Oct. 23 〜 Oct. 29
曲がった骨 と 歪んだ関係
今週末のアメリカは、時計の針を1時間戻して、サマータイムからスタンダード・タイムに戻る切り替えの時期。
これによって日曜の午前2時が午前1時になって、事実上1時間得をした計算になるので、アメリカ人はこの切り替えを
好む傾向にあるけれど、今回の私は何を勘違いしたのか家中の時計を1時間先に進ませてしまったせいで、
時計を2回も変えるという 面倒な思いをすることになってしまい、通常この週末に味わえる ”1時間の余裕” を
感じられずに終わってしまうことになってしまった。
それと同時に今週末と言えば、ハロウィーンを31日の火曜日に控えて、全米各地で繰上げのパーティーを行っている人々が非常に多かったけれど、
今年、子供達のコスチュームで最も売れていたのは男児用が 映画「パイレーツ・オブ・カリビアン」のジョニー・デップ扮するキャラクター、
キャプテン・ジャック・スパロゥ。女児用はティンカー・ベルとスノー・ホワイト(白雪姫)だそうで、
これが大人になると女性はマリー・アントアネット、男性についてはバットマン、スパイダーマン、スーパーマンといったキャラクターものの
売り上げが落ちていることは指摘されているものの、特出した人気キャラクターは無いとのことである。
さて話は全く変わって、私が8月半ばから10月初頭までの6週間以上、週3回のペースで通っていたのがカイロプラクター(整骨医)である。
私は初夏頃から首が猛烈に痛くなってしまい、手で支えないと左斜め後ろに首を曲げられないほどに状況が悪化してしまったために、
マッサージに通っていたけれど、肩のコリは改善されても、首の痛みだけは どうしてもマッサージでは改善されることが無かったのである。
そんな中、7月にフィラデルフィアに出掛けた際に、現地のレストランで出逢って 何故か一緒に飲みに行ってしまったカップルのハズバンドの方が、
カイロプラクターで、彼はその少し前に ツアーでフィラデルフィアを訪れていたマドンナやそのダンサー達を
テイクケアしていたドクター。そこで彼に、 もはやマッサージでは治らない私の首の痛みの話をしたところ、指摘されたのが
「多分骨が曲がっているからだろう」ということだった。
実際に彼の指摘を受けるまでも無く、自分自身で気が付いていたのが、首の骨が後ろに向って張り出しているような感触。
私は これが首のコリが酷くなった状態かと思っていたけれど、首が痛み出してからというもの、首が
異常に熱を持つようになっていたし、何より首が回らないというのは非常に不便で不愉快なもの。
そこで彼に紹介してもらったのが、ニューヨークに居る彼の親友のカイロプラクターで、私は早速コンタクトを取って、
具体的にどんなトリートメントをするのかも知らないまま、生まれて初めてカイロプラクターというものを訪ねることになったのである。
そのニューヨークのドクターは、私が 彼の親友の紹介という事もあって、初診料を無料にしてくれた上に
とても親切で、感じが良く、先ずはレントゲンを撮影して 私の骨の問題点と、治療プログラムを説明してくれたのだった。
それによれば、先ず問題の首は、本来、人間の首の骨の正常な状態というのが 内側(腹側)に向ってカーブを描いているものなのに対して、
私の首は外側(背中側)に向って 緩やかな 逆のカーブを描いているとのことで、そのせいで頭蓋骨の角度が29度も下向きになってしまっていたのだった。
更に私の左足は右足に比べて2mm短いのだそうで、その影響として、腰骨の高さが異なり、背骨は腰の直ぐ上で左にカーブし、
背中の上の方で逆に右に曲がってカーブするという ”うねり” が見られるとのことだった。
正直なところ、首については「やっぱり・・・」という感じだったものの、私は自分では姿勢が良い方だと思っていただけに 背骨の左右のうねり についてはちょっぴりショックな指摘で、それでも背骨の前後の曲がりについては問題は無いとのことだったので、少しはホッとすることが出来たのだった。
そう言われてふと考えてみると、「右と左の足の長さ、骨の向きが異なる」というのは、自分でも少々思い当たるところがあって、
それはスキーをする際、左が谷足になると、途端にエッジの効きが弱くなるということ。なので、レントゲン写真を見せられながらのドクターの説明は、
私にとっては非常に理にかなったものだったのである。
そして彼が提案してきたのが、最初の6週間、週3回のペースで骨のアジャストメントに通うという集中プログラム。
集中して治療を行った方が、早く結果が現れると説明されたのに加えて、首については「これ以上酷くなる前に何とかしなければ」
という危機感が自分の中にもあったので、最初は「週3回なんて冗談じゃない!」と思ったものの、何とか時間を工面して、
とにかく6週間で骨を治そうと決心したのである。
そして始まったのがカイロプラクター通いで、往復の通い時間に40分、骨のアジャストメントと料金の支払い、待ち時間に30分、
トータルで、1時間10分を週3回、すなわち1週間のうちの3時間半を骨の治療に当てることになったけれど、
この3時間半を捻出するために使うエネルギーとストレスはかなりのもので、週2回は早起きをしなければならないし、
スカートを着用するケースが多い私は、カイロプラクターのセッションのためにスウェット・パンツを持ち歩かなければならず、
またトリートメントの度に60ドルという料金が出て行くのも 好まざる点だった。
その反面のメリットと言えたのは、セッションを始めてから2週間ほどで、先ず腰骨の位置が変わってきたのが感じられて、次にそれまで左右対象象ではなかったろっ骨の形が 段々右左の格差が減ってきたのが実感出来て、それと同時に首の方も最初の2週間は痛みが和らいだ程度だったものの、
5週間目を迎える頃には、すっかり完治したような状態になって、私は久々に360度 問題なく首を回せる状態になったのだった。
カイロプラクターのトリートメントを始めてから気が付いたのは、私の首の痛みが酷くなった原因と思しきもの。
私は長時間仕事をすると、ストレッチの一環として、頭の後ろで手を組んで、そのまま頭を前に傾けて首を伸ばす動きを頻繁にしており、
痛みが酷くなった頃はこの動きをすると、首の骨が ボキッ と音を立てて 首の骨が前に向って伸びるような感触を味わっていたのである。
自分ではそれが気持ちよくて、1日に2回ほど、これを続けて行ってきたけれど、考えてみれば、
これはカイロプラクターのトリートメントと大差が無い訳で、要するに私は、カイロプラクターの治療の逆を
自分自身のストレッチで行い続けてきたのだった。
なので、私はこの首の骨を伸ばすストレッチは一切止めることにして、逆に長時間仕事をしたら、首を後ろに向けて伸び をするようにしたし、
仕事中でも、普段の生活の中でも 身体に左右均等に体重を掛けるように気をつけて、
毎日のエクササイズでもストレッチは特に念入りに行うようにして、真剣に6週間で骨を治すプロジェクトに取り組んでいたのだった。
私がこうして普段の生活の中でも気を使っていたのは、そもそもカイロプラクターのトリートメントというのは骨のアジャストによって
骨自体のポジションは少しずつ変わって行く変わって行くものの、その骨を囲む筋肉のポジションを変えるのは本人の努力次第と言われているためで、
カイロプラクターが患者に自宅で行うストレッチを指導するのはこのためである。
でも、私の場合ドクターから教わったストレッチは、あまりに初歩的過ぎたので、自分が日頃行っているストレッチの回数を増やしただけで、
彼から指導されたストレッチは殆ど行わなかったのは、唯一ドクターの指示に背いた点だった。
彼が簡単なストレッチを指導してきたのは、彼の患者の殆どがスポーツや、自動車事故で怪我を負った人や、
高齢者だったことを思えば納得できることだけれど、トリートメントを始めてからというもの、同じストレッチをしても、
筋肉の抵抗を感じるようになった部分もあれば、筋肉が伸ばし易くなった部分も出てきて、
細かい身体の変化は日を追うごとに実感するようになって行ったのだった。
でも治療が進むに連れて ちょっぴり危惧し始めたのが、ドクターがあまりに良くしてくれ過ぎるというか、親しみがこもり過ぎて、
あまりプロフェッショナルとは言えない言動や行動が出てきていたこと。
私とドクターは、彼の親友という共通の知人が居るということで、セッションの合間もプライベートな話をすることが多かったけれど、
ふざけてとは言え 私の足の裏をくすぐったり、結婚したばかりの彼のワイフにしかしないという足の指を引っ張るトリートメント(?)などを
するようになり、「ボクが結婚してなかったら・・・」とか、「大金持ちになったら君を愛人にする」などと言いだすようになっていたのだった。
とは言っても、英語で「フローテーシャス」と表現される こうした 思わせぶりな言動をする医者というのは、歯医者や美容整形医、特に
若いドクター(彼は私より6歳年下である)には少なくない訳だし、ドクターとして治療効果をもたらしてくれていたので、
彼のそうした態度については気に留めないようにしていたのだった。
そうして向かえた6週間後、トリートメントの回数にして22回を終えた後に、再度撮影したレントゲンが写真左のもの。
首の骨は、外へのカーブはすっかり改善され、ほぼ真っ直ぐなシルエットを描くまでには治療されていたし、
腰骨については左右が完全に対象になって、背骨にしても、未だ若干の曲がりはあっても かなり完璧に近い状態になっていたのだった。
私は治療結果には非常に満足していたし、睡眠時間を削って、ストレスと戦いながら頑張っった6週間が終わったことにも
喜びを感じていたけれど、それも束の間、ドクターが「これからは週に2回のトリートメントにしよう」と言ったので、
愕然としてしまったのだった。というのも私は、この6週間が終わったら、2週間に1度程度のセッションを2ヶ月程度続けて、
今年中には完全にカイロプラクター通いを終了するつもりでいたからで、
「これからは忙しくなるから、もうそんなペースじゃ来られません」とドクターにはっきり言うと、
彼が気分を害するどころか、明らかに腹を立てていたので それにもまた驚いてしまうことになった。
私はそれ以上彼の機嫌を逆なでないように、「私は自分でビジネスをしていて、年末はいつも忙しいから」とか、「これまで6週間、集中的に
頑張ってきたから、少しブレイクが無いと・・・」などと説明したものの、
ドクターは「ボクの患者には忙しくても、ちゃんと治療に通って来る人は沢山いるんだよ」とムッとした口調で言ったきり、
私にクルリと背中を向けて、カルテを見るふりをして黙ってしまった。
その時に部屋に流れたのが、彼が何かを考えているというような異様な雰囲気で、この時の部屋の空気の異様さは
今でもはっきり覚えているもの。
そしてその後、彼は気を取り直したように、この日の骨のアジャストメントを行ったけれど、私はこれをきっかけに
ドクターに完全な不信感を抱くことになってしまったのだった。
というのもこの日、ドクターが腰骨をアジャストする際に、左側は手抜きと思えるほど、骨の音もしない程度で終わったにも関わらず、
右側の骨を入れる時だけ、彼の全体重を掛けて、私がビックリして声を上げるほど激しくアジャストしたためで、私は思わず
「どうして右側だけ こんなにきつくアジャストしなきゃならないんですか?」と訊いてしまったし、「今までのアジャストの中で、
一番痛かった」と言ったけれど、それについては彼はノーコメントだった。
私は22回のセッションを経験して来ているので、彼のルーティーンや強さの加減は理解しているし、
彼が右と左の足の引っ張り方を変えていること、
首の骨が前後に曲がっているにも関わらず、骨のアジャストは首を左右にひねる理由なども全て説明してもらって、
自分の受けるトリートメントについては、頭でも身体でも理解と納得の上で行ってもらってきた訳である。
その私から判断すれば、せっかく腰骨が左右均等になったことが証明された直後に、こんなに左右で強さが違うアジャストをされたら、
腰骨がずれてしまうということ。そして案の定、このアジャストメントから2時間も立たないうちに 私の腰は突然、理由もなく痛み出してしまったのだった。
私は毎日ワークアウトをしている上に、今まで事故や怪我などで腰を痛めた経験も無く、原因不明で腰痛になるということは、
未だかつて起こったことはないもの。しかも、その痛みの種類というのは、無理な姿勢で重たいものを持ち上げた後のような、
突然のショックで起こった類の痛みで、長時間 高さの合わない椅子に座って仕事をした後に等に味わう腰の痛みとは異なるものだった。
なので、私の中ではこの腰痛の原因はその日のアジャストメントから来たものとしか考えられなかったのである。
さらに私が、ドクターに疑いを向けることになったもう1つの理由としては、友人から「母がカイロプラクターをやめようとするたびに
腰痛がぶり返す」という胡散臭いドクターの話を聞いていたためで、トリートメントには誰も立ち会っていないから証人など居ないし、
もちろん証拠も無いけれど、この日の彼の態度や不自然なアジャストの強さから判断して、
ドクターが 未だ私にトリートメントが必要であることを思い知らせようと、わざと腰を痛めるようにしたと 思えてならなかったのである。
私はこの2日後に、2週間前にこのコラムで書いた通り、友人のウェディングに参列するため、チューリッヒに向けて発つことになっていたので、
翌日は1日中腰をかばいながら仕事と荷造りをするすことになってしまったし、チューリッヒ行きの飛行機の中でも、
シートベルトを外して 腰のストレッチをしながら 腰痛と戦うことになってしまったのだった。
この腰痛と戦う間に頭の中を駆け巡っていたのが、果たしてあのアジャストメントが「本当に故意によるもなのか?」という疑問。
私の感触では、彼は決して腕の悪いカイロプラクターではないし、それまでのトリートメントと 問題のセッションを比べると、
「故意に腰を痛めるアジャストをした」というのが疑って止まないところである。
でも、もしドクターに悪意がなかったのであれば、見方を変えれば 彼のトリートメントを受けることによって今後も腰痛等、身体の痛みを
味わうリスクがあるという訳で、要するにヤブ医者に等しいということにもなるのである。
なので、私が飛行機の中で決心したのは、もう彼のトリートメントは受けないということ。
最後のアジャストメントが故意に私の腰を痛めるように行われたのであれば、彼は単なる”人でなし”であるし、故意でなければ”ヤブ医者”と
言える訳だから、彼の真意など知るまでもなく 「彼による治療は2度と受けたくない」というのが私の気持ちだったのである。
そこで、旅行から戻った私は、ドクターとのアポイントメントをキャンセルし、受付の女性には「また旅行に行くので、しばらくアポイントメントは
入れられません」と告げておいたのだった。
すると2日後には、また別の受付の女性から電話があって「ドクターが次のアポイントメントを入れるようにと言っていますが・・・」と言われたので、
私は再度「直ぐ旅行に出ますので・・・」と説明して、彼女はそれで気持ち良く納得して電話を切ったのだった。
ところが、その1時間後には今度はドクター本人から、先ず自宅に、そして次にオフィスに
「アポイントメントが入ってないけれど、何かあったのか?」と電話が掛かって来て、
「さっき受け付けの女性と話したばかりなんですけれど・・・」という私に対して、
「ボクは自分の患者は全員 自分でフォローアップするようにしているから・・・」と不機嫌そうに言っていたけれど、
私はこの電話攻勢で 本当に彼のことがすっかり嫌になってしまったのだった。
この話をした友人には、「せっかくそこまで治った首を、これからどうするの?」と言われたけれど、
私は新しいカイロプラクターを探す気は全くなかったりする。
というのも、私が最初のレントゲンを撮った時にドクターが言ったのが、「骨には自分の長年の生活が現れる」ということ。
無理な姿勢や、悪い姿勢をしていれば骨が曲がるし、姿勢を正して、筋肉さえ鍛えていれば骨は時間が掛かってもやがて真っ直ぐに戻っていくのである。
その点で、私は過去6週間に日常生活の中で姿勢を整えることを学んだと思っているので、これからは自分でそれを続けることによって
骨のテイクケアをして行こうというのがプランである。
実際、カイロプラクター通いが終了して、生活にゆとりが出てからの方が、体調も良いし、精神的にもずっと気分が良いのである。
結局、カイロプラクター通いは、首を治してくれたし、後悔などしていないし、むしろ良い経験だったもと思っているけれど、
今の私には、「もう必要が無い」 とはっきり言い切れるものになってしまったのである。

執筆者プロフィール
秋山曜子。 東京生まれ。 成蹊大学法学部卒業。
丸の内のOL、バイヤー、マーケティング会社勤務を経て、1989年渡米。以来、マンハッタン在住。
FIT在学後、マガジン・エディター、フリーランス・ライター&リサーチャーを務めた後、1996年にパートナーと共に
ヴァーチャル・ショッピング・ネットワーク / CUBE New Yorkをスタート。
その後、2000年に独立し、CUBE New York Inc.設立。以来、同社代表を務める。
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