Nov. 2 〜 Nov. 8 2015

” Noise, No Tips & Chef Groupies!? ”
ノイズ、チップ、シェフ・グルーピー!?、
変わるアメリカのレストラン事情


11月だというのに、春のような陽気だった今週のニューヨーク。日中の気温が20度を超える日が続いて、 半袖姿で歩く人々の姿が多かっただけに、金曜にロックフェラー・センターにクリスマス・ツリーが運び込まれたニュースには、 全く季節感が感じられなかったのが実際のところ。
今週は特に大きなニュースが無かったことから、メディアの報道が集中していたのが 10月31日にエジプト・シナイ半島で起こったロシア航空機墜落事故の ニュース。 国内のニュースでは、ドナルド・トランプに替わって、共和党大統領候補の支持率トップになったベン・カーソンが、 その著書に記載した自らの経歴や過去にかなりの偽りがあることが問題視されていたのが今週。 その一方で、ドナルド・トランプは今週の「サタデー・ナイト・ライブ(SNL)」のホストとして登場。 視聴率は2012年以来最高を記録したものの、 NYタイムズは その番組内容が”極めて退屈”と批判。共和党メディアであるニューヨーク・ポスト紙さえも、 コメディ番組であるはずなのに”全く笑えないジョークの連続” とこき下ろし状態になっていたのだった。





話は変わって、今日11月8日付けのニューヨーク・ポスト紙に掲載されていたのが、10月にニューヨークで行われていた 毎年恒例のフード&ワイン誌主催のイベントで、シェフ・グルーピーが目をギラギラさせて獲物を狙っていたという記事。
とは言っても有名レストランのシェフにグルーピーが居るのは、決して今に始まったことではなく、 イレブン・マディソン・パークがミシュラン3つ星、ニューヨーク・タイムズ紙4つ星に輝く以前、 現在のシェフであるダニエル・ハムの前任シェフは、女性問題が多過ぎて解雇されたのは 業界では有名な話。彼が二股も三股もかけていたガールフレンド同士が、レストラン内で大喧嘩を繰り広げたエピソードは、 当時はかなり知られていたのだった。
でもこの記事によれば、昨今では駆け出しレベルのシェフにもグルピーが付くとのことで、 その理由の1つは、かつてならば有名シェフの下で長年修行を積んで徐々に獲得する知名度を、 今では若いシェフが リアリティTVやソーシャル・メディアで獲得してしまうこと。

昨今のニューヨークではシェフの世代交代が進んでいて、若手シェフがどんどん知名度と人気を上げているけれど、 だからと言って若いジェネレーションがシェフという職業に憧れて、それを目指すかと言えばその反対。 レストラン業界は、現在料理人不足に悩まされている真っ最中。
というのは、キッチンの下積みのハードワークからスタートして、長時間働きづめる状態を 何年も続けようという若いジェネレーションが居ないためで、10年ほど前までは 有名レストランのキッチンと言えば、 軍隊のようにキビキビとシェフの命令に従ってスタッフが働くのが当たり前であったけれど、 今ではそんな光景はどんどん消え失せていることが指摘されているのだった。

またキッチンで働くスタッフの技量も低下しているとのことで、1人のキッチン・スタッフに任せられる領域がどんどん狭まっている結果、 大型レストランになればなるほど、キッチンがライン化して、工場生産のようにスタッフは自分が与えられた 分担をリピートするだけが仕事になりつつあるという。
そもそもキッチンにライン化を最初に取り入れたレストランと言えば60年代のマクドナルド。自動車組立て工場をモデルに キッチンの仕事を専門分化することにより、 スタッフの教育が簡単になり、辞めても直ぐに替わりが見つけられるため、人件費が抑えられるのがそのメリット。 かつてはファースト・フード・レストランのみに見られていたそんなシステムが、 今では徐々にグルメ・レストランでも取り入れられようとしているのだった。





シェフ不足、シェフの力量不足の最大の要因になっていると指摘されるのは、キッチン・スタッフの給与の安さ。 アメリカではファースト・フード・レストランの従業員が その最低時給を15ドルに上げさせようと、昨今ストライキやデモを繰り広げていたけれど、 一流レストランのキッチン・スタッフの平均的な時給は12ドル程度。 年収にして3万7500ドル(約450万円)程度で、この金額はレントと物価が高いニューヨークでは 貧困層に値する給与。
それもそのはずで、過去30年間でレストランのキッチン・スタッフの給与は約25%しかアップしていないことが伝えられているのだった。

その一方で、1985年以来 200%もアップしたといわれるのがウェイト・スタッフ、すなわちウェイターやウェイトレスの給与。 今やニューヨークのレストランで食事をした場合、20%のチップがアベレージになりつつあるけれど、 一流レストランのウェイト・スタッフになると 年収10万ドル(1200万円)は 全く珍しくないレベル。 しかもウェイト・スタッフは課税対象にならない キャッシュのチップもかなり受け取っているので、 下手をすると 一流レストランに年に1回 バースデーやアニバーサリーのディナーにやって来る客層よりも、 彼らの方が遥かに稼いでいる例は少なく無いのだった。

したがって一流のレストランになればなるほど、最も効率よく稼いでいるのがウェイターということになるけれど、 昨今、ニューヨークで頻繁に起こっているのがそのウェイターが、オーナーに対してチップの支払いを求めて訴訟を起すというケース。
何故そんなことが起こるかと言えば、レストランというのはよほど上手く回していかない限りは、食材が無駄になるなど、 黒字経営が難しいビジネス。来店客が支払った食事代から 食材、人件費、レント、ガス光熱費を含む諸経費を全てを差し引くと 赤字になるケースが多い一方で、 料理を運ぶだけのウェイト・スタッフが 常に売上げの20%をチップとして着服するというのは、オーナーにしてみれば割が合わない計算。
そこでチップ収入を経営費用に当てるオーナーが少なくないけれど、その度が過ぎるとスタッフに訴えられるという事態が起こるようなのだった。

そんなレストランにおける給与の不均等を是正するために、今後増えると見込まれるのが チップを排除するという新しいシステム。
既にニューヨークの日本食レストランの中には、日本にチップのシステムが無いことを理由に、チップを排除しているところがあるけれど、 ノーチップ制を10月に 新たに 打ち出したのが、ユニオン・スクエア・カフェ、グラマーシー・タヴァーン、シェイク・シャック等で知られる アメリカで最もサクセスフルなレストランター、ダニー・メイヤー。
彼が経営するユニオン・スクエア・ホスピタリティ・グループ傘下のレストランでは、今後チップを廃止し、その替わりに料理の価格をアップさせることにより、 レストラン内で人件費を公平に分配するシステムに切り替えようとしているとのこと。 まずは手始めに、MoMA(近代美術館)内のレストラン、ザ・モダンから チップ廃止制度を試験的にスタートして、 その後 グループ傘下の全レストランにチップ廃止制度を広めて行くことが 発表されたばかりなのだった。





昨今、チップ以外でレストランの従業員がオーナーを訴える例として増えているのはノイズの問題。
ニューヨークのレストランにとって、ザワザワした喧騒は 店が流行っている証拠であり、 来店客が大声で話すと、それだけ喉が渇いて、ドリンクが売れるとあって、 これまでのニューヨークのレストラン業界では、ノイズ・レベルの高さを気にするオーナーは さほど居なかったのが実情。
でも、そんなレストランで働いているうちに 聴覚障害を患ったというスタッフがオーナーを訴えるケースが、ここ2年ほどで何件も起こっているのだった。

医療専門家によれば、85デシベル以上の喧騒の中に長時間滞在すると 聴覚障害の原因になるというけれど、 この夏 キューブ・ニューヨークがディナー・クラブを行ったクロック・タワー、サンティーナといったオープンして間もないホットなレストランは、 いずれも90デシベル以上のノイズ・レベル。 DJが入るようなクラビーなレストランになると、ノイズが100デシベルを超えるケースも少なくないようで、 100デシベル以上のノイズというのはニューヨークの地下鉄駅に電車が到着した際の騒音とほぼ同等。
このノイズを15分以上聞いているだけで、聴覚に悪影響を与えるのは医学的に立証されており、 従業員だけでなく、ノイズ・レベルの高いバーやレストランに毎晩のように出かけているニューヨーカーにとってもこのリスクは同様。
事実、昨今のマンハッタンの耳鼻科医には ノイズ・レベルの高い店に頻繁に出かけるうちに 聴覚障害を患った人々が通院するケースが急増していることも伝えられているのだった。

ところで話をレストランのチップに戻せば、もう何年も前のことであるけれど、プラザ・ホテルのラウンジのメートルディと話していた時のこと。 彼はそのポジションに就く直前まで、某有名フレンチ・レストランのメートルディだったそうで、 たまたまそのレストランに知り合いが居たので、彼のことを訊いてみたところ 彼が辞めた理由は「給与が安すぎる」というもの。 その彼が安過ぎるといった給与は、数年前の時点で 手取りの月収にして約7500ドル(約90万円)。
一体、プラザ・ホテルの給与は幾らなのだろう?と考えてしまったけれど、 給与もさることながら、キャッシュで受け取る非課税のチップ収入もかなりの額のようで、 私のレストラン業界の友人曰く、「クライアントを優遇しただけで、ストリッパーの一晩分の稼ぎを チップで受け取ることも珍しくない」とのことなのだった。

なので私はこれまで、勉強が嫌いな友人の子供達には、無理に大学に行って 2500万円もの高額な学費を無駄にするよりも、 DJになるか、一流レストランのウェイター、もしくは高額コンドミニアムのドアマンになることを薦めてきたけれど、 この先、レストランでのチップ廃止が一般的になってきた場合は、ウェイターという選択肢は薦められないということ。
超高額コンドミニアムのドアマンについては、年収だけでも軽く800〜1000万円は受け取っているけれど、 毎年、年末に受け取るクリスマス・チップは その年収の軽く2倍以上で しかも非課税。 「チップに頼って生活する人の生活が貧しいなどと思ったら、大間違い」というのがニューヨークの実情なのだった。

Will New York 宿泊施設滞在



執筆者プロフィール
秋山曜子。 東京生まれ。 成蹊大学法学部卒業。 丸の内のOL、バイヤー、マーケティング会社勤務を経て、渡米。以来、マンハッタン在住。 FIT在学後、マガジン・エディター、フリーランス・ライター&リサーチャーを務めた後、1996年にパートナーと共に ヴァーチャル・ショッピング・ネットワーク / CUBE New Yorkをスタート。 その後、2000年に独立し、CUBE New York Inc.を設立。以来、同社代表を務める。

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