Nov. 7 〜 Nov. 13 2005




Stella Frenzy & Michelin Backlash



今週の木曜、11月10日に発売になったのが、ステラ・マッカートニー For H&Mのラインである。
スウェーデンの激安アパレル・チェーンH&Mでは、昨年より高額ブランドのゲスト・デザイナーを迎えたスペシャル・ラインを ホリデイ・シーズンに先駆けて販売しているけれど、去年のカール・ラガーフェルドに続く、2回目に当たる今年は、 ステラ・マッカートニーがゲスト・デザイナーに選ばれたことは、既に何度もCUBE New Yorkでお伝えしている通り。
今回は、イメージ・モデルに選ばれていたケイト・モスがコカイン常用スキャンダルで、H&Mから解雇されたことで 世界的にパブリシティを獲得していたこともあり、同ラインは、昨年のカール・ラガーフェルドとは別の形で 注目を集めていたけれど、業界内ではオリジナル・ラインのビジネスが芳しいとは言えない ステラ・マッカートニーが、果たしてH&Mの価格になった時に どの程度の人気を博すのかは 「蓋を開けてみなければ分からない」的に見られていたものだった。
またH&M側の広告戦略は 昨年に比べると 若干大人しいといった印象であったし、ミッドタウン5番街にあるH&Mは、 昨年のカール・ラガーフェルドの発売日には、開店を1時間早めることを予告していたのに対して、 今年は特にそうした計らいも計画されていなかったのである。
だから、昨年に比べてマイルドな発売日になるかと思いきや、それは大間違いで、ニューヨークを始め、 世界各都市のH&Mでは、今年のステラ・マッカートニーはカール・ラガーフェルドを遥かに超えるスピードで 完売になったことが伝えられ、ここニューヨークでもマンハッタン内のH&M各店における商品の掴み合いは、 木曜夜のTVニュース、金曜朝の新聞で、大きく報道されることになった。

CUBE New Yorkでも、ステラ・マッカートニー For H&Mの商品のうちTシャツとロング・スリーブ・トップを取り扱うことを予定していたし、 これを予告して以来、多数のお問い合わせを頂いていたので、発売日は開店前の9時過ぎにスタッフが5番街のストアの前に 行列し、戦場のような状態の中から、何とか数十枚のTシャツとトップを掻き集めて来てくれたけれど、 あとから報道を見たり、読んだり、人の話を聞いたりするにつけて、よくもあんな状況の中から うちのスタッフが目的の商品が捜し出せたものだと感心するばかりだし、実際にH&Mから戻ってきたスタッフ達はどっぷり疲れ果ていて、 「まるで戦争でした」と現場の様子を伝える有様だった。

発売日に会社を休んだり、抜け出してまでH&Mに出掛けた多くの人々が語るのは、「目当ての商品なんて何処にもない」ということで、 今年は発売された全40アイテムがウェブサイト上で発売前から公開されていたこともあり、 「何か良い物があったら買おう」というのではなく、欲しい物をピンポイントで買い求めに来た女性達が多かったけれど、 誰もがお目当てにしていたチューリップ・ドレスやオーバーサイズ・トレンチ・コート、ジーンズといった人気商品は、 人目に触れる前に完売してしまい、結局、揉みくちゃにされた挙句、1点か2点の商品をやっと手に入れる、 もしくは何も買えずに店を後にした人も多かったという。

ニューヨーク・ポスト紙は、その記事の大見出しに「Back off my dress, bitch!」 という来店客の文句をフィーチャーしていたけれど、実際5番街の店では、商品の取り合いで 「ビッチ!」とののしり合うだけでなく、 客同士が喧嘩を始めていたことも伝えられていたりする。
その一方で、これだけ真剣に商品を奪い合っている来店客を、冷ややかな目で見ていたのは、駆けつけたメディアの取材陣と H&Mのスタッフだったようで、CUBEスタッフが目撃したメディアのカメラマンは、商品を掴み合う女性達を撮影する傍ら、「馬鹿だなぁ」と呟いていたというし、 H&Mのスタッフも、ステラ・マッカートニーの商品が置かれている1階エリアを、吹き抜けのバルコニーから見下ろしては、 そこでの喧騒を眺めて 大笑いをしていたとのことだった。
でも同じH&Mのスタッフでも、半ば命懸けの仕事となっていたのが、商品を搬入する人々で、 というのも、H&Mでは、店内でどんどん商品がはけていくのに対応して、搬入口からラック一杯に下がった新しい商品が、 次々と運び込まれて来ることになっており、それを察知した買い物客が搬入口にどんどん集まってきて、 新しいラックが運び込まれる度に、ゾンビか?ピラニアか?という勢いで掴み合い、奪い合いが始まるため、 搬入係は、商品を手に入れる事しか考えていない人々によって、事実上襲われる状態になるのである。
これらの搬入口に居る女性というのは、ある程度セールというものに精通した人々が多かったようで、 ラックが到着した途端に、出来る限りの枚数を鷲掴みにし、一度自分の管理下においてから、 その中に自分に合うサイズがあるかどうかチェックをするという。 これは、いちいちサイズをチェックしてから商品をピックアップしていたら、商品を取り逃してしまうからであるけれど、 こうした女性達のバーゲン・ストラテジー(戦略)のため、ラックに下がっている数十枚の商品は、あっと言う間に無くなってしまうことになる。 でも彼女達が、鷲掴みした商品のうち、自分に合わないサイズや、要らない商品を捨てるため、 試着室の外のラックやレジの傍で それが運良く拾えた人は、お目当ての商品を手に入れることが出来ていたようである。

今回H&M側では、商品をより効率良く販売するために、取扱店を昨年のカール・ラガーフェルドの時の500店舗から 400店舗に絞っており、 アメリカ国内で、ステラ・マッカートニーのラインを扱っていたのは僅か10店舗。 でもその分、各店舗に多めに商品が振り分けられるようにしたとのことで、スタッフもステラ・マッカートニーのラインを扱うエリアに多めに配置され、 そうしたストア・オペレーションの向上が 早めの商品完売に貢献していたという。 さらに、店内にはDJブースが設けられ、購買意欲を煽る アップビートなダンス・ミュージックがガンガンにかけられていたのも 売り上げ促進に一役買っていたと言わなければならない。

今や年商77億ドル(約9000億円)と言われるH&Mであるけれど、シティ・グループのアナリストによれば、今後3〜4年のH&Mのビジネスは、 過去5年間の成長率の半分に当たる15%程度が望まれているのだそうで、今回のステラ・マッカートニーのような リミテッド・エディションの企画については、どんなに売り上げが好調でも、ウォールストリートのアナリストや投資家はこれに無反応のようである。
でも、既にH&Mでは来年もゲスト・デザイナーの企画を行うことを既に決定しており、 その候補にはグッチの元クリエイティブ・ディレクター、トム・フォードや、ステラ・マッカートニーがグッチ・グループ傘下で 自らのブランドをスタートした後、彼女を引き継いでクロエのデザイナーとなった、フィービー・フィロ等の名前が浮上しているという。
ところで、ステラ・マッカートニー For H&Mの商品は、早速、発売日当日にオークションサイト、Eベイにアップされていたとのことだったけれど、 59ドルのトップにつけられた、スタート価格は125ドルであったとのこと。


一方、先週水曜の11月2日にレイティングが発表され、11月4日から書店に並び始めたのが、 ミシュランのアメリカ進出第1弾に当たる、2006年ニューヨーク版のレストラン&ホテル・ガイドである。
この中では、ニューヨークのレストラン504軒とホテル50軒が紹介されているけれど、 今週に入ってからニューヨークのローカル・メディアのバックラッシュにあって、叩かれて始めているのがミシュランである。
ニューヨーク・ポスト誌は、「The Idiots' Guide (馬鹿のガイド)」という大見出しで、 ミシュランの間違い、それもレストラン・ガイドとしてはかなりみっともない間違いの数々を指摘している一方で、 ニューヨーク・タイムズは「Did the Guide Need a Guide? (ガイドブックにガイドが必要だったのでは?)」として、 ミシュランの一貫性に欠くレストランのチョイス等の問題点を指摘している。
私も実際に、今週に入ってからミシュランを購入して読んでみたけれど、正直なところ、ミシュランの程度の低さには 失望どころか、呆れてしまったのが実際のところで、メディアがこれだけミシュランを馬鹿にしたくなる気持ちは十分に理解が出来てしまった。
このミシュランの問題点や、ザガット、ニューヨーク・タイムズのレビューとの比較は、現在CUBEで別に記事を作成している最中であるけれど、 ミシュランに書いてあるレビューの内容は、安っぽい旅行ガイドのレストラン紹介と何ら変わらないし、 ニューヨーカーが読めば、直ぐにOut of Towner、すなわち「よそ者」が書いていると分かるもので、 何時メニューから消えるとも限らない1品の料理をくどくど説明するレビューと、店の料理とは直接関係の無い内容が大半を占めているレビューが 非常に多く、しかも書いてあることは極めて退屈で、全く参考にならないのである。
また、ニューヨークでは39軒のレストランに、1つから最高3つまでの星が与えられたけれど、 それ以外にフィーチャーされている465軒に関しては、ザガットのように得点が付いている訳ではないので、味の評価を測るような目安は全く無く、 480ページもある17ドルのガイド・ブックとしては極めて情報量に乏しいものになっているのである。
私は、前回パリに出掛けた際もミシュランを参考にしてレストランを選んだし、 ロンドンに出掛けた場合も然りであったけれど、他の街のレビューを読む場合はミシュランを鵜呑みにするしかなくても、 自分が暮らしている街の馴染みのあるレストランのレビューを読む場合は、ミシュランというガイドブックの力量というものが 初めて見えてくる訳で、その意味で今回のニューヨーク版のガイドブックの発売は、アメリカにおけるミシュランの信頼度を 大きく失墜させることになるかと私は思っていたりする。 実際、メディアに限らず、私の周囲でもミシュランの評価に納得しないという声は非常に多く、 ミシュラン側は送り込んだ5人のレビューアーが「殆どニューヨーカーになりきっていた」とコメントしているけれど、 このレビューを読む限りにおいては、これはニューヨーク・ポストが書いている通り「ニューヨークに対する侮辱」と受け取りたくなるというものである。
そもそもニューヨーカーは、外食の回数が多いし、その分ローカル・メディアのレストラン・レビューにも関心を払っており、 一夜漬けとは言わないものの、数ヶ月漬けのミシュランのレビューアーよりも、ニューヨークのレストランに部分的にでも精通している人々は多いのである。 さらにニューヨーカーは"Out Of Towner" がニューヨークをエキスパート面して語るのを非常に嫌う傾向があるから、 ミシュランのニューヨーク・ガイドが今後生き残っていけるとすれば、ニューヨークを訪れる旅行者をターゲットすることだと思うし、 実際ミシュランの内容は、ニューヨークを知らない旅行者にしか通じないものだと思う。



Catch of the Week No.1 Nov. : 11月 第1週


Catch of the Week No.5 Oct. : 10月 第5週


Catch of the Week No.4 Oct. : 10月 第4週


Catch of the Week No.3 Oct. : 10月 第3週





執筆者プロフィール

秋山曜子。 東京生まれ。 成蹊大学法学部卒業。
丸の内のOL、バイヤー、マーケティング会社勤務を経て、1989年渡米。以来、マンハッタン在住。
FIT在学後、マガジン・エディター、フリーランス・ライター&リサーチャーを務めた後、1996年にパートナーと共に ヴァーチャル・ショッピング・ネットワーク / CUBE New Yorkをスタート。
その後、2000年に独立し、CUBE New York Inc.設立。以来、同社代表を務める。