Nov. 6 〜 Nov. 12




ファッション&パブリシティ



今週のアメリカは火曜日に行われた上下両院の中間選挙で、民主党が12年ぶりに両院で過半数を獲得し、 反イラク色、反ブッシュ色が国民レベルで高まっていることを示したけれど、 それと同時にアメリカで非常にクリアになってきたのが、ニューヨークで圧勝の再選を果したのがヒラリー・クリントン上院議員の 2008年大統領選への出馬説。
今回の民主党の勝利を受けて、下院では初の女性議長が誕生することになっていて、この大統領、副大統領に次ぐ、パワフルな ポジションに女性が就くことにより、2008年の選挙で女性大統領が誕生してもおかしくないお膳立てが整ったとも言われているのである。

そして、その選挙報道と同じくらいに今週のアメリカで大ニュースとなっていたのがブリットニー・スピアーズの離婚報道。
時間の問題といわれた2人の離婚であっただけに、誰も驚かないニュースではあったものの、 この離婚については国をあげての歓迎ムードで、現在 カムバックのアルバムをニューヨークでレコーディング中の ブリットニーにとって、離婚は絶好のパブリシティになっている。


さてそんな中、アメリカを含む世界各国のH&Mで今週発売となったのが、パリでコレクションを発表するデザイン・チーム、 ヴィクター&ロルフによるリミテッド・エディションである。
このラインについては、CUBE New Yorkの記事でもそのラインをご紹介しているけれど、 激安アパレルとして有名なH&Mが一流デザイナーをゲストに招いてリミテッド・ラインを手掛けるのは今年で3度目。 初回はカール・ラガーフェルド、2回目に当たる昨年はステラ・マッカートニーがデザインを担当し、 いずれも成功を収めていたけれど、今回のヴィクター&ロルフがファッション業界で特に関心を集めていた理由が2つある。
先ず1つ目は、過去の2人のデザイナーに比べて 遥かにブランド知名度の低いヴィクター&ロルフの商品に一般の消費者が関心を示すのか? ということ、そしてもう1つが オート・クチュールのようなディテールやフォルム、素材使いで有名なヴィクター&ロルフの商品を いかにH&Mの価格で再現するのか?ということ。

そして発売日の木曜日に蓋を開けてみれば、世界各国のH&Mには開店前から大行列が出来ており、 この日の午前中で 殆どの商品が完売するという人気ぶりを見せる結果となった。 最も人気が高かったのはトレンチ・コートとのことだったけれど、同アイテムは私が唯一実物を見ることが出来なかったものである。
ではそれ以外のアイテムがどんな感じであったかと言えば、正直なところ、モデルが着用しているプロモーション用の写真のように 見場が良いものではなく、はっきり言ってしまうと、何処にでも売っている安っぽいワンピースやブラウスのような商品ばかりで、 非常にガッカリしてしまったのだった。 唯一購入する価値があると思えたのは、数型登場していたTシャツやトップで、これらは通常ヴィクター&ロルフが手掛けない アイテムであるのに加えて、H&Mのような大衆アパレルが 唯一デザイナーと肩を並べるクリエーションが出来るものである。
それ以外のアイテム、特に今回のラインに多く見られたドレスについては 「地方の駅ビルの洋品店で カツラをつけたマネキンが着ているような ペラペラのワンピース」と表現したくなるほど垢抜けないもので、こうしたアイテムが売り切れたのは 恐らく同ラインに期待を寄せてやってきた人々や、購入した商品をEベイで売ろうと思っているプロの並び屋が、 混み合う店内の雰囲気に押されて「競り買い」した結果とも思えるものだった。

今回のヴィクター&ロルフのラインの出来の印象は、2年前のカール・ラガーフェルドのラインに似ていて、 「上質素材でデザインされていたら、もっと良かったであろう」と思わせるもの。でもH&Mが扱う化繊より安い中国産シルクや、 安価なレーヨン素材などでクリエイトされると、例えデザインを担当するのが、パリ・コレに参加するようなトップ・デザイナーであっても、 出来上がりは2流アパレルによるランウェイ・コピーと大差が無くなってしまうのである。
これらに比べて遥かに出来が良かったのが昨年のステラ・マッカートニーのライン。 私は個人的には ステラ・マッカートニー自身のコレクション・ラインは 決してその値段ほどは高そうには見えないと 思っているけれど、彼女がH&Mのためにクリエイトしたラインは、デザイナー自身のセカンダリー・ラインのように見えるほど その持ち味やスタイルが上手く表現されていたし、H&Mの価格でなら 極めてお買い得と言える仕上がりになっていたのである。

さて、今回のH&Mのヴィクター&ロルフが立証したのが、ファッションとパブリシティの深い係わり合いである。 例え、ヴィクター&ロルフのような無名のデザイナーでも H&M のゲスト・デザイナーに迎えられれば多大なパブリシティを獲得する訳で、 これに加えてH&Mの多額の費用を掛けた広告、さらにロレアル社が同ラインの発売に合わせてヴィクター&ロルフのフレグランス、 ”フラワー・ボム” のプロモーションを強化したことも手伝って、今やヴィクター&ロルフはすっかり知名度をアップさせているのである。
通常こうした安価なアパレルがデザイナーを起用する場合、そのデザイナーのネーム・バリューを武器にしてプロモーションを行うものであるけれど、 ヴィクター・ロルフに関しては 逆にH&Mのお陰でデザイナー側のネーム・バリューがアップしたという珍しいケース。 でも昨今のアパレル業界を見回してみると、大衆アパレルが無名デザイナーを起用するという例はさほど珍しくないのが実情である。
アメリカの大衆ディスカウント・チェーン、ターゲットは、今年春にはジゼル・バッグで有名になったルエラ、この秋には ニューヨークの若手デザイナー、ビーナズ・セラフォーを起用したラインを展開しているし、 今週ソーホーにアップスケールなストアをオープンした日本のユニクロにしても、ファッション関係者でさえ その作風が頭に浮かばないほど 無名なアリス・ロイというデザイナーを起用したラインをクリエイトしている。
でも「デザイナーを起用すれば、パブリシティが得られる」、「服のラインにブランド価値が出る」という時代は既に終わっているようで、 ターゲットのビーナズ・セラフォーのラインは売れ行きの不振が伝えられており、商品の出来の評価も極めて低いものになっている。


ファッションにおけるパブリシティの場合、デザイナー・ネームと同様に価値があるとされるのはセレブリティが絡むもの。
そうしたセレブリティ絡みのパブリシティを獲得して過去数年大きな成功を収めた好例と言えるのは、 ロサンジェルスのファッション・ストア、Kitson / キットソンである。
2000年にオープンしたキットソンを有名にしたメディアと言えば、ゴシップ芸能誌、US Weekly / アス・ウィークリーで、 同誌が、パリス・ヒルトン、リンジー・ローハン、二コル・リッチー、ジェシカ・シンプソンといったセレブリティが 同店の袋を持って店から出てきた姿や、キットソンの商品を着用した彼女らのスナップを掲載したことにより、 同店そのものがセレブリティ・ステイタスを獲得するほどの人気と売り上げを誇るようになったのである。
今では年間売り上げが26億円に達すると言われるキットソンであるけれど、その同店が突如アス・ウィークリーの 紙面を飾らなくなったのは今年の春頃からのこと。そして、今年夏にはキットソンがアス・ウィークリーを相手取って訴訟を起こすに至っているけれど、 その訴訟内容というのが、アス・ウィークリーが紙面掲載と引き換えに散々キットソンを利用した挙句、キットソンを 一切紙面に載せなくなったというもの。 例を挙げれば、アス・ウィークリーのエディターは彼個人の著書の出版パーティーをキットソン店内で行い、 アス・ウィークリーの誌面2ページをキットソンのために割く 見返りに、パーティー代を全てキットソンに負担させたという。 この他にもキットソンが同誌をテーマにしたウィンドウをクリエイトする見返りに、キットソンを掲載する といった取引も行われており、 エディターが商品をギフトとして受け取るのも日常茶飯事のこと。
でもこれはセレブリティにしてもしかりで、パリス・ヒルトンやリンジー・ローハンといったセレブリティは、店を訪れても 商品を もらって帰っていくだけで、自腹で購入することは殆ど無かったとも言われている。 なので、彼女らが同店を訪れたり、同店のオリジナルTシャツを着てスナップされるのには それなりの理由があったという訳である。
キットソンからの訴訟について、アス・ウィークリー側は「掲載と引き換えの取引などは無かった」として、 訴訟は「アス・ウィークリーに掲載されなくなったキットソンがパブリシティ獲得のために行っているもの」ともコメントしている。
実際キットソンと言えば そのクォリティや商品力よりも、パブリシティを利用した話題性で売るプロダクトが多かっただけに、 果たしてアス・ウィークリーからのメディア・フィーチャーが無くなっても売り上げが保てるかは 今後注目されるところである。


最後に、CUBE New Yorkのお客様から今回のヴィクター&ロルフ For H&M の 目玉アイテムであるウェディング・ドレスを入手する方法について 何通かお問い合わせを頂いたけれど、ドレスの実物を見た私の感想を述べさせていただくならば、 「あのドレスを着て結婚した女性は、もっと上質なドレスで式を挙げ直すだけの理由で離婚したくなるのでは?」というものだった。




Catch of the Week No.1 Nov. : 11月 第1週


Catch of the Week No.2 Oct. : 10月 第5週


Catch of the Week No.2 Oct. : 10月 第4週


Catch of the Week No.2 Oct. : 10月 第3週






執筆者プロフィール

秋山曜子。 東京生まれ。 成蹊大学法学部卒業。
丸の内のOL、バイヤー、マーケティング会社勤務を経て、1989年渡米。以来、マンハッタン在住。
FIT在学後、マガジン・エディター、フリーランス・ライター&リサーチャーを務めた後、1996年にパートナーと共に ヴァーチャル・ショッピング・ネットワーク / CUBE New Yorkをスタート。
その後、2000年に独立し、CUBE New York Inc.設立。以来、同社代表を務める。