Nov. 3 〜 Nov. 9 2008




” OBAMA ”


今週のアメリカの話題といえば、当然のことながらアメリカ第44代大統領に民主党のバラック・オバマ氏が 黒人として史上初めて選出されたことであったけれど、今回の選挙は私がアメリカに来てから5回目のもの。 もちろん私はアメリカ市民ではないので投票は出来ないけれど、こんなに選挙というイベントが大きく盛り上がったのは 初めてのことだったし、オバマ氏の勝利が確定した後の まるでニューイヤー・イヴのようなセレブレーションも 初めて目にするもので、 この歴史的な瞬間にアメリカ、特にニューヨークに居て、この特別な空気を体感出来たことを少なからずラッキーに感じてしまったのだった。

選挙の前日は、街中も メディアから伝わってくる雰囲気も 不思議な緊張感が漂っていたけれど、 いざ選挙の日になると、朝からオバマ勝利ムードが何となく感じられており、リパブリカン支持の右寄りメディア、 ニューヨーク・ポスト紙でさえ、バラック・オバマを1面の表紙にフィーチャーしていたのだった。
この日は投票所に並んでいたアメリカ人の友達から 何通かテキスト・メッセージ(携帯メール)が送られて来たけれど、 その内容というのは 「投票所で凄くキュートな男の人に会ったの」、「私が行ったときは年寄りばっかり!」 みたいな 選挙そのものとは全く無関係のもの。
ニューヨークは投票機械が古いためにトラブルが心配されていたけれど、実際には私が話したアメリカ人は皆、15分程度で 投票を終えたと言っていたのだった。 またニューヨークは他の州の出身者も多く、そういった人々は自分の出身地でレジスター(投票の申請)をしているケースも 少なくないようで、彼らは事前に不在者投票を済ませていることだった。

この日は 前回のコラムにも書いた通り、アメリカ中で選挙の行方を見守るエレクション・ウォッチ・パーティーが企画されており、 私も トライベッカのロフトの個人宅で行われたパーティーに出掛けたけれど、 タクシーでロックフェラー・センター前を通りかかると そこはこの日のために「エレクション・プラザ」と ネーミングされた選挙速報スペースとなっていて、凄い人だかりが出来ていたのだった。
ロックフェラー・センターのアイス・スケート・リンクには全米50州の地図がフィーチャーされ(写真左)、 各州の結果が出る度に、リパブリカン(共和党)が勝利をすればレッド、デモクラット(民主党)が勝利すればブルーに 塗りつぶされていくことになっていたけれど、それと同時にロック・フェラー・センター・ビルもレッド&ブルーにライトアップされて、 そこで行われていたのが 各候補者が選挙人を獲得する度に外壁に設置された棒グラブがその数値を示すプレゼンテーション。
でもそんな大規模なセッティングも 2004年のブッシュVS.ケリーの選挙に比べると リセッションのためかスケール・ダウンしていることが指摘されていたのだった。

私が出掛けたパーティーは さすがにリベラル派が多いニューヨークで、しかもパーティーに来ていたのは殆どが20代、30代。 なので100%がオバマ・サポーター、もしくはぞっこん支持ではないもののオバマ候補に投票した人達、 そして私のように投票は出来ないものの、マケインよりオバマに大統領になって欲しいという人の集まりになっていたのだった。
私がパーティーに到着した時には、 これまで共和党が制してきたオハイオで オバマ勝利が確定して 大いに盛り上がっているところで 「あとフロリダさえ勝利すれば、オバマ大統領は確実!」 と 既にプレ・セレブレーション・モードになっていたところ。 その様子は、応援しているチームが2ゴール差で勝っているスーパーボウル・パーティーの第4クォーター、残り時間3分 みたいな雰囲気で、すっかりスポーツ観戦感覚なのだった。
そして、CNNがオバマ大統領誕生予測を発表した夜11時過ぎの時点では、既にシャンパンで乾杯が始まっており、 それと同時にタイムズ・スクエアやシカゴ、サンフランシスコで、喜びに沸く人々が映し出されるTV中継を見ながら、 皆が口々に 「ニューイヤーが2ヶ月早くやってきたみたい!」と言っていたのだった。
知り合いのアメリカ人の中には、「オバマ大統領誕生の瞬間に感動して涙が出た」 と言っていた人は多かったけれど、それと同時にニューヨークの街中も興奮状態で、 パーティーからの帰りのタクシーで通りかかった様々な場所で 人々がお祭り状態になっていたし、 タクシーの運転手も興奮して喋り捲っていたせいで、私の友人のアパートに止るのを忘れてしまうような有様なのだった。
これまで経済を中心に暗いニュースが多かったアメリカだけに、こんなにアメリカ人がハッピーな様子を見るのは 久しぶりだし、気分が良くなるもので、それほど積極的なオバマ・サポーターでない 私も マケイン&ペイラン政権が誕生しなかった安堵感も手伝って、晴れやかな気持ちでエレクション・デイを終えることが出来たのだった。

そしてその翌日、11月5日のニューヨーク・タイムズ紙の第一面が写真右のもの。
毎朝ニューヨーク・タイムズを読むのを欠かせない日課としている私は、同紙が果たしてどんなヘッドラインで オバマ勝利を伝えるのかと思っていたけれど、メインのヘッドラインは 「OBAMA」というたった一言。 でも、この見出しが目に飛び込んできた時の印象はとてもセンセーショナルなもので、 毎朝ニューヨーク・タイムズを読んでいる読者だったら きっと同じように感じたであろうこと。
私は1989年にアメリカに来て以来、 これまで 9/11のテロを始めとする様々な重大事件や歴史的な出来事を ニューヨーク・タイムズ紙で読んで来たけれど、同紙が第一面の自社ロゴより大きなフォントを使った見だしを打ったのは、 私が記憶する限りこれが初めてのことだったのである。
この歴史的にも意味深い ニューヨーク・タイムズ紙は、約40万部が印刷されたというけれど、 午前中に街中のニュース・スタンドで完売してしまい、 1ドル50セントの同紙が その日のうちにEベイで 260ドル というとんでもない価格でオークションに掛けられていたのだった。 この大反響を受けて、この日付けのニューヨーク・タイムズ紙は送料込みの14ドルで、 同紙のウェブサイトから購入の申し込みが出来るようになったけれど、 これに限らず、今回の選挙グッズはメモラビリア・アイテムとして収集の対象になっていることが伝えられているのだった。
一方、その大統領選の行方を報じたTV番組は 全米で6500万人の視聴者を獲得したことが明らかになっており、 中でも最高の視聴率を獲得したのは、タイムズ・スクエアに本拠地を構える ABC。 こうした視聴率には、人々のネットワークに対する信頼度やアンカーへの ロイヤルティ(忠誠心)が表れると言うけれど、 多くのアメリカ人が今後 オバマ勝利の瞬間を思い出す度に、ABCのネットワーク・アンカー、チャールズ・ギブソンの報道を 頭に描く訳であるから、単なる視聴率だけでなく カルチャー・インパクトを もたらしたのが今回の選挙報道と言えるのだった。

さて、今回の選挙で明暗を分けた要因の1つと言われるのが、若い投票者のレジスターが増え、 彼らが実際に投票を行ったということ。
2004年の選挙の際には、当時のこのコラムでも書いたけれど、 今回の選挙と同様、様々なセレブリティが投票を呼びかけ、若者のボランティアも多数選挙活動に加わっていたものの、 決してそれによって若者層の投票率がアップすることは無かったのである。
でも今回と前回の選挙の大きな違いと指摘されるのがテクノロジー。 もっと具体的に言えば、携帯電話の進化と、YouTube、フェイスブックといったメディアの出現である。
そもそもオバマ陣営は、この選挙戦をグラスルーツ・ムーブメント(草の根活動)として戦う作戦を当初から展開しており、 その戦略の重要な要 となっていたのが インターネット。 それも若い世代が好んで利用するYouTube、フェイスブックなどで、 これによって人々はオバマ氏のスピーチを何時でもYouTubeで観ることが出来、フェイスブックで彼のキャンペーンの様子を 逐一チェックし、彼を非常に身近な候補者だと感じていたという。 加えてオバマ陣営では、オバマ・モービルに登録した人々に頻繁に携帯メールを送付しては支持や活動を呼びかけており、 副大統領候補の発表も 携帯メールによって支持者に通達されたのは以前のこのコラムでもご説明したとおり。
こうしたテクノロジーを駆使した選挙戦をオバマ候補が展開した一方で、 マケイン候補はコンピューターが使えない、自分でEメールも打つことが出来ないことが報じられ、 サラー・ペイラン副大統領候補は、政治家にも関わらず一般人と同じヤフーのメール・アカウントを使っていたために、 そのメールがハッキングされるというトラブルで醜態をさらしており、 その点でもマケイン&ペイランが21世紀の政権を担うに相応しくないという声が聞かれていたのだった。
多くのオバマ・サポーターがタイムズ・スクエアを始めとする様々なセレブレーションの場で、 しきりと親指を動かしながらテックス・メッセージ(携帯メール)を打っている姿を見るにつけ、 テクノロジーが 今回の選挙戦で如何に大きな鍵を握っていたかは明らかなのである。

さて、今回の選挙でアメリカに初のマイノリティ大統領が誕生した訳だけれど、この状況の消化に最も時間が掛かっていると言われるのは、 白人層ではなくて 黒人層。 もちろん彼らがこの状況を最も歓迎すると同時に 誇りに思っているに違いないけれど、 白人のオバマ・サポーターが、過去6週間の世論調査からオバマ勝利を確信していたのに対して、 「当選するまで信じられない」 という危機感を持って見守っていたのが黒人層であり、 それだけに 「つねっても、つねっても まだ信じられない」 的な喜びに包まれているのが彼らである。
でも世論調査によれば、オバマ氏の人種よりも マケイン氏の高齢の方が 遥かに ネガティブな要素に働いていたというから、 今回の選挙は人種など無関係に、アメリカ国民が大統領を選んだのは事実なのである。
その一方で、今回の選挙で マイノリティとしての差別を実感することになったのがゲイ・ピープル。
今回の選挙では、カリフォルニアを始めとする3つの州で、ゲイの結婚を認めるかの 投票が行われていたけれど、キリスト教右派を始めとするコンサバティブな団体の 何十億円もを投じた キャペーンが功を奏して、3つ全ての州で ゲイの結婚は認められないという判断が下されてしまったのだった。 これを受けて、ロサンジェルス、サンフランシスコなど カリフォルニアを中心とした様々なエリアで、 選挙の翌日から抗議デモが 毎日行われており、まだまだアメリカには様々差別が存在していることを認識させているのだった。

そのオバマ当選の翌日からは、ウォール・ストリートで再び株の大暴落が始まっているけれど、 2004年のブッシュ再選翌日に株が高騰したことを思えば、 選挙後の市場動向が何の指標にもならないのは言うまでも無いこと。
プレジデント・エレクトとなったオバマ氏と夫人は、明日月曜には早くもホワイト・ハウスを訪れ、 ブッシュ大統領夫妻と 引継ぎ準備を進めることになっているけれど、 これは現在のファイナンシャル・クライシスやイラク戦争といった状況を受けた異例のスピード。
2000年の選挙で後味の悪い勝利を収めたジョージ・W・ブッシュ大統領に 当時のクリントン大統領が ホワイトハウスを明け渡す際は、クリントン側のスタッフがコンピューターのキーボードから「W」の文字を全て 取り外して出て行ったことが報じられていたけれど、この当時のアメリカは こんな意地悪も 苦笑いを誘う「シャレ」で済まされるような 余裕があった時代。 でも、今はエコノミー、失業問題、税金、健康保険、イラク戦争、エネルギー問題、環境問題など、 様々な問題が深刻な局面を迎えているだけあって、選挙の翌日にはブッシュ大統領が オバマ次期大統領への 引継ぎに全面的な協力を約束していたのだった。

さて、オバマ政権になって何が期待できるか?と言えば、まず上院、下院とも民主党が過半数を獲得しているため、 政策が素早く 可決・実行されるのは、正しい方向に向かってくれる限りは大いに歓迎すべきところ。 またブッシュ大統領が違法としてきた パーキンソン病などの治療を可能にする ES細胞のリサーチも合法化される見通しで、 これも明るいニュースとして受け取られていること。
更に ヨーロッパを始めとする諸外国で非常に人気が高かったオバマ氏が大統領になったことで、 アメリカの世界に対するイメージアップが出来たのは 既に現れているオバマ効果であるけれど、 特にブッシュ政権時代に関係が険悪化したフランスを始めとする国々と協調関係が結べるであろうことも見込まれているのだった。
それでも、既に山積された問題、特にサブプライム・ローンに端を発したクレジット・クライシスは、 政権が変わったくらいで解決されるような問題ではないのは明らなこと。 それだけに、オバマ氏が果たしてヘンリー・ポルソンの後釜となる財務長官に誰を任命するか?には 大きな注目が集まっており、そのオバマ政権の閣僚人選は今週から本格的にスタートする見込みである。





Catch of the Week No. 1 Nov. : 11 月 第 1 週


Catch of the Week No. 4 Oct. : 10 月 第 4 週


Catch of the Week No. 3 Oct. : 10 月 第 3 週


Catch of the Week No. 2 Oct. : 10 月 第 2 週






執筆者プロフィール

秋山曜子。 東京生まれ。 成蹊大学法学部卒業。
丸の内のOL、バイヤー、マーケティング会社勤務を経て、1989年渡米。以来、マンハッタン在住。
FIT在学後、マガジン・エディター、フリーランス・ライター&リサーチャーを務めた後、1996年にパートナーと共に ヴァーチャル・ショッピング・ネットワーク / CUBE New Yorkをスタート。
その後、2000年に独立し、CUBE New York Inc.を設立。以来、同社代表を務める。