Oct. 17 〜 Oct.. 23 2005




New York Restaurant, Same Old Face



今週は、毎年恒例、ザガット・サーヴェイのニューヨークシティ・レストラン2006年度版が発売され、 その中でニューヨークの人気レストラン、トップ50のランキングが発表されたけれど、 以前のこのコラムやCUBE New Yorkのザガット・ランキングの記事にも書いているように、 かつてに比べて すっかりプレステージを失っているのが、ザガットのランキングである。
90年代半ばまでは、ザガットの人気レストランが発表されると、新聞はもちろんTVのニュースでも大きく報道されたものだったけれど、 過去数年、すっかりメディアの関心がザガットから遠ざかってしまったのは、 過去10年間、殆どそのランキングが変わらないというマンネリ化である。
ニューヨーク・シティは、毎年120件以上のレストランがオープンし、それと同時に100件以上がクローズし、 レストランが1年以上生き延びられる確率は約5%と言われるほど、 アメリカ国内はもちろんのこと、世界中で最も競争が激しい、レストラン激戦マーケットとなっているにも関わらず、 ザガットによる人気レストランの顔ぶれというのは、毎年殆ど変わらないのである。

私が持っている最も古いザガットを探したところ、1997年版、すなわち9年前のものであったけれど、それと比べても トップ10のうち6軒が 今年もトップ10入りをしているレストランで、トップ3のうちの2件、グラマシー・タバーンとユニオン・スクエア・カフェは 過去10年間、常にトップ3にランクされ続けてきた店である。
では、これだけ移り変わりが激しい、ニューヨークのレストラン・シーンで、常に不動のトップ3内ランキングを続けている同2店が 卓越して素晴らしいレストランかと言えば、決してそのようなことは無いのは、ニューヨーカーなら誰もが知りうるところである。 同2店よりもインテリアが素晴らしいレストラン、食事が美味しいレストラン、ホットなレストラン、予約が取り難いレストラン、客層が良いレストランは 存在している訳で、これらのレストランが評価されるのは、むしろ この移り変わりの激しいニューヨークで廃れない定番性と持続力、 何時出掛けても出したお金の分、もしくはそれ以上に食事、サービス、雰囲気で楽しませてくれる安定性によるところだったりする。

でも、ザガットのランキングが毎年同じだと文句を言う前に、ふと考えてみると、グルメを自負するニューヨーカーに ニューヨークのトップ・シェフを3人挙げてもらおうとすれば、その答えは殆ど ダニエル・ブリュー(ダニエル、カフェ・ブリュー、ビストロDB)、ジャン・ジョルジュ・ヴォングリヒテン (ジャン・ジョルジュ、 スパイス・マーケット、ペリー・ストリート他)、デビッド・ブーレー (ブーレー、ダヌーブ、他)というものである。 もちろん人によっては、マリオ・バターリ(バッボ、オット、ルパ、他)、 アルフレッド・ポーテイル(ゴサム・バーアンド・グリル)等を挙げる人もいるかもしれないけれど、 この顔ぶれとて、ザガット・ランキング同様、ニューヨーカーの間では不動のレギュラーと言える存在なのである。
この事実を裏付けるかのような記事が掲載されたのが10月12日のニューヨーク・タイムズ紙の「ダイニング・アウト」セクション (写真右)。 「ザ・コンテンポラリー・ダイニング・シーン、エスタブリッシュト 1985」というタイトルの記事で、 写真入りでフィーチャーされていたのは、シェフ、デビッド・ブーレー、ジャン・ジョルジュ・ヴォングリヒテン、アルフレッド・ポーテイルと、 レストランターのドリュー・二ポーレント (ノブ、モントラシェ、他)、ダニー・メイヤー (ユニオン・スクエア・カフェ、グラマシー・タヴァーン、他)の5人であったけれど、 記事の内容は、ニューヨークのコンテンポラリー・レストラン・シーンが これらのメジャー・プレーヤーの出現によって 80年代半ばから始まった軌跡にフォーカスを当てると同時に、今も彼らが機軸となってレストラン・シーンが動いていることを実感させるものだった。

私が個人的に言わせてもらうならば、昨今のニューヨークで彼ら同様、ことに若い層へのアピールに関しては彼ら以上にパワーがあると言えるのが、 バルタザール、パスティス、シラーズ・リカー・バー等、レストラン兼ナイトスポットを手掛けるキース・マクナリー、 ブルー・ウォーター・グリル、パーク・アヴァロン、アトランティック・グリル、ヴェント、ドス・カミノス等を傘下に収めるレストラン・グループの スティーブン・ハンソン、そして、チャイナ・グリル、アラン・デュカスとパートナー・シップを組んだミックス、オノ等、ニューヨークのみならず、 ラス・ヴェガス、ロンドン等にも進出するチャイナ・グリル・マネージメントのジェフリー・チョドローという3人のレストランターである。
このうちジェフリー・チョドローは、アラン・デュカス、トッド・イングリッシュ(オリーブ)のように名前のあるシェフと組んで レストランをスタートさせることが多いけれど、前者2人、キース・マクナリーとスティーブ・ハンソンは、 人気店のスー・シェフ・クラスを上手く引き抜いて、フードでは特に高い評価はされないものの、手ごろな価格と飽きの来ないセッティングで、 ニューヨーカーのリピーターに支えられるレストランを展開しており、彼らのスター・シェフ不在のビジネスは、ニューヨーク・タイムズの記事に紹介された5人の ビジネスとは1線を画すものである。

でもニューヨークのレストラン・シーンのメジャー・プレーヤーの名前を何人挙げたところで、 やはり気が付くのが、常に同じ顔ぶれで、ライジング・スターと言えるような、新しい若いシェフの存在に欠けるという点である。
レストランターについては、青二才の財力では務まらない仕事であるだけに、若手が登場しないのは むしろ自然なことだけれど、 同じ顔ぶれで ほぼ20年近く 牛耳られてきたニューヨークのレストラン・シーンに どうして彼らの「強力な後継者」と思しき存在が出現しないのかは、不思議であると同時に先行きに不安を覚える要素であったりする。
この理由については、以前からフード評論家や、レストラン業界の関係者が様々な問題点を指摘しているけれど、 それらを纏めると以下のようなものである。

1.若いシェフは、実力をつける前に引き抜かれてしまう。
2.若いシェフは、メディアでスター扱いされることによって、自分の実力、もしくは本業を見失ってしまう。
3.若いシェフは、有能なシェフよりも有名でリッチなシェフになりたがっている。
4.若いシェフは、レストランをビジネスとして理解していない。

これらを象徴する好例と言えるのは、リアリティTV に出演したことがきっかけで、シェフ生命に終止符を打つことになったロッコ・ディスプリト、 そしてレストラン・インサイダーの間では最も嘱望された若手シェフの1人でありながら、そのエゴでキャリア自殺とも言える辞任劇を展開した アンジェロ・ソーサである。
前者のロッコ・ディスプリトについては、以前のCUBE New Yorkの記事でもそのリアリティTVスターからの転落ぶりをレポートしたことがあるけれど、 彼はデビッド・ブーレーの下で修行を積み、その才能を見込まれてレストラン・ユニオン・パシフィックのシェフに抜擢。 オープンから数ヶ月、しかも20代という若さでニューヨーク・タイムズ紙のレストラン・レビューの3つ星を獲得し、 ニューヨーク・レストラン界の次世代のスターと目された存在だったのである。
そんな彼の人生を狂わせたのは、彼が先述のレストランター、ジェフリー・チョドローをバッカーに2003年にオープンしたレストラン「ロッコ・オン 22nd」を 舞台にしたリアリティTV「レストラン」である。甘いマスクの彼は、リアリティTVのお陰で一躍スターとなったが、 番組には、そのレストラン運営のいい加減さが描かれており、来店客がサービスや食事の酷さに文句を言うシーンもふんだんに盛り込まれ、 とても彼の3つ星シェフとしての名声を高めるものとは言い難いものだった。
このリアリティTVを手掛けたのは「サバイバー」、「アプレンティス」で知られるリアリティTVのキングとも言えるプロデューサー、マーク・ブルネットで あったけれど、彼が手掛けたリアリティTVシリーズで、初の放映打ち切りとなったのが、「レストラン」の2シーズン目に当たる「レストラン2」である。 この中では、店のキッチンに全く姿を見せず、取材や、出版したばかりの料理本のサイン会に 忙しく動き回るロッコと、 レストランのいい加減な運営、スタッフのチームワークの悪さ、経営不振に頭を痛める経営者、チョドローの対立が赤裸々に描かれた、 重苦しく、決して見ていて気分が良いとは言えない番組で、放映局NBCは その低視聴率を理由に、 最後の2エピソードを放映することなく、同番組をプライム・タイム(ゴールデン・アワー)のラインナップから外したのだった。
その後のロッコの転落ぶりは悲惨なもので、ニューヨーク・タイムズは、彼の3つ星レストラン、ユニオン・パシフィックから星を1つ剥奪。 その後、彼は同レストランのシェフを解雇され、そして自らの名前を付けたレストラン、ロッコからも解雇、出入り禁止の処分を 受けることになる。 泥沼化したロッコVS.チョドローの争いは法廷に持ち込まれたものの、判事はチョドロー側を支持。敗訴したロッコは、 レストラン・シェフを辞めて、メディア活動に専念すると宣言したものの、彼の料理本は売れ行き不振から、シリーズ化されることはなく、 彼をフィーチャーした番組の企画も潰れてしまう。
レストランに戻ろうにも、自分で店を開くだけの資本はない上に、彼とチョドローの争いがあまりに大きく報道されたのに加え、 リアリティTVで「料理そっちのけのいい加減なシェフ」のイメージがついてしまったために、彼と組みたがるレストランターも居らず、 結局、彼はジェフリー・チョドローに謝罪したことが伝えられているが、彼に関するニュースはそこで止まったままである。

一方、ロッコほどドラマティックではないものの、せっかくの才能と、レストラン業界における評価を汚点を付けてしまったと言える アンジェロ・ソーサは、ジャン・ジョルジュ・ヴォングリヒテンの2軒のレストラン、ジャン・ジョルジュとスパイス・マーケットで 修行を積み、ウエスト・ヴィレッジに今年春オープンしたレストラン、ヤムチャのシェフとなったけれど、 オープン当初から、「彼の料理はバジェットが掛かり過ぎる」と こぼすオーナーのクウェンティン・ダンテと彼の不仲は、 スタッフの誰もが知るところだった。
常々口論が絶えない2人であったが、8月上旬、開店前の口論でオーナーに激怒したアンジェロ・ソーサは、店がオープンする30分前の5時半に、 キッチン・スタッフ数人を引き連れて出て行く という、ローカル・タブロイドが大喜びするような辞任劇を演じ、 レストランは当然のことながら、その時点で受けていた予約を全てキャンセル。次のシェフが見つかるまで、屈辱の閉店を余儀なくされたのである。
結局、ヤムチャの新しいシェフには、やはりジャン・ジョルジュのマーサー・キッチンで修行を積んだテン・ヴォングが就任。 そしてアンジェロ・ソーサは、チェルシーにオープンするアジアン・フュージョンのレストラン、ブッダカンのシェフに就任することが決まったというけれど、 ヤムチャのオーナー、クウェンティン・ダンテは、今もソーサを訴えるかどうかを検討していると言われ、 その一方でソーサの師匠であるジャン・ジョルジュは、「彼は素晴らしい料理人であるけれど、いきなり彼に食材のバジェット管理のような 経営部分まで任せるのには無理がある」と、ソーサのヘッド・ハントが早過ぎたことが、今回の問題を生み出したことを指摘する。

彼ら以外にも、ニューヨークのレストラン・シーンで、メディアを賑わせて、あっという間に消え去り、今では誰も名前を覚えていないというような 若いシェフは沢山いる訳だけれど、そうしたシェフがレストランターに見込まれるのは、 ダニエル、ジャン・ジョルジュ、デビッド・ブーレーといった名シェフの下で働いたというレジュメがあるからである。
私は以前デビッド・ブーレーが、「今の若いスタッフは、私のレシピをマスターすることに時間とエネルギーを注ぎすぎて、 フィロソフィー(料理哲学)を学ぼうという姿勢がない」とインタビューで語っていたのを読んだことがあるけれど、 確かに現在ニューヨークに長く君臨する一流シェフは、独自のスタイルやフィロソフィーを持つ 「オリジナル」と言える存在であるのに対して、 昨今の若手シェフは、一流シェフの名前を出して、彼らの下で修行したことをアピールして、初めてメディアが取上げ、 客が呼べる存在に過ぎないのである。
だから、一流シェフのレストランには、そうしたレジュメを必要とする野心的な若手シェフが常に働きにやってくるし、 そのスタッフのうちの誰がヘッドハントされようと、次から次へと、代わりがやってくるのである。 でも引き抜かれた若いシェフが、株分けされた蘭が大きな花を咲かせるようなサクセスを収めるケースは極めて稀で、 殆どは根が生える前に枯れてしまうものである。
先述のキース・マクナリーの「パスティス」やスティーブ・ハンソン「ブルー・ウォーター・グリル」のように、こうした「オリジナル」とは言えないシェフを 上手く使いこなして 成功しているケースに共通するのは、レストラン自体が 集客力のある「オリジナルな存在」 となって、 シェフをあくまで レストランというオーガニゼーションの歯車の1つとして雇っている点である。 だから、誰がキッチンに立とうと、常にテーブルは埋まっているし、来店客は誰がシェフであるかを知ろうともしないのである。

さて、ザガットに話を戻すと、私はザガットをレストラン・サーヴェイ(調査)としては全く信頼していないけれど、 それでも便利なものだと思って、ほぼ毎年購入していたりする。
特に昨年からザガットは、アッパー・ウエストサイドのグルメ・ストア、ゼイバースで購入すると決めているけれど、 これは、書店で13.95ドルのザガットも、ゼイバースのロゴがフィーチャーされ、同店の広告と割引クーポンを含む16ページ分 が加わったものをゼイバースで購入すると9.50ドルであるため。
今年からはニューヨークでも、あのミシュランがレストラン・レビューを出版することになっているけれど、ミシュランがフィーチャーするのは約500店。 これに対してザガットは、その4倍の2003軒のレストランを掲載しており、内容を鵜呑みにせず、レストランの電話帳として使うには、 これほどコンパクトに上手く纏まった存在は無いと言えるのである。




Catch of the Week No.3 Oct. : 10月 第3週


Catch of the Week No.2 Oct. : 10月 第2週


Catch of the Week No.1 Oct. : 10月 第1週


Catch of the Week No.4 Sep. : 9月 第4週





執筆者プロフィール

秋山曜子。 東京生まれ。 成蹊大学法学部卒業。
丸の内のOL、バイヤー、マーケティング会社勤務を経て、1989年渡米。以来、マンハッタン在住。
FIT在学後、マガジン・エディター、フリーランス・ライター&リサーチャーを務めた後、1996年にパートナーと共に ヴァーチャル・ショッピング・ネットワーク / CUBE New Yorkをスタート。
その後、2000年に独立し、CUBE New York Inc.設立。以来、同社代表を務める。