Nov. 1 〜 Nov. 7 2004
ブッシュを再選したアメリカに思うこと

今週火曜日に行われた大統領選挙で、ブッシュ大統領が再選されたのは、既にご存知のとおりである。
前回2000年の選挙の際は、ポピュラー・ヴォートと呼ばれる 獲得した得票総数では、当選したブッシュ大統領よりも、
対立候補のゴア当時副大統領が勝っており、ブッシュ大統領の勝利は各州に割り当てられた選挙人の獲得数、
言い方を変えれば、「選挙システムによってもたらされた」と言えるものだった。
しかし、今回はケネディVS.ニクソン以来という投票率の高い選挙で、投票者の51%がブッシュ大統領を選んだ訳で、
これによって、ブッシュ大統領はロナルド・レーガン、ビル・クリントンといった歴代の人気大統領を
上回る史上最高の得票で、再選を果たす結果となっている。
しかしながら、反対票(ケリー候補への投票)の多さも、歴代の大統領の中で最多となっており、
ブッシュ大統領が史上最多の支持票を得た結果が圧勝ではなく、接戦の末の勝利であったというのは、大統領選の歴史に残るべき事実なのである。
この51%と49%に割れたブッシュVS.ケリー票が意味するところは?と言えば、2つに分断されたアメリカ像である。
ブッシュ大統領の勝利宣言でも、ケリー上院議員の敗北宣言でも、
「大統領選が終わった今こそ、2分されたアメリカが1つになる必要がある」といった内容が述べられていたけれど、
選挙後に多くのメディアが指摘していたのも、「今のアメリカは南北戦争当時と同じくらい
大きく2つに分断されている」ということであった。
このことは、選挙の開票が進むにしたがって、ブッシュ大統領が勝利した州が
赤に塗りつぶされ、ケリー候補が勝利した州がブルーに塗りつぶされていくうちに、
アメリカ国民が、地理的にも実感することになったものであるけれど、
上のマップを見ても分かるとおり、ブッシュ/共和党支持州は、見事に南部、内陸部に集中し、
ケリー/民主党支持州は海沿いと北部に集中していたのである。
11月7日付けのニューヨーク・タイムズの社説では、この2つの分断をウォーターサイド・ヴォーター(海沿いの投票者) VS.
インランダーズ (.内陸部の投票者)と区分していたけれど、
この社説に登場する、ケリー/民主党を支持するウォーターサイド・ヴォーターは、主に都市部に住む
マイノリティ(黒人、ヒスパニック、アジア人を含む少数民族)や高等教育を受けた20〜30代の独身者が多く、
リベラルな思想とキャリア志向を持った人々。これに対してインランダーは、コンサバティブな家族世帯で、
家には必ず聖書が置いてあり、日曜のミサがコミュニティ・イベントになっているような信仰深い人々である。
でも、ウォーターサイド・ヴォーターも、一度結婚して子供ができると、超リッチな一部の人々は例外として、
都市部でのエクスペンシブな生活が出来なくなるため、郊外や地方に住居を構えるようになり、
住宅ローン、子供の教育といった問題を抱え出すと、徐々にリパブリカン(共和党支持者)に傾倒していくようになるとのことである。
今回ブッシュ大統領が選挙で勝利したのは、こうしたインランダー投票者を上手く攻略したからであるけれど、
彼らが選挙の最も重要な争点と考えていたのが、モラルである。
各メディアが行った選挙前のアンケート調査で、選挙の争点として列挙されていたのは、
もっぱら経済&失業問題、イラク情勢、テロとの戦い、健康保険問題等で、
モラルやキャラクターという争点は、メディアによっては軽視されがちであったけれど、
インランダー投票者がエグジット・ポール(出口調査)で語った投票の決め手は、
圧倒的にこのモラルだったのである。
彼らは、ジョージ・ブッシュ大統領の経済政策を決して評価していないし、
ディベートで健康保険制度改革の財源を明らかに出来なかったことを危惧しているし、
誤った戦争を始めたことも認めていれば、政府財源が史上最悪のスピードで大赤字に転落したことや、
失業者がブッシュ政権下で大幅に増えたことも熟知しており、
ブッシュ大統領を手放しに評価している訳ではないけれど、
それでも大統領の再選に投票したのは、「同性愛者の結婚が認められるのは許せない」、
「妊娠中絶は法律で禁止するべき」といったモラルの争点において、大統領を支持しているからである。
ことに、今回の選挙で選出された大統領は、今後見込まれる3人の最高裁判事の引退後、
その後任の指名権を持つ訳で、今、ケリー上院議員を選出することは、
彼によってリベラルな判事が任命され、ゲイの結婚や、クローン研究に最高裁からのGoサインが出て、
聖書に記されているモラルに反した行為が合法となることを意味する訳で、
インランダー投票者にとっては、このことは 黙って見過ごす訳には行かない程の大問題なのである。
とは言っても、実際にケリー候補が大統領になった場合、果たして彼がどの程度リベラルであるのか?、
そして最高裁判事の指名に際しても、どの程度リベラルな人物を起用しようとしているのかについては、全くの未知数であった訳だけれど、
ケリー議員を選出したマサチューセッツ州が同性愛結婚を認めたことを持ち出して、
彼が過度にリベラルであるイメージを インランダー投票者に植え付けたのは、ブッシュ/共和党の
巧みな戦略であり、そのことが勝因となったのは、明らかな事実である。
そもそも、ニューヨーク、カリフォルニア等のウォーターサイドの投票者と、 南部、内陸部のインランダー投票者の最大の違いは、
視野と価値観である。青で塗りつぶされた民主党支持州では、メディアも発達しているし、海外動向を視野に入れながらアメリカの経済や
その他の内政問題をよりグローバルな視点から見る傾向があり、それに伴って価値観も多様化しているけれど、
これが赤に塗りつぶされた内陸部になれば、最も影響力の強いメディアは今もラジオで、しかも流れてくる音楽は
愛国心を掻き立てるカントリー・ミュージックや、クリスチャン・ロックと呼ばれる神への信仰を謳ったポップ・ソングが中心。
未だに白人至上主義を唱える等、外界とは隔離されたエリアも少なくない訳で、
限られた情報、狭い視野、偏った価値観を生まれながらにして持ち続ける環境は整っていたりするのである。
ここでは宗教、信仰、モラルという切り札が、経済問題よりもイラク情勢よりも大切であるから、
トレーラー住宅で暮らす貧困家庭や失業者が増えようが、
老人達が高すぎる処方箋薬を購入出来なかろうが、支持をするのは、自分達と宗教、信仰、モラルの価値観をシェアする
共和党の候補者ということになるのである。
では、再選されたブッシュ政権下で、今後のアメリカがどうなっていくか?と言えば、ブッシュ大統領を支持している人々ほど、
「過去の4年間と同じような4年間が過ぎるだけ」とあっさり考える傾向にあるようである。
しかしながらメディア、ことにリベラル派のメディアは、
大企業の利益を優先し、環境問題を省みない政策、金持ち優遇の減税に加えて、教育機関への宗教の介入、
中絶廃止、同性愛者の結婚を認めないといった右寄り、スーパー・コンサバティブな時代の到来を危惧しており、
実際に2期目を迎えた大統領というのは、1期目よりもはるかにパワーを行使することが出来るのは歴史が証明するとおりである。
加えて、共和党は今回の選挙で、これまでギリギリで過半数を獲得していた上院の議席数を増やしており、
ブッシュ大統領がその政策を思いのままに進めるお膳立ては今回の選挙で整ったとも言えるのである。
その一方で、今回の選挙で多くのメディアが着眼したのが、果たしてどれだけたくさんの若者が投票者に足を運ぶか?という点であった。
というのもMTVが「ロック・ザ・ヴォート」という大々的なキャンペーンで、若い層への投票を呼びかけたのに加え、
レオナルド・ディカプリオ、ベン・アフレック、ジョン・ボンジョビ、ブルース・スプリングスティーンといった
セレブリティが民主党のケリー候補を大々的にバックアップする活動を行い、
彼らに影響された多数の若者が、今回の選挙で初めて投票所に足を運ぶであろうことが見込まれていたのである。
ところが蓋を開けてみれば、18〜29歳の投票率は前回2000年の選挙と同じ17%と振るわず、
選挙の行方に影響を及ぼすほどのパワー・ヴォーターにはならずに終わったのは、
今回の選挙結果とともに、共和党支持者を多いに喜ばせることになった。
メディアからは、「若者の投票に望みを掛けたことがケリー候補の敗因」と指摘する声も聞かれたけれど、
こうした若い層の中には投票所に足を運んだものの、3時間以上並んでも投票することが出来ずに諦めた人々も多く、
仕事や学校に出掛ける人や、幼い子供が居るような若いカップルは、オハイオの投票所のように、
「9時間並ばなければ投票できない」といった状態には 付き合っていられない訳である。
これに対して、コンサバティブなクリスチャンを中心とした共和党支持者は、ハリウッド・スターやラップ・シンガーにあおられた若者が、
自分達の信じるモラルを覆す候補者に投票することを恐れて、熱心に投票所に並び続けた訳で、
セレブリティによるケリー後押しキャンペーンは、逆に共和党支持者を投票所に向かわせるのに貢献したとさえ言われているのである。
ロンドンのデイリー・ミラー紙は、ブッシュ大統領再選翌日の表紙に、
大統領の写真とともに、「どうして5901万9508人(ブッシュ大統領に投票した人数)もの人間がこんなにアホになれるのか?」という
大見出しをフィーチャーしていたけれど、ヨーロッパのメディアの中には、この選挙結果に対して露骨に失望や疑問を表すものは少なくないのが事実である。
フランスのメディアにしても、「われわれ(ヨーロッパ人)はハリウッド映画や、ラップ・ミュージック、
ローライズ・ジーンズを履いたポップスター等を通じて、アメリカを良く知っていると思い込んでいるけれど、
本当のアメリカの姿は、これとは全く異なる、われわれの知らないものだ」と報じていたりする。
でも、ヨーロッパのメディアでなくても、サンフランシスコやボストン、ニューヨーク、ロサンジェルスといった、
都市部に住むリベラル派のアメリカ人にとっては、
南部や内陸部に こうしたコンサバな世界が広がっていることは熟知していても、その宗教的価値観や、
信仰の深さは彼らの理解を超えた部分があり、同じアメリカという国でも、地域が異なれば、人も、考えも価値観も、視野も
異なることは、今回の選挙でまざまざと思い知らされたと言えるものであったりする。
視点を変えれば、これだけ広大で、多種多様な人々から成るアメリカが、これまで1つの国家として纏まって来たことには
感服すべきものがあるけれど、そのためにアメリカは常に外敵を設定してきた訳で、冷戦時代のソ連や、自動車輸出問題における
ジャパン・バッシング、湾岸戦争等がその好例である。でも今回のイラク戦争に関しては、その外敵の設定を誤ったことから、
国の2分が始まっていった訳で、たとえ選挙が終わったとしても、この分断された2つのアメリカの溝が埋まることは無いのが
大方の見解であると同時に、実際のところである。
私は個人的には、国というのも運命を背負っているものだと考えていて、今回ブッシュ大統領が再選されたのも
アメリカという国の運命に従って、世の中が動いた結果だと考えていたりする。
だから、今後ブッシュ政権下で、アメリカが今より悪くなっても、良くなっても、それがアメリカの運命であると思うし、
それによって日本や諸外国が影響を受けることがあれば、それもその国々の運命なのだろうと受け止めている。
そしてその国の運命が、その国民1人1人の生活に何らかの影響を与えることになる訳であるけれど、
それもまた、人それぞれの運命なのだろうと思う。
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