Nov. 7 〜 Nov. 13 2011

” I Wish I had Done More ”


今週のアメリカで最大の報道になっていたと同時に、この先も暫く物議を醸すと思われるのが、ペンシルヴァニア・ステート・ユニヴァーシティ(通称ペン・ステート)の フットボール・チームの元アシスタント・コーチが、過去に8人もの少年達を大学のフットボール施設内でレイプしていた容疑で逮捕されたニュース。
加えて大学関係者2人が、この事件を知りながら その隠蔽(いんぺい)を図った疑いで逮捕。 事件が大きく報じられたことを受けて、同大学で過去46年に渡ってフットボール・チームのコーチを務めてきた ジョー・パターノ(84歳)が 今年のフットボール・シーズンをあと3試合残したまま、同校のスクール・プレジデントと共に解任される運びとなったのだった。
コーチ、パターノの解任はカレッジ・フットボールやスポーツ界のみならず、 全米にインパクトを与えた報道で、ペン・ステートの学生達は そのショックとフラストレーションのあまり、彼の解任が発表された水曜夜のプレス・カンファレンス直後から、 街に繰り出し、暴動を起こしたことが伝えられているのだった。

この事件を理解するためには、ペン・ステートとそのカレッジ・コミュニティにおける カレッジ・フットボールの存在の大きさを認識する必要があるけれど、 フットボールの名門で知られるペン・ステートとそのコミュニティにおいて、フットボールというのは大切なビジネスであると同時に、スペインやイギリスにおけるサッカーよりも 生活やカルチャーに密着したレジャー。
フットボール関係者以外の一般の人々の生活でさえ、シーズン中は 週末のカレッジ・フットボールの試合を中心に 全てのスケジュールや食事のメニューまでもが 組まれていくような状態。 そんなペン・ステートのフットボール・チームを46年間に渡って率いてきたジョー・パターノは、JoePa/ジョー・パの略称で知られるカレッジ・フットボール界で最もパワフルなコーチであり、 ペン・ステートにおいては、学長よりも権力があると言われ、言わば地元の教祖のような存在なのだった。
彼がそう扱われるには それだけの功績があるのはもちろんのことで、ジョー・パターノは メジャー・カレッジ・フットボールのコーチとして最多である409勝を収めており、 シーズン戦全勝を5回達成、ナショナル・チャンピオンシップには2回輝いており、もし今週の解任がなければ、 週末の試合で コーチとしての生涯試合数を549とし、カレッジ・フットボール史上最多記録を打ち立てることになっていたのだった。(今週解任されたので、ジョー・パターノの生涯試合数は、 アロンゾ・スタッグとのタイ記録である 548に終わっています。)


ペン・ステートに限らず、カレッジ・フットボールにドップリ浸かっている大学やそのコミュニティにおいては、フットボール・チームの関係者が何をしても大きく取り沙汰されることなく、 穏便に片付けられてしまうのはありがちなこと。 
でも、今回の少年達に対する元アシスタント・コーチの性的暴行は、隠蔽を図るにはあまりに悪質かつ、深刻な事件と言えるのだった。
今週逮捕されたペン・ステートの元ディフェンシブ・コーディネーター、ジェリー・サンダスキー(67歳、写真右)は、経済的に恵まれない少年達を対象とした チャリティ・フットボール・プログラムで10年以上に渡って コンサルタントを務めながら、その間に、 現時点で分かっているだけで 8人の少年に対して 性的暴行を行なってきいたというもの。
その手口は、ターゲットを見つけては、フットボールの試合に招待したり、ギフトを与えるなどして、彼が何をしても 少年が「No」と言えない関係になってから レイプに及ぶというもので、時にサンダスキーは被害者の少年をフットボールのプログラムを名目に学校のクラス・ルームから授業中に呼び出してまで、 性的虐待を行なっていたことも報じられているのだった。もちろん、被害者の母親はレイプはどころか、少年が授業中にサンダスキーに 連れ出されたことさえ知らない状態で、何も報告しなかった学校側のことも責めているのだった。

サンダスキーはチャリティ・オーガニゼーションから、 10年間にコンサルタント料として 事件当時の為替レートで 5000万円以上を支払われており、 それだけの大金を受け取りつつ、自分の性欲を満たす対象を見つけては、そのポジションを利用してレイプに及んでいたという、まさにやりたい放題の悪質ぶり。
サンダスキーは、今回の逮捕で21の重犯罪を含む40の罪に問われているけれど、彼が少年に対する性的虐待の捜査対象となったのはこれが2回目。 前回は1998年で、当時 サンダスキーは少年とシャワーを浴びたことは認めながらも、性関係に及んだことは否定し、 不起訴処分となっているのだった。
サンダスキーの行為が 今週のコーチ、ジョー・パターノの解任を招いたのは、 2002年に、現在ペン・ステートのアシスタント・コーチを務めるマイク・マクェアリーがフットボール施設内のシャワーで、 サンダスキーが10歳の少年をレイプしている様子を目撃し、それをジョー・パターノにレポートしていたため。
パターノは、それを大学の上層部にレポートしたものの、上層部もパターノも それを警察に通報することはなく、 また目撃者であるマクェアリーも、父親に相談しただけで、警察には通報しなかったという。 大学の上層部が行なったことと言えば、サンダスキーに対し、「少年を大学施設に連れ込まないように」と警告したのみ。
また大学上層部は、チャリティに対しても この事件をレポートしているけれど、当時 チャリティ団体の弁護士を務めていたのは、以前のペン・ステートの弁護士。 なので、その弁護士は 過去にサンダスキーが少年虐待の捜査を受けたと知りつつも、やはり穏便にプロセスを行なっているのだった。

アメリカ社会では、子供に対する性的、暴力的虐待は最も憎まれる犯罪。
なので、学校や医療関係者は 子供が何らかの虐待行為にあっていると疑われる場合、それをレポートすることが義務付けられており、 逆にレポートを怠れば、罪に問われるのが 全米50州で共通した法律。 そもそも、アメリカ は犯罪現場に居合わせた人間がその場を立ち去って、事件をレポートしなかった場合でも、 それが”Leaving the Scene of a Crime” という犯罪行為と見なされる国。 なので、犯罪行為を知りながら それを野放しにして、新たな犠牲者を防ぐ努力を怠ることは、社会的に大きな批判を浴びてしかるべき行為なのだった。
このためアメリカの世論は、「コーチ、パターノの解任は当然」という意見で、その解任を不服として暴動を起こしたペン・ステートの学生達や隠蔽工作をした学校関係者に対して、 「フットボールと、青少年の安全のどちらが大切なのか?」という疑問が投げかけられていたのだった。

でも、先述のようにアメリカの地方の大学とそのコミュニティにおいては、フットボール関係者、特にスター・プレーヤーは 成績が悪かろうと、酔っ払って暴れようと、事件や問題が 上手く揉み消されてしまうのは今に始まったことではないもの。
その最も悪質は例は 女子学生に対するレイプで、被害者が勇気を振り絞って訴追しようとしても、大学とコミュニティが レイピストであるスター・プレーヤーを守ることに躍起になる例は多く、2006年のドミニカン・カレッジと、2010年のノートルダム大学では、それぞれ 性的暴行の被害を訴えた女子学生が、学校と周囲の対応の酷さに耐えかねて自殺しているのだった。
またイースタン・ミシガン大学では2006年に学生寮で死体で発見された女子学生について、両親に「自然死」と説明。 犯人であるスター・アスリートをプロテクトしていたという とんでもない非常識ぶりで、この事件では民事裁判で大学側が被害者の両親に当時の通貨換算で、 2億5000万円以上に当たる賠償金を支払っているのだった。

同じレイプでも女子学生が被害者であるケースよりも、立件がし易いと言われるのが被害者が未成年、特に子供である場合。
レイプの犠牲者が女子学生である場合、カレッジ・フットボール、カレッジ・バスケットボールなどの世界では、アマチュアとは言え、 スター・プレーヤーにナイキなどの大企業のスポンサーシップが付いていることは珍しくなく、 既にセレブリティ並みの扱いを受けていることから、「合意の上でのセックスをレイプと偽って賠償金を得ようとしている」などと、 逆に自分が咎められるような立場に追い込まれることが多いのだった。
しかし被害者が子供の場合、「合意のセックス」は法的に成立しないので、一度事件が明るみに出た場合、 被害者に責任を擦り付けることは 不可能と言えるのだった。

ぺン・ステートでは、被害者の子供達をサポートする動きと同時に、フットボール・チーム及び、コーチ、パターノを支持し続けるという 矛盾したアクションが起こっており、フットボールに洗脳されたコミュニティにおける 「社会的モラルは二の次」的姿勢がそう簡単に改まることが無い印象を 与えているけれど、事件が深刻なものだけに、「これを機会に 従来までののフットボール関係者に与えられてきたイミュニティ(免責)を改めるべき」 という声は 各方面から聞かれているのだった。
先に コーチ、パターノが地元では”教祖的”な存在と書いたけれど、青少年虐待を長きに渡って覆い隠してきたこと大問題になって久しいのがカソリック教会。 大学のフットボール・チーム同様に地方のコミュニティにおいてパワーを持ち、外界から閉ざされた世界なのがカソリック教会であるけれど、 今週は、青少年の性的虐待事件の隠蔽 いう見地から この2つの無法ぶりの共通点を指摘する意見がメディアから聞かれていたのだった。

さて今週のアメリカで、メディアが大騒ぎしたもう1つのセックス・スキャンダルが、来年の大統領選挙の共和党候補として有力視されているハーマン・ケイン(写真左)が、90年代後半に 女性にセクハラ行為を行なったというもの。現時点で被害を訴えている女性は4人で、そのうちの2人はメディアに登場して、実名を明かしており、 今週ケイン候補は、そのセクハラ行為を否定するプレス・カンファレンスを行い、多くのメディアがその様子をライブ中継していたのだった。
なので、水曜に行なわれた共和党候補のディベートでも、当然ながらケイン候補のセクハラについての質問が出てきたけれど、 このディベートで、「大統領予備選史上 最悪の失敗を犯した」と言われたのが、テキサスの州知事、リック・ペリー。(写真右)
彼は、「自分が大統領になったら真っ先に3つの省庁を削除する。1つは商務省、2つ目は教育省」と言ったところで、 言葉に詰まって、3つ目を思い出すことが出来ず、会場からの苦笑を誘い、最後には「思い出せない! Oops! (”シマッタ!” 的な意味)」と言う始末。
ちなみにペリー州知事が思い出せなかったのは、Department of Energy, すなわちエネルギー省だったけれど、 それが思い出せずにパニックになっていた55秒間は、メディアから「痛々しい」とまで言われ、今週何度もこのクリップがありとあらゆるメディアで報じられたのは 言うまでもないこと。ただでさえ落ち気味だったペリー候補の支持率が、さらに落ちる結果を招いてしまったのだった。


ペン・ステートのスキャンダルとリック・ペリーの失態は、「言うべきことを言わなかったこと、言えなかったこと」が招いた結末と言えるけれど、 今週のアメリカでは、”言うべきでないこと”を言ったり、ツイートしたり、というトラブルも大きなニュースになっていたのだった。
その1つは、映画監督で今年のオスカーのプロデューサーを務めることになっていたブレット・ラトナーが、 彼の最新作のプロモーションのために行なわれたディスカッションで、ジョークを言ったつもりが、そこにゲイ差別用語が含まれていたために、 ハリウッド関係者の猛反発を買う結果となり、オスカーのプロデューサーを辞任。 それを受けて、ラトナーがキャストした今年のオスカー・ホスト、エディー・マーフィーもホストを辞任し、 アカデミー賞授賞式を3ヶ月後に控えた時点で、プロデューサーとホストが不在という異例の事態を招いたのだった。
結局のところ、今週中に新たなプロデューサーがブライアン・グレイザー(写真左、右側)に決まり、ホストは今回で9回目のオスカー・ホストとなる大ベテラン、 ビリー・クリスタル(写真左、左側)が務めることになったのだった。

さらに、今週はタイム・マガジン主催のパネル・ディスカッションの席で、セレブリティ・シェフ、マリオ・バターリが ウォール・ストリートのバンカーを「ヒットラーやスターリンのようだ」とコメントしたことが明らかになり、 彼の経営する高額レストラン、デル・ポストやバッボでは 軒並みウォール・ストリートのバンカーが予約をキャンセル。 さらにウォール・ストリートの金融会社の中には、マリオ・バターリが経営するレストランのレシートはエクスペンスとして認めないという社内メモが 出回ったところもあると言われており、これもちょっとした物議をかもしていたのだった。

一方、今週、言うべきでないことをツイートして 大顰蹙を買ったのが、俳優のアシュトン・クッチャー。
ペン・ステートのジョー・パターノが解任されたニュースを知った彼は、その理由が コーチ、パターノのシーズン成績が悪いためと勘違いし、ツイートしたのが以下のセンテンス。
"How do you fire Jo Pa? #insult #noclass as a hawkeye fan I find it in poor taste." (どうしたらジョー・パが解任できるんだ? これは屈辱であり、不当だ。熱心にフォローしてきたファンの1人として、これは酷いと思う)
でも、ジョー・パターノ率いるペン・ステートは、今シーズン8勝1敗。もし彼が本当にカレッジ・フットボールをフォローしているならば、 ジョー・パが成績が原因で解雇された訳ではないことは容易に想像が付くもの。
そこまで考えが及ばなかったとしても、ペンステートのスキャンダルは先週の時点から既に全米の大ニュースになっていたこと。 学校関係者による ジョー・パターノ解任の記者会見は、夜のニュースでライブ中継されたほど、アメリカ中から注目を浴びていてたニュースであり、 よほど世の中から隔離されていない限りは、知らないということはありえないほどのニュース。 なので、このツイートを報じたメディアは「アシュトン・クッチャーは、恐らくアメリカで ペン・ステートのセックス・スキャンダルについて知らない唯一の人間であろう」 と皮肉っていたのだった。

案の定、アシュトン・クッチャーのツイッター・アカウントは、怒りのリアクションで大炎上してしまい、 「お前は大馬鹿だ!」といった批難が殺到。 このリアクションを見て、慌てて事態を確認したアシュトンは 解雇の背景を知らずにツイートしたことを認め、 解雇を批判するツイートを削除したけれど、時は既に遅しという状態なのだった。
ツイッターは、その注目を集めるために 一部のセレブリティには ギャラを払ってツイートをしてもらっているけれど、 アシュトン・クッチャーは、現在彼との離婚が噂されている妻のデミー・ムーアと共に、そのギャラを受け取りながら 真っ先にツイートを始めたセレブリティ。 自らのニュースや主張を、ニュース・メディアを通さずにファンに伝える手段として、セレブリティの間に ツイッターを普及させた存在であり、820万人のフォロワーを擁する ツイッターのパイオニアと言える存在。
それほどまでにフォロワーが多いにも関わらず、彼が簡単に不用意なツイートをしてしまうことに 驚いた人も多かったのだった。

今回のツイートが特にアシュトンにとって痛手だったのは、彼がデミー・ムーアと共に、 子供達のセックス・トラフィッキング、すなわちセックス産業に子供達を不法就労させるための人身売買の撲滅活動に力を入れてきたため。 そんな慈善活動に加担しているにも関わらず、「フットボールの方が少年への性的暴行事件より大切」とも 受け取れる 彼のツイートは大バッシングを受けたのに加えて、背景を知らずにツイートをしたことをメディアからジョークのネタにされたアシュトン・クッチャーは、 必死のダメージ・コントロールを試みており、そのブログで 「ツイッターは、かつては小さなコミュニティのソーシャル・メディアというイメージだったけれど、 今では、全てのメディアとソーシャル・メディアが繋がっていて、ツイートのインパクトが大きくなり過ぎてしまった」として、 自らのツイッターのチームを雇うまで、ツイートをしないことを明らかにしているのだった。

「I Wish I had Done More」というのは、ペン・ステートからの解雇を受けてジョー・パターノが語った言葉だけれど、 この言葉はディベートで失態を見せたリック・ペリーにも、失言でオスカー・プロデューサーを辞任したブレット・ラトナーにも、アシュトン・クッチャーにも当てはまること。
こうした後悔をしないためにも、言うべきことは言わなければならないし、メディアを通じて発言する際、ツイートする際は それなりの準備が必要だというのが 今週の教訓。
特にツイッターについては、あまり深く考えずに、何かとツイートするのが習慣になっている一般人も多いけれど、 たった1回のツイートで 一般人でさえクビになったり、大顰蹙を買うケースがアメリカでは起こっているので、 不意なツイートで あっという間にアシュトン・クッチャーを笑っていられない状況になってしまうと思うのだった。





執筆者プロフィール
秋山曜子。 東京生まれ。 成蹊大学法学部卒業。 丸の内のOL、バイヤー、マーケティング会社勤務を経て、渡米。以来、マンハッタン在住。 FIT在学後、マガジン・エディター、フリーランス・ライター&リサーチャーを務めた後、1996年にパートナーと共に ヴァーチャル・ショッピング・ネットワーク / CUBE New Yorkをスタート。 その後、2000年に独立し、CUBE New York Inc.を設立。以来、同社代表を務める。


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