。
経済・金融のシステムの不平等やキャピタリズムに抗議するオキュパイ・ウォール・ストリートであるけれど、 このムーブメントが起こるべくして 起こっていることを証明しているようなデータが報じられたのが 今週月曜、10月10日付けのニューヨーク・タイムズ紙の第一面。 記事によれば、アメリカで正式にリセッションと見なされていたのは 2007年12月から2009年6月までの間。 そしてその間に落ち込んだアメリカの平均的世帯の年間所得は3.2%。 ところが、リセッションが明けたと言われた後の 2009年6月から2011年6月までの間に、アメリカの平均的世帯の年間所得は さらに6.7%落ち込み、49,909ドル(約385万円)になっていたとのこと。
失業率が高くても、小売りの業績が伸び悩んでも、肩書き上、「リセッションは明けた」ということになっていたアメリカであるけれど、 一般の人々の暮らしは その後も悪化し続けただけでなく、そのスピードがさらに速まっていたという真相が明らかになっているのだった。
リセッションがスタートしてから 2011年6月までの間には、アメリカの平均世帯年収は9.8%、すなわち約1割も落ち込んだ計算となっており、 3大ネットワークの1つ、NBCのニュースでは これを 「オキュパイ・ウォール・ストリートの言い分を裏付けるようなデータ」として 紹介していたのだった。

今週聞かれた噂によれば、ゴールドマン・サックスでは その社員に対して、オキュパイ・ウォール・ストリートの拠点となっているズッコッティ・パークに近寄らないようにという お達しがあったとのことだけれど、金曜にはそのオキュパイ・ウォール・ストリートが 清掃作業を理由にズッコッティ・パークの立ち退きを余儀なくされる ことが見込まれていたのだった。
そもそも、オキュパイ・ウォール・ストリートを嫌って、批判を続けているブルームバーグ市長が、 どうして彼らをズッコッティ・パークから立ち退かせることが出来ないかと言えば、 ズッコッティ・パークがプライベートに所有されている敷地であるため。 でもそのオーナーが清掃を目的に彼らの立ち退きを望んでいるとあれば、ニューヨーク市は警察を使ってオキュパイ・ウォール・ストリートを立ち退かせることが出来るため、 金曜にはその立ち退きをめぐる衝突が予想されていたのだった。
しかしながら、間際になってオーナーがオキュパイ・ウォール・ストリートの居座りを許可したため、衝突は避けられ、オキュパイ・ウォール・ストリートのメンバーは 喜びに沸いたことが伝えられているけれど、その一方で「市の代議士がズッコッティ・パークのオーナーに彼らが居座れるように圧力を掛けた」と不満を露わにしたのが ブルームバーグ市長。 ブルームバーグ市長と言えば、裕福とは言えないバック・グラウンドの生まれから、叩き上げでビリオネアになったことで知られるけれど、 金融出身で、自らが勤めていたメリルリンチをクライアントに独立して ブルームバーグ社を設立した彼は、キャピタリズムを支持する共和党の政治家。
したがって、その個人的な金融寄りのポジションからも、政治的な立場からも、オキュパイ・ウォール・ストリートのムーブメントは 1日も早く消え去って欲しいと願って止まない人物。
今週には、同じくキャピタリズムの恩恵を受けている共和党支持者のビリオネアで、ニューヨークの不動産王として知られるドナルド・トランプが ズッコッティ・パークを訪れて、参加者と対話をしたことが伝えられているけれど、 口達者なトランプ氏でさえ、彼の言い分と真っ向から対立する参加者を言いくるめることが出来ず、同氏に「(オキュパイ・ウォール・ストリートとの)解決の糸口は 見出せない」とコメントさせたような状態。 トランプ氏は、「このデモはウォールストリートでなく、ワシントン(オバマ大統領に対して)でやるべき」ともコメントしていたけれど、オキュパイ・ウォール・ストリートは そのワシントンにロビーストを送り込んで、大企業が政界をコントロールしてきたシナリオに対しても反発の姿勢を見せているだけに、 同氏のコメントは説得力を欠くものになっていたのだった。

オキュパイ・ウォール・ストリートと同様の運動は、今や世界中の都市に飛び火し、その数は87カ国とも90カ国とも言われるけれど、 今週末にその運動がバイオレンスと化したことが大きく報じられたのがローマ。土曜日はオキュパイ・ウォール・ストリートの インターナショナル・デイであったこともあり、ベルリン、ロンドン、マドリッド、シドニーなどでも大きなデモンストレーションが行なわれ、 東京でのデモの様子もアメリカのメディアで紹介されていたのだった。
ニューヨークでは、約6000人の人々がタイムズ・スクエアでのデモに参加したけれど、ここでは92人の逮捕者が出たことが伝えられており、 例によって、「警告を無視した参加者を逮捕した」というニューヨーク市警察側と、「警官は誰かまわず、掴みかかって逮捕していた」という参加者で 言い分が180度異なっているのだった。



現時点では、オキュパイ・ウォール・ストリートのムーブメントは ニューヨーク・ポスト紙のような 右寄りのメディアが社説で叩いている以外は、 至って中立的な立場で報じられているけれど、先週末あたりから顕著になってきているのがメディアが、オキュパイ・ウォール・ストリートを フォローすることにメリットを見出し始めているという傾向。
TVのニュース番組では、そのウェブサイトで オキュパイ・ウォール・ストリートの最新情報を24時間更新でフォローしていることを 謳い始め、様々なウェブサイトも オキュパイ・ウォール・ストリートの動きを追う特集や、フォト&ビデオ・アルバムのセクションを設けており、 ”オキュパイ・ウォール・ストリートの動きをチェックするなら、うちのメディア!”的な 宣伝文句が頻繁に登場するようになっているのだった。
中には、参加者のツイートを紹介するメディアも見られるけれど、私がオキュパイ・ウォール・ストリートのムーブメントが そう簡単に収まらないと個人的に思うのは、現在の社会がソーシャル・メディアの登場により、歴史的に こうした運動の火消し役を果たしてきたプロパガンダが 通用しない世界になってきているため。
プロパガンダとは、一部の人々(主に権力者)に利益をもたらすために、情報を操作して、特定の世論や思想、トレンドに導くこと。 日本語のウィキピディアには「通常 情報戦、心理戦,、もしくは宣伝戦、世論戦と和訳され・・・」とあったけれど、 私個人としては 「洗脳報道」 という言葉が適切だと思うのだった。

歴史的に、メディアというのは何らかのプロパガンダを発信してきたもの。
たとえ、事実を報じていても その事実の順序を変えるだけで、ポジティブをネガティブに、ネガティブをポジティブに操ることが出来るのがメディアが発する情報というもの。 例えば、「狭い部屋だけれど、天井が高いので実際より広く見える」と言えばポジティブな見解になるけれど、「天井が高いので広く見えるけれど、実際には狭い部屋」 と言えばネガティブな見解になる訳で、同じ手法は事件の報道から、政治の動向にまで用いることが出来るのはいうまでもないこと。
またメディアには 「報じないパワー」というものもあり、何が起ころうと それを無視することによって、歴史のブラックホールの中に葬り去ることが出来たのがこれまで。 でも、今ではツイッター、フェイスブックというソーシャル・メディアで、誰もが情報を発信することが出来る時代となったため、 メディアの「報じないパワー」というものが 著しく衰えたのは紛れもない事実。
さらに情報操作的な報道も、例えば その場に居合わせた人が撮影したビデオがYouTubeにアップされれば、あっという間に覆されるもの。 オキュパイ・ウォール・ストリートにしても、その運動に注目と同情が集まったのは、彼らの平和的なデモに対する 警察の過剰な対応が、YouTubeのビデオで公開されて以来。 もし、ソーシャル・メディアの無い時代であれば、ニュースは「オキュパイ・ウォール・ストリートというデモが行なわれて、警察と対立し、逮捕者が出ました」という 報道だけで終わってしまっていたかもしれないけれど、デモに参加する側がツイッターやフェイスブック、ウェブサイトで情報を発信しているだけに、 警官がペッパー・スプレーを使った様子などをメディアが無視すれば、非難の対象になるのは目に見えているのだった。


加えて、ソーシャル・ネットワークは 個々の意見を点から線にして 結ぶ役割を果たしており、これまではメディアが伝えたことを鵜呑みにしたり、 その情報に従うしかなかった状況から、今では人々が反発の声を上げることが出来る社会が形成されつつあるのだった。 その好例と言えるのがネットフリックス。
2012年に日本上陸の噂もあるネットフリックスは、郵便を使ったDVDレンタルとダウンロードのビジネスで、 アメリカでは過去数年に爆発的に利用者を増やしたサービス。 ところが、まずそのサービス・フィーの値上げを決めて利用者の反感を買ったのに加えて、9月半ばにはDVDレンタルとダウンロードのサービスをそれぞれ分割して独立させるという ビジネス・プランを発表。これが実現すれば、利用者はこれまで1つのアカウントで出来ていたことを、2つのアカウントを使って行なわなければならない訳で、 同プランは明らかに自社の都合を利用者に押し付けた形。
これには、「値上げは仕方ない」と理解を示していた利用者でさえ猛反発し、その利用者の怒りがソーシャル・メディア上で大炎上しただけでなく、 株価も急ピッチで下がり続け、ネットフリックスは今週火曜日、サービスを分割するプランを撤回する羽目になったのだった。

同様のことは、銀行のフィーにも言えることで、バンク・オブ・アメリカが発表したのが、デビッド・カードの利用者から月々5ドル、年間で60ドルのフィーをチャージするというプラン。 これは、銀行がこれまで小売店にチャージしてきたデビッド・カードの手数料に政府による制限が付けられたため、そのフィーの不足分を消費者に補わせようという 身勝手とも言える手数料。 これが人々の反感を買い、「口座を閉める」という声がソーシャル・メディアから、通常のメディアに寄せられるコメントにまで溢れたため、 当初同様のフィーを導入しようとしていたバンクの一部は、その考えを改めるざるを得ない結果となっているのだった。

こうして、情報が操作し難い社会になってきているというのは、ソーシャル・メディア時代が生んだメリットと言えるけれど、 皮肉なのは、オキュパイ・ウォール・ストリートのムーブメントの一端を担っているメディア、フェイスブックの最大のインベスターが、 オキュパイ・ウォール・ストリートのターゲットNo.1と言えるゴールドマン・サックスであること。 そのゴールドマン・サックスは、今年1月に社員にフェイスブック使用禁止令を出したことも伝えられているのだった。

オキュパイ・ウォール・ストリートに話を戻せば、 毎日のようにアメリカ国内からだけでなく、今や世界各国からの救援物資や寄付金が寄せられており、 ズッコッティ・パーク付近のUPSのオフィスは、その物資の配達で、パンク状態になっているとさえ言われているのだった。
その物資は、空きビルを倉庫に管理されているけれど、その場所は無料のレントで提供されているとのこと。 また、ニューヨーク市民の中には、オキュパイ・ウォール・ストリートの参加者に提供されるフードを調理するために、自宅のキッチンを 提供する人々も居て、中小企業から個人レベルまでを含む、グローバルなグラスルーツ・ムーブメントになりつつあるのは紛れもない事実。
寄付金だけでも23万ドル(約1775万円)以上を集めているオキュパイ・ウォール・ストリートは、既に11月一杯の活動を続けるだけの、十分な蓄えがあることを 明らかにしている状態。まだ世の中を変えるパワーにまでは至ってはいないものの、 これまで不満を感じながらも、金融や社会のシステムの中で 言われるままに”搾取”されていた人々を 動かす力になりつつあることは間違いないようである。





執筆者プロフィール
秋山曜子。 東京生まれ。 成蹊大学法学部卒業。 丸の内のOL、バイヤー、マーケティング会社勤務を経て、渡米。以来、マンハッタン在住。 FIT在学後、マガジン・エディター、フリーランス・ライター&リサーチャーを務めた後、1996年にパートナーと共に ヴァーチャル・ショッピング・ネットワーク / CUBE New Yorkをスタート。 その後、2000年に独立し、CUBE New York Inc.を設立。以来、同社代表を務める。


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