Oct. 29 〜 Nov. 4 2007
”スポーツとストレス ”
私がこのコラムを書いている11月4日は、朝からニューヨーク・マラソンが行われていたけれど、
この日のニューヨーク・タイムズ、ニューヨーク・ポスト紙の一面を飾っていたのが、
前の日の土曜日に行われた 北京オリンピックのUSマラソン選手選考のトライアル・マラソンに参加していたランナー、ライアン・シェイが
コースの5マイルの地点で倒れ、そのまま病院に運ばれて死亡したというニュース。
彼は未だ28歳という若さであったけれど、14歳の時に心臓肥大を患っており、春の時点で受けた心臓のテストで
医師から「もう少し年を取ったらペースメーカーが必要になる」と言われていたという。
そんな状態の彼が何故過酷なマラソンに挑まなければならないのか?と不思議に思ってしまうけれど、
実際には彼のように身体が弱い人々が身体を鍛えるためにマラソンを始めるというケースは非常に多いという。
そもそもマラソンやジョギングはある種のアディクション(中毒症状j)をもたらすため、怪我をしたり、風邪を引いたり、もしくは外が猛暑や大雨でも
「走らず居られない」、「走らないことがストレスになる」という精神状態を生み出すもの。
加えて走るという行為には、その間の「苦しい」、「途中で止めたい」等の 自分の気持ちの弱さとの戦いが伴うため、
身体だけでなく、精神が鍛えられるスポーツである。
こうして自分の弱さを 克服して走っているうちに、脳に発せられるのが別名ハッピー・ホルモンと呼ばれる エンドルフィン。
このエンドルフィンの影響でナチュラル・ハイな状態、そこまで行かなくても爽快な気分を味わえると同時に、走り終わった後に
達成感や満足感が得られるのがマラソンやジョギングの魅力であり、アディクションになる人々が多いのも
この気分を味わいたいが故である。
しかしマラソンやジョギングで鍛えられた精神は、時に身体のコンディションや、身体に備わった能力以上の走りを要求してしまうようで、
身体が ”No” のシグナルを出しているのを、自分の弱さだと思い込んで、それを精神で克服してしまおうという
ランナーは少なくないという。
その結果、慢性的な故障や持病の悪化を招く例は多く、ジョギングはその健康的なイメージとは裏腹に
アメリカでは最も怪我が多いエクササイズである。
加えて、マラソン&ジョギング愛好家は あまり長生きをしないというデータも得られているのである。
さらに私の友人によれば、「メガ・サクセスを収めているビジネスマンにマラソンやジョギングの愛好家は居ない」 とのことだけれど、
これは、走ることによって1日の達成感や克服感を得てしまうと、仕事やその他の分野ではそれほどアグレッシブにはなれないという
点も一因のようである。
また見方を変えれば、アグレッシブに仕事をしている人は、健康維持のために適度なエクササイズを週に3回程度
行っていても、週に5〜7日、3〜5マイル走るような時間と体力は持ち合わせていないのが実情なのである。
そういうと「アメリカの歴代大統領が皆、朝ジョギングをしている」と指摘する声もあるけれど、
歴代大統領が、1日30分程度のジョギングを日課にしているのは国民に対して自分の健康的なライフスタイル、
もしくは職務を遂行するために健康維持の努力をしているアピールであり、
言わば支持率維持の目的を兼ねた職務。
走るのが苦手だったクリントン大統領のジョギング・コースには、唯一のお楽しみとしてマクドナルドが含まれていたのことからも分かる通り、
歴代大統領はジョギングを建て前上の日課にはしていても、決して愛好家ではないのである。
ところでマラソンやジョギングに付き物なのが早起きであるけれど、つい最近発表されたデータによれば、
毎朝きちんと早起きをする人よりも、目覚ましが鳴っているのに「まだ眠いから・・・」と15分〜30分も余分に
ベッドで過ごしてしまう人の方が 意外にも長生きをしているという。
その一方で、アメリカではきちんとエクササイズをし過ぎるあまり、オーバー・エクササイズが原因で年齢以上に
身体が老化してしまう人も少なくないという。
そして こういう人々が年間に医者に掛かったり、怪我をする回数というのは、肥満気味で家でTVを見ながら
スナックを食べているような人々より遥かに多いのも事実なのである。
すなわち自分に厳しく、しっかり早起きをして、エクササイズを怠らない人の方が、
自分を甘やかして怠ける人よりも 早死をしたり、体調を崩しやすいということになるけれど、
実際私が知る限り、健康的で、若さを保ちながらエイジングをしている人というのは、精神的にしっかりしていて 運動や健康的な食生活を重視しているけれど、
それと同時に 休息の大切さをを理解している人々、身体に無理を強いる事を控える人々である。
逆に同じ精神的にしっかりしたタイプでも、自分に厳しすぎる人は 「休む=怠ける、サボる」的なフォーミュラ を頭に描いており、
人間の身体にとって非常に大切な「休む」 という行為に罪悪感を感じたり、時間が余った時にすることと考えて
あまり重視していない場合が多いようである。そしてそういう人は往々にして
何種類も薬を飲んでいたり、30代前半にして腰痛に悩まされていたりするものなのである。
でも、「休む」という行為に重きを置かない人にとっても 昨今では重視せざるを得ないのが睡眠。
アメリカン・サイコロジカル・アソシエーションが先ごろ1848人のアメリカ人を対象に調査したところによれば、
不眠症に悩んでいると答えた人々は全体の48%。
そして同じパーセンテージの人々が、5年前に比べてストレスのレベルが高くなっていると回答したという。
実際、不眠症は昨今のアメリカで肥満と同じくらいの深刻な健康問題としてクローズアップされ始めているけれど、
人々が眠れない理由はテクノ・ストレスやカフェインの取り過ぎ、運動不足等、様々な指摘があるものの、
それらを突き詰めて行けば、行き着くところはやはり 単純に ”ストレス”。
そしてその眠れないストレスの原因をさらに掘り下げると、75%のアメリカ人が 「お金」、「仕事」という2点を挙げているという。
さらに 「お金」と「仕事」のストレスを掘り下げると出てくるのが、自分の稼ぎの半分をレントや住宅ローンで持って行かれる
不安や不服感で、54%がストレスが原因で夫婦もしくは同居のパートナーと喧嘩をすると答え、
8%がストレスが原因による離婚や別れを経験しているという。
こうしたストレスを紛らすために、43%の人々が糖分や脂肪分が多い不健康な食べ物を食べる、時に過食すると答えており、
反面、食欲を失って きちんと食事を取らなくなる人々も30%に及ぶという。
さらにスモーカー&ドリンカーはストレスを喫煙や飲酒、人によっては両方で紛らすという ストレスと不眠を悪化させる
悪循環を繰り広げており、ストレスが原因で頻繁に頭痛を経験する人々は44%。胃の痛みを経験している人は34%、寝ている間に歯ぎしりを
するようになったという人は17%に達している。
ちなみにストレスの原因の第3位は子供で64%、4位は子供を除く家族 (親、親類、夫婦関係)で60%、そして第5位が健康問題で55%という
結果が得られているけれど、逆に人々がストレスを解消したり、リラックスするために行うことと言えば、
第1位が子供や家族と水入らずの時間を過ごす、第2位がバケーション、3位がエクササイズやスポーツである。
すなわち家族や子供はストレスの原因であると同時にリラクセーションをもたらしてくれる毒にも薬にもなる存在ということになる。
でも、第2位のバケーションとて 飛行機の遅れや荷物の紛失など、ストレスとは決して無縁ではないアクティビティ。
そして第3位のエクササイズも、先述のように毎日走っている人にとっては 走らないことがストレスになったり、
エクササイズを嫌う人にとっては、たとえ健康のためとは言えエクササイズそのものがストレスになっているのである。
要するに現代人である以上は、何をするにもストレスと付き合っていかなければならない訳だけれど、
そんな現代人を眠れる人と眠れない人に分けるのは、やはり「ストレスに対処出来るか、否か」のようである。

執筆者プロフィール
秋山曜子。 東京生まれ。 成蹊大学法学部卒業。
丸の内のOL、バイヤー、マーケティング会社勤務を経て、1989年渡米。以来、マンハッタン在住。
FIT在学後、マガジン・エディター、フリーランス・ライター&リサーチャーを務めた後、1996年にパートナーと共に
ヴァーチャル・ショッピング・ネットワーク / CUBE New Yorkをスタート。
その後、2000年に独立し、CUBE New York Inc.設立。以来、同社代表を務める。
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