Nov. 8 〜 Nov. 14 2010




” The Six Items Or Less ”


さほど大きなニュースが無かった今週のアメリカで、最も大きく報じられていたは オバマ大統領の日本を含むアジア諸国歴訪のニュース。
先週の選挙で、歴史的な敗北を喫して 下院での過半数を共和党に奪われたオバマ大統領としては、外交面で手柄を挙げて 帰国したかったところであるけれど、韓国との自由貿易協定が物別れに終わるなど、 成果に乏しいと指摘される結果に終わっていたのだった。
また大統領のアジア歴訪を報じたアメリカ国内メディアの一部は、かつて「スーパーパワー」と呼ばれたアメリカ、 及びアメリカ大統領の国際影響力の低下が窺えることも報じており、 今回のアジア歴訪を「サクセス」と位置づけるホワイトハウス側とは異なる見解を見せていたのだった。

話は変わって、アメリカ国内で既にスタートしているのがホリデイ・セール。
例年ホリデイ・セールは、サンクス・ギヴィング・デイ(11月4週目の木曜)の翌日の金曜からスタートするのが通例で、 小売店がこぞってディスカウントをスタートし、来店客が早朝から殺到するこの日は 「ブラック・フライデー」として 知られてきたもの。 このブラック・フライデーとその後の土日の売り上げは その年のホリデイ商戦を占う指標ともされてきたけれど、 インターネット・ショッピングが盛んになってからは、ブラック・フライデーの週明けの月曜が 「サイバー・マンデー」と して重視されるようになってきているのだった。
実際、年間で最もインターネット・ショッピングの売り上げが高いと言われるのがサイバー・マンデーで、これは ブラック・フライデーとその後の週末で ストアで買えなかったもの、買いそびれたものを 週明けの月曜にネット上でショッピングする人々が多いため。
でも今年に関しては、ブラック・フライデーの2週間も前から、デパート、小売店での30%、40%オフのセールがスタートしており、 その時期の早さは 小売アナリストを驚かせているのだった。

こんなに早くホリデイ・セールがスタートしている理由は、リセッションですっかり家計にダメージを受けている ミドル・クラスのホリデイ・ショッピング・ニーズを 早めに獲得するため。
アメリカ富裕層 トップ1%のマルチ・ビリオネア達がどんなにお金を使ったところで、 経済の鍵を握っているのは やはりミドル・クラス。 そのミドル・クラスは、一定予算のみをホリデイ・ショッピングに当てるので、先にその予算を 獲得するのが 小売店にとっては売り上げアップの秘訣となるのである。
今年のアメリカのホリデイ商戦は、売り上げ不振だった昨年より 僅かにアップが見込まれているけれど、 この時期に30%オフのセールがスタートするということは、これから年末に向かってさらにディスカウント率が高くなるということ。 従って、買い物客の側にしてみれば 商品のラインナップが豊富で、サイズが揃っている今、30%で手を打つか?、 それとも 12月半ばまで待って 限られた商品の中から 50%オフで商品を購入するか?の選択を迫られているのが 今年のホリデイ・ショッピング。
小売の専門家は、12月に入れば 確実にあと20〜30%はさらなるディスカウントが得られると語っているけれど、 その一方で、売り上げ不振を受けて店側も仕入れを減らしているだけに、 ディスカウント率が高くなった時に、欲しい商品が必ずしもあるとは限らないのが実情。
また 人気の高い商品については、ディスカウント無しでどんどん売り切れているだけに、 いくらリセッションから回復していないアメリカとは言え、やはり全てがディスカウントで手に入る訳ではない というのが リアリティなのである。


こうしたホリデイ商戦を盛り上げようという小売店側の意図とは裏腹に、アメリカの各地でグラス・ルーツ・ムーブメント的に 盛り上がりつつあるのが、消費を減らそうという ”ショッピング・ダイエット”。
この火付け役となったのが、「The Six Items Or Less / ザ・シックス・アイテムス・オア・レス」というムーブメントで、 これはたった6枚の服だけで1ヶ月を過ごすことによって、いかにクローゼットに必要の無い服が沢山あるか、 そしていかに不必要なものを深く考えずに買っているかを自覚しようというもの。 でも、6アイテムに限っているのは服のみで、スカーフ、ベルト、サングラス、帽子、バッグなどのアクセサリー類やシューズ、ストッキングは 含まれて居ないので、着まわしの組み合わせテクニックだけでなく、アクセサリーのコーディネート力で かなりの変化が付けられる ようになっているのだった。

今年6月に行なわれた「ザ・シックス・アイテムス・オア・レス」のチャレンジには、 アメリカ国内だけでなく、ドバイなどからもインターネットを通じて 参加者が加わり、世界中の200人以上が たった6枚の服で1ヶ月を過ごす試みを行なったという。 同ムーブメントのディレクター、ハイディ・ハックナー女史 (写真右) によれば チャレンジに参加するのは、限られたワードローブで自分のファッションのクリエイティヴィティを試したいという人々から、 自分自身に課題を与えるのが好きな人々など、様々であったけれど、もちろん途中で諦めてしまう人々、止めてしまう人々も居たという。
チャレンジを行なった人々の周囲のリアクションと言えば、その殆どが 彼らが6枚の服を着まわしていることに 気付いていなかったとのことで、必死に買い物をして、毎日違うものを着たところで、周囲はさほど気に留めていないという 事実を露呈しているのだった。
でもチャレンジを行なった本人のリアクションは 「ショッピングに当てる時間、何を着るか考えている時間を ボランティアやエクササイズなどに当てるようになった」、「ショッピングに掛けていたお金を、もっと有益なものに使うようになった」、 「チャレンジを通じて、どんな服を買えば 着まわしが利いて、無駄にならないかが分かった」など、総じて 非常にポジティヴなもの。 参加者が前向きなライフスタイルになったのは 主催者側にとっても思わぬ副産物であったという。

この6月に行なわれたチャレンジがメディアで紹介されて以来、「ザ・シックス・アイテムス・オア・レス」のムーブメントは、 「ショッピング・ダイエット」、「ショッピング・セラピー」として、ミドル・クラスを中心とした アメリカ各地のコミュニティに広がり、ワードローブを減らして、 着なくなった服を寄付する運動 にも発展してきているのだった。
そもそも、平均的なアメリカ人女性は、7本ジーンズを持っているけれど、実際に着用するのはそのうちの3〜4本。 その割合と同様に、平均的な女性はクローゼットの半分、もしくはそれ以下の服を着用して生活しているという。 なので、着る服を6枚に限るのは極端なチャレンジであるけれど 多くの女性にとって 手持ちの服の半分は不必要といっても差し支えない状況なのだった。

「ザ・シックス・アイテムス・オア・レス」のムーブメントに昨今 拍車がかかった理由としては、 好況時代にクレジット・カードの負債を増やしながら 必要が無い服を買い続けてきたミドル・クラスの人々が、 その消費の無駄に気付き始めたこと。 リセッション以来、ミドル・クラスには 無駄なショッピングをする経済力が 無くなりつつあること。消費をしないことを美徳とする同ムーブメントの存在によって、 服や物を買わないこと、同じ服ばかり着ていることに 引け目を感じる必要が無いこと。 さらに 無駄な服を買わず、着なくなった服を寄付することによって、チャリティや環境問題に貢献することが出来ること 等が 挙げられており、現在のミドル・クラスのマインド・セッテイングと経済状況の双方にマッチしたムーブメントであることが 指摘されているのだった

でもその一方で、同ムーブメントは 「経済を盛り立てなければならない状況下の消費に水を差すもの」 との批判を浴びているのも事実。 また同ムーブメントをニュース番組で紹介したNBCのウェブサイトには、 「個人のクローゼットの無駄よりも、政府の公共事業の無駄を減らすのが先」、 「もし金融機関も その貪欲な姿勢を改めるならば、自分もショッピングを控える」など、 世相を反映したバックラッシュも人々から寄せられているのだった。

とは言っても、この「ザ・シックス・アイテムス・オア・レス」のムーブメントは、決して 6枚の服の着まわしで 生きて行くようにと 奨励している訳ではなく、ワードローブの中で有益な役割を果たす服を見極めて、不必要な服を買わない、もしくは減らす ように呼びかけるもの。 その結果、ショッピングや着る物を選ぶのに費やしていた時間やお金を別のことに有効に使おうというものであるから、 服の消費には影響するかもしれないけれど、消費全体にはさほど悪影響を及ぼすとは考えられないのだった。
それよりも、私が「ザ・シックス・アイテムス・オア・レス」のムーブメントで危惧するのは、やはり 同じものばかり着て生活していると どうしても飽きが来て、外観に手抜きになっていくので、だんだんとヘアやメークなど、自分自身に構わなくなるケースが出てくること。 そして世の中が黒、ベージュ、グレーのベーシックな服ばかり着るようになってしまうことである。
実際、同ムーブメントのディレクター、ハイディ・ハックナー女史がピックした6ピースは 5枚がブラックで、1枚がグレー。 こうしたカラー・パレットでないと、6枚の服で1ヶ月を回して行くことは極めて難しいのである。

かく言う私も、ニューヨークに住んで長いだけあって、クローゼットを開けるとブラックのアイテムばかりがズラリと下がっていて、 ブラック・ドレスだけでも20枚以上持っているけれど、確かにファッションに関心が無い人が見れば、私がそのうちの何を着ようと、 いつも同じような格好ばかりしているように見えるかも知れないのだった。
でも、着ている側はそのスカート丈や袖丈、素材、デザインの違いを認識しており、 その変化を楽しむメンタリティがあるからこそ、私のクローゼットにはレッド、パープル、フューシャといったカラーの服も下がっているのである。
でも もし 1枚のブラック・ドレスをユニフォームのように 何も考えずに無機質に着ているだけになってしまったら、ファッションそのものに興味がどんどん薄れていって、 ユニフォームとして 何も考えずに 何時でも着用出来るものばかりを 必要な時に買うだけの人間になりかねない訳で、 それではあまりに人生に潤いが感じられないと思うのだった。
こうした無機質な消費は、やがては食生活や居住空間にも影響を及ぼしていくことになるから、 これを続けることにより 上昇志向まで殺がれて行くことも危惧されるのだった。
しかしその反面、これまでのアメリカ社会はクレジット・カードで要らないものを買い過ぎていたのも また事実。 これは着る物に限ったことではなく、アメリカ全体が理性の無い消費を食生活でも住宅購入でも行なった結果、 肥満社会と住宅ローン地獄を招いた訳である。

なので、「ザ・シックス・アイテムス・オア・レス」のムーブメントで アメリカ社会が理性的な消費と、持っているものを有益に使う、 不必要なものは恵まれない人々に寄付する習慣をつけるのは 私も大いに賛成するところ。
でも、同じものばかりを着て生活することを美徳と考えるのは大間違い。
私の尊敬するベンジャミン・フランクリンも 「When you're finished changing, you're finished.」 (変化を止めた時は、人生も止めた時) と語っている通り、人間が向上していくためには変化は不可欠。 変化は脳に刺激を与えるだけでなく、生活にチャレンジや新鮮味をもたらす要素であり、 それはファッションにも食生活にも、キャリア・ライフにも必要なものなのである。


Catch of the Week No. 1 Nov. : 11月 第 1 週


Catch of the Week No. 5 Oct. : 10月 第 5 週


Catch of the Week No. 4 Oct. : 10月 第 4 週


Catch of the Week No. 3 Oct. : 10月 第 3 週





執筆者プロフィール

秋山曜子。 東京生まれ。 成蹊大学法学部卒業。
丸の内のOL、バイヤー、マーケティング会社勤務を経て、1989年渡米。以来、マンハッタン在住。
FIT在学後、マガジン・エディター、フリーランス・ライター&リサーチャーを務めた後、1996年にパートナーと共に ヴァーチャル・ショッピング・ネットワーク / CUBE New Yorkをスタート。
その後、2000年に独立し、CUBE New York Inc.を設立。以来、同社代表を務める。





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