Nov. 11 〜 Nov. 17, 2013

”Spending Millions, Expecting Billions ”


今週のアメリカのメディアで最も物議を醸していたのが、またしてもオバマ・ケア。
「オバマ・ケアがスタートしても それまで加入していた保険が維持できる」と言い続けてきた オバマ大統領の公約に反して、個人で保険を購入していた人々の多くが 既に加入していた健康保険がオバマ・ケアの最低保障条件を満たしていないことから、保険会社からキャンセルされてしまい、 新たに高額の保険に加入し直す羽目になったのは 2週間前のこのコーナーでもご説明した通り。
このことで 国民の怒りを買ったことから、先週 謝罪を行った大統領であるけれど、 今週に入ってからは 与党、民主党内からも 反発の声が高まったため、突如木曜日に 大統領が行ったのが1時間にも渡るプレス・カンファレンス。 この席で、大統領が発表したのが 一転して 「これまで国民が加入していた保険は オバマケアによる最低保障条件を満たしていなくても、1年間は それを継続することが出来る」 という新しいルール。 このルールは 政府側に強制力は無く、最終的な保険継続の判断を下すのは各保険会社であるけれど、 大統領は これによって 国民に対する公約を守ったことを強調していたのだった。

ところがその翌日には野党 共和党が多数を占める下院議会で、その大統領のルールを更に拡大し、 「保険会社はオバマケアの最低保障ラインを満たしていない安価保険を新規の加入者にも販売できる」という法案が 可決。この可決には民主党議員39人が賛成票を投じたことから、オバマケアに対する支持が 民主党内からも崩れ始めていることを露呈することになったのだった。
同法案には、大統領が拒否権を発動することになっているけれど、これによって大迷惑を被ったのが保険会社。 というのも、木曜の大統領の発表は 保険会社に事前に何の通達も無しに行われたもの。加えて保険会社側としては、 オバマ・ケアのスタンダードに合わせて保険のパッケージを改正したばかり。にも関わらず、突如 向こう1年は以前の保険が有効になると言われた訳で、 混乱しても不思議では無いというもの。

このプレス・カンファレンスが行われたのは、オバマ・ケアがスタートしてからの最初の1ヶ月で、当初の予測を遥かに下回る 10万人程度しか 新規に保険を購入していないことを 政府が発表した翌日に行われたもの。 10万人という数字は、アメリカのフットボール・スタジアムさえも満員に出来ない数。
それだけに、このプレス・カンファレンスは、これだけの大金を投じた健康保険改正を見切り発車しただけでなく、 ウェブサイト1つ まともに作れない オバマ政権の失態ぶりに加えて、 大統領の優柔不断さ、リーダーシップの欠落ぶりを印象付けるものになっていたのだった。



今週のアメリカで もう1つ 物議を醸していたのが、ワールド・トレード・センター跡地に建った ワン・ワールド・トレード・センターが、 シカゴのウィルス・タワーを抜いてアメリカで最も高いビルディングに認定されたというニュース。
ワン・ワールド・トレード・センターの高さは、アメリカ建国の年にちなんで 1776フィート(約541メートル)になるようにデザインされているけれど、 その1776フィートのうちの441フィート(約126メートル)は テレビ電波塔で、 ビル本体、すなわち地上から屋上までの高さは1335フィート(約415mメートル)。 これに対して、シカゴのウィルス・タワーは 地上から屋上までの高さが1451フィート(約442メートル)になっているのだった。
これについては 何でもNo.1が好きなニューヨーカーの目から見ても、シカゴのウィルス・タワーが アメリカで最も高い建物に見受けられるのが 正直なところで、この解釈をめぐっては 特にシカゴで かなりの批判が聞かれていたのだった。 でも電波塔の部分が当初からビルのデザインの一部になっていたことに加えて、この電波塔は アンテナのように取り外されることが無いという理由から、 ワン・ワールド・トレード・センターが最も高いビルディングに認定される運びとなっているのだった。



その一方で、ニューヨークのローカル・ニュースでは2つ発砲事件が話題になっていたけれど、 そのうちの1つがイランからの移民ロック・バンド、”イエロー・ドッグス” の メンバー2人を含む、4人が 別のイランのロックバンドのメンバーに撃たれ、容疑者 自らも自殺を図ったというニュース。
事件が起こったのは月曜 の真夜中で、現場は”イエロー・ドッグス” のメンバーが暮らしていたブルックリンのイースト・ウィリアムスバーグのビルディング。 容疑者と”イエロー・ドッグス” のメンバーは不仲が伝えられるため、それが動機と見られていのだった。

もう1つの発砲事件が起こったのは 先週日曜で、場所はマンハッタン・ミッドタウンのブライアント・パークのアイス・スケート・リンク。 当初は口論が原因の発砲と報じられていたけれど、実際には16歳の容疑者が スケート・リンクに居合わせた男性(20歳)が着用していた マーモットのジャケット(写真上右)を 欲しがったための強盗目的の発砲で、流れ弾を受けて14歳の少年が半身不随になる大怪我をしているのだった。

このマーモットのジャケットは、約680ドルで既に生産中止になったもの。 一見何の変哲も無いジャケットであるけれど、ヒップホップ・ファンの間では、その巨大なシルエットから ” Biggie / ビギー ”の通称で知られるステータス・シンボル。 出来るだけ多くのカラーのマーモットのジャケットを集めて、インスタグラムにアップすることが 時にギャング団のイニシエーションになっているとも言われており、1月にもマーモットのジャケットをめぐって 少年が射殺される事件が起こっているのだった。
ニューヨークを始め、アメリカ各都市では 国内のブラック・マーケットや中国で売りさばくための アイフォンの盗難や強盗事件が過去2〜3年で増えているけれど、 マーモットやモンクレー、Pelle Pelle / ペレペレの高額ジャケットは、貧困層の若者が 自分達で着用するために盗むアイテム。
ニューヨーク・ポスト紙では、こうしたジャケットだけでなく フェンディやグッチのベルトも 昨今の強盗ターゲットになるステータス・アクセサリーであると報ているのだった。



若い貧困層が銃で人を脅したり、撃ったりしながら彼らのステータス・シンボルを手に入れている一方で、 今週のクリスティーズやサザビーズのオークションで、超リッチ・ピープルが 彼らにとってのステータス・シンボルであり、投資対象でもある コンテンポラリー・アートを手に入れるために繰り広げていたのが、落札記録を次々塗り替える 競売合戦。
今週火曜日にクリスティーズで行われたコンテンポラリー・アートのオークションで、 フランシス・ベーコンの「スリー・スタディーズ・オブ・ルシアン・フロード」が、 過去の絵画オークションでの最高価格記録を塗り替える 1億4240万ドル(約142億円)で落札されたことは世界中で大きく報じられたニュース。 それまで、史上最高の落札価格となっていたのは、2012年のサザビーズのオークションで、競売に掛けられたエドヴァルド・ムンクの「スクリーム / 叫び」で、 その価格は1億1999万ドル。
このフランシス・ベーコンの作品だけでなく、今回のクリスティーズのオークションでは、 ジェフ・クーンズのオレンジ色のバルーン・ドッグ (写真下左) が、現存アーティスト作品として 史上最高額の 5800万ドル(約58億円)で、またマーク・ロスコの「No.11」 が4600万ドル(約46億円)で 落札されるなど、2桁億円台から オークションがスタートする作品が 何点も出品されていたのだった。


また、その翌日水曜日には 今度はサザビーズのオークションで、アンディ・ウォーホールの「Silver Car Crash (Double Disaster) / シルバー・カー・クラッシュ(ダブル・ディズアスター)」(写真上、右)が、過去のウォーホール作品としては史上最高額の1億500万ドルで 落札されて話題になっていたのだった。
どちらのオークションにも、ラリー・ガゴーシアンのような有名ディーラーに加えて、姿を見せていたのが、 著名ヘッジファンダー、レオナルド・ディカプリオ、マーク・ジェイコブス、ドナルド・トランプ等、 各界のアート・コレクター達。 クリスティーズの今回のオークションの落札総額は史上最高の6億9150万ドル(約691億円)。 一方のサザビーズも 3億8100万ドル(約381億円)の落札総額で、やはり記録を打ち立てているのだった。

ちなみに2013年度に政府の独立アート機関であるナショナル・エンドウメント・フォー・ジ・アートに割り当てられた予算は、 1億3800万ドル(約138億円)。すなわちフランシス・ベーコンの絵画は、 アメリカ政府が年間にアートに費やす予算を 超える金額を個人が支払って購入していることになるのだった。
また、今回のオークションで、20億円を越えるアートの落札が 大きく増えたことも指摘されていたけれど、 国別ではロシア、中国のバイヤーがアグレッシブにコンテンポラリー・アートを買い漁っていることが伝えられているのだった。



アートに20億円を払える人々といえば、通常はビリオネア、すなわち10億ドル長者(1000億円長者)。 そして最も新規ビリオネアが生まれ易いと見込まれるのがハイテク・スタートアップ企業。
今週報じられたのが そんなシリコン・ヴァレーのスタートアップ、Snapchat / スナップチャットが、 推定で30億ドルと言われる フェイスブックからの 買収のオファーを断っていたというニュース。 スナップチャットは、スタンフォード大学時代の友人であるエヴァン・スピーゲル(23歳)と、ボビー・マーフィー(25歳)が2011年にスタートした アプリで、携帯電話に送付した写真やビデオを自動的に消滅させる機能を持つもの。 消滅までの閲覧時間は1〜10秒まで 設定が可能になっていて、アメリカでこのアプリが爆発的に 広まったのは、若い世代が Sexting / セクスティング に利用していたため。
アメリカではセクスティングで送付した自分のヌード写真が、学校中や、地方コミュニティに広まったことが原因で 少女が自殺する問題が起こっていたけれど、 スナップショットを使えば、相手が閲覧できるのは最長10秒間。 その後は送った写真が消えてしまうので、転送を恐れずにセクスティングが出来るということで、 特にティーンエイジャーの間で人気が高まったのだった。

そのスナップチャットがフェイスブックからのマルチ・ビリオン・ダラーの買収オファーを断っていたというニュースは、 ニューヨーク・タイムズ紙でさえ 今週第1面で報じたけれど、 フェイスブックといえば、昨年10億ドルで買収したのが スナップチャットよりも 遥かに広く普及していたインスタグラム。
インスタグラムの買収については、同社がこの買収について「早まった決断をした」というのが ハイテク業界やウォールストリートの見解。インスタグラムであれば、独立してIPOに漕ぎつけて 10億ドルを遥かに超える 資金が集められたであろうことが指摘されているのだった。
したがって スナップチャットがフェイスブックからの買収オファーを断わったのは、 インスタグラムの二の舞にならないようにという思いもあるようなのだった。

現在アートと同様に、インベスターの資金が流れ込んでいるのがこうしたハイテク・スタートアップ企業であるけれど、 何時の時代にもあるところにあるのがお金。
こうした インベストメント・ハングリーなメガ・リッチのお金の動かし方は 今や ギャンブルを超えて、 スポーツ感覚とまで言われているのだった。





執筆者プロフィール
秋山曜子。 東京生まれ。 成蹊大学法学部卒業。 丸の内のOL、バイヤー、マーケティング会社勤務を経て、渡米。以来、マンハッタン在住。 FIT在学後、マガジン・エディター、フリーランス・ライター&リサーチャーを務めた後、1996年にパートナーと共に ヴァーチャル・ショッピング・ネットワーク / CUBE New Yorkをスタート。 その後、2000年に独立し、CUBE New York Inc.を設立。以来、同社代表を務める。


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