Nov. 5 〜 Nov. 11 2007




”ニューヨークのエンゲル係数 ”



今週のアメリカでは、週明けからスクリーンライター(脚本家)組合がストに突入し、 夜のトークショーが全て過去に放送された番組の再放送になってしまったのに始まり、 週の半ばまでにはアメリカの人気番組、「24」、「デスパレート・ハウスワイブス」、「CSI」などのプロダクションが次々とストップ。 写真左のエヴァ・ロンゴリア・パーカーのように俳優達もストをサポートし、ピザやドーナツを差し入れる姿が見られていたのだった。
以前同様のストが行われたのは2001年。この時はDVDの売り上げが脚本家の収入に反映されていないことに抗議してのものであったけれど、 今回のストはオンライン上でダウンロードされるコンテンツの売り上げが脚本家に支払われていないことを抗議してのもの。 実際、アップルのアイチューンなどでは、映画や現在放映されているTV番組がダウンロードできるようになっており、 アイフォンの発売、同様の携帯端末機の普及で その利用者が急激に増え、 これが映画スタジオ(アメリカではTV番組の多くも映画会社によって製作されている)の大きな収入源になりつつあるのだった。

このままストが続くと、脚本家不在でも成り立つ報道番組とリアリティTVのみが 再放送ではない ニュー・エピソードを放映できる数少ない存在になってしまうけれど、 それに止まらず、現在 撮影進行中だった「24」などの新シーズンのスタート時期が遅れ、 さらに映画界も来年クリスマス公開予定の作品がプロダクションの遅れで、サマー・ムービーになってしまうといった スケジュールのズレと それに伴う大きな損失が生じるのである。

また、これから封切られる映画や出版される書籍、ミュージックCD、DVDなどは、そのプロモーションに最も効果的といわれる トークショーが放映されないことが大きなダメージとなっている。 俳優や著者、ミュージシャンらがトークショーにゲスト出演し、 自らの映画やプロダクトを売り込むことには メジャーネットワークのトークショーであれば300万人〜500万人の視聴者にアピールできる手段。 トークショーの出演後に売り上げが伸びるプロダクトが多いのはもちろん、映画会社側も主演俳優との出演契約の中に 「トークショーに出演して映画をプロモートする」ことを条件に加えているほどなのである。
一部にはゲストのインタビューで構成されるトークショーまでもが 再放送になってしまうことを不思議がる声も聞かれるけれど、 メジャー・ネットワークでも ケーブル局でも、トークショーには大体4〜8人のライター・チームがおり、 ホストがオープニングで語る 時事を反映したジョークを初め、ゲストへの質問に至るまでを脚本として書き上げているのである。
ホストのダイアログ(語り)に どうしてこんな大掛かりなチームが必要なのかと言えば、まず政治、経済問題に関するジョークが多いために、 事実関係のリサーチが必要であるのに加えて、様々な時事問題のジョークが特定の人種や人々から反感を買うことは無いか? などの レビューを行わなければならないため。 ホストが失言をすればスポンサーが手を引いたり、放映中止に追い込まれるなど、 大事態に発展してしまう訳で、アメリカではトークショーからアカデミー賞まで、ありとあらゆる番組のホストが 何気なく語っているジョークは、すべてライター・チームによってリサーチが行われた上で 書かれ、レビューが行われた後 脚本となってホストの口から語られるのである。

さて、ニューヨークでは 今週土曜からストに突入しているのがブロードウェイの” ステージハンド ”と呼ばれる ステージの裏方から構成される組合、 ローカル・ワンのストライキである。
これによってブロードウェイのシアターは、労使が異なる契約を結んでいる7つのパフォーマンスを除く 26パフォーマンスが土曜のマチネからクローズしており、 今日、日曜付けのニューヨーク・タイムズ、ニューヨーク・ポストでは、遠路はるばるニューヨークにやってきて、楽しみにしていたブロードウェイ・ミュージカルが 見られず、落胆したり、涙する人々の様子が報じられていたのだった。
今年のブロードウェイと言えば 記録破りのチケット・セールスが報じられているけれど、 そのチケットの購入者の65%がニューヨーク・エリア以外からの旅行者。 またショーに出掛けるニューヨーカーの多くも、「地方から家族や親類がやって来た時に彼らを連れて行く」と言われるのが ブロードウェイ・ミュージカルである。

ブロードウェイ・シアターは今や年間$939ミリオン(1061億円)のビジネス規模を誇るけれど、 ” 記録的なチケット売り上げ ” と言われる割りには、出掛けてみると意外に席が埋まっていないパフォーマンスは多いという。 でもチケットの単価がアップしたのに加えて、公演数も週末だけで7回行われるパフォーマンスも少なくないのが昨今。 しかもニューヨーク市は今年、ドル安の影響もあって観光客の最多記録を塗り替えた昨年をさらに上回る旅行者数を見込んでおり、 旅行者相手のビジネスと言っても過言ではないブロードウェイ・ミュージカルが儲かる要因は揃っているのである。
それだけに、週給の最低が約1200ドルと言われるステージの裏方がそのハード・ワークの見返りに給与アップを訴える気持ちは 理解できるというもの。
そのブロードウェイが前回ストに突入したのは2003年。この時はミュージシャン組合によるストライキで、 4日で終結している。 ところで、ブロードウェイのストライキがニューヨーク市経済に与えるダメージは 1日 $7ミリオン(約8億円)。 でも26ものシアターがクローズすれば、電力の節約にはかなり貢献するのも また事実なのである。

さて、2週間前のこのコラムで アメリカの都市部では、20代の女性の方が 同じ年代の男性より 高学歴で高収入であることに触れたけれど、 先週のニューヨーク・ポスト誌の日曜版、ページ・シックス・マガジンに掲載されていたのが 20〜40歳までのニューヨーク女性の収入。
ここでは25人のニューヨーク・ウーマンの年収と、最も費用がかかるものなどが掲載されていたけれど、 その中で最も稼いでいたのは30歳の不動産会社のディレクターで、年収は70〜80万ドル(8000〜9000万円)。 最も収入が低かったのはペストリー・ショップでヘッド・ベイカーを勤める25歳の女性、コロンビア大学のPHDの学生兼リサーチャーである28歳の女性、 そしてフリーランスのファッション・スタイリストとして働く28歳の女性で、いずれもその収入は3万5000ドル(約400万円)であった。
殆どの女性が共通して最もお金が掛かるものとして挙げていたのは ニューヨークなので 仕方が無いと言えば仕方が無い ” レント ” 。 稼ぎが良い女性ほどファッションやアンティーク・ファニチャーにお金を使ってしまう という 物の購入を挙げていたのだった。 でもレストランやクラブでのドリンクなど、外食&エンターテイメントを挙げる人は意外にも1人も居なかったのだった。
これは恐らく ニューヨークには外食でもお金を掛けなくて済むチョイスがいくらでもあるからだと思われるけれど、 その一方で物価上昇率を遥かに上回るスピードで値上がりし続けているのがニューヨークの一流レストランの食事代。 2008年度版のザガットによれば、ニューヨークで最も高額なレストラン20軒の平均的なディナー価格は2001年の84.45ドルから、 今年は143.06ドルにアップしており、毎年11.6%の割合で上昇しているという。 この143.06ドルというお値段は料理の代金のみで、実際には飲み物、税金、チップがこれに加わることになる。 したがって、現在のニューヨークでは 高額レストランに出掛けたら、特に高いワインなどをオーダーしなくても 1人250ドルは覚悟の時代に入ってしまった訳である。

先述のニューヨーク・ポストのニューヨーク女性の収入の記事は 私が週末に出掛けたパーティーでもちょっとした話題になっていたけれど、 私の友人達の間での共通した意見は、ニューヨークでは 経済的に いかに豊かであるかは、収入に対するレントの割合に 現れるということ。
これは実際にニューヨークに暮らしてみれば 誰もが実感することだけれど、 この街で好物件の安いアパートに巡り会う確率というのは ゼロどころか、マイナスとも言えるもの。 誰もが、大して広くもなく、さほど交通の便が良いとも言えないアパートに他の街では考えられないような高いレントを支払っているのである。 したがって 記事で紹介された女性たちに限らず、ほぼ全てのニューヨーカーが全米の他州に比べて遥かに高いレントの支払いに 苦しんでいる訳で、収入に対するレントの割合は エンゲル係数(収入に対する食費の割合)よりも ずっと正確に ニューヨーカーの豊かさを示すというのが私達の共通した意見だったのである。
逆に、ここまで一流レストランの価格がアップしてくると 収入に対する食費の割合が ある程度高い人の方が、 ずっと豊かな暮らしをしている というのも また事実である。
私のワイン仲間で 医者をしている男性は、自分1人の月の平均的食費が1万5000〜2万ドルと言っていて、これを聞いた周囲からは 「キャビアで顔でも洗っているんじゃないの?」などと冷やかされていたけれど、 実際彼は 非常な食通で、私がホワイト・トリュフのパスタが美味しいレストランを教えてあげたところ、 一皿120ドルもするパスタを毎週1回ずつ、既に3回も食べに行っていたりする。(彼は当然パスタだけを注文する訳ではないので、 このレストランの1回の食事に300ドルは使っているはずである。)
また彼は自宅がアッパー・ウエストサイドなので、マサ、パー・セのようなニューヨークで最も高額なレストランにも頻繁に出掛ける上に、 仕事の関係でロンドンに別居中の夫人と 時々パリで落ち合っては、ドル安ユーロ高にもめげず、 グラン・ブフェール、ランブロアジーなどの一流レストランで、グルメ・ディナーを味わっているのだそうで、 彼の場合、ワイン代だけでもかなりの出費になっているのである。

この男性は自宅が持ち家でローンの払いも終わっているので、自宅の維持費より食費の方が嵩むタイプであるけれど、 これが女性になると、経済的な豊かさの指標は また別のところに現れるようになる。
それが何かといえば ファッション&ビューティー・バジェットで、一定以上の収入がある女性にとってこの割合が高いことは、 豊かさの象徴と言えるものなのである。
マンハッタンでプラスティック・サージョン(美容整形医)を営む女性は、 毎月ペディキュアを含むネールに400ドル、ヘア・カットと月に2回のカラーに900ドル、フェイシャルに600ドル、ブラジリアン・ワックスに100ドル、 マッサージに600ドル、パーソナル・トレーナーに600ドルを支払っているという。 これだけで3000ドル(34万円)という出費であるけれど、この他に服やシューズ、バッグを購入するので、 ことに8月、9月はコートやブーツのような高額アイテムの影響で、7000ドル〜1万ドル(80〜113万円)の請求書がデパートのクレジット・カードから 送られてくることになるという。
女性の場合、デートをすれば男性が食事代やドリンク代を払ってくれて 食費が浮く場合があるけれど、 ここまで稼いでいて 自分にお金が掛けられる女性になると、人が支払って節約できるお金の割合が 全体の出費に対してあまりに小さいせいか、それで 「得をしている」 とか「生活の足し」になっているなどという平民的な意識は全く無いようである。

ところで、女性の収入がアップしてきたことが公に知れ渡ってきたことで、シングル男性の中で変わりつつあるのがデートの支払い法則。 結婚もしないのに、長く付き合っている女性の映画やディナーを 意味も無く払い続けるのは 今や オールド・ファッションで ”ルーザー” 扱いされること。
従来だったら、自分の方が稼いでいるという前提のもとにデート代を支払ってきた男性達であるけれど、 今や女性達も十分に稼ぐ時代になっているだけに、支払いにも男女平等意識が出てきたのは 30代前半以下の若い世代には特に顕著なもの。 これまでの一方的に男性が支払うデートについては、「食費を浮かす手段に利用されているみたいな気がする」 と勘ぐる声もあれば、 「お互いデートを楽しんでいるのだから、割り勘がフェアだと思う」 という意見などが聞かれる一方で、 「いつもデート代を払わされている女性と別れたかったら、一度彼女に高額の請求書を手渡して支払わせること」 という 厄介払いのフォーミュラまで 登場している。
でも、例えデート代が以前より嵩むようになったとしても、収入が増えて自分が自由に使えるお金が増えるというのは、 女性達にとっては 極めて好ましいことなのである。





Catch of the Week No. 1 Nov. : 11 月 第 1 週


Catch of the Week No. 4 Oct. : 10 月 第 4 週


Catch of the Week No. 3 Oct. : 10 月 第 3 週


Catch of the Week No. 2 Oct. : 10 月 第 2 週






執筆者プロフィール

秋山曜子。 東京生まれ。 成蹊大学法学部卒業。
丸の内のOL、バイヤー、マーケティング会社勤務を経て、1989年渡米。以来、マンハッタン在住。
FIT在学後、マガジン・エディター、フリーランス・ライター&リサーチャーを務めた後、1996年にパートナーと共に ヴァーチャル・ショッピング・ネットワーク / CUBE New Yorkをスタート。
その後、2000年に独立し、CUBE New York Inc.設立。以来、同社代表を務める。