Nov. 10 〜 Nov. 16 2008




” Money Honey ”


先週の大統領選後の楽観的なお祭りムードから一気に現実に引き戻された感があったのが今週のアメリカ。
株式市場は木曜を除いて連日の暴落を見せた上に、週末には小売店売り上げの惨憺たる成績が発表され、 まだまだ出尽くす事の無い経済の悪材料を見せ付けられていたのだった。
今週は、まず週明けに家電販売の大手、サーキット・シティがチャプター・イレブンと呼ばれる会社更生法を申請。 同じ日にはビジネスの不振が伝えられるスターバックスの第4四半期の業績が発表されたけれど、 それによれば同社の利益は 昨年同四半期に比べて何と97%のダウン。 このためスターバックスでは1000人のパートタイム以外の従業員レイオフを発表しているのだった。

小売店の中では、特に業績の悪化が指摘されていたのがJ.C.ペニーと日本でも人気のアバクロこと、アバクロンビー&フィッチ。
J.C.ペニーはミドル〜ローワー・ミドルクラスの御用達ストアであるけれど、この層は最もレイオフのインパクトを受けているのに加えて、 住宅やカードのローンの支払いに追われている人々。従ってこれまでJ.C.ペニーでショッピングをしていた人々は、 より安い価格を求めて 主にウォルマートに流れているそうで、ウォルマートはこのファイナンシャル・クライシスで 恩恵を受けている数少ない小売店となっているのだった。
以前からオーバープライスが指摘されていたアバクロンビー&フィッチにしても、こうした景気動向の中では 消費者が 「このTシャツにこの値段を出す価値があるか?」 と考えて購入を控えてしまうようで、 2008年の初めには80ドル以上をつけていた同社の株価は、今週末にはその4分の1以下である18ドルにまで下がっているのだった。

加えて連日のように発表される人員削減のニュースも経済の先行きを暗くしている要因のひとつ。
今週は、サン・マイクロシステムズが6000人のレイオフを発表したほか、更なる経営悪化が報じられるシティ・グループでは 今年に入って既に2万3000人をレイオフしているのに加えて、新たに全世界で約3万5000人のレイオフを計画していることを明らかにしているのだった。 ちなみにこれはシティ・グループの従業員数の10%に当たる数字であるという。
その一方で、既に国民の税金から$150ビリオン(約15兆円)がその救済資金として流れ込んでいるA.I.G.では、 $503ミリオン(約503億円)が年末に支払われるエグゼクティブ・ボーナスとして確保されていることが明らかになっている。 これを受けて 今週金曜の下院聴聞会で、2週間前のグリーンスパン前連銀議長同様の ”串刺し” & ”火焙り” 状態の 詰問を受けていたのが、財務省のニーム・カシュカリ。
彼は$700ビリオンの TARP(Troubled Assets Relief Program / トラブルド・アセッツ・リリーフ・プログラム)の 現場指揮官役を務めている存在で、未だ38歳の彼をゴールドマン・サックスからヘッドハントして、 この大役を任せたのが ゴールドマンの元CEOであるヘンリー・ポルソン財務長官。 そのヘンリー・ポルソンも木曜に TARPのプラン変更のスピーチを行い、 すっかり その救済案失敗 を印象付けている。
その結果、メディアや金融関係者からは「ヘンリー・ポルソンは Deep Thinker (深く物事を考えるタイプ)ではない」とか、 「裏で手を回す才覚には優れているけれど、表に立ってリーダーシップを発揮するのには不適切な人物」といった 批判が聞かれ、 それまでベイルアウト・プランに賛成していた人々からも 「これまで投入した国民の税金の使い道に全く筋道が通っていない」などと 大非難が繰り広げられていたのだった。
とは言っても金融業界では、ブッシュ大統領同様に過去の人になりつつあるのがヘンリー・ポルソンで、 未だオバマ氏は 人選を明らかにはしていないものの 次期財務長官として 最有力候補であると同時に、ウォールストリートから待望論が起こっているのは 元ハーバード学長で、 クリントン政権下で財務長官を務めた経験もあるラリー・サマーズ氏であるという。

でも、今週のアメリカで最大の物議を醸していたのは何といっても このままでは倒産が時間の問題となっている 自動車会社のビッグ3を国民の税金でベイルアウト(救済)するべきか?否か? という問題。
ベイルアウトに賛成している人々、及び自動車業界の言い分というのが、「これはビッグ3だけの問題ではなく、国全体の問題だ」というもので、 自動車業界が25万人の労働者を抱えているのに加えて、パーツ・メーカーやディーラーなどの関連事業にも何百万人という人々が 従事していること、更に業界が約100万人の退職者をサポートしていることを指摘し、 もしこのリセッションの真っ只中にビッグ3のうちの1社でも倒産したら、そのインパクトが国の経済全体に及ぶというものである。
これに対して ベイルアウトに反対する人々の言い分は、「ビッグ3の業績悪化は今回のファイナンシャル・クライシスとは全く関係が無く、 もっと根深い経営問題を抱えているので、TARPの$700ビリオンの一部を使ってビッグ3を救済する理由は無い」というのに加え、 「経営が悪化した業界を次から次へと全て国民の税金で救うことは出来ない」というもの。 また「航空会社もチャプター・イレブンから経営を建て直してきたのだから、自動車業界も同じことをするべき」とか、 もっと厳しいところでは、「売れない車を作り続ける会社なんて存在する必要はない」という指摘さえもが聞かれていたけれど、 アメリカ人が かつては国の誇りであった自動車業界に対してこれだけ厳しい態度を取るのは、 やはり現在のリセッションのせいで 同業界を甘やかす余裕がなくなっているためである。

国が救済しなければ、倒産が秒読み段階と言われるGM(ジェネラル・モーターズ)、クライスラーと、これら2社に比べれば若干マシな 経営状態と言われるフォードのビッグ3は、経営や商品開発の努力を怠る一方で、 これまでロビー活動(政治家への働きかけ)による 石油業界や政治家との癒着で生き残ってきた存在。
例えばビッグ3が アメリカ人でさえ「誰も欲しがらない」と表現する車を 生産するための 労働者の給与は時給にして何と70ドル(約7000円)。 これに対してトヨタ、ホンダのアメリカ国内工場で 「売れる車」を生産する労働者のサラリーは時給にして45〜48ドル(4500〜4800円)であるという。
どうしてこうしたサラリーの差が出るかと言えば、ビッグ3の工場の従業員はユナイテッド・オート・ワーカーズという組合に所属しているためで、 この組合こそがアメリカの自動車業界を堕落させた大きな一因を担っているのである。 例えばGM は過去2年に$57ビリオン(5兆7000億円)の損失を出しているけれど、それほどまでに 経営が悪化している会社が 2007年に退職した従業員への手当てと健康保険料として支払っているのが、 33億ドル(約3300億円)。そして 退職者に対するこんな贅沢なベネフィットをGMに支払わせているのがユナイテッド・オート・ワーカーズなのである。
このため ビッグ3は 月々4000ドル(約40万円)もの退職手当を受け取って、至れり尽くせりの健康保険の恩恵を受けているような 退職者をサポートし続けている訳だけれど、こんな待遇を提供し続けていれば たとえ売れる車を作っていたとしても 経営が悪化しても不思議ではないもの。
組合の問題に限らず ビッグ3の経営体制の古さと、その頑固さは現代社会とその経済には まったくそぐわないものと見なされており、 「この体制が続く限り 資金を投入しても 退職者への手当てや工場閉鎖の資金に使われるだけ」 というのがベイルアウト反対派が危惧するところで、 「ビッグ3を倒産させて、その経営を根本から建て直すのが先決」というのがその主張なのである。
自動車業界同様に、昨今のファイナンシャル・クライシスで打撃を受けているのがテクノロジー関連の企業であるけれど、 シリコン・ヴァレーではラップトップのバッテリーで走る車の開発が進められており、 このプロジェクトでは 自動車業界から 若く才能のある人材を引き抜いて、プライベート・インベスターからの出資のみで その製品化を目指しているという。
アメリカというのは、決して物作りが上手い国ではないけれど、新しいアイデアは まだまだ出てくる国であるし、 それをサポートできるプライベート・セクターが存在している国。なので、まだ数年を要するとしても こういった新勢力が 「自動車業界=デトロイトのビッグ3 という古い概念を覆して欲しい」 というのは、アメリカ人さえもが望むところなのである。

ところで、こんな経済状態だと、ヤンキーズでさえリセッション・フリーではなくなってしまうようで、 来年から新しいスタジアムに移るヤンキーズの 7つのラグジュリー・スウィートに 未だ買い手が付いていないことが 今週 報じられている。
新ヤンキー・スタジアムには51のラグジュリー・スウィートが用意されているけれど、現在残っているのは 最も安価な年間約6000万円のスウィート。それ以外の6500〜8500万円のスウィートが完売しているのは このご時世では明るいニュースである。 でも今年よりも悲惨な景気が予想される2009年にヤンキーズのホーム・ゲームを プレミアム・シートで観ようと思った場合、そのチケット価格は$500〜2500(約5〜25万円)。 スウィートも完売しないほど 企業のバジェットがタイトになっているご時世に、 スタジアムに4300席用意されているプレミアム・シートが 果たして一般のファンによって 毎試合埋まるのか?は 微妙なところなのである。

でもベースボールの来シーズンより前に控えているのがホリデイ・シーズン。
今年は、多くの小売店がサンクス・ギヴィングの休暇を待たずして、セールに入ろうとするため クリスマス商戦体制を急ピッチで進めているのだった。
金曜にはロックフェラー・センターにツリーが運び込まれ、デコレーションを取り付けるための足場が早々に組まれているけれど、 デパートの中には既に今週からクリスマス・ウィンドウを公開し、全店をあげたセールに入るところも見られていたりする。
そのクリスマスに、小売店同様にビジネスの落ち込みが見込まれているのがケータラーで、 ウォールストリートの金融企業はもちろんのこと、多くの企業がクリスマス・パーティーの規模を縮小、もしくはキャンセルする傾向にあるという。
特に昨年までのブーム時代には、シャンペン&キャビアは当たり前だったウォールストリートのコーポレート・パーティーは かなりのスケールダウンが見込まれているけれど、これは予算が無いというより、こんなご時世に 豪華なパーティーを行って顰蹙を買いたくないという部分も大きいようである。

更に今年地味になりそうなのがニューイヤーズ・イヴのセレブレーション。 ニューヨークではリカー・オーソリティの取り決めで午前4時以降はバーでアルコール・ドリンクを出してはいけないことになっているけれど、 ニューイヤー・イヴに関しては許可を申請すればその規定の対象外になるので、朝までアルコール・ドリンクを出すことが出来るという。
でも昨年は400軒のバーがこの許可申請を行ったのに対して、今年は僅か39軒の申請に止まっているとのこと。 したがって眠らない街、ニューヨークの2009年の年明けは 例年より静かなものになりそうである。

では、こんなご時世でどんなビジネスが儲かっているか?と言えば、 まずビバリーヒルズの質屋。この質屋に一体どんな品物が質入されるかと言えば、ピカソの絵画、ハーレー・ダビッドソンのバイク、 カルティエのダイヤのブレスレット、ダイヤ入り18Kゴールドのロレックス、そして時にオスカー像も質入されるという。
カリフォルニアの法律では、4ヶ月と10日で借金が返済されない場合に質流れと見なされるそうだけれど、 こうした高額品を質入したリッチ・ピープルが借りていく金額は時に千万円単位。 その使い道は離婚した妻への扶養手当や住宅ローンの支払い、美容整形の費用だという。
アメリカの通常の質屋が貸し出す平均額は約75ドル。これに比べれば 貸し出す金額が桁外れに多く、しかも利益も高いのがビバリーヒルズのラグジュリー質屋である。

一方、ベイルアウトが盛んに取り沙汰されるワシントンでは、何とか理由をでっち上げて ベイルアウト・マネーをビジネスに投入してもらおうと 目論む企業が ロビーストを雇って政治家に働きかけを行っているため、ロビー活動のビジネスも多いに儲かっていると指摘されるもの。
現在は自動車業界に加えて、アメリカン・エクスプレスのようなカード会社までもがベイルアウト・マネーを狙って 動いていることが伝えられているのだった。

更に、マクドナルドも業績アップが伝えられた企業の1つ。 これはスターバックスからコーヒードリンカーを奪っているのも理由の1つであるけれど、 スターバックスのカフェラテ1杯分のお金で食事が出来るというヴァリュー感も見直されてのもの。
加えて、昨今では不振が伝えられるヘッジファンドも、中には30%、50%といった利益を得ている ところがあるという。

今週木曜には、そのヘッジファンド界の最もビッグなマネージャー5人が下院の聴聞会で 証言を行っていたけれど(写真上)、この日 私は「一体どういう人があっという間にビリオン単位のお金を稼いでしまうんだろう・・・」 という興味も手伝って、聴聞会の様子をテレビで観ていたのだった。
というのも、私に言わせれば お金というのは人の好き嫌いが激しいもので、お金に嫌われる人が傍に居るだけで 寄り付いてこなくなってしまうもの。 実は私は、過去3年半に渡って 13回も別れたり、くっついたりしていたボーイフレンドが居たけれど、 このボーイフレンドというのがクセモノで、彼と付き合っている時は何故かいろいろな理由でお金が減っていくのである。
それは薄々勘付いていたけれど、決定打になったのが占い師をしている母からの 「こんな人が傍に居たら、どんなに稼いでも 全部この人の運に持って行かれてしまう」というアドバイス。 この助言に震え上がったこともあるけれど、頭を冷やしてみたら 特に 貧乏をしてまで 彼が好きな訳では 全く無かったので、 家計と経営の安定のためにも 春先にきっぱり別れてしまったけれど、 別れてからというもの その効果ははっきりと 現れているのである。
しかもつい最近、日記をチェックしながら 彼と別れている時と くっついている時のCUBE New York の売り上げを比較したところ、 彼の”貧乏神” ぶりが 明らかに数字で現れたので、「今後デートをするならば お金を引き付けるオーラを持っている人にしよう・・・」 と 固く心に誓っていたのだった。
そこで、$ビリオン単位のお金を稼ぎ出してしまうアメリカのトップ・ヘッジファンダーのオーラを研究しようと思った訳だけれど、 特に私が興味があったのは、写真中央のジョン・ポルソン。彼はアメリカで最もサクセスフルなヘッジファンダーと言われており、 現在$36ビリオン(約3兆6000万円)の資産を動かし、このご時世にしてそのパフォーマンスは昨年比29%アップという、 言うまでも無くリセッション・フリーのヘッジファンダーなのである。
正直なところジョン・ポルソンに止まらず、この場に登場したケン・グリフィン、フィリップ・ファルコーネなど、 金融の素人の私でも知っているヘッジファンダーというのは、多くのビリオネア同様 あまり 見た目にアピールするものが無い存在で、「天は二物を与えず」といったところ。 でも見るからにビスポークのスーツやシャツ、高そうなネクタイ、宣誓のために上げた手のひらの厚みは いかにもお金がありそう・・・ という感じなのだった。

残念ながらこのTV中継からはあまり学ぶところが無かったけれど、今やあの世界第2位の富豪、ウォーレン・バフェットが経営する バークシャー・ハサウェイでさえ、その第3四半期の利益が昨年同期に比べて77%もダウンしているようなご時世。 しかもこれには、GEやゴールドマン・サックスへのそれぞれ$5ビリオンずつの投資は含まれていない数字。
バフェット氏自身、今年に入ってからかなり個人資産を減らしていることが伝えられているだけに、 お金に好かれるオーラがある人でも、お金に嫌われる時期があるのもまた事実のようである。





Catch of the Week No. 2 Nov. : 11 月 第 2 週


Catch of the Week No. 1 Nov. : 11 月 第 1 週


Catch of the Week No. 4 Oct. : 10 月 第 4 週


Catch of the Week No. 3 Oct. : 10 月 第 3 週






執筆者プロフィール

秋山曜子。 東京生まれ。 成蹊大学法学部卒業。
丸の内のOL、バイヤー、マーケティング会社勤務を経て、1989年渡米。以来、マンハッタン在住。
FIT在学後、マガジン・エディター、フリーランス・ライター&リサーチャーを務めた後、1996年にパートナーと共に ヴァーチャル・ショッピング・ネットワーク / CUBE New Yorkをスタート。
その後、2000年に独立し、CUBE New York Inc.を設立。以来、同社代表を務める。