Nov. 2 〜 Nov. 8 2009




” Money can buy everything? ”


今週のニューヨークでの最大のニュースは、何と言っても ニューヨーク・ヤンキーズが2000年以来、9年ぶりのワールド・シリーズ・チャンピオンに 輝いたことだったけれど、長く続いているリセッションのせいもあって、あまり明るいニュースが無かったニューヨークにとって、 今回のヤンキーズのチャンピオンシップは 、久々に街中に お祭り騒ぎをもたらしていたのだった。
金曜に行われたパレードには、夜中のうちから人々が陣取り合戦をしていたことが伝えられ、約200万人が沿道でヤンキーズと共に 彼らの勝利を祝ったことが伝えられているけれど、 このパレードで人々がそう喜んでも居られないのは、ここで撒き散らされたコンフェッティ(紙吹雪)の中に、 本来シュレッダーに掛けて破棄されなければならないはずの重要書類が多々混ざっていたということ。
TV局のニュース部門がパレード後に 押収しただけで 個人の医療情報や銀行情報、裁判の記録などがフル・ページで 撒かれていたという恐ろしい状態で、中には多数のソーシャル・セキュリティ番号を記載したファイルも混じっていたことが報じられているのだった。

さて、ニューヨークのヤンキー・ファンにとっては9年もの間、待ちに待ったヤンキーズのワールド・チャンピオン復活であったけれど、 全米の他の都市から見れば 今回のヤンキーズの勝利はお金で買ったチャンピオン・シップ。 なので 「選手のギャラに$ハーフ・ビリオンも投じれば、勝てない方がおかしい」 といった冷やかな意見が多いのも実情であったりする。
ヤンキーズのジェネラル・マネージャーで、過去何年にも渡って高額プレーヤーを移籍させては 失敗していたブライアン・キャッシュマンの手法は、 今年ばかりは上手くいったという 感があるけれど、優勝後の記者会見で彼がメディアから尋ねられたのが、 やはり 「ヤンキーズが財力に物を言わせてチャンピオンシップを勝ち取った と言われることにどう思うか?」という質問。
これに対してキャッシュマン氏は、「誰が何と言おうおと、自分達はワールド・チャンピオンだ 」 と ”勝てば官軍 ” といったコメントをしているけれど、 正直なところ、ヤンキー・ファンの私でも これだけお金が使えたら、フィリーズがワールド・シリーズを連覇していたかもしれないし、 ジョー・トリ監督率いるドジャースにもチャンスがあっただろうと思えるのも事実なのだった。


でも、スポーツの世界の勝ち負けは、八百長でもしない限りは お金では買えないもの。 皮肉なことに それを立証してきたのが過去数年のヤンキーズなのである。
それより 今週のニューヨークで、お金に物を言わせて勝利を買ち取ったと言えたのは、火曜日の選挙で 3期目の再当選を果たしたニューヨークのブルームバーグ市長(写真左)である。
ブルームバーグ氏は、英語で ” セルフメイド ” と言われる 叩き上げのビジネスマンかつ、ビリオネア。 フォーブス誌のランキングによれば、現在、ニューヨークで最もリッチなのが彼である。 なので選挙資金も寄付に頼らず、自分のポケット・マネーから出資しているため、 規正法の限度額を遥かに超える100億円を投じており、 この資金力で 任期の延長と、再選の両方を勝ち取ったのが今回の選挙なのである。
選挙前の予想でも 圧勝が見込まれていたブルームバーグ市長にとって、選挙日当日、思わぬサプライズとなったのが 民主党の対立候補、ビル・トンプソンの誰も予期していなかった大健闘。 前回の選挙で19ポイント差以上を開けて勝利したブルームバーグ市長は、今回の選挙では5ポイントという僅少差の勝利。 しかもトンプソン氏は 民主党候補でありながら ブルームバーグ氏と個人的に親しいオバマ大統領からのサポートは殆どなく、選挙資金にしてもブルームバーグ氏の 10分の1で戦っていたことを思えば、ブルームバーグ側が諸手を挙げて祝う勝利ではなかったのは ありとあらゆるメディアが指摘するところ。
ニューヨーカーがブルームバーグ市長の功績や手腕を評価しながらも、彼に熱烈に投票しなかったと言われる理由は、 ウォールストリート出身の彼の金融業界に対する甘さ、金持ち優遇政策が非難されていたのに加えて、 ビリオネアである財力をフル活用して、お金で勝利を勝ち取ろうとしている姿が 気に入らないニューヨーカーが多かったと分析されていたのだった。

今週火曜日は、お隣のニュージャージー州でも州知事選挙が行われていたけれど、ここでオバマ大統領の熱烈な応援を受けながら共和党対立候補に敗れたのが 現職のジョン・コルザイン州知事。彼の敗因は、今やA.I.Gよりアメリカ国民に嫌われるようになったゴールドマン・サックスとの癒着が指摘されたため と言われており、 彼の応援に大統領が何度も駆けつけた オバマ政権側も これを敗因にしたがっているけれど、 メディアやワシントンでは、「オバマ・パワーが選挙民の心を動かすことが出来なかった」として、ちょうど1年前に華々しく大統領に選出された オバマ氏の人気に陰りが出てきている という見方を示しているのだった。
オバマ人気に陰りが出てきたのは、「チェンジ」を謳って当選したものの、何の変化も成果も成し遂げていないところにあるけれど、 今週土曜日に そのオバマ政権が 初めての成果 に近づいたと言えたのが、健康保険改正案が下院を賛成220票、反対215票という僅か5票差ながらも 通過したこと。これによって、法案は次に上院に持ち込まれ、早ければ年内の施行もありえると言われているのだった。
この健康保険改正案では、これまで保険に加入できなかった殆どのアメリカ人が健康保険に加入することになり、 さらに これまでだったら保険会社に ”持病 ”と判断されて自己負担となっていたケースが、保険でカバーされるようになるという。
既に保険に入っている人々にとっては、前者は保険料の値上がりを意味するので危惧されているものの、 後者は歓迎出来るもの。というのも、多くのアメリカ人は健康保険料を毎月支払っているにも関わらず、 保険会社による判断によって、医療費が支払われないというケースが非常に多く、「保険に入っているのに医療費破産をする」という例は ここ数年増え続ける一方になっていたのだった。

ところで、保険があっても無くても、一般庶民がなかなか受けられないのがH1N1インフルエンザの予防接種。
同インフルエンザで、ハイリスクと見なされているのは妊婦、幼い子供、医療関係者等で、 全米のハイリスクの人々をカバーするのに必要なワクチンの数は1億5900万。ところが、現在までに 生産されたワクチンはその5分の1程度の3230万。
このため、全米各地の病院でH1N1の予防接種を受けるための長蛇の列が出来ていることは、頻繁にニュースで報じられていることだけれど、 長い時間待ってもワクチンが品切れになって、出直しになるのは幼い子供や妊婦にとっては非常に辛い状況。
そんな中、今週報じられたのが ゴールドマン・サックス、シティ・グループ、ニューヨーク証券取引所、 J.P.モーガン・チェイスといった13のウォールストリートの企業が、このなかなか手に入らないワクチンを 優先的にサプライされていたというニュース。
例えばゴールドマン・サックスが受け取ったH1N1ワクチンの数は200で、これはアッパー・イーストサイドのレノックス・ヒル・ホスピタルが 受け取った数と全く同じであるという。 もちろん、このニュースは 「ウォールストリートの金融企業は経営が苦しくなったらベイルアウト・マネー、インフルエンザが流行ればワクチンの優先サプライ?」ということで、 国民とメディアから大変なバッシングを受けることになったけれど、このウォールストリート企業へのワクチン・サプライを行った ニューヨーク・ヘルス・デパートメントでは、これをを受けて 「ウォールストリートの企業にも妊婦や糖尿病を患った高齢者などハイリスクな人々が居る」 と苦しいながらも、説得力に欠く言い訳を展開していたのだった。
このエピソードは、夜のトークショーに格好のネタを提供しており、「ウォールストリートのエグゼクティブがH1N1に感染したら、経営が悪化して またベイルアウト・マネーを税金から支払うことになるから、彼らにワクチンを与えるのは国民のため」 といったジョークが、観客の苦笑を買っていたのだった。
でもその一方で、H1N1ワクチンの安全性に疑問を感じていた人々の不安はこれで払拭されたようで、「アメリカ政府が 最も大切にする金融業界に ワクチンを優先的にサプライするのだから、H1N1ワクチンの安全性は大丈夫!」 と このエピソードを通じて感じた人々も多かったという。

こんな言い分を聞くと、アメリカ国民が政府と金融業界の癒着に対してパラノイア状態になっているように思える人々も居るかもしれないけれど、 実際、表向きには金融業界に厳しい姿勢をとっているオバマ政権の政策が、 国民の側に向いている ということは 決してないのが現状であったりする。
その最たる例が金融機関のクレジットカード規制法案。 金融機関は国民の税金から多額のベイルアウト・マネーを受け取って経営を安定させる一方で、クレジット・カードの利率をどんどんアップさせて 利益を上げて来た訳だけれど、この無法地帯と化していたカードの利率に やっと規制が設けられたのが今年5月のこと。
でも金融機関側がシステムを改正する時間が必要ということで、実施を2010年2月にするという甘い条件をつけたのが仇になり、 その ” システム改正に必要な時間 ” の間に、クレジット・カードの負債を抱えている人々の利率は、何の理由も無しに2〜3回もアップ。 かつて9%だったシティ・バンクのカードの年利は今や30%。かつて6%だったJ.P.モーガン・チェイスの年利は15%以上に跳ね上がっており、 大手銀行のクレジット・カードとは言え、過去数ヶ月の利率のアップは まるでサラ金並みになっているのだった。
しかも新しい規制では、実施前に上がった利率を改正することは出来ない訳で、カード・ローンを抱えて、これまで毎月決められた最低額を 払い続けてきた人々は、返しても、返しても利息が膨らむだけという借金地獄状態に陥っているという。 こうした国民の怒りと、メディアの報道を受けて、このカード規制が来月12月からの実施に繰り上げられることが 先週 議会で決まったけれど、 多くの人々にとって これは英語で ”Too Little、Too Late” と表現される ” 焼け石に水 ” でしかないのは明らかな事実なのである。

さて、ニューヨーカーがヤンキーズの優勝に舞い上がっている間に 発表されたのが アメリカの10月の雇用統計。
これによれば、アメリカの失業率は9月の9.8%から遂に2桁台に突入して、10.2%。この数字は26年来で最悪のもので、 一部には、今回のリセッションによる失業率が、アメリカの労働省が統計を開始して以来の最悪の数字である1982年の10.8%を超えるだろう という予測も出ているという。
ところでこの失業率という数字は、仕事を失って過去4週間以内に仕事を探していた人々の数字。 数週間前に、アメリカでは長く失業するうちに仕事を探すのを諦めてしまう人々が出てきていると このコラムで書いたけれど、 こうした ”既に仕事を探すのを止めてしまった人々” を含めた場合の失業率は、何と17.5%。 それもそのはずで、リセッションに突入した2007年12月から アメリカでは730万の職が失われているのだった。
オバマ政権が景気刺激策として様々な雇用増加を目指したプロジェクトを進めても、一向に改善しないのがこの失業率。 お金さえあれば、高額プレーヤーをそろえたスポーツ・チームが運営出来るし、最高の医療も、なかなか手に入らないワクチンも、市長の座も 手に入れることが出来る世の中であるけれど、お金を投じても仕事を生み出せないというのは不思議にさえ思えてしまうこと。
結局のところ、お金というものは存在しているものを手に入れる道具でしかないもの。 何かを生み出そうという時には、 お金以上のもの、例えばタイミングや運、それに関わる人達の情熱、そして何よりそれが生まれるべく必然性というような プラスアルファの要素が必要のようである。





Catch of the Week No. 1 Nov. : 11月 第 1 週


Catch of the Week No. 4 Oct. : 10月 第 4 週


Catch of the Week No. 3 Oct. : 10月 第 3 週


Catch of the Week No. 2 Oct. : 10月 第 2 週


Catch of the Week No. 1 Oct. : 10月 第 1 週





執筆者プロフィール

秋山曜子。 東京生まれ。 成蹊大学法学部卒業。
丸の内のOL、バイヤー、マーケティング会社勤務を経て、1989年渡米。以来、マンハッタン在住。
FIT在学後、マガジン・エディター、フリーランス・ライター&リサーチャーを務めた後、1996年にパートナーと共に ヴァーチャル・ショッピング・ネットワーク / CUBE New Yorkをスタート。
その後、2000年に独立し、CUBE New York Inc.を設立。以来、同社代表を務める。





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