Oct. 31 〜 Nov. 6 2016

”Still Undecided?”
アメリカでもてはやされるグレー・シンキングが大統領選挙を決める?


私がこのコラムを書いている11月6日はニューヨーク・マラソンが行われたマラソン・サンデー。 この日はマラソン・コースを中心に交通規制が多いので、毎年マラソンの見物に出かける以外は、どこにも行かないと決めているけれど、 ニューヨーク・マラソンはスタッテン・アイランドからスタートして、ブルックリン、クイーンズ、一度マンハッタンに入ってからブロンクス、 そして再びマンハッタンに戻ってセントラル・パークのタバーン・オン・ザ・グリーン前がゴールというニューヨークの5ボロー全てを走るのが名物のレース。
トップランナーを眺める絶好の見物スポットは私が住むアッパー・イーストサイドで、まずファースト・アヴェニューで男女の招待選手がブロンクスに向かう様子を見てから、 6ブロック歩いて5番街に向かうと、ブロンクスから戻ってきた男女のトップランナーがゴールに向かう様子が再び眺められるので、体力の消耗ぶりやフォームの変化などが分かって、 とても興味深いのだった。

今回も133か国から5万人以上のランナーが参加して行われたニューヨーク・マラソンであるけれど、 もちろんその中にはセレブリティやスポーツ選手が含まれており、そんなセレブリティを始めとする約9000人のランナーが 340のチャリティのために走っていたのが今大会。ニューヨーク・マラソンは、チャリティの寄付集めに大きく貢献していて、 ニューヨーク・マラソンだけで5億円もの寄付金を集めるチャリティ団体もあるほど。
またレースをサポートするボランティアの数は1万人、沿道でランナーを見守るスぺクテーターの数は毎年500万人と言われ、 文句なしに世界最大のマラソンになっているのだった。




アメリカで今週最大の報道となったのは、ワールド・シリーズでシカゴ・カブスが108年ぶりにチャンピオンに輝いたこと。 スポーツ・フランチャイズ史上、最長の無冠記録が破られたことで地元シカゴはもちろんのこと、アメリカ中が沸き返っていたけれど、 カブスは1勝3敗から逆転でチャンピオンを勝ち取っただけでなく、最後の2戦をヴィジターとして戦うハンディキャップを克服しての勝利。
過去数年ファンの高齢化と、ワールド・シリーズ視聴率低下が嘆かれていたメジャーリーグであるけれど、 今回のワールド・シリーズはシカゴ・カブス同様に 長年の無冠に泣いてきたクリーブランド・インディアンズとの対戦とあって、高視聴率を記録。 特にチャンピオンが決定した第七戦は、メジャーリーグ史上最高の視聴率を獲得したと言われているのだった。

このカブスの勝利で一躍脚光を浴びたのがカブスのジェネラル・マネージャー、テオ・エプスタイン(42歳、写真上右)。 彼は29歳の時にメジャー・リーグ史上最年少で ボストン・レッドソックスのジェネラル・マネージャーに就任。 2004年に”ベーブ・ルースの呪い”を破ってレッドソックスに86年ぶりのチャンピオンシップをもたらした仕掛け人。 その彼が今度はシカゴ・カブスを108年の呪いから解き放ってチャンピオンシップをもたらしたことで、スポーツ界のみならず、ビジネス界までもが 彼のマネージメント手腕に注目しているのだった。




さて、アメリカは遂に大統領選挙まで40時間を切って、事前投票を行った国民の数が過去最高に達していることが伝えられているけれど、 95%の投票者は既にどちらに投票するかを決めているとのこと。
今日、日曜の世論調査の結果では、ヒラリー・クリントンがドナルド・トランプを4%リードしているけれど、 過去数カ月間、支持率調査の結果が乱高下してきたのは周知の事実。 それというのは アメリカの大統領選挙史上最も好感度の低い候補者同士の争いとあって、 いずれの候補者にも満足しない人々が「どちらの悪魔を選ぶか?」という好まざる選択を迫られていたため。
でも1年以上も選挙戦が繰り広げられて、候補者のありとあらゆるスキンダルや汚点が出尽くしても 人々がどちらかに投票するかを決めかねていた原因には、 ここ数年 アメリカ社会でもてはやされてきた ”グレー・シンキング”に因るところも大きいのだった。 このグレー・シンキングは、白黒をはっきりさせる即決型の考えではなく、 情報を集め、人の意見を聞いてから決断を下すことにより失敗を防いだり、 ”Best of Both World / ベスト・オブ・ボース・ワールド”、 すなわち白黒双方の良い所取りをしようとする考えで、 決断のプロセスで不必要な敵を作るリスクもなく、 決断が誤っていた場合に、方向転換がし易いというメリットもあるもの。
これに対してブラック&ホワイト・シンカー(黒白をはっきりさせたがる人)は、自分の決断に勝ち負けの意識が絡むので、 ”決断の誤り=自分の敗北” と解するため、柔軟性が無く、危機管理をしなければならない時に、 精神的に落ち込んだり、ネガティブになることが指摘されているのだった。


グレー・シンカーに奨励されている判断や選択のポイントは以下のようなもの。


過去数年、こうしたグレー・シンキングがビジネスの世界でも、個人の決断においても もてはやされてきた結果、 人々がレストランを選ぶにも、掃除機を買うにも、飛行機のチケットを予約するにも レビューを読んだり、価格や特典を比較をするなど、決断のプロセスが複雑なマルチ工程で、エネルギーを要するものになってきたのは周知の事実。
その結果、グレー・シンカー達は期日が迫っていない選択を後回しにする傾向も顕著で、 アメリカ国民の多くが候補者を決めかねてきた背景には「未だ時間がある」、「今すぐ考えたくない」という 先送りの気持ちが強かったことが窺えるのだった。




今回の大統領選挙において”Undecided Voter / アンディサイディド・ヴォーター(候補者を決めていない投票者)” と言っていた人の中には、 既に特定の候補者を支持している人々からの勧誘や説得のアプローチを楽しんでいる Attention Seaker / アテンション・シーカーも多いと言われるのは事実。
でも物事を決めるというのは、たとえショッピングをしていて どちらの色を買うか?という選択や、どちらのデザートをオーダーするか?といった選択でも、 人間に何等かのストレスをもたらしているもの。
フェイスブックのマーク・ザッカーバーグは、「企業のCEOとして毎日多くの決断を迫られるため、そのエネルギーを服装選びに取られたくない」として、 常に同じTシャツとジーンズを着用しているのは有名なエピソード。マーク・ザッカーバーグだけでなく、 人間は1日に500〜1000の決断を下しており、その中には無意識で行っているものもあるけれど、 これを全てグレー・シンキングで慎重にこなしていたら ストレスが溜まるだけでなく、1日のタスクがこなしきれないのは目に見えているのだった。

前述のように、グレー・シンカーは期日が迫っていない決断を後回しにするけれど、 だからといってその期日までの間、その決断について考えていない訳ではなくて、 その決断のストレスを引きずったまま生活しているもの。 今回の大統領選挙の場合、あまりに長い選挙戦でそのストレスが日常化した結果、 ニューヨークでプライベート・クリニックを営むドクターによれば、患者の血圧の平均値が ここ半年で80〜120から、90〜140にアップしたとのこと。 その原因として患者たちが挙げていたのが大統領選挙のストレスで「トランプは子供じみていて、無礼だし、ヒラリーは信用に値しない」と 大統領選挙のニュースを読んだり見たりすることがストレスになっていると口々に指摘しているという。
でもグレー・シンカーは候補者双方について考えを巡らせているだけに、 ブラック&ホワイト・シンカー、すなわち特定の支持者を頑なに支持する人々よりは、 選挙結果がストレスにならないのもまた事実。
最新のアンケート調査によれば、どちらが選ばれても勝者を支持すると答えたアメリカ人は52%。 支持できないと答えた国民は43%で、投票は11月8日の火曜日に終わったとしても、 一部の人々にとっては、その結果の受け入れには時間が掛かりそうな気配なのだった。

最後に、大統領選挙を占う指標として私が最も信頼しているのは、ニューウェイブの統計学で知られるネイト・シルヴァーのウェブサイト、 ファイブ・サーティー・エイト 。 4年前の2012年の選挙の際に、 当時の彼のブログをフェイバリットのセクションでご紹介したけれど、 共和党のミット・ロムニーが有利と多くの政治専門家が予測したこの時の選挙で、全米50州における選挙人の獲得数を全て正確に予測したのがネイト・シルヴァー。 その前の2008年の選挙の際には1州を除く49州の選挙人獲得数を予測するという正確さ。
彼は世の中に入り乱れる情報には一切耳を貸さず、集めたデータだけで予測を行うという手法で、まずはメジャーリーグの予測からスタート。 その抜群の的中率のメソッドを選挙にも持ち込んでいるのだった。
その彼の予測によれば、今日日曜の時点で今回の選挙はヒラリー・クリントンの勝率が64.9%、トランプは35%. 選挙人の獲得数はヒラリー・クリントンが291.6人、トランプが245.7人。 ポピュラー・ヴォートと呼ばれる投票獲得数はヒラリー・クリントンが48.3%、トランプが45.4%となっているのだった。



執筆者プロフィール
秋山曜子。 東京生まれ。 成蹊大学法学部卒業。 丸の内のOL、バイヤー、マーケティング会社勤務を経て、渡米。以来、マンハッタン在住。 FIT在学後、マガジン・エディター、フリーランス・ライター&リサーチャーを務めた後、1996年にパートナーと共に ヴァーチャル・ショッピング・ネットワーク / CUBE New Yorkをスタート。 その後、2000年に独立し、CUBE New York Inc.を設立。以来、同社代表を務める。

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