Oct. 23 〜 Oct. 30 2011

” Better To Be Lucky Than Good? ”



今週末のアメリカは、月曜にハロウィーンを控えたハロウィーン・ウィークエンド。 なので、全米では この週末に多数のハロウィーン・パーティーが 企画されていたけれど、それどころではなくなったのが季節はずれの大雪に見舞われたニューヨークを含む東海岸エリア。
ニューヨークのセントラル・パークでは、未だ紅葉もピークに達していないというのに約7cmの積雪を記録しており、これはもちろん史上最高の数字。 そもそも気象観測史上、ニューヨークで10月に雪が降ったのは史上4回目とのことで、しかもその雪が みぞれや小雪 程度ではなく、 スノーストームと言える大雪で、滅多やたらな事では驚かないニューヨーカーも びっくりせざるを得ない状況になっていたのだった。
というのも、ニューヨークでは水曜日までは、日中に半袖を着用している人も居たような陽気。先週末にはビーチに子供と出かけたと語る人も居たほどで、 やっと少しずつ紅葉が始まって、秋を実感し始めた矢先に降った真冬のような大雪なのだった。

これが郊外やお隣のニュージャージー州、コネチカット州になると、積雪が30cm以上の地域も多く、さらにこれらのエリアは ハリケーン・アイリーンで1週間近く停電になった記憶がまだ新しいにも関わらず、この雪で再び 数万世帯が停電となっており、 住民は、「寒さを凌ぐためと、他にやる事が無いので、雪かきをしている」とメディアに語っていたのだった。
この季節はずれの雪が 停電や倒木の被害を大きくしている要因は、先述のように紅葉さえ始まっていないので、 木々に葉っぱが沢山ついていること。その1枚1枚の葉っぱに積もった雪の重さに耐えられず、木や枝が折れてしまい、 その結果、折れた木がケーブルを切断したり、駐車している車の上に倒れるという被害が出ている他、 セントラル・パークでは、折れた枝の落下で女性が怪我をしたことも伝えられているのだった。


一部には、このまま雪が続いて、一年の半分が冬になってしまうのでは?と 危惧する声も聞かれていたけれど、 今回の雪で、これから見込まれる厳しい寒さや大雪との対応を迫られることになったのが、ズッコッティ・パークに陣取っている オキュパイ・ウォール・ストリート。
雪の前日、金曜にはFDNY(ニューヨーク消防局)が、オキュパイ・ウォール・ストリートが所有していた6台のエレクトリック・ジェネレーター(発電機)と 13の燃料タンクを 安全性を理由に撤去しており、今後オキュパイ・ウォール・ストリートは、ボストンの会社から無料でオファーされた、 自転車発電機によって コンピューター、暖房、調理の電源を賄うことになっているという。 参加者達は この大雪を、テントと寝袋で凌ぐ状況を強いられており、オキュパイ・ウォール・ストリートの活動に 強い難色を示す共和党の元ジュリアーニNY市長は、「寒さの到来と安全性を理由に、警察によってオキュパイ・ウォール・ストリートを撤去させるべき」と コメントしているけれど、参加者達は 季節の変化に対応しながら運動を続ける姿勢を示しているのだった。

さて、ヤンキーズがあっさりプレイオフで敗れてしまったので、ニューヨークでは控えめな報道に止まっていた今年のワールド・シリーズであるけれど、 そのニューヨークのスポーツ・メディアも大きく報道せざるを得なかったのが、木曜に行なわれた第6戦。
私がこの日観ていた午後11時のスポーツ・ニュースでは、「テキサス・レンジャースがセントルイス・カーディナルスを下して、ワールド・チャンピオンになろうとしているところ」 と報じられていたけれど、翌朝のニュースではカーディナルスが、その試合をひっくり返して”まさかの勝利”を収めたことが大きく報じられていたのだった。
ヴィジターで、チャンピオンシップに王手が掛かっていたレンジャースは、9回の裏、そして延長戦に入った10回の裏に、それぞれ2点のリードして、「あとワン・ストライクでワールド・チャンピオン」というところで、 カーディナルスに同点に追いつかれており、その後 迎えた11回裏のデヴィッド・フリーズのホームランで カーディナルスが10−9のサヨナラ勝ちを収めているのだった。
この報道を観た途端に、スポーツ・ファンなら誰もが感じたのが、勝利の風向きがカーディナルズに変わったということで、 案の定、金曜に行なわれた第7戦で、セントルイス・カーディナルスは6−2で勝利を収め、見事、今年のワールド・チャンピオンに輝いているのだった。

カーディナルスの勝利は、粘りもさることながら、運にも助けられている部分が大きいと言えたけれど、 それがスポーツだけでなく、ビジネスの世界でも言えることだという記事が掲載されていたのが今日、10月30日付けのニューヨーク・タイムズ紙。
「What's Luck Got To Do With It?」、すなわち「運がどう作用したか?」というタイトルのこの記事は、 「Better to be lucky than good (優れていることより ラッキーな方がベター)」という、英語の言い回しで始まっていたけれど、 私は日本語の「運も実力のうち」という言葉の方が、世の中の実情を如実に反映していると思うのだった。
いずれにしても この記事は、著者であるジム・コリンズと、モーテン・T・ハンセンが現代のビジネス界において、運がサクセスを左右した出来事をピックアップし、 幸運、不運、そのタイミングやサイズを分析。ビジネスの世界が如何に運というものに左右されてきたか?を解析しているのだった。


運がメガ・サクセスをもたらした好例として紹介されていたのは、マイクロソフト社のビル・ゲイツ会長。
1980年、アップル社以外のPC用オペレーティング・システム(以下OS)をクリエイトしていた大手、デジタル・リサーチ社のプロダクトが気に入らなかった IBMが白羽の矢を立ててきたのが、当時、未だOSを開発していなかったマイクロソフト社。 それまでOS開発を考えさえしていなかったものの、その依頼にひらめきを感じたゲイツ会長は、 当時まだ駆け出しだったマイクロソフト社のビジネスを率い、企業用コンピューターで圧倒的なシェアを誇り、”ビッグ・ブルー”の愛称で知られる大企業、IBMが突きつける 無理難題とスケジュールをクリアしながら、同社のPC用OSをクリエイトしたのだった。
その後、マイクロソフトがIBMより遥かに大きな企業となり、ゲイツ会長が世界一の大金持ちになってしまったのは、 現代人が生き証人として見守ってきた歴史であるけれど、 同じ時代に同様のプロジェクトに取り組んでいた極めて優秀なプログラマーとゲイツ会長の サクセスの分岐点となっているのは、 単に、ゲイツ会長がラッキーであっただけでなく、その掴んだ幸運から大きな見返りを得ている点であると記事の中では説明されているのだった。
すなわち、幸運、不運は誰にでも訪れるものであるけれど、「幸運を悟って、そこからサクセスに結びつける能力を持つのが リーダーとなる人間である」 というのが この記事のポイントとなっているのだった。

ところで、同じく今日付けのニューヨーク・タイムズ紙には、今週アメリカで発売されたスティーブ・ジョブスのオフィシャル・バイオグラフィー(自叙伝)の著者、 ウォルター・アイザックソンが、執筆に当たり、スティーブ・ジョブスという人物を知るうちに悟ったインテリジェンス(知性)と天才の違いについて 述べた記事が掲載されていたけれど、そこでスティーブ・ジョブスと比較されていたのが やはりビル・ゲイツ会長。
ウォルター・アイザックソンによれば、ビル・ゲイツは”スーパー・インテリジェント、スーパー・スマート(スマートは英語で頭が良いという意味)”であるけれど、 スティーブ・ジョブスは一般に言う”頭脳明晰”というタイプではなく、”天才 (ジニオス / genious)”であり、”独創的 (インジニオス / ingenious)”ったという。
スティーブ・ジョブスは、分析より、経験に基づく知識を重んじ、知性よりも直感に従っていたそうで、 彼は大学を中退して インドを訪ねた際、現地の人々が知性というものを西洋人とは全く違う方法で使い、 西洋人が知性を用いる場では、直感を使って生活する様子に深く感銘を受けたという。 以来、スティーブ・ジョブスは 直感が知性よりもパワフルなものであることを信念とし、それが彼の仕事に大きなインパクトをもたらしてきたと アイザックソンに語っているのだった。

ウォルター・アイザックソンと言えば、アルバート(アルベルト)・アインシュタインと私が尊敬するベンジャミン・フランクリンのバイオグラフィーの 著書としても知られるけれど、スティーブ・ジョブスとアインシュタインは、ビジュアルで物事を考えるという点で共通しているとのこと。 でも彼がスティーブ・ジョブスとの共通点をより多く見出していたのは ベンジャミン・フランクリン。
ベンジャミン・フランクリンもアイデアとデザインを結びつけて、使い易く、役立つ道具やシステムを生み出すことをライフワークにしており、 自らの経験や実験から得たコンセプトをクリエイティビティに結びつけることによって、図書館、消防署のシステム等を構築し、 嵐の中で凧を上げて 避雷針を生み出すなどのインベンションを行なってきたのだった。

話を”ビジネスの運”に戻せば、スティーブ・ジョブスは、2005年のスタンフォード大学の卒業スピーチの中で 「私は、自分が好きでやりたいことを若いうちに見つけられたので ラッキーだった」と語っているけれど、自宅のガレージでパートナーとパソコンを作り始めた彼の会社が、 半世紀も経たないうちに、アメリカ政府よりキャッシュが多い大企業になってしまうまでには、幾つものラッキー・ブレイクと その幸運をサクセスに結びつける手腕と努力があったのはいうまでもないこと。

ビル・ゲイツとスティーブ・ジョブスは、異なる頭脳の持ち主であったけれど、共にその運を確実に掴んで、サクセスを導いてきた経営者。 私の個人的な意見では、そんな異なる2人の最大の共通点と言えるのは、パッション=情熱だと思うのだった。 自分のエネルギーを高揚させるだけでなく、人をも動かすパワーを持つのがパッションであり、アメリカ社会が世代が若くなるにつれて失いつつあるように感じられるのが パッション。
マイクロ・ソフトのウィンドウズと、アップルのアイフォン、アイパッド、アイポッドを始めとするプロダクトには、 そんな経営者の知性のパッションと、独創性のパッションが如実に感じられると思うけれど、それを当たり前のように使っている世代が、 ビデオゲームやフェイスブックに時間を取られて、中味の薄い人生を送りつつあるのは 非常に残念な現象だと思えるのだった。





執筆者プロフィール
秋山曜子。 東京生まれ。 成蹊大学法学部卒業。 丸の内のOL、バイヤー、マーケティング会社勤務を経て、渡米。以来、マンハッタン在住。 FIT在学後、マガジン・エディター、フリーランス・ライター&リサーチャーを務めた後、1996年にパートナーと共に ヴァーチャル・ショッピング・ネットワーク / CUBE New Yorkをスタート。 その後、2000年に独立し、CUBE New York Inc.を設立。以来、同社代表を務める。


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