Oct. 10 〜 Oct. 16 2016

”Locker Room Talk or Not”
トランプ性的虐待発言で問題になった”ロッカールーム・トーク”、
アメリカ男性の言い分は?



今週のアメリカで引き続き最も大きく報じられていたのが共和党大統領候補、ドナルド・トランプが 過去に語った性的虐待発言関連のニュースと、実際に彼に性的虐待を受けたと名乗り出た女性たちをめぐる報道。
トランプが2005年に受けた芸能番組のインタビュー前後に語った性的虐待発言は 10月9日、日曜日に行われた 第二回目の大統領候補ディベートで 最も人々の関心が集中したトピックになっただけでなく、 フェイスブック上でも今回の選挙で最も物議を醸した問題になっていたけれど、 今週、その火に油を注いでいたのがドナルド・トランプ自身。
今週のトランプは、メディアや共和党本体を敵に回した発言に加えて、選挙のシステムを”不正”と批判。 またヒラリー・クリントンがディベートの際にドラッグを使用していた疑いがあるとして、ディベート前のドラッグ・テストの必要を支持者に訴える一方で、 虐待を受けたと名乗り出た9人の女性たちに対しては、「自分が虐待するほどルックスが良くない」、 「彼女らは自分の虐待のファースト・チョイスにはなり得ない」と語り、 当然のことながら今週末の「サタデー・ナイト・ライブ(以下SNL)」に恰好のコメディ・ネタを提供していたのだった。
そのトランプの怒りは、SNLにも向けられており 「こんなつまらない番組はキャンセルになるべきだ」とツイート。 今シーズンのSNLで トランプを演じているアレック・ボールドウィンに対しても「unfunny」、「stinks」と言った批判を展開。 でもアレック・ボールドウィンは、トランプ自身が彼のバイオグラフィーが映画化されるとしたら、誰に自分を演じて欲しいか?と メディアに訊ねられた際に、名指しで指名した俳優でもあるのだった。




ヒラリー・クリントンに対しては、ウィキリークのジュリアン・アサンジュがダメージを与えるべく、さらに新しいEメールや ゴールドマン・サックスに向けて行ったスピーチの内容などを公開していたけれど、正直なところ こちらは 現在のどん底レベルにまで落ち込んだ大統領選挙報道には内容が高尚過ぎて、人々が興味を示して読んだり、関心を示したりするには、 あまりに難しかったり、面倒臭かったり、まとも過ぎるスキャンダル。
ウィキリーク側は、これからもヒラリー・クリントン及び民主党にダメージを与えるハッキング情報の公開を示唆しているけれど、 少なくとも現在の切り口では人々とメディアの関心は集められないという印象になっているのだった。

このウィキリーク、及び民主党党本部のハッキングの背後に居ると言われるのがクレムリンであり、ロシアのプーチン大統領。 今週に入ってアメリカ政府が明らかにしたのが、これらのハッキングを通じたロシアによる大統領選挙介入への報復として、 ロシア側にサイバー制裁を与える準備があるということ。 一部ではプーチンの個人資産に関する情報が公開されるとの噂も流れており、既に始まっている冷戦時代2.0が具現化する様相を見せているのだった。                    




今週のアメリカでは、ドナルド・トランプが自ら性的虐待発言について、「ロッカールーム・トーク」という言葉を用いて 釈明をしたために、アメリカ中で「ロッカールーム・トーク」が大きな話題になっていたけれど、 この「ロッカールーム・トーク」とは、男性アスリートが試合後に 女子禁制のロッカールームで セックスのディテールや、 ボディの比較など、女性を性的オブジェクトとして捉えた蔑視&侮蔑、もしくはプライバシーを侵害する発言、及びそれをエンターテイメントとして 楽しむオフレコの会話を指すもの。 こうした会話には往々にして男性のエゴが絡むので、事実が誇張されていたり、捻じ曲げられているケースがあるのは織り込み済みの事実。
ドナルド・トランプの言い分は、「男性というのは、ロッカールームで彼の性的虐待コメントと同様の会話をするもので、それが批判の対象になるべきではない」 というものであったけれど、今週 この言い訳で迷惑を被ったのがプロフェッショナル・アスリート達。 NBAのスーパースター、ルブロン・ジェームス(写真上左、左側)が「自分のチームのロッカールームでは性的虐待の会話など聞いたことは無い」と反論した一方で、 NFLニューイングランド・ペイトリオッツのクォーターバック、トム・ブレイディ(写真上左、右側)は、試合後の記者会見で この質問をされた途端に苦笑いをしてインタビューを打ち切り、 ソーシャル・メディア上で物議を醸していたのだった。
ちなみに、ルブロン・ジェームスは10日ほど前に正式にヒラリー・クリントン支持を打ち出したばかり。 トム・ブレイディは、共和党予備選でトランプ支持を匂わせる発言をしたものの、後にそれを取り消しているのだった。

このロッカールーム・トークについては、理解を示す男性が居る一方で、猛反発する男性も多かったけれど、 反発する男性の言い分は「時々そういう事を言って見栄を張る"A-Hole"も居るけれど、それはごく一握り」、 「そういう話がしたい奴らにはさせておくけれど、まともな連中は皆不愉快な思いをしているし、会話に加わらずにその場を去るのが普通」 というもの。
そんな言い分を聞いて思い出したのが、私の以前のボーイフレンドが 「男の人間性は女性に対する態度に現れる」という考えの持ち主で、 「女性に対してレスペクト(敬意)が無い男は、大体嫌な奴だ」と常日頃から言っていたこと。 すなわち、ロッカールーム・トークを楽しむ男性が、それに興じない男性たちを「真面目」、「ノリが悪い」と見なしている一方で、 ロッカールーム・トークを嫌う男性たちは、それに興じる男性たちを軽蔑している訳で、 ロッカールーム・トークを巡って 男性は2種類に分かれると言えるのだった。

ちなみに、ロッカールーム・トークを好む男性というのは、たとえ女性の前ではまともに振る舞っているつもりでも、 その態度や言葉の端々、そして何よりも視線にそれを覗かせることが多いと思うのだった。




では一体何が原因で ロッカールーム・トークを楽しんでそれに積極的に興じる男性と、 それを不愉快に思う男性に分かれるかであるけれど、 社会心理学の世界で指摘されるのは、母親像の影響。
母親が夫である息子の父親に 肉体的、精神的に虐待されていたり、 人間的に軽視され、女性として蔑視される関係にあった場合、その環境で育った息子は往々にして 母親の言う事を聞かず、母親も息子の言いなりになるケースが多く、女性を同等に見なさない傾向が強いとのこと。 もちろんこうした環境は、そこで育つ娘にも影響を与えるのは言うまでもないことで、 アメリカではドメスティック・バイオレンスの犠牲になる女性の40%以上が、 父親による母親に対する肉体的、精神的虐待を見て育っており、それを愛情表現と勘違いしているケースも多いことが指摘されているのだった。

今週は「ロッカールーム・トーク」発言を発端に、ドナルド・トランプの大統領選出馬以来、初めて彼の母親像にメディアのスポットが当たっていたけれど、 トランプは自らのビジネスをスタートするにあたり約14億円の資金を補助したビジネスマンの父親のことは頻繁に語るものの、 母親については全く触れたことが無かったのは周知の事実。
実際に、彼の母親は非常に影が薄い存在であったようで、トランプの1人目の夫人であるイヴァナが語っていたのが、 トランプの両親と初めてレストランで食事をした際のエピソード。トランプの父が、母親の料理もオーダーし、 イヴァナの好みさえ聞かずに彼女の料理までオーダーしようとしたので、「自分でオーダーします」と言った途端に テーブルの雰囲気が悪くなり、後でドナルド・トランプに「父親に逆らうんじゃない」と叱られたというのがその内容。 時代は1980年代であったものの、トランプの両親の関係はそれより30年遅れていた様子が語られていたのだった。

性的虐待発言以前の段階で、既に女性からの支持率が低かったトランプであるけれど、 今週右寄りのメディアが報じたのが もし男性だけが投票した場合は 彼に未だ勝算があるというデータ。 これを受けて 熱烈なトランプ支持者は、「女性の投票権を認めた合衆国憲法第19条を無効にするべき」 という とんでもないツイートを繰り広げていたけれど、 この合衆国憲法第19条が制定されたのは1920年で、トランプの父親が15歳の時。
アメリカでは女性の参政権が認められてまだ100年も経過しておらず、 これは白人以外の男性の投票権を認めた憲法15条の制定から50年も遅れてのこと(第15条の制定は1870年)。
ヒラリー・クリントンは、弁護士として夫よりも稼いでいた1970年代に、クレジット・カードを申請したところ 「夫のカードを使うように」と断られたエピソードをトークショーで語っていたけれど、 100年前には投票権もなく、40年前にはクレジット・カードも作れなかった女性が、現在メジャー政党の大統領候補になっているというのは 「よくぞここまで辿り着いた」と思える功績。
そう考えるとロッカールーム・トークは 女性の社会的地位向上のスピードについていけない、もしくはそれを認めない、認めたくない男性のアクティヴィティとも言えるけれど、 今や女性とて「ロッカールーム・トーク」をするようになって久しい時代。 TV版の「セックス・アンド・ザ・シティ」が放映された1990年代後半には、まさか女性があんなにオープンに男性のセックス・パフォーマンスを友達と話題にしているとは思ってもみなかった男性が 自分の”レビュー”を気にするあまりEDになってしまったことが報じられていたのだった。
前述のように男性のロッカールーム・トークのドライビング・フォースはエゴで、話に誇張が多いのに対して、 女性がこの類の話題をする場合に行われるのは時に辛辣な比較分析。 そしてそれが女性と男性のセックスに対するアティテュードを反映しているようにも思えるのだった。



執筆者プロフィール
秋山曜子。 東京生まれ。 成蹊大学法学部卒業。 丸の内のOL、バイヤー、マーケティング会社勤務を経て、渡米。以来、マンハッタン在住。 FIT在学後、マガジン・エディター、フリーランス・ライター&リサーチャーを務めた後、1996年にパートナーと共に ヴァーチャル・ショッピング・ネットワーク / CUBE New Yorkをスタート。 その後、2000年に独立し、CUBE New York Inc.を設立。以来、同社代表を務める。

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