Nov. 5 〜 Nov. 11, 2012

” Election Aftermath ”

今週のアメリカでは、当然のことながら 報道の大半が オバマ大統領再選を決めた大統領選挙と その結果分析に費やされていたのだった。
中でも 民主党寄りのリベラル派メディアが選挙当日に、高笑いをしながら眺めていたのが、共和党キリスト教右派メディアの旗印、 フォックス・ニュースにおける選挙報道の混乱ぶり。
選挙の行方を握っていたオハイオ州で、オバマ大統領の勝利確定が見込まれ、各メディアが大統領再選を 報じ始めたにも関わらず、フォックス・ニュースでは、 ゲスト・コメンテーターとして出演していた共和党選挙支援グループを運営する カール・ローブが、「結果を決めつけるのは時期尚早。未だミット・ロムニーはオハイオで勝てる」と譲らない主張を展開。 このため、フォックス・ニュースのデータ分析チームが、戦況を説明する予定外のインタビューを受けるあり様。
「開票途中であっても、オバマ大統領が99.5%の確率で勝利する」という分析チームのコメントを聞いても、 「根拠の無い予測」と敗北を認めないカール・ローブに対して、キャスターが「サイエンスっていう根拠があるんですが・・・」と やり返す様子は、”共和党メディアの歴史的なメルトダウン(溶解)”として、ポリティカル・トークショー等で、何度もそのビデオが放映されていたのだった。

このカール・ローブは、2004年に当時のジョージ・W・ブッシュ大統領を再選に導いた人物。 今回の選挙では、クロスローズという共和党の選挙サポートNPOを結成し、共和党が勝利した場合に多大な恩恵を受けることになっている ミリオネア&ビリオネアから3億ドル(約240億円)の寄付を集めて、大統領選挙だけでなく、 同時に行なわれていた上院選で共和党候補の 支援キャンペーンを行なっていたのだった。
しかしながら、ミット・ロムニーが破れただけでなく、クロスローズがサポートした共和党候補が全員落選という 惨憺たる結果となり、共和党内や、寄付をした富豪からは、カール・ローブの責任を問う声も聞かれていたほど。
とは言っても、「接戦ながらもオバマ優勢」が 世論調査結果から伝えられていたにも関わらず、 選挙当日まで、 ロムニー勝利を信じて疑わなかったのはカール・ローブだけでなく、 ミット・ロムニーに多額の寄付をしたビジネス・オーナーや、共和党寄りのメディア関係者も全て 同様であったことが報じられているのだった。
事実、ロムニーに寄付をしたビジネス・オーナー達は、当選後、彼を祝福するために、ロムニーの地元であるボストンに出向いており、 ロムニー陣営も当選後に ボストン・ハーバーで8分間に渡る花火の打ち上げを業者にオーダー。 ロムニー本人にしても「当選のスピーチしか用意していない」と、選挙当日に自信満々に語っていたのだった。
それほどまでに、確信していた”ロムニー当選” が実現しなかったせいか、 一部の支持者やメディアは、落選したミット・ロムニー本人よりも引け際が悪く、 「この選挙は詐欺だ!」というツイートを行ない、 人々に革命を呼びかけた ドナルド・トランプは、 翌朝の笑い者の1人。



また一般の支持者にしても、カリフォルニア州の22歳の女性が、 フェイスブックに 写真上のような、黒人層に対する放送禁止差別用語(黒く塗りつぶした部分、俗に”Nワード”と呼ばれる差別用語)を交えながら、 大統領が 「今回の任期で暗殺されるかもね」 とポスト。 これに対して非難が殺到したため、この女性はポストを消去したものの、TV局のインタビューを受けて、 「自分で大統領を暗殺しようとは思わないけれど、暗殺されても別に構わない」と語るふてぶてしさで、 FBIが捜査に乗り出したことが伝えられているのだった。 ちなみに、アメリカの法律では大統領の命を脅かすようなコメントをするのは重犯罪。
その後、この女性が日本にも進出しているアイスクリーム・チェーン、コールド・ストーン・クリーマリーの店員であったことが明らかになり、 今度はコールド・ストーン側にも非難が集中。これを受けてコールド・ストーンは、 「このような人種差別的、かつ暴力的な発言は社のポリシーに反する」として女性を解雇。 同社のフェイスブック・ページで その解雇を発表して、イメージダウンを防ぐ努力に追われていたのだった。

一方、社員全員にミット・ロムニーの選挙イベントへの参加を義務付けたことで知られる 石炭産業、マレー・エナジーのCEO、 ロバート・マレーは、選挙直前に「オバマ政権下では経営が苦しくなる。解雇されたくなかったら、ミット・ロムニーに投票するように」と 社員に通達。メディアで物議を醸していた存在であるけれど、選挙翌日には 早速 人員削減計画を発表。オバマ再選の腹いせを社員に向けて行なう大人気なさを見せていたのだった。


では、どうして共和党側がこれほどまでに選挙動向が読めていなかったかと言えば、まず共和党側は前回オバマ大統領が勝利した2008年の選挙は、 通常投票所には積極的に出向かない学生や、マイノリティがこぞって投票した歴史上の例外的選挙と見ており、 大学を出ても仕事がない若い世代や、リセッション後に貧しい生活を強いられているマイノリティが、 今回オバマ氏に投票することはないと見込んで、 2004年の選挙データをモデルにして選挙活動、及び戦況予測を行なっていたことが伝えられているのだった。
とは言っても2004年と現在では、アメリカの人種別人口比率が大きく変わっており、それに着眼せずに 選挙活動を行なった結果、白人層の59%がロムニーに投票したのに対し、マイノリティは、黒人層が93%、ヒスパニックが71%、アジア系が73%という 圧倒的なマジョリティで オバマ大統領に投票していたのだった。


さらに共和党側が戦況を読み損なった理由として指摘されているのが、世論調査の結果を 「紙の上の数字に過ぎない」、「あてにならないデータ」として捉えていたこと。 その替わりに共和党側が信じていたのが、遊説先でミット・ロムニーを迎えた人々の熱狂振りで、 「支持者から直接受けた手ごたえが、投票に反映されるはず」という 妄想に近い希望的観測を抱いていたのだった。

また、アメリカでは女性有権者数が全体の53%と男性を上回っているにも関わらず、 女性有権者を軽視していたことは、ミット・ロムニーだけでなく、共和党全体の問題点。
ロムニーについては、男女給与格差撤廃についての明言を避け、妊娠中絶についての意見をくるくる変えただけでなく、 ディベートでは女性について時代遅れなほど程保守的な考えを持っていることを露呈していたのだった。 その結果、男性の52%がミット・ロムニーに投票した一方で、女性は55%がオバマ大統領に投票。
加えて、ミット・ロムニーの個人資産2億5,000万ドル(約200億円) というメガ・サクセスぶりにしても、白人の高額所得者層にはアピールしたものの、 ミドル・クラス以下の人々にとっては、「庶民の生活を省みない、冷血ビジネスマン」の印象を与えており、 年収5万ドル以下の人々は、60%近くがオバマ大統領に投票。
それ以外にも、オバマ大統領は 年齢が45歳未満の有権者、 ゲイ・ピープル、ユダヤ教徒の間で圧倒的な強さを見せていたのだった。


さて、今回の大統領選挙と、前回2008年の大統領選挙の最大の違いと言えるのは、2008年の時点ではオバマ大統領が掲げていた選挙スローガン「HOPE / 希望」を 有権者が期待し、同じく大統領のスローガンであった「CHANGE / 変化」を人々が望んでいたこと。 これに対して、今回の選挙では アメリカが経済、財政問題を含む 深刻な問題に直面しているだけに、 大統領が再選されても、ミット・ロムニーが当選しても、経済や失業問題、庶民の生活が直ぐに改善されるはずがないことを アメリカ国民が十分承知の上で、投票を行なっていたということ。

そんな状況で再選されたオバマ大統領が、早速取り組まなければならないのが、年末に控えている”フィスカル・クリフ”。
”Fiscal Cliff / フィスカル・クリフ”とは、直訳すれば「財政の崖っぷち」であるけれど、 具体的には、2012年12月31日に 給与の2%の一時減税が終了し、ブッシュ政権下で成立した富裕層に対する 減税、いわゆる”ブッシュ・タックス・カット”が終わりを迎える一方で、2013年1月1日から、 法人に対してオルタナティブ・ミニマム・タックスが導入され、防衛費や高齢者健康保険を含む政府の1000のプログラムの 予算が大々的かつ 自動的にカットされるという状況。
ちなみに、オルタナティブ・ミニマム・タックスとは、簡単に言えば これまでの税金控除になってきたものを 課税対象に含んで 税額を算出するシステムで、要するに増税を意味するのだった。
年内にこのうちの どれかでオバマ政権と下院の間で妥協が得られない場合、大幅増税と経費削減の大波が同時に襲ってくるため、 一般庶民は 子供2人を持つ4人家族で 年間の税金が2000ドルもアップ。2013年末には失業率が9.1%までアップして、 アメリカが 再び深刻なリセッションに突入するという見積もりが なされているのだった。



私はアメリカ国籍が無いので、投票が出来ないこともあって、毎回大統領選挙の際は傍観者に徹することにしているけれど、 私の目から見ると、今回はこれまでで最も有権者が感情的になっていたと言える大統領選挙。
その原因の1つは、今回の大統領選挙に60億ドル(4800億円)という大金が投じられていたためで、 どうしてそんなに選挙にお金が掛るようになってしまったかと言えば、2010年に最高裁が企業による選挙資金寄付の 上限を撤廃する判断を下したため。これによって「お金で票が買える」と信じる大手企業や、ビリオネアのビジネスのオーナーが、 ロムニー当選後に減税や規制緩和の恩恵を受けようと、ミット・ロムニー&共和党に膨大な寄付をしており、 ”メガ・ドナー (巨額献金者)”という言葉が生まれたのも今回の選挙。
そんな裕福なビジネス・オーナー達が、前述のロバート・マレーのように 社員に対して「レイオフされたくなかったら、ロムニーに投票しろ」と言わんばかりの 圧力を掛けていた例は珍しくないのだった。 でもこれに反発して、「ごく一握りのビリオネアに国政を左右されるべきでない」というグラス・ルーツ・ムーブメントも盛んに起こっており、 その結果、大金を投じた選挙活動を行なっても、民意を変えることが出来ないことが立証されたのは、 アメリカにとっては歓迎すべき結果だと言えるのだった。

もう1つ、アメリカ国民が今回の選挙で、 これまでに無く感情移入をしていた要因として挙げられるのは ソーシャル・メディアの存在。 党大会やディベートの際のツイートによるリアクションは、世論を最も反映していると言われ、 TPM(ツイート・パー・ミニット/1分間に寄せられたツイート数)は、国民の関心度の指針になるとさえ言われたけれど、 ツイッター以外にも、フェイスブック、インスタグラムなど、ソーシャル・メディアが選挙を アメリカ国民に身近で、感情移入をし易い存在にしていたのは紛れもない事実。
その結果、職場や友達同士、家族や親類同士が、 大統領選挙の話題で熱くなり過ぎるケースが生じていたことも 伝えられていたのだった。

終わってみれば、アメリカという国が様々なターニング・ポイントを迎えていることを強く印象付けたのが今回の選挙。
女性有権者がマジョリティになっただけでなく、女性上院議員が多数当選し、初のアジア系上院議員が女性から誕生。 新たに同性婚を認める州が2つ増え、マリファナを合法化する州が2つ登場したことで、キリスト教右派が共和党を通じて 掲げてきたポリシーがどんどん崩れて、時代にそぐわなくなってきた一方で、白人層がマイノリティになりつつある状況が 現実として認識されたのが今回の大統領選挙。
さらに、ビジネスを最優先するあまり、環境問題に消極的な共和党が、気候変動、グローバル・ウォーミングが起こっていることを 否定し続ける中、気候変動を現実問題として捉えている国民が67%と 過去最高に達し、 それが少なからず選挙結果に影響を及ぼしたことも、新しい局面と言えるのだった。


ところで、今回のアメリカ大統領選挙は候補者にクリントン、ブッシュの名前が無かった24年ぶりの選挙。
その選挙当日の時点で 既に浮上していたのが、次回の2016年の選挙が、 民主党のヒラリー・クリントンと、共和党のジェブ・ブッシュ(元フロリダ州知事で、ブッシュ前大統領の弟)の対決になるだろうという予測。 この予測は、アメリカ国内だけでなく、イギリスのメディアまでもが選挙の当日に報じていたもので、クリントン&ブッシュ双方とも、 立候補の意思を明らかにした訳ではないものの、 2013年の年明け早々から、次の大統領選挙のための民主、共和両党のキャンペーンがスタートするとも言われているのだった。

これを聞いて最もウンザリしているのは、毎回選挙でキー・ステート(勝敗の鍵を握る州)になっているオハイオの住民。 というのも オハイオ州では、選挙直前にTV放映されていた選挙関連のコマーシャルの総数は、何と1日1400。 「選挙が終わって、シリアルや洗剤などの普通のコマーシャルを見られるのが嬉しい」と住民が語っていたような状況で、 TVをつける度に 中傷合戦のような選挙CMを 見せられるのは、かなりの精神的ストレスになっていたことが伝えられているのだった。 加えて、1日に最低1本は選挙関連の電話が掛ってくるだけでなく、選挙がらみのダイレクト・メールで 郵便受けが一杯になることもしばしば。
そんな生活から解放されて、ホッとしていたのも束の間、数ヶ月後には また選挙活動が始まると 知らされたオハイオの人々は、当然のことながら 「We need a break! (少し休ませてくれ!)」と語っているのだった。





執筆者プロフィール
秋山曜子。 東京生まれ。 成蹊大学法学部卒業。 丸の内のOL、バイヤー、マーケティング会社勤務を経て、渡米。以来、マンハッタン在住。 FIT在学後、マガジン・エディター、フリーランス・ライター&リサーチャーを務めた後、1996年にパートナーと共に ヴァーチャル・ショッピング・ネットワーク / CUBE New Yorkをスタート。 その後、2000年に独立し、CUBE New York Inc.を設立。以来、同社代表を務める。


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