Oct.. 27 〜 Nov. 2 2008




”Pre Election A La Carte ”



今週金曜、10月31日はご存知のようにハロウィーンであったけれど、アメリカでは毎年この時期に、 政治家を中心に話題の人物の顔を真似たゴム製のフェイス・マスクが販売されるもの。
特に大統領選挙の年には 候補者のマスクが良く売れると言われているけれど、 この売り上げは長年、大統領選挙の結果を反映していると言われるもの。 すなわちより多くのマスクが売れた候補者が選挙でも勝利しているという訳だけれど、 今年に関してはマケイン・マスクを大幅に上回る売り上げを見せているのがオバマ・マスク。
でも 共和党副大統領候補、サラー・ペイランのマスクとサラー・ペイラン・ウィッグが大ヒット商品になっているのに対して、 オバマ陣営の副大統領候補、ジョー・バイデンについてはマスクが売り出されもしなかった存在感の無さであったという。

この他 今年話題になっていたのが、写真右の ベン・バーナンキFRB議長(右側)とヘンリー(ハンク)・ポルソン財務長官(左側) の頭に角が生えた 悪魔マスク。「 Ben & Hunk Evil Mask 」 と名付けられたこのマスクは80ドルという高額にも関わらず、 あっという間に完売し、ハロウィーンが終わった現在も再生産中であるという。 これ以外にも、「リーマン・ブラザース」と書かれた墓石のコスチュームなど、今年はファイナンシャル・クライシスに陥っているアメリカ ならではのブラック・ユーモア的コスチュームが見られていたけれど、毎年恒例でグリニッジ・ヴィレッジで行われる ニューヨークのハロウィーン・パレードは 今回、多くのコーポレート・スポンサーが降りてしまったため、 4000ドルの赤字で行われたことが報じられているのだった。

さて、マスクやウィッグの売り上げは好調でも、ここへ来て急速に支持率を落としていることが伝えられるのが サラー・ペイランで、今や彼女に対するアメリカ国民の不支持率は59%。 過去3週間に9%も不支持率がアップしているという。 このペイラン不支持を表明する人々は、共和党支持者でも オバマ支持に回っているケースが多いそうで、 その理由として挙げられているのが、 「サラー・ペイランを副大統領候補に選んだマケイン氏が 大統領になって、 適材適所の政権人事が出来るとは思えない」というもの。
一方 マケイン候補は、昨日土曜日の夜に NBCの人気番組 「サタデー・ナイト・ライヴ」に出演し、 ユーモアのセンスがあるところをアメリカ国民にアピールしていたけれど、 リベラル派が多いニューヨークのスタジオ・オーディエンスからは ブーイングも聞かれていたのだった。

いよいよ2日後の11月4日、火曜日に迫っている大統領選挙であるけれど、 既に事前投票を済ませた人々の数は 大統領選挙史上最多を記録しているという。
現時点では 民主党オバマ候補のリードが伝えられてはいるけれど、 マケイン陣営が盛んに訴えて功を奏していると言われるのが、「オバマ候補が大統領になったら、政府の出費が増えて 国民が増税に泣くことになる」というセオリー。 これに対してオバマ側が強調しているのは、大企業のCEO等を中心とした アメリカの トップ1% のメガ・リッチに対しては増税をするものの、 「年収が25万ドル(約2470万円)以下の国民の税金は 1セントたりとも上がらない」 という点。
もちろん 軽く年収25万ドル以上を稼いでいるウォールストリートのバンカーは、増税を恐れると同時に 投資家を優遇する マケイン支持を打ち出していると言われるのだった。

では このトップ1%のメガリッチ層の税金が、オバマ政権下とマケイン政権下でどの程度異なるかと言えば、 オバマ候補の熱烈な支持者である トークショー・ホスト、オプラ・ウィンフリー (写真左) を例にとって見ると、 彼女の年収は約$225ミリオン(約222億円)。 もしマケイン政権になれば 彼女が支払う税金は現行より$9ミリオン(約8.9億円)少なくなるのに対し、 オバマ政権だと$16ミリオン(約15.8億円)増えることになるという。
すなわち オバマ大統領が誕生した場合、オプラ・ウィンフリーはマケイン政権が実現した場合より $25ミリオン (約24.7億円) 余分に税金を支払うことになる訳で、 「そんな勢いで課税されたらたまらない」と思うメガリッチ層は、他の政策など度外視してマケイン支持に回るようである。
これに対して、中小企業のオーナーは 意外にも 「税率や自分のビジネスへの利点よりも、 政策を重視して 自分の考えに近い政権を実現してくれる 候補者を選ぶ」 とアンケートに答えているというから、裕福な層ほどお金に縛られた視野の狭い政治見解を抱きがちな 傾向が見て取れるのだった。

でも私が個人的に これらのトップ1%が余分に課税されても それほど同情するに値しないと感じるのは、 これらの人々に対して同じ税率で課税するのが不公平なほどに貧富の差が開いてしまっているため。
ブッシュ政権になってからの最初の4年間に、アメリカ国民全体が得た総資産といわれるのが$863ビリオン(約85兆920億円) と言われるけれど、この内訳を見てみると トップ1%が得た資産は$626ビリオン(約61兆7236億円)で 総額の約73%。 トップ1%に次ぐ 9%の人々が得た資産が$195ビリオン(約19兆2270億円)。 そして残りの90%のアメリカ国民が得た 資産は僅か$41ビリオン(約4兆426億円)であったという。 すなわち、これを単純計算すればアメリカのトップ1%のリッチ・ピープルは、この時点でボトム90% 1人当たりの 約1361倍の資産を手にしていたことになる訳で、その後も 貧富の差は開き続けてきた訳である。

よく アメリカ経済の過去の好況と 現在のファイナンシャル・クライシスは、 そのまま アメリカ国内におけるスターバックスの成長と 昨今の業績不振にぴったり当てはまると言われるけれど、 アメリカの庶民が 過去の好況時に 4ドルのカフェラテや2ドルのボトルド・ウォーターを購入してきた贅沢(?)は、 メガリッチにとっての 「何処へ行くにもプライベート・ジェットで飛ぶ 贅沢」 という 桁違いの形 で現れており、 これだけ貧富の差が開けば、こんな格段の違いが生じるのは無理も無いというもの。
でもファイナンシャル・クライシスに陥ってからは、庶民が かつては ”デザイナーズ・コーヒー” と もてはやしてきた スターバックスのカフェ・ラテやカプチーノを諦めているのと同様に、 何人ものメガ・リッチがプライベート・ジェットを売りに出しており、 プライベート・ジェット会社も利用客が減ったためにディスカウントをオファーしているのが現状である。
そのスターバックスは、11月4日の選挙日に 投票を行った人々に トール・サイズのコーヒーを 無料でサービスすることになっているというけれど、 昨今スターバックスから 猛然と顧客を奪っていることが伝えられる ダンキン・ドーナツでも、同様に投票者に無料でドーナツを配ることになっているという。


さて、リセッションで高級品を中心に物が売れないと嘆かれるアメリカであるけれど、ここへ来て売り上げを伸ばしているプロダクトが2つあって、 そのうちの1つはバナナ。 バナナは そもそもアメリカで最も売り上げの高いフルーツ Top 3に常にランクされている人気のフルーツではあるけれど、 このところ、「安くて、お腹にたまって、食べ易い上に、健康にも良い」という理由から 売り上げが伸びているという。 またお金を節約するために自宅からランチを持参する人が増える中、サンドウィッチと一緒にランチバックに 詰め込まれるのが バナナだそうで、 お陰でチキータ・バナナは売り上げを大きく伸ばしてるという。

もう1つ アメリカで売り上げを伸ばしていると言われるのは 拳銃。 この理由は 「景気が悪くなって、世の中が物騒になるので その護身用」 という訳ではなく、 銃規制を支持する民主党のオバマ候補が 大統領になることが見込まれるため。 そうなれば、アメリカン・ライフル・アソシエーションからたっぷり政治献金が流れている共和党大統領時代ほど 簡単に銃が手に入らなくなることが懸念されているからだという。

とは言っても、こんな 「ヒット商品」 が足元にも及ばないほど 桁違いで利益を上げているのがエクソン・モービル。 今週発表された同社の第3四半期の業績によれば、その利益は昨年の同四半期から58%もアップして $14.8ビリオン(約1兆4592億円)であったという。
でもこんな数字に驚いていられないのが、国民の税金によって救済された A.I.G 。 僅か5週間で$120ビリオン(約11兆8320億円) 以上のベイルアウト・マネーを使い切ってしまった同社であるけれど、政府はその使い道について全く把握していないにも関わらず、 3度目の出資を打ち出しているという情けなさである。
またウォールストリートのバンクにしても、政府から投入された資金をボーナスとしてプールしてしまう恥知らずぶりが伝えられていたりする。 昨年、 ミッドレベルのバンカーは 約2000万円のベースに加えて 1億1000万円程度のボーナスを受け取っていたというけれど、 当初見込まれていた 今年の彼らのボーナスは 昨年の40%。 ところが政府の出資によってその金額は60%に増えているという。
これが本当に支払われるとすれば、彼らのリスキーな投資のせいで家や職を失った人々の怒りが頂点に達することが見込まれるけれど、 バンカーたちにしてみれば 「ボーナスの出所がどこであれ、給与の契約は契約だから支払われて当然」 と考えているようである。
$700ビリオンを投じた救済案がこんな状態なので、ベン・バーナンキとヘンリー・ポルソンの悪魔マスクが完売しても 決して不思議ではないけれど、今や職を失った能力のあるバンカーがゴロゴロ居る時代。 なので、ウォールストリートの経営側者が高給取りをキープして、より安く手に入る人材と入れ替えようとしないのは、 これまでのアメリカの ” 企業精神 ” に反することでは?と 私には思えてしまうのだった。

その一方で、これからのアメリカで更に増加が見込まれているのが失業者。
既にサブプライムのダメージを最も顕著に受けているカリフォルニアでは失業率が7%を超えているというけれど、 ニューヨーク州でも今年1月から9月までの間に失業手当を受け取った人々の数は6万人以上。 このうち業種別で最も多いのが、ウォールストリートに代表される金融関係で、 2009年末までに 更に4万5000の職が失われることが見込まれているという。
さらに 昨今増えているのが メディア関連のレイオフで、 今週に入って タイム社が600人のレイオフを発表している他、、「ビジネス・ウィーク」の発行元で スタンダード&プアーズの親会社である マクグロウ・ヒルも 過去3ヶ月で270人をレイオフしているのだった。 またヤフーも1500人のレイオフを計画していると言われ、ヴォーグ誌を発行するコンディ・ナスト社も 売り上げの悪い メンズ・ヴォーグ誌が年2回の発行となり、しかも女性誌のヴォーグの折込マガジンに格下げされることを受けて、 レイオフが見込まれているのだった。
グーグルに関しては未だレイオフは発表されていないものの、これまで無料で 日本食、中華、イタリアン、ありとあらゆるサラダやデザート等、 バラエティに富んだメニューを提供してきた 同社のカフェテリアが有料となり、メニューも減らされ、営業時間も短縮されることが 今週発表されたばかり。
加えて、今週はアメリカン・エクスプレスも7000人の職員のレイオフを発表しており、これによって同社は $1.8ビリオン(約1775億円)の人件費を節約することが出来るという。
ニューヨーク州にしても、税収激減を受けて州職員のレイオフを決めていると言われるけれど、 そのニューヨーク州全体では 来年2009年末までに、16万のプライベート・セクターの仕事が失われる見込みであるという。
こんな数字を聞くと、90年代初頭のリセッション時代に 失業者が溢れた際、 「90年代のステイタス・シンボルは ジョブ(仕事)だ!」 とジョークを飛ばしていたのを思い出すけれど、 この時代を覚えている私としては、政権が入れ替わることによって 厳しい中にも希望が実感できる状況になって欲しい と願うばかりである。

ところで、今回の選挙はスーパーボウルよりも、何よりも大切なビッグ・イベントとなっているため、 中には大統領選挙の行方を見守るウォッチ・パーティーを企画する人々も居るようである。
選挙の行方がどうであれ、アメリカ人のスゴイところは、これだけ先行きの不安に満ちた状況でも 人々が アメリカの将来が好転することを信じて疑わない部分。 こういう楽観的なDNAがあるから、レイオフされる心配など省みないで 借金を重ねてしまうのかも? とも思えてしまうけれど、 ファイナンシャル・クライシスや政治家の愚行をコメディアンがネタにして、人々がそれを笑い飛ばしてしまえるのは アメリカという国の強さと言えるのである。





Catch of the Week No. 4 Oct. : 10 月 第 4 週


Catch of the Week No. 3 Oct. : 10 月 第 3 週


Catch of the Week No. 2 Oct. : 10 月 第 2 週


Catch of the Week No. 1 Oct. : 10 月 第 1 週






執筆者プロフィール

秋山曜子。 東京生まれ。 成蹊大学法学部卒業。
丸の内のOL、バイヤー、マーケティング会社勤務を経て、1989年渡米。以来、マンハッタン在住。
FIT在学後、マガジン・エディター、フリーランス・ライター&リサーチャーを務めた後、1996年にパートナーと共に ヴァーチャル・ショッピング・ネットワーク / CUBE New Yorkをスタート。
その後、2000年に独立し、CUBE New York Inc.を設立。以来、同社代表を務める。