Oct.. 20 〜 Oct. 26 2008




” グリーンスパン、ヘッジファンド & ブラックベリー ”


今週は久々にファッションとビューティーの話題から入ろうと思うけれど、 決して楽しいネタではなく、大統領選がらみのお話。
既に、”ファッション・ニュース・アットランダム” のセクションでもお伝えしている通り、 共和党の副大統領候補、サラー・ペイランが過去2ヶ月の間に 共和党の選挙資金から そのワードローブの購入に15万ドルを使い果たしたのは今週アメリカで大きく報じられたこと。 それと同時に驚くべき 選挙資金の使い道が明らかにされたのが昨日10月25日付けのニューヨーク・タイムズ紙。
これによれば、10月にマケイン候補のキャンペーン資金の中から、最高額の給与が支払われたのは、 彼の選挙参謀でも外交アドバイサーでもなく、サラー・ペイランの遊説に同行したメークアップ・アーティスト、 エイミー・ストロッツィであったという。 彼女は、TV界のオスカーと言われるエミー賞にもノミネートされたことのある メークアップ・アーティストで、彼女が10月前半分として支払われた2万2800ドル(約217万円) は、 マケインの外交アドバイザー、ランディ・シューネマンが 同時期に支払われた給与、1万2500ドル(約119万円)を遥かに上回るもの。
この他にもサラー・ペイランにはロサンジェルスのヘア・サロンから 専属のヘア・スタイリスト、アンジェラ・ルーが派遣されて、全米各地の 遊説に同行しているけれど、彼女に対しても10月前半に1万390ドル (約99万円)が支払われており、 彼女は マケイン・キャンペーンの中では今月4番目の高給取りになっているという。 同じLAのヘア・サロンからはシンディ・マケイン夫人のヘア・スタイリストも派遣されているというけれど、 選挙資金というのは、有権者からの寄付だけでなく、国から出資されている分は国民の税金でまかなわれているもの。
共和党支持者の多くは、サラー・ペイランのグッドルッキングぶりを高く評価しているけれど、 300万円もビューティー・バジェットを投じているなら、少なくとも もっと まともなヘアで出てきて欲しいと思うのは 決して私だけではないし、ワードローブとは異なり、これだけの大金を投じた成果がさほど感じられないのが サラー・ペイランのヘア&メークなのである。

以前にもこのコラムに書いたように、民主党支持者やインディペンデント(2大政党のどちらも指示しない中立の人々)、そして一部の共和党支持者に至るまでが 危惧しているのが、マケイン候補が当選した場合 「たった1回の心筋梗塞でサラー・ペイランが大統領になってしまう」ということ。
特に 私は今週の 彼女の高額ワードローブ報道で、さらにその危機感を新たにしてしまったけれど、 そもそも 国民の平均年収の3倍を8週間で使い果たしたにもかかわらず、あの程度の服装しか出来ない女性が、 国家予算など扱える筈がない のである。
例えば、同じ女性政治家でも下院議長を務めるナンシー・ペロッシは、ブランドをわざわざ言われなくても、その仕立てや 素材のTV映りで、アルマーニやそれと同等のブランドのスーツを着用しているのは見て取れるもの。 彼女はサラー・ペイランのように膝上丈のスカートなど着用しないので、ファッションが分らない人には地味でプレーンな服装にしか 見えないかも知れないけれど、きちんとカラーをトーン・オン・トーンでカラー・コーディネートをして、何枚ものアルマーニのスーツを 着回している訳である。
でもサラー・ペイランの場合、ナンシー・ペロッシがスーツの内側に着ているシャツやブラウスより 安いスーツを、 遊説箇所の枚数分買い揃えるような ”ブレインレス (能無し)・ファッション” をしている訳で、 一瞬の見た目はアピールできても、その内訳を見せ付けられるにつけ、 お金の使い方が下手、コーディネート力が無い、 ファッションの知識やショッピングの経験に乏しい、という政治家としての彼女に通じる問題点が その服装に如実に表れていることを悟らされるのである。

でもそれより恐ろしい事実と言えるのは、サラー・ペイランのメークアップ・アーティストの半月分の給与の さらに半分程度の 年収(実際金額にして約1万3000ドル)しかないような世帯が、数年前にサブプライム・ローンで家を購入していたということ。 そして真っ当な金融機関が これらの 「自分達にローンが下りるなんて、考えられない!」 と思っているような人々に対して、 「契約書なんて読まなくても大丈夫だから、早くサインをしてローンの手続きを完了させなければ!」 と プッシュしていたという実態。 住宅ローンの手続きが、「Just Do It!(ただやればいいんだ!)」という ナイキのキャッチフレーズを用いてオファーされていた実話もあるくらいだから、サブプライムに加担していた側は 本当にゲーム感覚だったのかもしれない。

今週も下院では、今回のファイナンシャル・クライシスを巡る 聴聞会が行われていたけれど、 木曜にそのお呼び出しが掛かったのが レーガン政権以来18年間に渡ってFRB(連邦準備制度理事会)議長を勤め、 2006年に引退したアラン・グリーンスパン氏 (写真右) 。 多くの金融関係者はこれまで彼のことを 「マエストロ」 と呼んでおり、私の知人の金融関係者もグリーンスパン議長在任時代は、 「I have a faith in Alan Greenspain (アラン・グリーンスパンを信仰している)」と語っていたほど。
でも金融の専門家ではない私にしてみれば、アラン・グリーンスパンという人物は、アメリカにおける”キャッシュのパワー” を 著しく低下させた張本人であり、アメリカのクレジット社会、借金社会を構築する一方で、 キャッシュ・セイビング(貯蓄) の尊さ をないがしろにしてきた存在として、私は以前から非常に彼を嫌っていたのだった。 彼の在任中にアメリカ人の頭の中からは、「お金は稼いでから使うもの」というアイデアが完全に抹消されてしまったと言っても 過言ではないのである。
そんなアメリカ社会であるから、女性ファイナンス・アドバイサーとして大活躍しているスーズ・オーマンは、 その著書 や出演番組の中で 「自分が稼ぐ以上のお金を使ってはいけません」などという小学生でも分かるセオリーを アメリカ国民に説いて大儲けをしているのだった。

今年82歳になるグリーンスパン前議長は、この聴聞会の席で厳しい批判と責任追及を受けて、 自分の在任時の過ちを部分的に認め、フリーマーケット(自由主義経済) のイデオロギーが誤っていたこと、彼自身がそれに欠点を見出していたことを認める発言をしていたけれど、 それと同時に今回のクライシスの責任がウォールストリートのインベストメント・バンクやスタンダード&プアーズに代表される レーティング・エージェンシー、ローン会社にもあることを指摘していたのだった。
ここまでファイナンシャル・クライシスが拡大し、世界中のマーケットに波及した今では、 今回のグリーンスパン議長だけでなく、ありとあらゆる金融関係者が 口を揃えて語るのが、「こうなるかもしれない火種には気付いていたけれど、ここまで大きなクライシスに発展するとは思わなかった」 ということ。 もし これが本当ならば、 多くの金融関係者は その規模は別として現在の状況を予測していたということになる訳だけれど、 それを考えれば考えるほど、金融業界における 「リスク・マネージメント」 という言葉は、一体何処から発生して、どういう意味を持っているのか?が 私には全く理解が出来ないのである。


さて そんな中で、昨今 急激な経営悪化が伝えられているのが 今やインダストリーの規模が1兆7000億ドル(約162兆円)に 達しているヘッジファンド。
40代でマルチ・ビリオネアとなり、シアーズとKマートを買い取ってしまったことで知られるヘッジファンダー、エディー・ランパートは その彼が所有するシアーズ・ホールディング(シアーズとKマートの親会社)の株式が大暴落したため、 9月半ばから10月24日金曜までの約1ヶ月の間に$36億ドル(約3420億円)の個人資産を失ったことが伝えられ、 彼のヘッジファンド、ESLインヴェストメントも 過去26日の取引日 1日当たり $193ミリオン(約183億円)を失っていることが報じられているのだった。 ちなみに この損失額は1日の取引時間(6時間半)、1時間当たりで$30ミリオン(約28.5億円)、1分当たり$ハーフ・ミリオンという 凄まじさである。
彼と並ぶヘッジファンド界のスーパースターの1人、ケネス・グリフィンにしても、彼の経営する シカゴのシタデル・インベストメント・グループが 過去3ヶ月の間に失ったと見積もられている金額は$180ビリオン(約17兆1000億円)。 今週金曜(10月24日)にはシタデルの経営難の噂を否定するため、ケン・グリフィン自らが 珍しく 同社エグゼクティブと投資家間で行われるカンファレンス・コールに登場したことがニュースになっていたけれど、 そんな大金に全く縁が無い一般市民からしてみれば 「 ”17兆円を失った” なんて 一度で良いから真顔で言ってみたい!」 という感じである。

でもヘッジファンドの経営がこれだけ悪化しているということは、彼らに資産運営を任せていた メガリッチたちの財産も確実に、そして急速に目減りしているということ。
それを証明するかのように、今週報じられたのが オークション・ハウスのサザビーズが 今月のロンドンと香港で行われたアート・オークションの 売れ行きが芳しくなかったために、 コンサイナー(委託者)に対して15億円ものギャランティー・プライスを支払ったというニュース。
このギャランティー・プライスとは、オークションに出品するアートの委託を受ける際に サザビーズが 「最低でもこの価格で落札されるはず」 という値段を見積もり、その金額を保証するもので、 もしその価格以下で落札されたり、売れなかった場合には、サザビース側がその埋め合わせ分を支払うというシステムである。
したがって、サザビースがこれだけの金額をギャランティー・プライスとして コンサイナーに支払ったということは、 オークションの アートの売り上げが 当初 見積もった最低額を 少なくとも15億円 下回ったということを意味する訳である。
もちろん、サザビースが落札最低価格のギャランティをするのは、オークションに出品される中でも 確実に高額をつけるであろうと見込まれるもののみ。 サザビースは昨年の同じ頃ニューヨークで行われた印象派とモダン・アートのオークションでも14億6000万円のギャランティ・プライスを 支払っていただけに、今年に入ってからは ギャランティの数を50%も減らしていたという。 にも関わらず、同社は今月それ以上の金額のギャランティを支払っている訳であるから、 クレジット・クライシス前にピークをつけたアート市場も 住宅市場同様の運命を辿っているようである。


ところで 全く個人的な事ではあるけれど、私は今週 やっと携帯電話をブラックベリーに替えたのだった。
それまではモトローラを使っていたけれど、テキストを打つのが非常に不便なので、アイフォンかブラックベリーかで散々迷った挙句、 電話会社を替えず済むブラックベリーに決めたのだった。
でも私がブラックベリーに決めるまでには、数ヶ月に渡ってアイフォンとブラックベリーのそれぞれのユーザーから使い心地などについて 話を聞いたけれど、決定打になったのが 私の友人と彼女の友達でサンフランシスコから出張でNYに来ていた20代の女性と 食事をした際の会話。
そのサンフランシスコ嬢は 若いので、アイフォン派かと思いきや、ブラックベリーからコミッションを貰っているのでは?と思うほどの ブラックベリー派で、「シリアスなビジネスマンやビジネス・ウーマンでアイフォンを使っている人を見たことがある?」 と 言い出したのをきっかけに 「大体、どうしてアイフォンの発売日にアップル・ストアの前に徹夜組みを含む行列が出来ると思う? アイフォンを買う人は ろくな仕事に就いていないから、電話の売り出しくらいで仕事が休めるのよ!」 と熱っぽく語られてしまったのだった。
確かに 弁護士、金融関係、不動産、ドクターなど、エリート職が使っているのは圧倒的にブラックベリー。 アイフォン・ユーザーとブラックベリー・ユーザーを比較すると、年収はブラックベリー・ユーザーの方が遥かに高そうなのである。 そこまで言われてしまうと、私も とりあえずは 「小さい会社とは言え経営者として信頼される方を選ぶべきなのでは?」 という 浅はかな 気持ちが働いて、素直にブラックベリーに替えたというのがその経緯なのだった。
でも この話をアイフォン・ユーザーの友達にしたところ、「ファイナンシャル・クライシスを迎えてからは、 投資をするお金が無いアイフォン・ユーザーの方がブラックベリー・ユーザーより幸せそうにしている」 と言われてしまい、 「確かにそうかもしれない!」とも 思ってしまったのだった。

10月21日に発表されたアップルの第4四半期の業績によれば、アイフォンは690万台を売り上げており、 初めてブラックベリーの売り上げ(680万台)を超えたことが伝えられていたけれど、 アイフォンがここまで売り上げを伸ばしているのはブラックベリー・ユーザーが多いウォールストリートでは 少々意外に受け取られていたこと。
その一方で、アイフォンより遥かに歴史が長いブラックベリーは、そのヴァージョンがユーザーのジャッジメントに使われることもしばしば。 9月1週目のコラム で触れた、ルーフトップ・パーティーで出会った ヘッジファンダー達のことを、その後 女友達と話していた際、 彼らは とりあえずボトル・サービスは入れていたものの、 果たして どのくらい稼いでいるか?という話題になったのだった。
ヘッジファンドに務めている女の子が、「未だ彼らのビジネス・カードを持っていたら、ファンドの名前さえ分れば調べてあげるわよ」 と言っていたけれど、 「そんなことまでしなくても・・・」 と言い出したのが別の女友達。 「彼ら、絶対に大して 稼いでいないわよ。だってそのうちの1人が使っていた ブラックベリーを見たけれど、 あれはどう見ても3年前のバージョンだったわ!」 と指摘したので、 私はブラックベリーはそういう目安としても使えるんだ!と 妙に感心してしまったのだった。
ブラックベリーのユーザーは その40%以上が ブラックベリーをベッドルームに持ち込んで真夜中でもメッセージをチェックしているそうで、 そのあまりの中毒性に、アメリカでは ”クラックベリー” というニックネームさえついているほど。 でも私の場合、まだ使い始めて1週間も経たないせいか、未だその魅力を見出していないのが現状なのである。





Catch of the Week No. 3 Oct. : 10 月 第 3 週


Catch of the Week No. 2 Oct. : 10 月 第 2 週


Catch of the Week No. 1 Oct. : 10 月 第 1 週


Catch of the Week No. 4 Sep. : 9 月 第 4 週






執筆者プロフィール

秋山曜子。 東京生まれ。 成蹊大学法学部卒業。
丸の内のOL、バイヤー、マーケティング会社勤務を経て、1989年渡米。以来、マンハッタン在住。
FIT在学後、マガジン・エディター、フリーランス・ライター&リサーチャーを務めた後、1996年にパートナーと共に ヴァーチャル・ショッピング・ネットワーク / CUBE New Yorkをスタート。
その後、2000年に独立し、CUBE New York Inc.を設立。以来、同社代表を務める。