Oct. 19 〜 Oct. 25 2015

” Rich Gets Richer, Again ”
だから貧富の差が開く…、アメリカのリッチ・ゲッツ・リッチアーのシナリオ


今週最もニューヨーカーがエキサイト したのが、10月21日水曜日にニューヨーク・メッツが シカゴ・カブスを4戦全勝で下して、 15年ぶりのワールドシリーズ出場を決めたニュース。
10月21日は先週のこのコラムにも書いたように「バック・トゥ・ザ・フューチャー」デイ。 1989年に封切られた「バック・トゥ・ザ・フューチャー2」の中で描かれていたのが2015年10月21日で、 映画の中のこの日の新聞によればシカゴ・カブスが4戦全勝でワールドシリーズに勝利したことになっていたけれど、 現実では シカゴ・カブス4戦全敗で ワールドシリーズ出場を逃したという逆の結末になっていたのだった。

政治的ニュースでは、この10月21日に 大統領選出場が噂されていたジョー・バイデン副大統領が 正式に立候補断念を発表。 そしてその翌日、10月22日には、ヒラリー・クリントン元国務長官に対する 2012年リビアのベンガジで起こったアメリカ領事館 狙撃事件の下院公聴会が行われたけれど、ここでも先週行われた民主党大統領候補ディベート同様、 敵対的な共和党のパネルからの質問に対して”役者が違う”という印象を見せ付けたのがヒラリー氏。
11時間にも渡って行われた公聴会のリアクションでは、全てのメディアがヒラリー・クリントンに圧倒的な軍配を上げており、 共和党メディアで知られるFOXニュースは、 「ヒラリー氏に歯が立たない共和党パネルの様子を放映し続けて 視聴率を落とすことを懸念して、放映を途中でストップした」ことが伝えられているのだった。

先週のディベートに引き続いて、今週のジョー・バイデン副大統領の出馬断念、ベンガジ公聴会のヴィクトリーですっかり劣勢を盛り返した ヒラリー・クリントンのキャンペーンには、今週初めて 夫のビル・クリントンが姿を見せたのに加えて、 ヒラリー氏を支持するシンガーのケイティ・ペリーが応援に駆けつけており、支持率でもリードをさらに広げる上昇を見せたのが今週。
共和党側は、これまでトップを走ってきたドナルド・トランプが若干支持率を落とす一方で、ベン・カーソンがどんどん追い上げを見せており、 アイオワ州を含む2州ではカーソン候補が逆転で支持率トップになっているのだった。




その一方で、今週月曜にアメリカで大きく報じられたのが、女性セレブリティとして常に長者番付のトップに君臨する オプラ・ウィンフリーが、大手ダイエット企業ウェイト・ウォッチャーズの株式の10%を約4000万ドル(約48億円)で買取り、 経営に加わりながら、同社のアンバサダーを務めることになったというニュース。
オプラ・ウィンフリーが 以前から何度も、様々なダイエットをトライしてきた事はアメリカ人にとっては周知の事実。 そんな彼女は70年代にウェイト・ウォッチャーズをトライしたことがあったというけれど、 同社はこれまでにもジェニファー・ハドソン、ジェシカ・シンプソンなどのセレブリティ・スポークスマンをダイエット成功に導いてきた存在。

しかしながら、今年に入ってからその株価が72%も下落する業績不振に悩まされていたとのことで、 同社が新たなアプリを発表するにあたって アプローチしたのがオプラ・ウィンフリー。 そして8月からそのダイエットをトライし始めたオプラは、今週までに既に約8キロの減量に成功。 ウェイト・ウォッチャーズへの投資を決意したという。
今では自らのケーブル・チャンネルを持ち、ミドルエイジの女性に圧倒的なアピール力を持つオプラが、 ウエイト・ウォッチャーズの株式を買い取り、しかもブランド・アンバサダーを務めるというニュースは、当然のことながらウォールストリートで好感され、 同社の株価はこのニュースが報じられた月曜1日だけで105%もアップ。 これによってオプラの4000万ドルの投資は、たった1日にして約4500万ドル(約54億円)の利益をもたらすという とんでもないターンオーバーを見せていたのだった。

このオプラの投資は、「お金がお金を生み出す」、「リッチ・ゲッツ・リッチアー」の典型的 なシナリオであるけれど、 そもそも投資による収入=キャピタル・ゲインは税率が低いだけでなく、 投資に失敗した場合は、その損失額が税金控除の対象となるので、アメリカでは投資をするお金があればあるほど リッチになれる一方で、雇用所得に頼っていると、特にミドル・クラスは税金ばかり取られるというのが実情。 したがって、ミドル・クラスがどんどん減って貧富の差が開くのは当然と言えば当然と言えるのだった。




オプラ・ウィンフリーのような好感度が高いセレブリティが益々リッチになる分には文句を言わないのがアメリカ社会であるけれど、 先月9月に人々をカンカンに怒らせたのが、エイズ患者が服用している処方箋薬、ダラプリムの製造販売権を取得した ターニング・ファーマスーティカル社が、一夜にしてその販売価格を1錠13.5ドルから750ドルへと、 5000%もの 値上げを行ったこと。
これによって同社の若きCEOで、元ヘッジファンド・マネージャーのマーティン・シュクレリ(写真上左)は、 「アメリカで最も嫌悪される存在」とまで言われたけれど、それというのも 彼が今年8月に製造販売権を買い取ったダラプリムは開発に巨費を投じた新薬ではなく、62年前から存在している処方箋薬で、 生産コストは僅か1ドル。にも関わらず「マーケティングや流通に費用が掛かる」として 3錠でルイ・ヴィトンのバッグが買えるお値段を付けたのが彼。

これを受けて保険が効いた場合で、かつて年間13万円程度だったダラプリムの患者負担が、 アメリカ人の平均年収を上回る745万円にまでアップし、保険が無い場合の年間負担は7,600万円という 億万長者でも複数年払いきれない金額になっているのだった。

でも何故マーティン・シュクレリが、情け容赦無く5000%も価格をアップできるかと言えば、 ここ数年でアメリカの製薬業界全体が 処方箋薬の価格を物価上昇率を軽く10倍は上回るほどに値上げさせているため。 今やアメリカのがん患者が一ヶ月に支払う処方箋薬の金額は100万円を超える例が決して珍しく無いのが実情。 薬以外の検査や治療を含めて年間に1000万円以上の医療負担を強いられるケースは非常に多く、 アメリカではがん患者を抱えることは 借金を抱えることであり、医療保険やチャリティのサポートで負担が若干軽減されても 破産に追い込まれる可能性が 通常の低所得者家庭の2倍と言われているのだった。
当然のことながら、アメリカ国内ではこの処方箋薬の値上がりが大きな社会問題となっていて、 ヒラリー・クリントン候補が選挙公約で掲げている課題の1つが処方箋薬の価格コントロール。 マーティン・シュクレリは 5000%も価格をアップさせておきながらも 「ダラプリムは他社製品に比べたら、もっと高額であって当然」とインタビューで語る有り様で、 元ヘッジファンダーが製薬ビジネスに手を出す理由も、こうしたとんでもない利益率がまかり通る世界だからに 他ならないのだった。




では、がん患者を抱える世帯がどうやって1ヶ月100万円を超える処方箋薬の負担を支払っているかと言えば、 昨今増えているのがクラウドファンディング、すなわちインターネット上で集める一般の人々からの寄付。
アメリカで最大のクラウドファンディング・ウェブサイトとして知られる”Gofundme / ゴーファンドミー” では、 2011年には白血病やがん患者救済のためのクラウドファンディングが約8,000件ほどであったというけれど、 それが昨年2014年には 60万件以上に増えて、総額1億9600万ドル(約235億2000万円)の 寄付を集めているのだった。
クラウドファンディングというと、”キックススターター”のような 「アントレプレナーのためのビジネス資金集め」というイメージがあるけれど、 今やアメリカでマジョリティになりつつあるのが医療費、特に子供のがん患者、白血病患者のための医療費サポートのファンディング。

ウェブサイトには子供の写真や、運悪く病に見舞われた気の毒なストーリーが掲載され、 善意ある 見ず知らずの人によって寄付金が寄せられているけれど、こうしたクラウドファンディングに寄付をするのは 大金持ちではなく、殆どがミドルクラス以下の人々。
クラウドファンディングは、アメリカでも未だ新しいシステムなので、詳細があまり知られていないという問題があって、 寄付を受け取った側が その金額に課税されることを知らないケースが多い一方で、 寄付をする側は クラウドファンディングに寄付した金額がチャリティ団体に寄付した場合と同様に 税金控除の対象になると思い込んでいるケースが多いのだった。 すなわち、クラウドファンディングを行った側は 集めた金額の約3分の1を税金として支払う義務が生じる一方で、 寄付をした側は もし同じ金額をアメリカン・レッドクロスなど税金控除対象となるチャリティ団体に支払っていた場合には、 確定申告の際にその寄付金額を税金から差し引くことが出来るけれど、クラウドファンディングで寄付をした場合は、 友人にお見舞い金を支払うのと同様の扱い。このため、そうとは知らずに税金控除を見込んで寄付をしてしまった人にとっては、 損失に値する出費になってしまうのだった。

でも医療費サポートのクラウドファンディングの最大の問題点は、人々から集めた寄付が法外な価格の処方箋薬の支払いに当てられるだけで、 根本的な問題の解決には繋がらないこと。すなわち善意ある人々、それもさほど裕福とは言えない人々のお金が 製薬会社のエグゼクティブのプライベート・ジェットや 4軒目の家や8台目の車になって行く訳で、年々増えて行く こうしたクラウドファンディングも 「リッチ・ゲッツ・リッチアー」のシナリオに 加担するムーブメントになってしまっているのだった。
アントレプレナーのビジネス資金を投資する場合でも 富裕層が纏まった金額をインベストした場合には、 前述のオプラのように、儲かれば税率が低く、失敗すれば損失分が税額控除の対象になるけれど、 庶民がクラウドファンディングで小額を”投資”した場合には 掛け捨てになる例が少なくないないのが実情。
善意の寄付をするか否かは個人の選択であるけれど、アメリカ社会で確実に言えるのは、 ”健康を害したら財産も失う”ということなのだった。

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執筆者プロフィール
秋山曜子。 東京生まれ。 成蹊大学法学部卒業。 丸の内のOL、バイヤー、マーケティング会社勤務を経て、渡米。以来、マンハッタン在住。 FIT在学後、マガジン・エディター、フリーランス・ライター&リサーチャーを務めた後、1996年にパートナーと共に ヴァーチャル・ショッピング・ネットワーク / CUBE New Yorkをスタート。 その後、2000年に独立し、CUBE New York Inc.を設立。以来、同社代表を務める。

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